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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第9話【神々のラグビー】その3

 アウトリュウスは、イアンの攻撃によって顔や体が折れ曲がり、ぺちゃんこだった。とても何か出来る体ではない。


「今だ!蹴り飛ばしてやる!」

「丁重にお返しする。身体強化魔法、100%」


 しかし、アウトリュウスが出した赤い本がニコラスに向けて開かれ、見覚えのある強力な打撃が放たれる。

 それを受けたニコラスは、蹴りを放っていた足が消し飛び、ゴールと真逆の方へ吹き飛んだ。


「あ、あれは……あの威力は……」

「俺の……身体強化魔法だ。さっき、奴自身もそう言った」


 両チームが固まる中、アウトリュウスが北欧チームの馬の上に着地し、ニコラスから奪ったボールをキャッチする。


「もう死にそうだな。死んだらそれまでだが、まだ働くか。ぶ……ブルー」


 更に、赤い本によく似た青い本を出現させ、その本を持ちながら、ルーナやカーマがいる方向を丸めた指から覗き込む。


「アイ.モーメント」


 アウトリュウスが魔法を唱えたと同時に、ルーナとカーマの前にアウトリュウスが現れる。どうやら、使用したのは転移魔法のようだ。


「お前!?転移……出来たのか?」

「ボール、セーレに」


 アウトリュウスはルーナにボールを渡し、その場に倒れる。ルーナは、感心した表情で笑みを見せ、すぐにセーレにボールを回す。セーレは、さっきのダラけた態度と違い、華麗にボールをキャッチして雪の壁の前まで転移し、その壁の一部を破壊して再び転移を使用した。


「ギリシャチーム!一点!」


 アウトリュウスのボール奪還劇とセーレの転移により、点をもぎ取ることが出来た。これで、ギリシャチームは一点リードとなる。


 *


 アウトリュウスとニコラスが気絶した為、試合再開まで数分の時間が与えられた。


「大丈夫か?」


 ジャックとベルの魔法により、アウトリュウスの傷はほぼ全て治療される。そして、ルーナが心配そうに声を掛けるが、アウトリュウスはきょろきょろと周りを見渡し、セーレを見付けて眠たそうな目を見開いた。


「三大性欲の一つが爆発しそうだ」


 そして、セーレの元に駆け寄ってすぐにそう言った。だが、セーレはクスッと笑って揶揄うような表情を見せる。


「三大欲求でしょ?アウトリュウスはバカだね〜」

「いや、間違ってない。情欲、愛欲、色欲」

「おお!アウトリュウスは天才だね〜」

「だしょ〜?とゆうことでしようよ」

「いや」

「えー!せっかくセーレの名誉の為奮闘したのに!」


 二人は、完全に自分達の世界に入り込み、他の四人に見向きもせずに雪の上で寝っ転がる。そして、お互いに「寒い冷たい」言いながら雪の上で触りっこしてる。


「マジきめぇなあいつら」


 カーマを初め、皆ドン引きだ。


 *


 前半40分の試合は、残り10分程度になっていた。

 北欧チームからのボールで、試合再開となる。


「さっきのイカレ野郎に気を付けろよ。あいつ、なぜかイアンの魔法を使える。恐らく、他にも複数魔法を保持しとくことが出来るんだ」

「分かってる。赤と青の本が出たら警戒すればいいんだろ?」

「そうだ。フフッ……サントス、やったれ」

「ああ」


 ボールを持ってる帽子の少年――サントスの頭の上には、速さ4魔法回数3と書かれている。

 サントスは、ボールを持っている割には動かない。止めに来るルーナの攻撃を避けるだけで、少しも前に進めていない。

 そんな状況だと言うのに、誰もサントスの近くに寄らず、ゴール目指して走っている。

 その違和感と相手の思考に、まっさきに気付いたのはルーナだ。


「皆!追え!ゴールの方へ行った奴らを追え!こいつは転移持ちだ!コース.レゼンで飛ぶつもりだ!」

「セーレ!テレポーテーションで俺達を飛ばせ!」

「ジャックに命令された……まぁいいけど」


 ルーナの咄嗟の判断によって、セーレが次々とジャック達を北欧チームの元へ飛ばす。双眼鏡で覗き込み、北欧チームの生徒を邪魔する位置に送り込んでいる。


「ちっ、コース.レゼン」


 同時に、サントスも転移を使って一番先頭に居るイアンの元へ転移し、ボールをイアンに渡して近くに居たジャックの足止めに回る。


「リオーノ.メルト」

「通すかよ!」


 ジャックがイアンに放った魔法も、サントスが身を呈して守り、イアンをゴールへと行かせた。


「ナイスだサントス!後でチェリーパイをくれてやる!」

「チェリーはいやだぜ。アップルパイ……いや、おっパイで頼む!」


 完全に勝ちを確信してるイアンとサントスは、少しの余裕があり、目の前のジャックをそこまで警戒していない。


「なっ!?イアン!余所見するな!前!」

「あ?」


 イアンのその余裕は、一瞬のよそ見を生んだ。イアンの目の前には、転移で飛んで来たセーレが待っており、手元から植物を出してイアンに襲い掛かる。


「おいおい。パイはパイでも、ペチャパイは呼んでねーよ!身体強化魔法!」


 イアンは、セーレに向けて銃口に似せた指を向ける。その指に親指が重なり、弾くように何かを放った。

 その何かは、確実にセーレの胸に当たり、セーレの動きを止めた。


「これは……爪?自分の爪を弾丸のように飛ばして来たの……」


 イアンが放ったのは、自分の尖りきった爪だ。その爪は刃の如くセーレに突き刺さっている。


「深く刺さったな。残りもくれてやる!」


 右手の爪四つも、弾丸のように放たれる。慌てたセーレは、植物で三つを防ぐが、一つは目に刺さる。

 更に、イアンはグッと右手を握り、素早く弾くように手を開いた。そこから出たのは、剥がれた爪傷の血で、ショットガンのように広範囲に渡って放たれる。

 血を食らったセーレは、体を強く押されたように、少し吹き飛んで背中から倒れる。


「雑魚がよぉ!半端な覚悟と自信で立ち向かってんじゃねぇよ!」


 イアンが高く飛び、セーレの顔面を踏み付けようとする。だが、セーレの前に何かが飛んで来て、それを踏み付け滑ってしまう。


「なっ!?」


 空中で滑ったことで、イアンは倒れるセーレの前に転んだ。


「何だこれ?」

「照れちゃう!」


 イアンが踏んだのは、白い熊のぬいぐるみ――ポム吉だ。雪のような白さで、雪の上で可愛らしく笑っている。


「ライト.ファロン!」


 更に、光の刃がイアンの腕を切り落とした。ボールを持った手は、血を流してその場に落ちる。


「うげぇ!!俺の手がない!?切れちまった!くそおぉ!」


 イアンはそう言いながらも、何とかボールを持とうと口で落ちた手を持とうと足掻く。しかし、その目の前にジャックが現れ、イアンに蹴りを入れた。


「くっ!ああ?ぺ、ペチャパイ2号か……」


 イアンはそう言い、ジャックにやられて倒れたと思われるサントスに目を向ける。そして、周りを見て、助けが来ないことを悟って漁ったように血を舐めた。


「俺はおと――」

「ジャックはペチャパイじゃない!」


 ジャックの言葉を遮り、ポム吉がイアンとジャックの前にでしゃばる。それ見て、ジャックは(よく言った)と言わんばかりの表情を浮かべる。


「ぬいぐるみが、喋ってる?」

「ジャックはまな板だ!」


 だが、ポム吉のフォローにプッツンし、ポム吉をぶっ叩いた。


「ほわっ!?」

「バカグマ」

「あ!お前英雄ジャックか!見たことあるぞ!」

「ッ?そうだけど……今関係ないだろ」

「いやあるよ!俺大ファンだからさ!」


 イアンはジャックの顔をまじまじと見て、友好的な態度でゆっくりと近寄って来た。


「だから何だよ。今関係ないだろ。もう一回蹴られたいのか?」

「めちゃめちゃ関係ある!あ!俺なんかよりそっちのサントスの方がお前のファンだぜ!」


 イアンが近くで倒れるサントスを指差し、満面の笑みを浮かべる。困った表情を浮かべるジャックは、ため息をしてサントスをチラッと見た。

 瞬間、イアンがニヤッと笑って雪の上のボールをゴール方向へ蹴った。


「バカめ!!誰がお前のファンだよ!元人間のスカポンタン!」

「しまった!」

「遅い!」


 イアンは自分の圧倒的な身体能力で突っ走り、蹴ったボールに追い付いてゴールの目の前まで来た。

 そして、両足でボールを挟んで、一回転してボールをゴールラインの奥の地面に付ける。


「北欧チーム!一点!」

「よし!」

「バカ英雄!ファンって言われて照れてんじゃねぇ!大バカ!」


 イアンは喜び、カーマはブチ切れる。それを見て、ジャックは悔しそうにし、カーマを無視するように背を向ける。


「別に照れた訳じゃないし……」

「照れちゃう!」


 ジャックは舌打ちをし、ポム吉は照れる。


 *


 前半40文が終わり、10分間の休憩と作戦タイムが与えられた。その時、先程のミスで落ち込んでいたジャックの隣に、セーレが静かに座った。


「ありがとう」


 セーレが目も合わせず、ジャックだけに聞こえるように感謝の言葉を言った。落ち込んでいたジャックは、少し嬉しくなって表情を隠すように目線を逸らす。


「照れちゃう!」


 だが、ポム吉がジャックの服から出て来て、セーレの前にでしゃばる。


「さっきはどうもありがとう、ポム吉」

「照れちゃう照れちゃう!」


 セーレは、ポム吉にもお礼を言った。それを聞いてたジャックは、違和感を覚えて不思議そうに首を傾げた。


「何で名前を?」

「え?な、名前?あー、さっき呼んでたでしょ?ポム吉って」


 セーレは冷や汗をかき、一瞬目を逸らして誤魔化すようにポム吉を撫でる。


「さっき?呼んでないと思うけど……」

「あー、違う違う。さっきてのは、前の試験のこと。このポム吉がドラゴンになってたでしょ?その時名前呼んでたよ」

「呼んだかは覚えてないけど、よく聞こえたね。俺達離れていたのに」

「地獄から拾って来た耳だからね。よく聞こえるよ」

「ふっ……そうなんだ」


 ジャックはセーレの冗談を鼻で笑い、落ち込んでいた表情が吹き飛ぶ。

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