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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第14話【七つの亡霊】

 班授業の帰りだった。夕日が良く見える時間帯なのは、下界も神界も同じだ。


「これでいいかな」


 買い物を終えたジャックは、小さな袋をポム吉に持たせて悠々と歩いていた。自分の足で動き始めて一ヶ月経とうとしているが、未だにジャックの心はモヤモヤでいっぱいだ。

 慣れない生活の数々に、ほんの少しだけホームシックになっていた。最初はアマノが恋しかったが、今はタナトスとの生活に戻りたがっている。どちらにせよ、過去のぬるま湯が恋しいのだ。


「いでっ!?」


 少し寂しい気持ちで歩いてると、目の前で一人の男が壮大に転けた。そして、男が持っていた紙袋いっぱいのリンゴが全て坂下に落ちて行く。

 男は、慌ててリンゴに向けて手をかざして、全てのリンゴを手元に引き寄せた。だが、足元の紙袋を踏んでしまい、再びリンゴが散らばってしまう。

 それを見て、反射的に動いたジャックが、六個のリンゴをキャッチした。しかし、最後の一個はジャックの背後で真っ二つになって崩れ落ちた。


「ちっ、一個取れなかった」


 ジャックが悔しそうに舌打ちをしてると、男がゆっくりと立ち上がった。男は、黒いフードを被っており、何か言いたそうにしている。


「あんた、災難だったな。これ、一つダメになっちゃったけど」


 ジャックはそう言い、恐る恐るリンゴを返す。すると、男は袋の中にリンゴを全て入れて、静かに頭を下げた。


「ありがとう」


 男は礼を言い、リンゴを一つジャックに差し出す。ジャックは疑いの目でリンゴを見詰めながらも、それを受け取って隣のポム吉に食わせる。


「良ければお礼をさせて欲しい」

「いや、お礼なんて要らないよ」

「でも、それはそれで私が困る」


 困ったジャックの瞳に、近くのグレープ屋さんが映り込んだ。それを見て、ゴクリと唾を飲んで少し照れくさそうにする。


「じゃあ、あそこのクレープを貰おうかな」


 二人は、クレープを買って近くのベンチで一休みをする。ポム吉もクレープにがっついており、男も無言でクレープを食す。


「そう言えば、あんたの名前は?」

「ラース」


 男――ラースは、黒いフードを脱いで顔を見せる。艶のある赤髪、真っ白な肌に火傷、宝石のようなワニに似た瞳が特徴的な美しい男だ。片目は髪で隠れており、ミステリアスな雰囲気を放っている。


「君は?」

「……ジャック」

「ジャック?もしかして……一年前の英雄のジャックかい?」

「まぁ、そうだけど」

「これは光栄だな。私はここ数億年間ずっと旅をしていて、最近この付近に帰って来たんだ。街も文化も発展してて、新しい歴史も沢山積み上げられていた。だから、最初に会えた歴史が君なのは光栄だ」

「何億年も旅を?」

「そうだよ」


 ラースはふわふわとした表情で、清らかにジャックと会話する。そのせいか、先程感じてたジャックの寂しさは薄れていた。


「じゃあ、その火傷傷は旅での傷?」

「あぁ、これ?これは旅の前に受けた傷だよ。この傷を付けた神を探すのが目的で旅を始めたのだが、とうとう見つからなかった」

「……そいつは、一体どんな奴なの?」

「若い神だった。青年のようでありながら、中性的な顔立ちの持ち主だった。そして、魔法が使えない不思議な神であった」


 その話を聞いて、ある神の顔がジャックの脳裏に浮かんだ。それは、ジャックにとっても嫌な存在で、もう二度と会わないであろう存在。


「魔法を使えない……そいつの名前は?」

「確か、クルーニャ。仲間にそう言われていた」


 名前を聞いて、その存在に確信が付いた。その神は、一年前ジャックがこの世界に足を踏み入れるきっかけとなった神だ。気まぐれでジャックとアマノを引き合わせ、自分勝手な理由でアマノの次に信頼していた天使――サタンを殺した男。


「そいつは、死んだよ」


 だが、クルーニャはジャックによって地獄へと封印された。それに、一年前の戦いで最後に倒したのがクルーニャだ。


「死んだ?どうやって?知り合いなのか?」

「殺したのは俺だ。最上位魔法の一つ、『地獄門の召喚』で」

「魔界の契約魔法だろ?それ」

「契約者のアバドンは、使用時に俺の血を一口分で契約を結んでくれた。当時の俺は人間だったから、血が美味しいんだって。今は神になっちゃったから、寿命半分に変えれられちゃったけど」

「そゆことか……流石英雄だ。奥の手を身に付けとくなんて」

「まぁ、今は代償が重すぎるから使いたくないけど」

「それで、クルーニャとはどんな関係だったんだ?単なる敵か?」


 再び、ラースの瞳が鋭く輝く。


「さぁ、今でもよく分からない。奴は俺に敵意がなかった。それどころか、俺を気に入っているようですらあった」

「そうか……分からないか。その、クルーニャは確かに死んだんだな?」

「あぁ。奴が地獄門に入ったのをしっかり見た」


 その言葉を聞いて、ラースの曇った表情が吹き飛んだ。ホッとため息を付き、安心した表情で体勢を崩す。


「安心したよ。これで不安と心配が一気に吹っ飛んだ。奴に傷付けられた私の仲間もさぞ嬉しいだろう。ジャック、君に感謝する。お礼と言っては何だが、今度私の家族とディナーでもどうだ?」

「家族と……ディナー?」

「こう見えて私は高貴な一族の子孫だ。愛する者達と素敵な食卓を囲み、とびきり美味しい食を味わう。君は私と家族の恩人だ。ぜひ一緒にディナーを楽しみたい」

「まぁ、ちょっと考えとく」

「なら、また出会ったら予定を立てよう」

「え?また会ったらっていつ?」

「我々の運命を信じよう。運命が我々を引き合せる。その引力に惹かれあった時だよ」


 ラースはそう言ってニコッと笑い、体勢を変えないまま宙へと浮かぶ。そして、そのままカッコつけてどこかへ行ってしまった。


「あいつ……財布とリンゴ忘れてる」


 ジャックの隣に残ったのは、財布とリンゴが入った紙袋だ。


 *


「ふふふっ、あれが英雄か。まさか偶然会うとは、やはり引力は存在する。俺が奴を利用しようとした途端、奴が目の前に現れた。これは神である俺自身の意思だ」


 ラースは穏やかな表情と真逆で、企みの笑みを見せたまま飛行を続けている。


「それに、俺の家族の仇のクルーニャを始末してくれてたのもラッキーだった。ディナーに誘い、奴を我々の使者にする。奴が我々の思想を受け入れなければ、それはそれで強引に利用する。受け入れたのなら、純粋な神じゃないことも考慮して俺の家族にしてやる。ふふっ、フハッハッハッハ――」


 だが、前方不注意で薄暗い城に激突してしまい、そのまま落ちて城の瓦礫に服が引っかかる。


「いててっ」

「何やってるんだラース。 新しい遊びか?」


 その城はラースの拠点で、近くには待っていたかのように二人の大男が座っていた。


「よ、よく分かったな。たまには子供の立場になって遊んでみることにしたんだ」

「そうか……なら必要ない。お前は子供みたいなもんだろ?」

「俺、そんなに若く見えるか?」

「……」


 不思議そうに首を傾げるラースは、ゆっくりと服に引っかかってる瓦礫に手を向ける。だが、その瞬間瓦礫が崩れ落ち、ラースを押し潰してドアの前へと不時着させた。


「亀さんごっこ……」


 ラースは少し恥ずかしそうにし、男二人を横目で見る。だが、二人は気に求めず城へ入って行った。


「そっくりですよ、リーダー。亀さんみたいです」


 ラースの目の前に、美しい女がゆっくりとしゃがんだ。岩に押し潰されるラースを見て、赤子をあやすような顔をしている。


「……会議を始める。早く着いてこい」


 だが、ラースは女の下から上まで見上げて慌てて立ち上がる。そして、城のドアを見えない力で開き、優雅に扉へと入って行く。


「他の三人は?時間はとっくに過ぎてるんだが」


 城に入り、誰かを探すように周りを見渡す。しかし、目当ての人物が居ないので、目線を腕時計へと向けた。


「リーダー、その時計止まってますよ」


 隣の女が、他の二人を遠目で見てラースの耳元で囁く。


「……ギャグだ」

「ふふっ、面白いわ」

「ほら、座ってくれ皆の衆。人数、場所、状況、目撃者、今日のノルマである殺人情報を報告してくれ」


 ラースはそう言い、名前が書かれたノートと地図を広げる。だが、椅子に座る場所を間違え、そのまま尻もちをついてしまう。


「大丈夫、ですか?」

「報告を続けろ」


 何事も無かったように話すラースだが、そのお尻はジンジン痛む。


 *


「七つの亡霊?」


 教室で、ベルやセーレが楽しそうに話をしている。しかし、内容は決して楽しい内容じゃない。


「最近頻繁に行われてる殺人事件の首謀者よ。噂では、昔昔に死んだ七神の神の怨みによるものだって」

「すっげぇつまんない冗談。ベル、お前ちゃんの頭は何も入ってなさそうだね」


 ベルが面白半分に言った発言に対し、アウトリュウスがつまんなそうに返答した。それを聞いて、ベルがムッとした表情で目を細めた。


「あんたに言われたくないわよ」

「けど、確かに最近多いね。殺神犯早く捕まんないかな〜」

「いや、俺ちゃんから言わせてもらえば捕まって欲しくないね。退屈な神界を賑やかにしてくれてありがとうってお礼を言いたいね」

「へ〜、とか言ってる奴に限って犯人の前に立ったら『ごめんなさい〜!俺ちゃん悪かったよぉ〜』って言うんだよ」

「いや、言わないね。俺ちゃん悪魔に変装して逃げる」

「あ〜、確かに。狙われてるの神だけだもんね」

「やっちゃいな!神を噛み殺せ!って感じ――」


 突然、楽しそうに話をしている三人の横を投げナイフが通り、奥の壁へと深く刺さった。

 投げられた方向を見れば、いつも以上に不機嫌そうにし、怒りを顕にしているカーマの姿がある。

 カーマは何も言わず、怒りを抑えるように教室を出て行った。


「そ、そんなに俺ちゃんのダジャレつまんなかった?」

「いや、そこそこつまんなかった」

「え?どっち?」


 三人が困惑する中、ルーナが悟ったように椅子から顔を見せた。


「噂はほんとだったらしいな」

「噂?」

「あいつ、その殺神犯に両親殺されてるんだってよ」

「それさ、もっと早く言ってよ」

「悪い」


 ルーナが少し申し訳なさそうに教科書に目を逸らす。そんな中、ベルとアウトリュウスも申し訳なさそうにする。


「もっと早く言ってくれれば……目の前で言ってたのに!!」

「アヒャヒャヒャ!!ほんと残念〜」


 それを見て、ジャックが顔を引きつった。

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