第6話【神の試験】後編
岩の柱に埋まってるジャックは、朦朧とする意識の中カードの数字が減り続けていることを確認する。数字は残り26で、魔力も残り少ない。かといって、動けば更に早くカードの数字が減る。
「あっ」
気球が目の前を通り過ぎるも、すぐに風に煽られ離れて行ってまう。しかし、それを逃さまいと、イヤーカフに化けていたポム吉を投げる。
「コース.レゼン」
ポム吉が気球の中に入ったことで、ジャックも転移で気球の中へと逃げることが出来た。
そして、すぐに横になり、その場で傷を治癒魔法で手当する。
「あんな攻撃に気付かないとは、一年のプランクはかなりでかいな」
「どうするジャック?セーレが乗ってる気球は幻獣のいる方だよ」
ポム吉がイヤーカフから元の姿へと化けた。ジャックは、自分の埋まっていた岩の柱をチラッと見て、再びセーレの乗る気球の方を見た。
「ドラゴンになれるか?」
「なれるけど、気球から出たらカードの残り少ない数字が減るんじゃない?魔力も今の転移と治癒で5しかない」
「気球から出なければいい」
ポム吉は、不思議そうにきょとんとした表情を見せたが、すぐにピンッときて気球の下へと回り込む。
すると、ジャックの乗る気球が飛行機のように素早く動き、幻獣の居る方へと空を移動した。
よく見れば、白いドラゴンが気球を背負っている。
「これで奴の攻撃も避けれるし、上手く誘導出来る」
「あらっ?ジャック生きてたの」
物凄い勢いで飛ぶ気球を見て、セーレがひょこっと気球から顔を出す。ジャックもそれに気付き、幻獣の背後へ回り込んだ。
「こっちは魔力切れだ!残り一発しか魔法を使えないし、数字も残り少ない!」
「何か作戦あるの?」
「ある!セーレはその位置で着いてきてくれ!いつでもテレポーテーションを使えるように!それと弓矢をこっちに!」
「了解」
セーレの居る場所は、幻獣の腹の下で、幻獣からは死角になって見えていない。ジャックはセーレから受け取った弓矢を使い、幻獣の傷口に矢を放つ。
幻獣の怒りを買ったジャックは、矢を放ったままゆっくりと場所を移動する。そして、とうとう幻獣が足をグラつかせた。
「ここだ!」
ジャックは気球から身を乗り出し、剣を傷口に向けて振るう。だが、剣は傷口からズレた岩の皮膚に当たり、後方へと弾き飛んだ。
「あーあ、ジャックのバカ。作戦失敗」
セーレが気球の中でガックリする中、ジャックはニヤッと笑って見せた。
「誘導作戦、成功」
吹き飛ばされた剣は、先程ジャックが埋まっていた岩の柱に突き刺さる。そして、その剣は爆破を起こし、崩れかけていた岩の柱が転倒した。
「あの柱は俺がぶつかったことで不安定になった。だがら爆破一発で崩れることは見て分かる。そしてこの位置は!」
岩の柱は、先端がちょうど幻獣の傷口に刺さる位置で倒れた。深く抉られた足は折れ曲がり、幻獣はそのまま転倒する。
「今だ!」
「テレポーテーション!」
セーレの魔法によって、目の前から幻獣の姿が消える。そして、当たり一体が大きな影と妙な音で包まれた。
「セーレこっち!」
「アイ.モーメント」
セーレがジャックの元へ転移したと同時に、天空から幻獣が落下した。幻獣は背中から奈落へと落下し、体の岩がバラバラに粉砕する程激しく損傷する。
「やった……のか?」
しばらく幻獣を見下ろす二人。だが、セーレが目の前の異変に気付き、すぐに薄い笑みを浮かべた。
「見て」
「ん?」
目の前には、背景に溶け込んだ扉が現れ、それはゆっくりと開かれる。そのギラギラと光る扉の出現と共に、ジャックとセーレが持っていたカードは消滅した。
「行こうか」
「うん」
*
扉の奥に進むと、小さな空間で四人の子供――ルーナ、カーマ、アウトリュウス、ベルがその場に座って何かを待っていた。
「二人共、お疲れ」
ルーナがそう言う中、セーレはゆっくりと歩いてアウトリュウスの隣に座り込んだ。
「無事で良かったよ」
「アウトリュウスもね」
セーレとアウトリュウは、安心したかのように微笑んで、猫のように頬を擦り合わせた。それを横目で見るカーマは、とても不快そうだ。
「何か待ってるの?」
「待っている」
「何?」
「何かを……待っている」
「まだ何も分からないってこと?」
「そう。じたばたしないで座って待とうぜ」
状況を理解したジャックは、ベルやルーナの周りをチラッと見て、少し迷ってからその場に座った。
「お腹空いた……ジャック食べようかな」
「意味わからない」
ベルを初めとし、皆ぐったり疲れている様子だ。誰も楽しそうな顔をせず、下を見て目を閉じる者がほとんどだ。
しかし、そんな時間が数分続き、やっと状況が変わる。
周りが明るくなり、ジャック達を囲っていた部屋の壁が背景に溶け込むように消えた。
「何だ?」
「競技場?いや……ラグビー場か?」
目の前に現れた世界は、闘技場のような雰囲気を放つラグビー場だった。それも、足場は真っ白な雪で、夜の中灯りが着けられている。奇妙な雰囲気なラグビー場に、誰もが困惑していた。
「向こうにも誰か居るよ」
向こう側のコートにも、ジャック達と同じような六人の子供が立っている。向こう側の六人も、ジャック達同様困惑している様子だ。
すると、光り輝く小さな妖精が中央から現れた。
「皆注目〜!これから最終試験始めるよ〜!」
妖精は、絵本に出て来るような可愛らしい姿で、小さなマイクを持って元気よくジャック達の気を引いた。
「最終試験?」
「最終試験!ギリシャ神話の一年生対北欧神話の一年生!勝者は合格!敗者は不合格!対決してもらう競技はラグビー!皆楽しんでね〜!」
妖精がそう言ったことで、周りの一年生はここら一体がラグビー場になってることに理解と納得をする。同時に、向こう側に居る子供が敵だと認識した。
「普通のラグビーと少し違うからルール説明をするよ!時間は通常通り前半40分後半40分の合計80分!キックと空を飛ぶのはなしで、魔法は制限ありで、引き分けの場合は延長!相手を殺さなければ度が過ぎた暴力もあり!そしてここからが特別ルール!」
「特別ルール?」
すると、両チームの元に六枚のカードと画面が浮き出る魔道具が現れる。
「皆にはチームの中で足の速さカードを決めてもらうよ!時間を10分あげるから決めてらっしゃい!」
ルーナは、魔道具に触って足の速さが何なのかを確認した。そして、配られたカード二枚を見て理解する。
「足の速さは1から6。つまり、この六人の中で足の速さがハッキリするんだ。そしてこのカード」
二枚のカードを皆に見えるように投げ広げる。そのカードは、簡単な説明とイラストが書いてある。
「なーにこれ?俺ちゃん全然理解できない」
「よし、頭の弱いアウトリュウスの為に一つ一つ説明するぞ。カードは二枚、馬のカードと魔法無制限のカード。まず一枚目、馬のイラストが書いてあるこのカード。これは好きな時に馬を召喚出来るという能力があるカード。馬は乗り手の足の速さの二倍で走る」
「おお!速さ6の人が持ったら逃げ切れるじゃん!」
「そうだな。そしてもう一枚、これは魔法を無制限に放っていいカード。魔法制限のこの試合、どう考えてもキーパーソンだろ」
ルーナはそう言って、一旦カード二枚をその場に置いた。そして、魔道具の方に手を付け、それをまじまじと見る。
「魔法制限ありってのは……こういうことか」
「どういうこと?」
ルーナの独り言に、ベルが食い気味で反応した。
「足の速さが遅ければ遅い程、魔法を放てる数が多い。速さ6は前半後半一回づつ。逆に、速さ1は前半後半六回づつ」
「ムホホっ!面白い。で?どうする?」
「取り敢えず、今回のキーパーソンを決めてしまおう。魔法無制限のカードを持つ者を」
ルーナがそう言うと、皆互いを見て困ったようにそっぽ向く。だが、すぐにカーマが口を開いた。
「お前らは無能に近い。だから俺が持ちたいところだが……このラグビーに有利になる魔法を持っている者が持つべきだ。さっきの試験で見たが、アウトリュウスの魔法なら策略の幅も広がる」
「俺ちゃんやだ。キーパーソン」
それを横目で見たアウトリュウスが、面倒くさそうにセーレに隠れるように身を縮める。
「あっ。それならセーレに持たせるのはどう?」
考え込んでたジャックが、何か閃いたようだ。
「何でセーレ?」
「セーレは転移のスペシャリストで、人や物を移動させるテレポーテーションがある。つまりこのゲーム、セーレがボールを持った時点で点が入る」
「何それ!?ボール持った時点で勝ち確定!?み、みたいな?」
これには、ベルを初めとした全員が顔色を変えた。セーレは困ったように顔をひきつり、とても嫌そうな目でジャックを睨む。
「な、何?」
「余計なこと言いおって」
「……」
セーレに睨まれたジャックは、一瞬後ろめたい気持ちになったが、すぐにニっと笑みを返してやった。
「それだ!転移のスペシャリストってことは、アイ.モーメントは使えるか?」
「うん」
「ボールを持ったままゴール前に転移し、後はその場でボールを地につける。テレポーテーションってのも、アイ.モーメントさえあれば何とかかなる。神で天使の使うアイ.モーメントを使う奴はそうそう居ない。そんな都合よく相手が同じ転移を持ってるとは思えない」
「じゃあ、魔法無制限のカードはセーレで決まりだな」
魔法無制限のカードがセーレに渡されると、アウトリュウスが馬のカードをゆっくりと手にした。
「セーレを守る騎士は俺ちゃんがやる。文句あるかい?」
「俺はない」
「好きにしな」
セーレがキーパーソンになったことで、相棒のアウトリュウスもやる気を出したようだ。
「よし、残りは足の速さや魔法回数を決めるぞ」
魔法無制限カード、セーレ。馬召喚カード、アウトリュウス。
試合開始まで、残り5分。




