第13話【班授業】
試験の次の日。
ジャックは、一番遅く起きて教室に向かった。教室に向かうと、他の五人がいつも通りに遊び場のような部屋で居座っている。
「おはよう」
「随分遅かったな。悪い夢でも見たか?」
「まぁ、そんなとこ」
いつも通りルーナの隣に座り、机にテーブルクロスを引いた。すると、テーブルクロスの上にクレープが出現し、それを食す。
「さっき小耳に挟んだんだけどさ、校長先生が行方不明らしいぜ」
「え?行方不明?」
ルーナの話を聞き、思わずビクッとする。なぜなら、昨日見た殺神が頭に過ぎったからだ。
「え、あぁ。行方不明っての言い過ぎたな。単純に遅刻だと思う」
「な、何だ。びっくりさせんなよ」
「こっちがびっくりした。いきなり大きな声出すから」
そんな話をしてると、教室の扉からリベ先生が姿を見せた。リベは、いつも通り気だるそうにしており、長いスカートを引きずってる。
「また遅刻。先生はダメ女。私が教える立場でいいはずがない。帰ろうかな」
リベは時計を見て小声でそう言い、生徒達をチラチラと見ながら深く落ち込み、帰る素振りを見せる。
「やった!今日帰れる!」
「わーい!セーレ帰ろっ」
それを見て、真っ先にベルとアウトリュウスが席を立って帰ろうとした。瞬間、リベが血管をプツンとさせ、近くの本棚を叩いた。
思わず、ジャックとセーレの姿勢が正された。
「違うって!そこは『先生はダメじゃないよ!帰らないで先生!』でしょ!?」
皆、ポカーンと口を開け、恐る恐るお互いに目を合わせた。
「ダメな女だろ。なぜそこを否定できるんだ?」
更に、カーマが追い討ちをかける。
「あ゙あ゙?」
「先生はダメじゃないよ!だから早く先生の授業受けたいな〜」
だが、それをカバーするようにルーナが薄っぺらな笑みを見せて、思ってもいないことを口にする。
「……まあ〜、そんなに言うなら、授業しちゃおうかな〜」
すると、リベが露骨に照れる。それを見て、皆顔を引きつっている。
「そんなにって……一回しか言ってねぇだろ」
「あぁ?何か言ったか?」
「いえ、何も」
再び地雷を踏みそうになったカーマだが、流石にこれ以上は面倒なことはしたくないのだろう。態度を変えて、大人しくしている。
「先生が一番ヤバイんじゃない?」
「ヤバイというか、精神的に壊れてるな」
遊び場のような教室が、大きな椅子が六つの部屋になる。生徒らは、皆各自の席に着いて、これ以上先生の感に触らさないように大人しくする。
「試験合格おめでとうございます。早速、明日から班のメンバーとの顔合わせです」
「班って、前言ってた?」
「そうだ。班での授業は。上級生との唯一の関わりがある」
ジャックがルーナとコソッと話すのを見て、リベがニコッと笑って眠そうな目をゆっくりと瞬きさせる。
「ジャック」
「はい!」
ジャックは、リベに名前を呼れて慌てて返事をする。
「それと別に、今日の放課後テストの追試です。赤点者は参加して下さいね」
「あ、はい」
*
ジャックはすっかり忘れていた。ペーパーテストが二教科赤点だったことを。そして、その追試があることも。
「……」
教室は、宙に浮く椅子と机が二つずつ。ジャックは、少し席を離している。隣は、同じく赤点のアウトリュウスだ。
「どうしたんだい?もっと近くに来なよ」
「……いや、いい」
ジャックは、アウトリュウスのホモ発言で近寄り難い。しかし、アウトリュウスがお構い無しに席を近寄せて来て、少し困惑する。
「別にカンニングする訳じゃないよ?教科違うし、信頼していいぜ」
「いや、そこは疑ってないよ」
「そうか」
二人は、しばらく無言で追試に取り組んでいた。だが、リベが居ないこともあり、長時間の追試に疲れたアウトリュウスが、ため息をついて口を開く。
「あまりセーレと仲良くしない方がいいよ」
「……どういう意味?」
いきなりのことで意味が分からない。言葉通りなのだろうが、それでもなぜ今言ったのかが、ジャックには理解出来なかった。
「セーレが君と話すのは変なんだ。いいかい?俺ちゃんは親切で一度きりしか言わないよ?あまりセーレと仲良くしない方がいい」
「なぜ?」
「言わない」
「言っとくけど、俺はホモじゃない。だからセーレに気を持たない」
「……そうかい」
ジャックは、アウトリュウスの心理を悟ったようにそう言った。しかし、アウトリュウスは必要以上に喋らず、これ以上の反応を見せなかった。
「ッ!?おい!」
「何?」
それとは別に、隙あることにジャックは痴漢された。それが心底嫌だったジャックだが、相手が同年代の子供ということもあり、苛立ちを抑える。
「次触ったら容赦なく腕を斬る」
「ほぉ、そうかい」
アウトリュウスは、容赦なくジャックの尻を撫でるように触る。瞬間、ジャックに刀で腕を斬られ、その場に腕が落ちた。
「あ〜、お代は腕一本てか?ほんとに斬るなんて、流石英雄様」
「イカレマザコンホモ野郎が」
*
翌日、班のメンバーと顔合わせだった。
「あや〜、同じ班で良かったな。一年生が被ってるのは俺達の班だけだぜ」
ジャックは、ルーナと同じ班だった。残りの班員は上級生で、これから顔合わせをするのだ。
「卒業生が二人居たから、二人だけだったらしいね」
「名前なんだっけ?」
「さぁ、張り出された紙よく見てなかった」
二人が向かったのは、普段通行禁止になってる上級生の居る上の階だ。場所は、五階の小さめの空き部屋だ。他の教室に比べ、綺麗にされているようには見えない。
「入るか」
「うん」
それでも、恐る恐る部屋の扉を開ける。
部屋に入ると、二人の生徒がテーブルを囲んで座っている。一人は、目のクマが目立つ気だるそうな少年で、もう一人はイケメンと呼ぶに相応しい顔立ちの青年だ。
「あ!あ……誰?てっきりマイハニーだと思ったのに」
「新入生じゃない?ほら、二人入るって言ってた気がするよ」
「初耳だ」
「聞いてなかっただけでしょ」
その二人は、ジャックとルーナに余り興味を持っていない。ましてや、そのまま気にせずに各々のやることをしている。
気だるそうな少年はゲームを、美青年は雑誌を読んでいる。
「新しく班に入ります。一年、ルーナです」
「……ジャックで――」
二人が挨拶するも、扉から複数の女の子が現れ、ジャックとルーナを押し倒した。
「ラック!遊びに来たよ〜!」
女の子はパッと見ても十人居て、皆が美青年に目を向けている。美青年は、待ってたかのように雑誌を閉じ、ニコッと笑って下敷きになるジャックとルーナを踏んで扉の外へ出た。
「待ってたよ〜マイハニー達。今日はどこ行こうか?皆でプール行くかい?君達のナイスバディが見たいな〜」
「も〜!ラックのエッチ!そーゆことばっかり!」
「私のナイスバディ見せ付けたいわー」
「あんた達ラックに触らないで!あんたらのふしだらなな手で触っていい存在じゃないの!ラックから触られるまで待ちなさいよ!」
「まぁまぁ、落ち着いて。さあ、いっこか」
「「「はーい!」」」
絵に書いたようなモテ男だ。美青年は、そのまま女の子を連れて部屋を出て行った。
「いてて……なんて酷い奴らだ」
「まったくだな。ふしだらな連中だ」
起き上がったジャックとルーナは、服のホコリをほろって部屋の中に入る。すると、椅子に座ってる少年がゲーム機をその場に起き、こちらを見た。
「大変だったね。僕の名前はロイス。さっきの彼はラック。僕が四年生で、ラックは六年生。今日からよろしくね」
少年――ロイスは、椅子に座ったまま穏やかに挨拶をし、眠そうな目でニコッと笑う。それを見て、ジャックもルーナも安心したように目を合わせた。
「さあ、お入り。紅茶があるから入れるよ」
ロイスはそう言い、魔法を使って一歩も動かずにテーブルに紅茶を並べた。椅子に座ったジャックとルーナは、大人しくその紅茶を手にする。
「まぁ、見ての通り僕らは班授業をまともにやってない。ラックはいつもあんなんだ。班授業じゃなくても女の子のことばっかり。だから運がなかったと思い、諦めるんだね」
「じゃあ、何するんです?」
「これさ」
ロイスがそう言って見せたのは、ゲームのコントローラーだ。それを見たルーナは、少し嬉しそうに笑った。
「二人共ゲームは好き?」
「俺は最高に好きです」
「やったことないです」
「オーケーオーケー。経験者も未経験者も大歓迎」
ロイスに渡されたコントローラーを持つ二人は、何の疑問もなくゲームソフトを選ぶ。ジャックも、班授業をどう取り組むかなんて、どうでも良かった。
「どれがいい?」
ゲームソフトの中には、対戦、レース、アクション、シューティング、パズルなど複数の種類がある。
その中で、ジャックが何となく取ったのは、アクションゲームだ。タイトルは、『ミーアの大冒険』だ。
「それがやりたいの?」
「えっ?あ、いや、そういう訳じゃ……」
「けど、見る目あるね。人気ゲームシリーズなんだよ、それ。一作品目は主人公が過去の自分に殺されて、二作品目は主人公が師匠とラスボスの子供を授かるっていう最後を迎える。そして、三作品目はその子供が主人公で、敵に殺されて死亡するラストなんだ。それは最新作、四作品目。ちなみに、五作品目も決定していて、希望の物語らしいよ」
「……」
先程より嬉しそうに話すロイスは、詳しくそのゲームについて話し、そのソフトを取ってゲーム機に入れた。
「俺これやっちまったよ。今作は王を目指す物語だろ?」
「僕も。だけどネタバレはなしで行こう。この子が楽しめないでしょ?」
ロイスはそう言い、ジャックの頭を撫でてコントローラーを受け渡す。ジャックは少し困惑しながらも、ゆっくりと手を振り払った。
「この子じゃなくて、ジャックです。それに、まだやるなんて言ってない」
「やらないの?」
「……まぁ、ゲームやったことないし、ちょっと気になるからやってみる」
「いいね」
結局、その日の班授業は、三人でゲームを進めただけだった。




