第5話【神の試験】中編
ジャックとセーレは、天空のような空間で立ち止まっていた。空中を飛んだまま、減っていくカードの数字に焦りを抱いてる。
「取り敢えず、この数字を止める方法を考えよう。出口があるのか分からないのに、このまま飛行を続けるのは危険だ」
「それだけど、もしかしたらあの気球かも」
「気球?」
周りには、複数の気球が散らばっいる。その無人の気球は、しなやかに空を移動してて、その一つがジャックとセーレの近くに寄ってきている。
「無意味にあるとは思えない」
「分かった。乗ってみよう」
二人は、数字が急激に減らないようにゆっくりと動き、慎重に気球に乗り込む。
「お!」
どうやら当たりだったらしい。減っていた数字がピタリと止まった。
「そういうことか。数字が減る理由は飛行をしていたからだ。空中はこの気球を使って移動するんだ」
「なっ、何か書いてる」
気球に乗ると、目の前にハンドルがあり、そのすぐ近くにメッセージが残されていた。
「奴を……倒せ?」
「奴?俺達以外に誰か居るってことか?」
二人は顔を合わせ、慌てて周りを見渡す。だが、あるのは複数の気球と空を飛ぶ無害な幻獣、それと無数に並ぶ柱のような大きな岩だけ。
「まさかあの生き物のことじゃないよな?」
「殺せば分かるよ」
セーレは何の躊躇もなく幻獣の一匹に弓を引き、矢を放つ。幻獣は急所を突かれ、魔力を失って奈落へと落下した。
「違うんじゃない。何匹も居るし、そんな単純作業をやらせるとは思えないよ」
「セーレもそう思ったとこ」
二人は、諦めてその場に座り込む。
「一旦休憩……セーレ疲れた」
「俺も」
しばらく気球が進んだ時のこと。気球が柱のような岩にぶつかりそうになる。それに気付いたジャックが、間一髪でハンドルを握って岩を避ける。気球は岩を掠れるが、無事に奥へと進んで行く。
「おおっ、ナイスだよ」
「マジ焦った。一応見張っとこう」
ジャックがハンドルを握って方向を変える中、セーレは何の気もなしに掠った岩を眺める。すると、その岩の一部から巨大な目玉がギョロっと現れ、セーレをじっーと見つめた。
「あージャック……やっ、奴って誰か分かったかも」
セーレは悟ったように小声になり、目を一切そらさず震えた声を出す。
「一体誰?」
景色に見とれてるジャックは、背を向けたままだ。
「……」
「セーレ?」
返答がないことに疑問を持ち、とうとうジャックがセーレの方を振り向く。すると、岩から飛び出てる両目がパッチリと開いた光景があり、セーレが蛇に睨まれた蛙の状態だった。
「奴って……こいつか……」
「方向転換!はや――」
慌てて方向転換しようとする二人だが、巨大な岩がゆっくりと動いたことで、気球が煽られ激しく吹き飛んだ。
「セーレ!」
その衝撃で吹き飛んだセーレだったが、間一髪ジャックが手を掴み、気球へと引き戻す。その時のセーレは、掴まれた手を指で擦り合わせるような仕草を見せ、ジャックの視線に気付いてその仕草を止めた。
「もしかして……嫌だった?その、触られるのが嫌とか……」
自分が大人の男を苦手としているから、ジャックはセーレの仕草に敏感だった。もしかしたら、セーレもジャック同様に苦手としているトラウマ的なものがあるのではないかと。
「いや……咄嗟に助けてくれて、感心してただけだよ」
「そう。ならいいんだ」
「それより、あれ」
セーレは、ゆっくりとジャックの背後を指差す。そこには、巨大な岩の幻獣の姿があった。谷底奥深くに足が着いており、幻獣にとって気球がボール程度の大きさでしかない。牛のような角、ライオンのような下牙、長い手足に体を覆う鱗。ゴツゴツとした岩の体と大きすぎる面積を見て、ジャックとセーレは呆然としている。
「もし奴というのがこの幻獣なら、倒せないんじゃない?恐らく、セーレ達は購入した魔力の中で戦わないといけない。それに、気球から出ればカードの数が減る。奴を倒す程の大技、何発も打てるとは思えない」
「戦ってから言おうよ、そういうのはさ。まだあの幻獣もこっちに敵意を向けてない。布団から起きて寒がってる子供のようにも見える。ここは作戦を立てよう」
ジャックが冷静にそう言うと、セーレはその場に座り込んでチラッとジャックを見た。
「どんな作戦?セーレあんま知恵者じゃないから、ジャック考えてよ」
「俺の使える魔法は水、光、闇、それとその他基本的な魔法が複数使える。セーレは何が出来る?」
「植物魔法。花とか樹木を操って戦ったり。あと、得意なのは転移魔法。転移魔法ならコース.レゼン、アイ.モーメント、ワープ.レイメル、全部使える」
「すっ、凄い……神、天使、悪魔が使う転移魔法を全部使えるの?」
「うん。セーレ転移に力入れ過ぎて、ジャックみたいに派手な魔法は出せない。あ、あとテレポーテーション。セーレが望遠鏡で見てる場所に物や人を送り込む魔法。攻撃はあんま期待しないで」
「分かった。少し作戦を考えさせて」
ジャックはそう言い、気球の中に身を隠した状態で考え込む。セーレも慌てる態度を一切見せず、目を閉じてじーっと待つ。
「その、テレポーテーション?それであの幻獣を転移させることは出来る?」
ふと何か思い付いたかのように、ジャックはセーレに確認する。
「幻獣に触れることが出来たなら……」
「なら出来る」
「言って」
「セーレにはテレポーテーションであの幻獣を出来るだけ高い場所に転移させて欲しい。そうすれば、高い場所から落下してあの硬い体が砕けると思うんだ」
「いい考えだけど、あの幻獣はデカすぎる。望遠鏡で覗いた場所から転移させても、両手両足砕ける程度で、致命傷にはならないと思うよ」
セーレが作戦の指摘をすると、ジャックは待っていたかのようにニッと笑った。
「だから体勢を変える」
「どうやって?」
「転移する前にワイヤーで足を引っかけ、横に転倒させる。そうすれば、転移した時の姿勢も横向き……上手く行けば背中から落ちる」
「無理じゃない?あの大きな図体が見えないの?英雄ジャック様でも、流石にそんなパワーと技術はないですよね?」
セーレはクスッと笑い、ジャックを揶揄うようにニッと笑い返す。だが、ジャックは気球の外を見て、柱のように奥に並んでる岩に目を向ける。
「あの岩の柱と柱の間にワイヤーを張っとく。森で兎を捕まえる罠のようにピンッと張っとく。奴がそこを通るように誘導するんだ」
「あぁ、それなら納得。つまり幻獣は前方に転倒するってことね?」
「そう。完璧だろ?」
ジャックは自分の作戦に惚れ惚れし、ドヤ顔をして見せる。しかし、セーレが目を細めて心配そうにジャックを見た。
「ワイヤーは?持ってるの?」
「持ってなければこんな作戦――」
ジャックはそう言い、魔法陣から物を取り出そうとする。しかし、魔法陣の中には何もなく、あるのは見たことのない剣の神器が一本。
「あれ?魔漂線がない!?天之月も!?それに何だこの弱そうな神器!」
「持参の神器がありなら、最初の自販機での神器購入が意味ないでしょ。ジャックって賢くてクールだと思ってたけど、普通にバカなんだね」
「分かってたの!?何で言ってくれなかったの!?」
「えー、セーレ悪いの?」
さっきまで冷静だったジャックだが、作戦が狂ったことで取り乱し、その場でうろちょろして頭を抱えた。
「もういいよジャック。自力で足を崩そうよ。足一本崩せば体勢を崩す。難易度も大して変わらない」
「何か……ごめん」
「ごめん?それもう一回聞きたいな」
「……ごめんなさい」
「もういっちょ。景気良く言ってみて」
「ごめんなさい!」
「もう一声!」
「ごめんなさい!!」
「はい!もういっちょ!」
セーレは薄い笑顔を見せたまま、しゅんっと落ち込んだジャックを遊び倒す。
「遊ぶな」
「ごっ、ごめんなしゃい……」
だが、痺れを切らしたジャックに顔を掴まれた。
*
岩の幻獣は、目がバッチリ覚めたようだ。ゆっくりと動き、空中を泳ぐように進む生物と戯れている。
ジャックとセーレは、そんな中気配を殺しながら気球で静かに近付く。
「背後を取ったけど、これ以上近付いたら見つかるんじゃない?」
「この位置で下がろう。足元に近付くよ」
気球がその場でゆっくりと降下し、ジャックとセーレを幻獣の足元まで運ぶ。しかし、逞しくて太い足を見て、二人はお互いに目を合わせた。
「どうやって崩す?」
「切り落とすつもりだったけど……今ある力でこの鉄のような壁を切り落とすイメージが湧かない」
「どうする?」
「同時に攻撃しよう。ありったけをこいつにぶつけるんだ」
「了解」
二人は、ありったけを幻獣にぶつけた。セーレは手から放った植物魔法の片鱗を、ジャックは水の刃と光の光線を放つ。
「ウウウオオオオオォン!!」
すると、幻獣が低音で鳴り響く咆哮を上げ、足を激しく動かした。肝心な攻撃した足は、皮膚が捲れて中の赤みが見えるが、致命傷や決定打にはならない。
「烈!」
だが、追い打ちを掛けるように足に連続した爆破が怒る。その爆破は、一瞬幻獣をよろめかせる程だった。
「チャンス!」
ジャックはそう言って事を急いだ。気球から身を乗り出し、持っていた剣を振るう。肉が深く切れるが、足の面積や太さを考えると、致命傷にはならない。人間でいう、カッターで軽く切れた程度の深さだ。それでも、血が流れる程のダメージとなった。
「まだだ!」
更に、ジャック手を幻獣の傷口に入れた。そして、すぐに内部からの爆破が起き、足の傷が更に抉れる。
「ヴヴヴオオオオォンン!!」
幻獣が悲鳴を上げ、ジャックは更に爆破を起こす。セーレも植物魔法で援護をする。
「やっぱ切断しないとダメだ!致命傷を与える程度では体勢が崩れない!」
「ジャック危ない!右!」
「ッ!?」
ジャックは、右方向から来た幻獣の尻尾に気付かなかった。幻獣の尻尾は、体同様岩になっており、ジャックを奥の岩の柱まで吹き飛ばした。
「あら……凄い吹っ飛んだ」
セーレは先程と打って変わって、望遠鏡で岩に埋まるジャックを眺める。ピクリとも動かないジャックを見て、一切慌てずに深くため息をついている。
「あれは……死んだかも」
セーレが諦めて気球を幻獣から離す中、ジャックは微かに目を開けた。ジャックが見たのは、カードの数字と、その下のゲージのような物だった。そのゲージは半分以上なくなっており、もう四分の一程度だ。それが、残りの魔力量だということは、すぐに分かった。
(はやく気球に戻らないと……)
今現在、セーレの数字350、魔力残り65/100。ジャックの数字50、魔力残り30/100。




