第3話【学園生活の始まり】
ジャック含めた新入生は、担当の先生リベによって校内を案内されていた。
「右隣は六歳から十二歳の子供が集まる中等部、その隣は赤子から六歳までの子供が集まる小等部、ここは十二歳から十八歳までの子供が集まる高等部。他の学園に行くのは基本禁止です」
学園は入口から見て、右から小等部、中等部、高等部と別れており、その全てが繋がっている。更に、学園の中でも過ごす階が決まってる。
「貴方達一年生は基本一階しか行っちゃダメ。二階以上に行けるのは上級生との合同授業くらいです。試験が終えたら、すぐに班のメンバーと顔を合わせてもらいますから」
一階だけと言っても、その広さは尋常じゃない。体育館や広場、室内にある畑や庭、図書館やトレーニングルーム、プールやスケート場、研究室や食堂、何でもある。魔法の力で、この学園の面積に合わない部屋も創れているのだ。
「班のメンバー?」
ジャックが隣のルーナに問いかける。
「学園では班が決められてて、一週間に丸一日班との授業があるんだ」
「何するの?」
「それは自分達で決めれる。班で何か新たな魔法や魔道具を制作したり、学園や神界での問題に向き合ったり、自分達の能力向上に当てたりな」
「サボり放題じゃない?」
「実際そうだ。けど、班授業で得た物は評価に繋がる。だからサボった分損する」
ジャック達が教室に戻ったのは、五時間後だった。それくらい、この学園は広くたくさんの設備が整っている。
*
「皆気を付けて帰るのですよ。遅刻厳禁だからね」
帰りの時間は午後三時半。リベは、朝同様気の抜けた状態で教室を去って行った。
「終わった!初日早々疲れたよ〜」
リベが教室を出た瞬間、ジャックの目の前の席でベルが両手両足を伸ばして楽な姿勢を取った。部屋は朝と同じような部屋に戻り、ベルの目の前に食べ物がずらりと並んだ。
「確かに疲れた。セーレ、そこのベットまで運んでくれ。帰る前にちょっと休もう」
「すぐ帰れるよ。寮で寝た方が早くない?」
「おぶってくれる?」
「いいよ」
アウリュウスはセーレに背負われ、いち早く教室を出て行く。それを見て、カーマもゆっくりと立ち上がって教室を出た。
「俺も帰る。二人共また明日な」
「ばいばーい!」
「また明日」
ルーナも教室を出て行き、ジャックも少し遅れて教室を出ようとする。
「英雄ジャック」
だが、ベルが引き止めるかのように名を呼んだ。
「ッ……な、何?」
「魔神アイムの話聞かせてよ。私ジャックを見た時から昔話聞きたいな〜って思っての」
ベルが聞いてきたのは、一年前に死亡したアイムの事だった。ジャックはそれが少し引っ掛かり、不思議そうに首を傾げた。
「何でアイムの話が聞きたいの?」
「別にアイムじゃなくてもいいよ。幻の神デモ.ゴルゴンとか時の支配者クロノスとか、希石団団長マモンとか。見たんでしょ?戦ったんでしょ?」
「クロノスは見てないけど、話してもいいよ」
「いいね!さっ、座った座った」
ベルは嬉しそうに笑い、ジャックを目の前の席に座らせ、机の上のジュースを注いで上げる。仕舞いには、ジャックの好物であるクレープの盛り合わせを目の前に差し出す。
「ゆっくりしようや」
「……まぁ、ちょっとなら」
ジャックはクレープに目を奪われ、少し照れを隠すように下を向いた。
「じゃあ〜、まず時の支配者クロノスについて聞きたいな〜」
「クロノスは見てないって」
*
ジャックとベルが寮に戻ったのは三時間後だった。話が盛り上がったおかげで、帰る時間が遅くなったのだ。
「じゃあまた明日〜」
「ばいばい」
ジャックは、帰ってすぐメタトロンが居ることを確認した。奴隷契約があっても、居るか居ないか目で見ないと不安なのだ。
「なっ、何してる?」
メタトロンの様子がおかしかった。薄暗くて良く見えないが、座った状態で何か音を出している。床に何かポタポタと垂れているようにも見える。
「おい!何してんだ!?」
ジャックは慌てて部屋の明かりを付ける。
「ッ!?お前……」
ジャックはゾッとする。メタトロンは、ひもじさの余り、自分の指を食いちぎって食べていたのだ。
「神や天使は食事を取らなくても問題ないんじゃないのか!?何で指食ってんだ!?」
「多分、メタトロンには食事をする週間が付いてて、食事その物を求めているからじゃないかな?」
元のサイズに戻ったポム吉が、プルプルと震えたままジャックに言う。
「ジャック?何か食べさせろ」
メタトロンはそう言って立ち上がり、窶れた体を揺らしてジャックへ近付く。
「分かった。分かったから」
「もう限界だ……食わせろ……食わせろぉ!!」
「おお!やめろ!バカっ!?」
ジャック反射的にメタトロンを避ける。メタトロンはそのまま突っ込んで行き。自分の血に滑って机の角に頭をぶつける。
「そうだ命じれば良かったんだ。咄嗟すぎて忘れてた」
「くっ……いててっ……」
メタトロンはゆっくりと顔を上げ、目を回したままジャックの方を見る。その回った目は、徐々に幽霊でも見ているかのようなまん丸い目に変わる。
「お前?嘘だろ……」
「は?」
メタトロンは、目を疑った様子でジャックの両頬を触る。ジャックは嫌がって手を振り解こうとするが、メタトロンはしつこく離さない。
「手をはな――」
「生きてたのか!サンダルフォン!!」
「「へ?」」
ジャックもポム吉も唖然としてしまった。メタトロンがジャックのことを見て、死んだ妹の名を呼んだからだ。
「何言ってる?良いから離れろ。命令だ!離れろ!」
それ所か、ジャックの命令がメタトロンに効かない。本来なら、メタトロンは首が絞まってしまうのがこの奴隷契約だが、その効果が全く発揮されていない。
「どういうこと?」
これには、ポム吉も困惑してる。
「にしても、体は俺が吸収してしまったはず。何かの魔法で体を作ったのか?それとも別の体か?どっちにせよ顔は前も同じ顔にしたんだな。またお前の顔を見れて安心したぜ」
メタトロンはそう言って涙を流し、ジャックを強く抱き締める。ジャックは、何が何だか分からないまま、困ったように表情を引きづった。
「命令だ……離れろ」
ジャックは、もう一度試すように命ずるが、やはり契約の効果が発揮されていない。
「良かったな」
「まさか、思い込み?今頭を打った衝撃で俺をサンダルフォンだと思い込んでるのか?その影響で命令も聞いていないのか?」
「どうした?妙に静かだな」
「うげぇ!?」
強く抱き締められたジャックは、余りの気持ち悪さと苦しさに吐きそうになる。
*
「だから!メタトロンに命令が効かないんだ!頭を打ったせいか、俺の事サンダルフォンだと思ってるし」
ジャックは外に出て、スサノオと緊急でテレパシーを交わしていた。
「あ〜、それダメだ。契約者を認識してないと命令は効かないんだ。前にもそういう事例があったから間違いない」
「一体どうすればいいんだよ!」
「メタトロンがそなたをサンダルフォンと思い込んでるなら、どうしようも出来ない。まぁ、安心しろ。こちらもメタトロンと契約して悪さ出来ぬよう命じてるから、問題になるようなことは起こせんだろう」
「そんな……」
ジャックは頭を悩ませたまま部屋に戻り、嬉しそうにご飯を食べるメタトロンに目を向けた。
「どうしたサンダルフォン?俺の作ったオムライス好きだったろ?」
「う……うん!!お兄ちゃんの作ったオムライス大好き!」
ジャックはプライドを捨てた。今この場で下手に自分がジャックだと理解させるより、妹を演じる方が安全だと踏んだからだ。これには、ポム吉も肩の上でニヤニヤと笑っている。
(何でこんな目に……。アマノの仇であるクズ野郎相手に、兄妹ごっこしないとならないなんて……屈辱だ)
ジャックは怒りを堪え、サンダルフォンを演じてオムライスの前に座る。
「サンダルフォン、どうやって生きてた?」
「ジャックの体を乗っ取ったんだ。だからちょっと小さいでしょ?顔は魔法で前と同じよう変えたけどね。そ、そんなことより、今は余り外に出歩いちゃダメだよ」
「なぜ?」
「私、お兄ちゃんが捕まってる一年間情報収集してたけど、お兄ちゃん今呪いに掛かってるの」
「やはりか……そんな気はしてた」
「多分悪さ出来なくなってる。私がどうにかして呪いを解くから、それまではこの部屋から出ないで。約束」
「悪いな。お前ばかり負担かけちまって」
「全然いいの。このサンダルフォンにお任せだぜ」
その日、ジャックは慣れない演技に疲れて10時間熟睡した。
*
一年生として入学し、一週間が経った。ジャック達はお迎えテストを受け、その結果が今日知らされる。
「じゃあテスト一位の生徒を発表します」
リベがそう言うと、カーマは自信満々に立ち上がり、用紙を貰いに行こうとする。
「フンっ」
「おお!流石偏屈神様!自信満々じゃねぇか」
「これで違ったら恥ずかしいよね」
ルーナやアウトリュウスが揶揄う中、リベはクスッと笑う。
「一位、ルーナ」
「はーい」
「なっ!?」
リベはカーマを見下ろし、清々しい表情で嘲笑う。
「カーマどうしたのぉ?勝手に席を立ったりして」
「バカな!?俺は自己採点1000点中996点だぞ!?んなバカな!?」
「ルーナは全教科満点でした。おめでとうルーナ」
リベは、カーマにデコピンし、態度を180°変えて穏やかな態度でルーナに用紙を返却した。
「安心しろカーマ。俺は仲良くするつもりあるぜ」
「こいつ……」
カーマは、恥ずかしそうにリベから用紙を奪い取り、自分の席へ戻った。
「流石ルーナですわ。何処かのクソガキとは違って中途半端な点を取らない」
「このクソ教師……天使の分際で図に乗りおって」
リベは、自己紹介での一件でカーマに当たりが強く、必要以上に揶揄う。ベルやセーレも、その鬱憤払いのつもりか、クスクスと笑っている。
「三位ベル、四位セーレ、取りに来て」
ベルとセーレが用紙を取って席に戻ると、リベは残り二つの用紙を見て困った表情を浮かべた。
「五位ジャック、六位アウトリュウス、二人共追試。ジャックは魔法化学と歴史と母語。アウトリュウスは音楽と芸術以外全部。二年生からは科目が増えるから、今の内一年生の分野を抑えとくように」
「「はい」」
ジャックはアウトリュウスを横目で見ながら、残念そうにため息をつく。
「アマノにたくさん教わったのに……情けない」
そんなジャックを見て、リベは切り替えるように深く瞬きをした。
「大丈夫ですよ。明日の試験で取り戻せばいい」
「試験?」
「入学試験。貴方達は正式にはまだ入学していない。正当な神となる為にはこの試験を通過しないとならないのです」




