第2話【新入生】
入学日。何もなかったジャックの部屋は、家具や物が設置されて問題なく住める状態になっていた。
「行くか」
事前に受け取った制服に着替え、荷物を背負って部屋を出る。その肩には、指輪サイズになったポム吉が乗っている。
「ッ……」
部屋を出た時、バッタリ廊下を渡る別の一年生に出会う。黒髪、銀の瞳、真っ白な肌、ピンクでプルンッとした唇、清潔感のある同い年の男の子だ。
「んっ?隣の一年生か」
「……」
男の子はジャックに目を向け、下から上までじっくりと見てニコッと笑った。
「今日からよろしくな」
「うん。よろしく」
ジャックは警戒しながら挨拶を返し、先にその子を行かせた。そして、行く場所が同じだからか、少し気まづくなって、少し遅れてから一階の階段を降りる。
*
一階の学園への扉を潜ると、見たこともないような絶景と都市かと思うくらい大きな学園があった。学園は建物が複雑に入り込んでいて、大きな平地をいくつか囲んでいる。見上げても全体が見えなく、ジャックからは全てを把握できない。
「どっ、どれが学園なんだ?入り口も見当たらないし」
学園だと言うのに、周りには多くの神や天使が居る。子供は勿論、大人の神もちらほら見える。
ジャックはどこへ進んでいいか分からくなり、その場で立ち止まって周りをキョロキョロと見渡す。
すると、背後から肩を叩かれ、声を掛けられた。
「こっち来な。学園の入口はこっちだ」
声を掛けてきたのは、先程廊下で出会った少年だった。ジャックが迷うことが分かっていたかのように、音もなく背後に立っていた。
「名前は?」
「ジャック」
「俺ルーナ。歩き方に違和感あるけど、足でも痛めてるのか?」
少年――ルーナは、初めて会ったにしてはジャックと距離が近い。見てすぐ分からない違和感にも気付き、銀色の目でジャックを覗き込むように見ている。
「いや。ずっと寝込んでて、歩くのに慣れてないだけ」
「何それ?もっとまともな嘘なかったのか?お前大英雄アマノの天だった人間だろ?英雄ジャック。噂では主を失ったショックで植物状態になったって聞いたぜ」
ルーナはクスッと笑い、全て見据えてると言わんばかりの表情を見せる。
「植物状態にはなってないよ。意識もあったし、風呂も入ってた。ただ歩いてなかっただけだ。一体誰から聞いた?」
「そりゃあ偉い神様達の噂を聞いたんだ。英雄って聞いてたから、もっと貫禄あると思ってたよ」
ジャックは少し嫌そうに目を細めるが、すぐに表情を戻してルーナを横目で見た。
「親切に道案内してくれて有難いんだけどさ、時間間に合わないんじゃない?俺の時計が壊れてなければ」
「あぁ、間に合わないよ。遅刻だ。お前が迷ってたし、俺達は出るのが遅かった。学園は広いからな」
「お前が余裕な顔で廊下通ったから、5分前でも間に合うと思った。何か騙された気分だ」
「ほら、次からは床にある赤い矢印を辿ってけ。入口までの道標だ」
二人が学園の門を潜ったその時、学園のチャイムが鳴り響く。ジャックは悟ったようにため息をつき、諦めた様子で歩くペースを落とした。
*
ジャックとルーナが教室の扉の前で突っ立ている。5分遅刻が確定している今、二人は覚悟が出来ている。
「な?何だこの教室?」
ジャックは教室に入って呆然とした。それは、ジャックが思っていた教室とは大きく異なっていたからだ。
そこは大きめの部屋になっており、机や椅子、ベッドや本棚、テレビやゲームなどが散らばっていて、子供部屋のようになっている。それも一階じゃなく、小部屋の二階へ繋がる階段も見える。まるで小さな小さなお城だ。
「ここで合ってるの?」
「合ってる。証拠に生徒が居るだろ」
教室内の生徒は、ジャックとルーナを覗いて四人居る。一人はジャックくらい小柄な女の子で、机の上で肉やパンを頬張っている。もう一人は、静かにハンモックに寝っ転がり、本を読んでいる。
「ちょっと……」
「良いじゃんか……エッチしようよ。俺ちゃんムラムラしてんの」
もう二人は、布団の中で半裸の状態で眠そうにしたままじゃれ合っている。
「先生は?」
「「……」」
ルーナが声を張って問いかけるも、誰も反応しない。皆自分のことに気が回っている。
「おい、先生は来てないのか?もう時間すぎてるのにまだ部屋変わってないぞ」
ルーナは一番話が通じそうなハンモックに寝っ転がってる少年に聞くことにする。
「あ?あぁ、言われてみればそうだ。先生が来ないと部屋は変わらないっしょ。それまで自由に過ごせばいいんだよ。先生が遅刻してんだ。お前ら怒られないよ」
「そうか」
ルーナは軽くため息を着き、ジャックに目線を送って椅子に座る。二人の目の前には、ずっと食べ続ける少女が居るが、ジャック達に気付いていない。
「神様って皆こんな非常識なのか?」
「まぁ、基本傲慢な奴ばかりだけど、ここまで酷いのはあんま見ないな」
二人が椅子に座ってすぐ、教室の扉がゆっくりと開かれた。
「……」
扉から姿を現したのは、神ではなく天使だった。色が抜け落ちたような白髪、どんよりとした赤目、髪はリボンで結んでおり、頬や首には湿布が貼っている。見るからに負のオーラが出て、死んだ目で生徒達の前を通って行く。
「遅刻した人、居ます?」
「居ません」
ルーナが隠すように即答すると、天使は困ったように歪な笑みを浮かべる。
「へっ、なら遅刻者は先生だけか。皆優しくて偉いね……こんな先生を許してくれるなんて。流石神様」
天使――先生は、そう言って教室中をスカートを引きずって歩き、一人一人生徒の顔を確認する。
「何で半裸なのですか?」
先生は、ベッドに居る二人の前で足を止める。半裸の二人を見て、純粋に不思議そうにしてる。
「さぁ……何ででしょう……セーレもよく分からない」
一人は、無表情で服を着て誤魔化すが、もう一人はマイペースに服を着て、先生を下から上まで舐めるように見る。
「逆に何で服着てんの?」
「君にとって服着てるのはおかしなことなのですね?ならいいわよ。アウリュウス、今日一日服を脱いで過ごしてもらいます」
「えー?何で?なら先生も脱がないと――」
「いいから脱げ」
先生はヘラヘラとした態度と一変し、少年――アウリュウスの顔を掴んだ。アウリュウスは面倒くさそうにし、隣の少女に服を脱がさせてもらう。
アウリュウスは下着状態になってすぐ、自ら最後の一枚も脱ぎ捨てた。
「脱いだ!」
「アヒャヒャ!!本当に脱いだ!はしたない子供!」
先生は再び態度を一変させ、腹を抱えてでアウリュウスを嘲笑う。
「あいつ……情緒不安定過ぎだな」
「あれで先生やっていいの?」
「ダメだろ」
ルーナもジャックも、先生の異常さにドン引きしている。
「はー、もういいわよ。服着なさい」
「このままでいいよぉ。着るの面倒臭い」
「良いから着れ」
股間を蹴られたアウリュウスは、その場で蹲る。それに怯えた生徒達は、ゆっくりと楽な姿勢を止めて、その場に座り込む。
「リベ先生、早く進めてよ。遅刻したこと上の者に言いますよ」
痺れを切らせたルーナがそう言うと、先生は眠たい目で不思議そうに首を傾げる。
「何で名前を?」
「……学園関係者に知り合いが居て、それで先生のことも聞いたんだ」
「そういうことね。ルーナの言う通り、さっさと始めましょうか」
先生――リベは、生徒達の中央に立ち、指をパチンと鳴らす。すると、部屋が一瞬にしてガラリと変わり、ジャックの見慣れた教室に近くなる。
六人は大きくて柔らかい椅子に座らされており、目の前に机はない。あるのは、椅子同様に宙に浮く、一冊の本とペンだけだ。ジャックの席は、横三列の中央で、縦二列目だ。全体が見える位置だったことに安心するが、椅子は被らないように並んでるので、リベとは誰もが目が合ってしまう。
「一人一人自己紹介してもらいましょう。名前、趣味、好きな物、その他一言言って下さいね。じゃあアウリュウスから」
リベは死んだ目を無理に笑わせ、気を取り直すように両手を強くくっ付けた。
「アウリュウス、趣味は寝ることとエッチかな。好きな物はお母様、これが俺ちゃんのお母様。可愛いでしょ」
アウリュウスは肩に乗ってる白猫をお母様と呼び、お互いに頬を擦り付け合う。
「仲良くしようや。よろしく〜」
アウリュウスは灰色の髪を目玉模様のヘアゴムで縛っており、薄緑色の瞳が澄んでいる。手や首元は傷だらけで、色は死人のように色白い。
「名前セーレ、趣味は……あんま思い付かないけど、望遠鏡覗くこと。色んなとこ見るの好き。好きな物は火と氷……どっちも綺麗だから。皆よろしく」
セーレは長い金髪の似合う美少女で、眠そうな薄目、目下にの結晶の形をした金のタトュー、長いまつ毛が特徴的だ。
「私ベル!趣味は食べること~。好きな物はご飯!仲良くしようね」
薄緑の髪と瞳が輝く小柄の少女――ベルは、満面の笑みでそう言い、隠してた肉を一口食べた。
「名前はジャック、趣味は特にないけど、強いて言うなら日光浴と温泉。好きな物はクレープ。よろしく」
ジャックは久々に誰かの前で話した気がして、本の少し緊張していた。だから、しっかりと自己紹介が出来て内心安心していた。同時に、この程度で動揺してしまってる自分が不思議でもあった。
「名前はカーマ、趣味は読書と映画。好きな物はないけど、嫌いな物は人前で半裸でイチャつく奴と机の上に座って汚く食事する奴」
カーマがそう言うと、セーレとベルが片目を痙攣させて反応した。
「ちょっと!机の上で汚い女で私のこと!?」
「セーレもイチャついてないよ。普通に友達として遊んでただけじゃん」
二人が前のめりになって怒るが、カーマは気に求めず自己紹介を続ける。
「あと情緒不安定な女、生徒を脱がす変態教師とかも嫌い」
「あ゛?」
リベもカーマに反応し、鬼の如く怒りの表情を見せる。
「あと元人間の癖に英雄扱いされる奴」
ジャックは自分のことを言ってるのだと分かったが、特に感に触らなかったので反応しなかった。
「あと読書してるのに、見てわかることを質問して邪魔してくる奴も嫌い」
「はははっ。自己紹介のプロか?掴みが上手いなお前」
ルーナは、カーマの徹底した自己紹介に手を叩いて大笑いする。
「誰とも馴れ合うつもりはない。以上」
カーマは綺麗な白髪と焦げたような茶色の肌が似合う少年で、頬には赤色の爪痕のようなペイントがされており、額には赤と白のハチマキをしている。
「最後俺な。名前はルーナ、趣味はゲーム、好きな物は面白い奴。偏屈神様カーマとかな。よろしくな」
こうして、ジャックの学園生活は幕を開けた。




