第12話【次なる巨悪】
神々のラグビーは残り10分もない。そんな中、ギリシャチームは北欧チームに圧倒されていた。
魔法無制限のカードを持つイアンが、とうとう本気を出して来た。
「どぉした!魔神アイムを倒したっての嘘だったのか!ジャック!」
「くそっ」
圧倒的脚力で飛んで来たイアンが、ジャックの元へ着地した。そして、ボールを隠すように抱えるジャックの服を引っ張り、ニヤッと笑って雪の地面に押し付ける。
「ほら!ボールをよこせ!」
「断る」
「おーけおーけ、なら苦しめ」
「あああぁぁぁぁ!!」
更に、ジャックの折れた腕を踏み付け、徹底的に痛め付ける。そして、とうとうジャックの腕がちぎれてしまう。
「意地張るからこうなる。弱さを受け入れることが出来ないのは、弱者のそれか?もういい、早くよこせ」
ジャックを持ち上げ、片腕を捻ってジャックのボールを奪う。しかし、そのボールに違和感を感じた。
「照れちゃう!」
「は!?な、何だこれ!?ボールじゃない!ボールの模様をしたぬいぐるみ?貴様!」
ジャックが持っていたのは、ラグビーボール模様のポム吉だ。それを見て、イアンは慌ててジャックの懐を探る。
「くくっ、ねぇよ。ここには探し物、ないんだよ」
「てめぇ!どこやった!ボールは!」
「さぁな、さっき転けちまったから、そこで落としたのかもな」
「転けた……ま、まさか……」
イアンは悟ったように、サントスがジャックを足止めした場所に目を向ける。そこに、両目が潰れているセーレの姿はない。代わりにある光景は、ルーナとベルがサントスをサンドバッグにしている光景だ。
「転移持ちが居ない……」
「セーレが落し物を……拾ったようだな」
イアンが見たのは、ボールを持ってゴール方向へ走るセーレの姿だ。後数十mでゴールの距離だが、目が見えていない為、フラフラしながら走っている。
「させるか!」
ジャックを後にしたイアンが、再び地面を蹴り飛ばして高く飛ぶ。そして、そのまま数百m離れてるセーレの元へ向かう。
「この距離を一瞬で……同じ速さ5でもセーレはすぐに追い付かれてしまう」
それを見ていたベルがゴクリと唾を飲み込んだ。
「よぉし!全然間に合う!ぶっ殺してやる!」
飛んで来たイアンの手が、セーレのすぐそこに伸びた。だが、それと同時に肩に乗ってる白い何かが目に入った。それは、見覚えのある不思議な存在だ。
「照れちゃう!」
「さっきの……ぬいぐるみ……」
その何かは、ポム吉だ。同時に、イアンの両手が背後に引っ張られ、何者かに足で背を押される。
「ぬいぐるみの元に転移を!?」
その何者かは、ポム吉の元へ転移したジャックだ。空中でイアンの両手を片手で引っ張り、足で背を強く押すことで、その場に落下させる。しかし、イアンは髪を鋭く伸ばしてジャックの体中を貫く。それでも、ジャックは一切力を緩めない。片腕だが、アマノの鬼のパワーを引き継いでるジャックなら、かなりの怪力を発揮出来る。
「なぜ緩めない!こんなに痛め付けるのに!片腕をちぎってやった!体中を蜂の巣にした!なのになぜ!?」
「どうだイアン!ジャックは凄いだろ!君の負けだ!」
体を抑えられるイアンの前で、ポム吉が偉そうに威張る。しかし、イアンが腕を捨てて拘束を解いた。同時に、セーレがゴールに辿り着き、ボールを地面に付ける体勢を取る。
「やめろおおぉぉ!!」
「やめない」
残り5秒の所で、セーレが見えないはずの目でチラッとイアンを見て、華麗にゴールを決める。
「ギリシャチーム一点!試合終了です!」
ギリシャと北欧のラグビーは、ギリシャチームの勝利で幕を閉じた。
*
目が覚めた。さっきまでラグビーをしていたはずだが、妙に体が軽い。周りを見れば、複数のベッドがあり、右隣のベッドにはカーマが寝込んでる。左隣のベッドは、アウトリュウスとセーレが布団の中でモゾモゾと動いている。
「おはよう!」
ベッドの中からポム吉が顔を見せた。それを見て、ジャックは現状を少し理解した。
「はぁはぁ……待って、ちょっと待ってよ」
「だめ……もう我慢できない」
左隣からいやらしい声が聞こえて来る。その声は、色んな意味で元気いっぱいのセーレとアウトリュウスのものだ。
「うるさい……」
「ん?ジャック起きたのー?」
だが、ジャックが起きたのを見て、アウトリュウスがムクっと毛布から身を出した。その姿は、やはり裸だ。
「こんなとこでおっぱじめないでくれるか?服着ろ」
「何?ジャックも混ざりたいの?」
「何でそうなる……」
「来なよ」
「うるさい。お前はともかく、セーレの服だけでも着させろ。そっちが気にならなくても、俺やカーマが困るんだ」
「何で?」
「女の子だから」
「女の子?セーレ女じゃないよ」
その一言に、目をつぶっているカーマも少し反応する。ジャックもポム吉も首を傾げ、お互いにアウトリュウスを馬鹿にするように目を合わせている。
「何言ってんだお前?まさか男だって言うんじゃないよな?」
「男じゃないよ」
「なら女だ」
「違う。セーレは中性だ」
「余計なこと言わないで……アウトリュウス」
セーレが少し嫌そうに毛布から身を乗り出し、アウトリュウスをグッと布団の中へ引っ張った。
「中性?」
ジャックは余計分からなくなっていた。だが、隣のカーマは悟ったように目線を逸らしている。
「よぉよぉ!元気してるか怪我人共!」
「土産に果物持ってきたよ!」
そこに、ピンピンしているルーナとベルが入って来た。そして、果物を机に置いてアウトリュウスとジャックの間の椅子に座る。
「そうかジャック。お前は元人間だから知らないのか」
「え?聞いてたの?」
「中性だろ?」
「うん」
ルーナは果物をナイフで丁寧に向きながら、淡々とジャックとアウトリュウスと会話する。
「中性ってのは、男でも女でもない性別だ。神や天使に稀に生まれる。特に、ハーフの間に生まれる可能性が高く、昔はよく差別された存在だ」
「けど、セーレ見た目女の子だよ。ベル以上に女の子だ」
「今、私に喧嘩売った?」
迂闊な発言をしたジャックは、チラッと怒るベルを見て顔を背ける。
「お前が言うかよ」
「……」
ジャックは気まずそうにするセーレの方をチラッと見た。ベルやカーマもセーレの方をチラチラと見ており、何だか空気に違和感がある。
「ジャックもちんちん無いよ!」
だが、ポム吉が皆の前に現れ、威張った様子でそう言った。それを見て、ジャックは恥ずかしそうにポム吉の頭を叩いた。
「バカ!」
「何だよ英雄?お前やっぱ女だったのか?」
当然、カーマが揶揄うような笑みを見せる。
「違う!昔悪い神様に切られただけだ!無いけど男だ!」
「無ければ男じゃねえよバーカ。お前も中性だ」
「こいつ……」
ジャックがベッドから起き上がり、カーマの胸ぐらを掴みに行こうとした。
「いいじゃんか中性くらい。俺ちゃんなんてホモだよ」
だが、アウトリュウスの一言でジャックもカーマも固まってしまう。
「ハハッ!今なんて言った?」
「俺ちゃんホモ。ついでにマザコン。ジャックもルーナもいけるよ。安心してよ偏屈神様……君もいける」
ジャックとセーレが避難を浴びる流れが、一瞬にして終わった。セーレとルーナ以外、皆顔を引きつっており、一歩身を引いている。
「え?何?もっと寄っていいよ」
「お前、女には興味無いの?」
「お母様以外の女は好きじゃないかな。女って自分可愛いじゃん?俺ちゃんも自分が一番可愛いから、女可愛がれない」
「お前おもしれぇな」
「変態イカレ野郎だと思ってたが、変態マザコンイカレホモ野郎だったか」
ルーナとカーマは、アウトリュウスを面白がってクスクスと笑っている。当の本人は、何が面白いのか不思議そうにしている。
「お母様って、その猫?前、お母様って言ってたけど」
アウトリュウスの肩に乗る猫を見て、ジャックが不思議そうに首を傾げた。
「そう」
「猫がお母さんなの?神様って猫から産まれるの?」
「な訳……大人の都合で猫にされてるの」
「大人の都合?呪いに掛かったって意味?」
「そんな感じ」
「ふーん。変な猫」
「猫じゃなくてお母様。名前だってあるよ」
「何?」
アウトリュウスが白い猫の首を撫で、ジャックの方をチラッと見て、思い出すように目線を上にやった。
「えーっ、確か――」
「クロ……アウトリュウスは名前で呼ばないけど、セーレ覚えてる。クロだったはず」
話に入って来なかったセーレが、食い気味にそう言った。そんなセーレを見て、アウトリュウスが何か思い出したかのように口を開けた。
「そうだった。クロだ」
「白猫なのに?クロ?」
「元は猫じゃないって」
「親子揃って変なの」
皆アウトリュウスとジャックを見て、クスクスと珍しげに笑っている。それに気付いたジャックは、顔を上げてルーナの方を見た。
「何?」
「いや、変な奴トップ2の絡みが面白くてな」
「俺変じゃない」
「普段はな」
「ふんっ」
その日、ルーナとベル以外の怪我人は、一晩ベッドが並ぶ部屋で過ごした。当然、ジャックとカーマは、アウトリュウスとセーレの喘ぎ声に魘されることとなる。
*
(寝れない)
ジャックは目覚めてしまった。隣の二人がうるさくて、全然眠れなかった。更に、カーマまでもが何かに魘されていて両隣から音が聞こえている。だから起きた。
「今日は疲れた」
学園内は、夜だというのにまだ活動している者が居る。そんな中、ジャックは出会ってしまった。次なる巨悪に。
「ッ!?」
ジャックが見たのは、真っ暗な部屋での殺神だ。学生なのかは分からないが、顔の見えない少年が大人の神を刀で突き刺している。更に、その神を風呂敷に包んで手持ちサイズにした。
「良くやったプライド。こいつの情報が欲しかった。にしても……便利な魔道具だな」
そう言って影を見せたのは、別の男だ。少年ではなく、大人の影だ。
(何者だ?)
ジャックは再び覗き込もうとした。しかし、近くに歪な空間が現れ、二人はその空間に入り込んで消えてしまった。




