第7話【神々のラグビー】その1
ルーナは、魔法無制限カードを持つセーレと馬召喚カードを持つアウトリュウスを順番に見て、足の速さを決める魔道具の前で頭を抱える。
「取り敢えず、方向性を決めたらどうだ?」
そんなルーナに、ムッとしたカーマがアドバイスをする。
「方向性?」
「あぁ。セーレやアウトリュウスを軸にするか、足の速さを均等にしてバランス重視にするか」
「おお、ナイスアドバイス。皆どうする?今の二つだけど――」
カーマの考えに感心して頷いたルーナは、すぐに顔を上げて意見を求めようとした。だが、セーレとアウトリュウスの二人は寝込んでおり、ベルは話を聞かないで食事をしている。ルーナとカーマは困惑し、呆れた顔でため息をついて、ボケ〜っとベルの方を横目で見てるジャックを見た。
「来いジャック。三人で決めるぞ」
「うん」
ジャックが二人の元へ近寄ると、カーマは露骨に嫌そうにする。だが、ジャックは気に求めず魔道具に触り、足の速さや魔法回数を確認する。
「セーレを軸にした方がいい。この試合、セーレがボールを手にすれば転移でゴール前に行ける。俺達はその援護に回る」
「俺もそれがいいと思う。カーマは?」
「それでいい」
三人の意見が合ったことで、作戦の方向性が決まる。よって、必然的に足の速さが決まって来る。
「セーレは足の速さ6、アウトリュウスは足の速さ5の魔法回数2。問題は他だ。お前らどうする?魔法で援護したいか、積極的に前に出て援護したいか」
「使える魔法によるだろ。取り敢えず、足の速さ1で魔法回数6はベルがいいと思う。さっき奴の魔法を見たが、そこそこ使える」
「その言葉信じるぜ。それで……残りは俺達だ」
残った能力値を見て、三人はお互いに目を合わせる。しばらく沈黙を走らせる三人だったが、ルーナがカーマの目線と表情を横目で見て、口を開いた。
「カーマ、お前さっきからジャックのこと見てるけど……もしかして好きなのか?」
ルーナはそう言ったが、カーマの表情はそんな柔らかなものではない。嫌悪の目と表情でジャックを見ていて、好意とは真逆の物だ。
「お前のその目玉は飾りか?くだらない冗談言ってないで、とっとと考えろ」
「はいよ」
「俺は――」
ルーナとカーマが揶揄い合う中、ジャックがやっと口を開いた。だが、二人が勢いよく目を向けてきたことで、少し表情と喉が詰まる。
「俺は、魔法で援護したい。最近あんま動いてなかったから、走って援護したりするのきつい。さっきの試験で体も痛めてるし」
「じゃあ、足の速さ2の魔法回数5な。残りは俺とカーマ。どうする?」
「どっちも大して変わらないが、足の速さ4の魔法回数3にする」
「なら俺が足の速さ3の魔法回数4な」
数値一覧。
セーレ、速さ6の魔法無制限。アウトリュウス、速さ5の魔法回数2、馬召喚。カーマ、速さ4の魔法回数3。ルーナ、速さ3の魔法回数4。ジャック、足の速さ2の魔法回数5。ベル、速さ1の魔法回数6。
*
「では!ギリシャ対北欧!開始!」
ラグビーボールは、球体とは異なる形をしたボールだ。だからこそ、最初のバウンドでどちらのチームコートに行くかは予想は付かない。
先攻は北欧側で、ドロップキックしたボールを最初に手にしたのは、北欧の生徒だ。
「捕まえろ!」
「何だあれ?名前と能力値?」
ボールを手にした者の頭の上に、名前と能力値が表示されていることに本人以外の誰もが気が付いた。
ボールを手にした北欧の生徒の頭上には、イアン(速さ6の魔法無制限)と書かれている。
「行けイアン!」
「まずい!奴は魔法無制限のカードで一番の速さを誇る!セーレ!アウトリュウス!急げ!」
「「言われなくとも」」
ルーナが焦ったように声を発したとほぼ同時に、セーレとアウトリュウスが動いた。セーレは、双眼鏡を取り出して北欧の生徒――イアンの目の前へ転移し、アウトリュウスは馬ですぐに追い掛ける。
「転移持ち、そして背後からは馬持ちか」
イアンはそう呟き、神経を痙攣させて体から微かな光を放った。
「身体強化魔法」
イアンの右腕が一瞬大きくなり、セーレを一撃で雪の中へ埋めた。雪に埋まったセーレは、眠そうにしたままくしゃみをして、ブルブル震えてその場にわざとらしく撃沈する。
「おい!何やってだあいつ!?やる気あんのか!」
「黙ってろよ偏屈神様……俺ちゃんが何とかする」
苛立つカーマに対して鬱陶しそうにするアウトリュウスは、馬を駆使してイアンとの距離を縮める。
アウトリュウスの速さは5だが、馬は乗り手の速さを2倍にしてくれる。つまり、アウトリュウスの速さは10で、圧倒的にイアンに追い付ける。
「更に分が悪いことに、ここは雪の上。馬を持つ俺ちゃんに勝てないよなぁ」
「身体強化魔法……足」
だが、イアンの足が魔法によって強化されたことで、いまいちアウトリュウスとイアンの距離は縮まらない。
「やばいじゃねぇか。このままじゃ奴の方が早くゴールに着く」
「少しくらいは、援護できるかもな」
ルーナ達とアウトリュウスの距離は、かなり離れている。それでも、ルーナは雪を拾い、握った雪玉を奥のイアン目掛けて投げた。雪玉はイアンの背を強く押すが、軽く転けそうになっただけだ。
「なるほど。雪玉ね〜?俺ちゃんも雪玉を投げる」
それを見て、馬に乗ったままアウトリュウスが雪玉を投げる。その雪玉は、魔力を纏ってパワーもスピードも強化されている。当たれば、そこそこのダメージにはなりそうだ。
「がはっ!?」
雪玉はイアンの背に命中。だが、その背中は傷が付いておらず、硬くて甲羅のような皮膚で覆われていた。
「なんてな。身体強化魔法……背」
「その笑み、奪ってやるよ」
イアンがニヤッと笑い、勝ち誇ったのも束の間。イアンの上には、巨大な影が現れる。慌てて振り返ると、上空から馬が降って来ていた。
「なっ!?馬を投げたのか!?」
間一髪馬を避けるイアンだが、肝心なアウトリュウスを見失う。周りを見渡しても、ぬらりくらりとしてる不気味な男の姿がない。
「……ッ?」
イアンがふと馬を見たその時、馬の口から魔の手が伸びた。死人のような色白い手がイアンの首を掴み、その場で強く持ち上げる。
「がはっ!?」
「……」
アウトリュウスは何か言う訳でもなく、ただただ澄んだ目でイアンを見上げている。そこに、思考があるように見えないのが、狂気的で気味が悪い。
「良くやったアウトリュウス!ボール持って戻って来い!」
「はーい」
さっきとは打って変わって、カーマの言うことを素直に聞くアウトリュウスは、イアンを蹴り飛ばしてボールを持って敵陣地に馬を走らせる。
だが、すぐ近くに北欧の生徒達が通せんぼしており、簡単には通れなそうだ。
「足止めはこっちがやる!セーレに渡せ!」
「セーレ!俺ちゃんの愛だよ!」
アウトリュウスは、雪に埋もれるセーレに向けてボールを投げる。セーレは震えながら雪上に上がり、慌ててボールをキャッチする。
「あー!重い!重いよ!アウトリュウスの愛が重すぎる!」
セーレはわざとらしくボールを重たそうに持ち、その場でふらつきながらアウトリュウスの方をチラチラと見る。
「アヒャアヒャ!俺ちゃんの愛を抱いて走れ!」
「このバカ共!何やってんだ!早くゴールに行け!敵が来てる!」
「アイ.モーメント」
セーレは一瞬、怒鳴るカーマを嫌そうに見て、迫って来た敵の頭を踏み、スナイパーのように空中で望遠鏡を覗き込んだ。瞬間、セーレは敵チームのゴール前に転移し、ボールを線の奥へと押し付けた。
「ギリシャチーム!一点!」
「よし!」
「ジャック、私達何もやることなさそうだね」
「う、うん……まだ分からないけど」
ギリシャチームは、ほとんどが素直に喜んだが、ルーナだけは少し拍子抜けといった様子だ。あっさり最初の一点を取れたことで、身構えていた力が抜けるようだった。
*
まだ試合開始から10分程しか経っていない。
北欧の生徒は、自分のゴール手前からボールを蹴り飛ばし、遠くへと飛ばす。それを仲間の生徒がしっかりとキャッチする。
「あのセーレとかいう奴がヤバすぎる。逆に言うなら、奴さえ封じ込めればこの試合で勝つのは難しくない」
北欧チームは、皆セーレにボールを持っていかれることを警戒している。それでも、必要以上に焦らず、ギリシャチームを退けようと走り続ける。
「来るぞ!守れ!」
ボールを持ったふんどし姿の生徒――ロイースは、頭の上に速さ1、魔法回数6と書かれている。速さが遅いこともあり、ギリシャチームは他の生徒達に警戒している。
「奴は遅い!しかもふんどし変態野郎だ!抑えろジャック!」
「言われなくともやるさ」
ジャック以外、他の生徒をマークしている為、必然的にロイースに近いジャックが動くこととなる。
雪を蹴ったジャックは、一瞬目を閉じたロイースからボールを奪った。
「良くやった!」
「よく奪ったな……これもくれてやるぞ」
しかし、ロイースが放った魔法がジャックとボールを引き離し、遠くへと吹き飛ばした。
「シーマス!」
「カーマ!」
ボールは、サングラスを掛けた北欧の生徒――シーマスとカーマの元へと落下してくる。シーマスの方が近いが、カーマはボールを無視し、ゴールの方へと走って行く。
「「はっ!?」」
「何やってるのカーマ!ルール理解してんの!?」
敵も味方も、カーマの理解不能の行動に表情を変えた。近くに居たベルは、仕方なくボールの元へと走って行く。だが、少し諦めている表情で、カーマの方をチラチラと見ている。
「バカな奴!このシーマスがボール貰い受ける!」
「……」
シーマスがボールの下で構えているが、肝心なボールは落ちて来ない。不思議そうに空を見上げるシーマスとベルは、徐々にその異変の正体に気付く。
「雲……か?上が雪を降らせる雲だから、背景に溶け込んで良く見えなかったが……雲、だな」
「なんだ……既にキャッチしていたの」
ボールは小さな雲に包まれており、宙にぷかぷかと浮いている。そして、雲は手の形になり、カーマの方へと強く投げられた。
「敵を欺くには味方からと言うが、同時に欺くのが一流なのよ」
足が埋もれる雪を強く踏み、高くジャンプしたカーマがボールをキャッチした。カーマは今一番ゴールに近く、二番目に近いイアンからも相当離れている。
「流石、偏屈神様カーマ様は口だけじゃないな」
「二点目もゲットだよ!」
ルーナとベルが喜ぶ。その横で、ジャックは諦めていないイアンとその殺気に気が付いていた。




