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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第17話【スロウス】その3

 目の前に居るのは、掠っただけでも致命傷になる毒を保有する男だ。手裏剣の大きさと形が違う三種類の神器は、全て毒が仕込まれている為、触れることすら許されない。

 その三種類の神器は、スロウスの体に羽衣のように纏われている為、近付いて攻撃するのも困難だ。


「召喚魔法、黒の蝶」


 ベルが召喚したのは、黒い蝶々の大軍だ。蝶々は、合体して大きな蝶へと姿を変え、背中にベルを乗せた。


「特別にこの蝶を一匹プレゼントする。この蝶から私の思考を送ったり、回復魔法を使用させたりするから」

「な、何か急にパワーが漲ってきた」


 ジャックの肩に止まった蝶は、微かに音を発している。まるで、ハエが飛ぶ時のような音だ。その音と共に、ジャックは力と魔力で溢れていた。


「蝶がジャックの魔力を増やしてるの。嬉しいでしょ?」

「ありがとう。思う存分戦えそう」

「よぉし!ならば目の前の亡霊を消し去ってしまえぇ!」


 ジャックは再び神器を取り出し、スロウスとの距離を測る。スロウスが待ちの姿勢で居る中、ジャックはゆっくりと距離を縮める。そして、ある一定の距離を縮めると、悟ったように足を止めた。


(こっからは奴の射程距離内だ。ならば、ここから仕掛けてやる)


 足を止めたと同時に、真っ直ぐ桃凛剣とうりんけんを投げた。だが、当然のようにスロウスの神器が桃凛剣を弾き、桃凛剣が遠くへ吹き飛ぶ。

 吹き飛んだ桃凛剣は、近くの木を通り過ぎる。しかし、桃凛剣を軸に繋がれてたワイヤーが動き、木の周りを一周二周して木に繋がれた。


 更に、ワイヤーが縮み、ジャックを木の方向へと強く引っ張り、そのまま木の影から素早く姿を出し、もう片方の神器――天之月あめのづきでスロウスへ攻撃を仕掛ける。

 だが、それもスロウスの神器で弾かれ、再び桃凛剣を軸にして森の中へと身を引く。


「アメコミのスパイダーマンみたいだ。飛ぶだけで満足しないで、ワイヤーで機動性を高くしてる。これは、こちらからも仕掛けないとダメかもしれない」


 スロウスはジャックのペースに惑わされる前に、自ら動くことを決意する。少し遠くでこちらを見てるベルを警戒しつつ、森へ姿を隠してるジャックを追い掛ける。


「どうせその森は蜘蛛の巣なんでしょ?僕を蝶だと思って待っているようだけど、そうはいかないよ」


 スロウスは中くらいの手裏剣は投げ、当たり一体の木を根元から綺麗に切断した。その手裏剣は、良く見れば魔力で覆われ、毒が固体化して鋭い刃を広げている。


「鉄の数十倍硬い神界の木をこうもあっさり切るなんて……あんなのがジャックの赤ちゃんみたいな手に当たったら吹っ飛んじゃうのは明白だよ」


 ベルも圧倒的なスロウスの魔法と神器に恐れを生していた。そして、少し心配そうに森の中を見詰め、蝶へ乗ったまま上空から二人を追い掛ける。


「居ない……蜘蛛と思い込んでる蝶が居ない。もしや、蝶だと自覚して逃げたか?いいや……僕の知るジャックはもっと頑固な子だ。まだ何処かに潜んでるはず……」


 斜めに倒れた木の上に立つスロウスは、猫足立ちで足元を踊らせている。上機嫌に木の上で踊るスロウスは、すぐに足を止めて疲れたようにその場に座り込んだ。


「出て来なよ。今なら優しくしてあげるよ。猫を可愛がるみたいにね」


 スロウスが優しくそう言った瞬間、隠れているジャックの目が微かに光った。倒れる木の下で息を整え、大きな木を上空へ投げ飛ばす。


「ほぉ、数十tする神界の木を高い高いしちゃうなんて、ジャックの元の力、大英雄アマノが鬼の子だと言うのはほんとだったのか」


 スロウスの目線が上空の木に向いた隙に、ジャックがスロウスの背後を取っていた。上空の木には神器が刺さっており、そのワイヤーにぶら下がるジャックは、木に引っ張られて一瞬にして現れたのだ。


「危ないね〜。君も高い高いして欲しいのかい?勿論、行先は天国だけどね」

「低い低いもあるぜ。当然、行先は地獄だ」


 スロウスに勘づかれたジャックは、最初の一撃を受け止められた。だが、ワイヤーを強く下に引っ張り、上空の木をスロウスへ叩き付けた。スロウスは最初の攻撃を受け止めた隙もあり、木を避けれずに諸に食らってしまう。


「がっ!ぶぐはっ!?」

「まだだ!」


 更に、ワイヤーで木とスロウスを結び、木と地面に挟んでスロウスを押し潰す。


「……一応、とどめだ」


 ジャックは少し心配になって、スロウスへ神器を投げた。だが、スロウスはワイヤーを解いてボロボロのまま木の下から脱出した。


「馬鹿な!あのワイヤー、魔漂線まひょうせんは魔力を乱す効果がある。瀕死の奴がワイヤーに縛られた状態で魔法を使用できるはずがないんだ。なのに、ワイヤーは液体か何かで溶けてやがる」

「別に魔法じゃない。その液体は体内から溢れた僕の血だよ。僕がトマトみたいに潰れたから、汁が出てしまったんだよ」


 スロウスの体から流れる血は、ドロドロの液体のようで、周りの木や地面を溶かしている。どうやら、血そのものも溶ける毒のようだ。


「血も毒なのか。だがその体……もうまともに戦えないはずだ」

「そうかな?今はアドレナリンが溢れ出て痛みも疲れも感じない。寧ろ、今の僕が完成系だ」


 体から溢れ出るのは、血だけはない。大量の魔力と毒も溢れ出て、鎧のようになって姿形を変えていく。


「ちっ。死んでも知らないからな」

「君も、死より苦しい結末を覚悟しな」


 スロウスの三つ神器が激しく動く、小さい手裏剣が素早く飛び、ジャックの腕に一本刺さる。他の二本も、逃げるジャックを自動的に追い掛けている。


「くっ。即効性の毒か……まずいな」


 毒が回らないよう腕をワイヤーで縛り、筋肉を使って軽い毒抜きを行う。更に、思い付いたように溶ける自身の血に魔法を掛ける。


「リオーノ.メルト」


 ジャックの血が溶ける液体へと変わり、毒を蒸発させる。それを見て、ジャックは少しだけ安心したように溜息を着く。


「体内からのダメージを負うけど、この魔法である程度解毒できる。けど、次これをする隙があるとは思えない」


 ジャックが腕の傷に気を取られていると、突然体が動かなくなる。良く見れば、手裏剣に繋がれている鎖に縛られており、空中に留まっている。


「なっ!?いつの間に!」

「逃げるのに必死過ぎて、誘き寄せられていることに気付かなかったようだね」

「くそおぉぉ!!引きちぎってやる!」


 ジャックはフルパワーで鎖を引きちぎろうと試みる。鎖は、今にもちぎれそうな所まで来るが、イマイチ切断しきれない。


「なんて力だ。悪いが、切断される前に始末させてもらうよ」


 スロウスは鎖の切断を恐れトドメを急ぐ。中くらいの手裏剣を投げ飛ばし、ジャックを真っ二つに切断しようとする。

 だが、ジャックは足を使ってワイヤーを操り、腕に刺さった手裏剣を飛んで来た手裏剣に向けて投げた。

 すると、手裏剣はほんの少し向きが変わり、ジャックを縛る鎖に命中する。

 当然、手裏剣がそのままジャックへと命中するが、鎖が一瞬早く切れたので、体勢を変えて致命傷を避けることが出来た。


「がはっ!?」

「しぶといなー。こうなれば君の出番だ。神器、風輪赦ふうりんしゃ」!」


 とうとう、スロウス最大の神器がジャックを襲う。大きな手裏剣は、刃が六つあり、その全てが歪な頭形で伸びている。更に、投げた瞬間に六つの刃の先端に小さな手裏剣が現れ、範囲をより拡大した。


(避けてジャック!あれは殺しにかかってる形状じゃなく、当てることを目的とした形状!恐らく、微れば即死級の毒と魔力が付着している!)


 肩の黒い蝶から、ベルの意思がテレパシーとして伝わって来た。それを聞いたジャックは、慌てて手裏剣を避けようと逃げ道を探す。だが、手裏剣が更に大きくなったのを見て、逃げ場がないことを悟った。


「引いてはダメだ!突っ込め!」


 ジャックは後ずさりしそうになった足を止め、前へ前へと進む。飛んで来た手裏剣を空中で避け、繋がれている鎖の上をソリのように滑ってスロウスとの距離を縮める。


「君の居る場所は……風輪赦の中央だよ?」

「ッ!?」


 しかし、ジャックがいる場所から別々の方向へ五つ鎖が伸びる。良く見れば、ジャックのいる場所を中心に、同じ神器が遠くへ伸びて回転している。ジャックは、巨大な鎖手裏剣の中心に来てしまったのだ。


「お気の毒様」


 更に、鎖は一瞬にして縮み、六つの手裏剣がジャックを挟んだ。避けるタイミングを失っていたジャックは、咄嗟に二つの神器を構え、六つの手裏剣を受け止める。


「くっ!!くそっ!!止まってくれ!」


 ジャックの願いとは真逆に、手裏剣の回転とパワーは加速する。更に、手裏剣から飛び散る液体がジャックの体へ付着し、一瞬にしてジャックの服や皮膚を溶かしてしまう。


「うおぉぉ!!リオーノ.メルト!」


 更に、自身の血で溶けた皮膚ごと溶かす。おかげで、より一層皮膚が溶けるが、毒ごと溶かすので解毒へと繋がっている。


(それ以上皮膚を溶かすのは危険よ!骨が見え始めてる!今私が行く!だから多少の毒に耐えて!)


 ベルがそう伝えるも、毒が飛び散る広範囲の巨大鎖手裏剣に近寄るのは危険だ。近寄れば、重症は必須だ。


(来るな!来ては巻き込まれる!リスクが高い!ベルは回復魔法と魔力増加に徹してくれ!ここは俺が切り抜ける!)


 ベルが来ても助かるとは限らない。最悪の場合を考えたジャックは、自分一人でこの状況を切り抜く選択をした。


「ううっ!くそおおおぉぉ!じれったいんだよおぉ!!」


 痺れを切らせたジャックは、回転する鎖に蹴りを入れる。すると、鎖に足が巻き込まれ、回転が緩まって鎖が少し絡まった。


「や、やっと止まった」

「止まらないよ?」


 しかし、先端の手裏剣自体は回転しており、その全てが独りでに動いてジャックを襲う。


「ふんぬっ!!」

「なっ!」


 ジャックはスロウスが握っている鎖を掴み、襲って来た手裏剣を無視して鎖を強く引っ張った。


「バカなの!?当たる当たる!後ろ!」


 ジャックの背中に手裏剣が命中し、木と手裏剣に挟まれて体に毒が回る。木に押し潰されるも、手裏剣は未だ回転を止めずにジャックの体を蝕んでいる。

 すぐに全身に毒が周り初めるが、ジャックの体内では血液が溶ける液体へと変化し、毒を全て解毒している。


「体内の血液を半分魔法に変え、毒を溶かしているの?ば、バカだわ。毒を無効化しても、体内から溶けて死んでしまう……。ダメージだけなら毒以上なのに」


 ベルもジャックの戦い方と選択に理解出来なかった。だが、ジャックにとっては、これこそまさに、毒を以て毒を制すということなのだろう。


「逃がさねぇぞ、ロイス」


 更に、手の皮膚がボロボロになって、崩れ落ちる勢いで鎖を強く引っ張った。すると、スロウスもそのまま引っ張られ、ジャックの手元まで勢い良く吹っ飛んで来た。


「ヤバっ――」


 ジャックの力強い拳がスロウスの顔面を捉えた。同時に、ジャックの拳は崩れ落ち、スロウスも顔面から真っ二つに割れた。

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