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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第1話【過去からの亡霊】

 ギリシャ神話の監獄の地下深く。

 地獄によく似たその場所で、ジャックとメタトロンは一年ぶりに再会していた。お互いにとって、とても嬉しくない再開だ。


「な……ふざけてんのかスサノオ!こいつはアマノを殺した奴だぞ!なぜこんな奴と依頼を熟さないといけないんだ!」


 さっきまで無気力で物静かだったジャックも、スサノオの理解不能な思考と提案には付いていけなかった。スサノオの服に手を掛け、強く壁に押し付けた。その怒りの表情を見たスサノオは、寂しい表情で微かに笑って見せた。


「その表情が見たかった」

「……ッ!まさか……怒りを悟ってこんな真似を……」

「ずっと無気力だったそなたが、今初めて感情を露わにした。アマノの仇であるメタトロンと行動すれば、もう無気力で感情のないそなたにはならないと思ってな」

「だからって……こいつが必要かよ……」

「どちらにせよ、彼を使う。そなたが彼を使わないなら、ゼウスが使うらしい。なんせ人手不足だからな。魔獣退治に使うらしい」

「居るかよこんな奴……顔も見たくないよ」


 ジャックはスサノオから手を離し、機嫌を悪くして目を思いっきり逸らした。


「メタトロンは元々ゼウス側近の天使だ。慣れればきっと、普通に接するだろう。悪さ出来ないように呪いを掛けて扱うから、寝床も食事も他の天使同様与えると思う。情を持ち始めたら何不自由ない生活に元通り……いや、何でもない。要らないんだな?メタトロンはゼウスに渡すからな」


 丁寧に説明するスサノオを見て、ジャックは更に機嫌を悪くする。だが、メタトロンを横目で確認し、何か堪えるように片腕を強く握る。


「わあったよ!俺が使う!そんなこと聞いたらゼウスに渡せるかよ。ほんと嫌なとこついてくる神だ。日本の神は質が良いイメージがあったけど、最低だよ最低」

「そうだそうだ!最低だ!」


 ポム吉はジャックに便乗し、二人でスサノオを薄めで睨む。スサノオはジャックの言葉を聞き、満足したように鼻で笑った。


「メタトロン……連れてくのか?ほんとに?」

「連れてく。地下にでも監禁してやる」

「そんな心配しなくていい。さっきも言ったけど、悪さしなよう呪いを掛ける。そなたの血を飲ませ、そなたの言う通りを聞く奴隷にする。命じたことを敗れば首が締まる。逆らえない」

「……心配なんてしてない。嫌悪してるだけだ」


 *


 ジャックは、メタトロンを連れてスサノオに言われた場所まで向かった。メタトロンは顔が見えないようフードを被っていて、 目隠しも付けられている。有名な天使故、顔を見られる訳にはいかない存在なのだ。


「ここか……お城……」


 到着した場所はお城だった。それも、一人では住めれないような大きなお城だ。


「お待ちしてましたジャック様」


 お城に入ると、ロビーのカウンターに年老いた天使がジャック達を待っていた。


「こんにちは……あの、何も聞いてなくて、その……色々分からないんだけど……」

「それはそれは。案内しながら説明でも致しましょうか」

「お願いします」


 ジャックは荷物を持ち、念の為ポム吉にメタトロンを見張らせたまま二階へと移動する。


「このお城は今年の一年生の寮です。ですので、他の一年生も居ますよ。一階はロビー、二階は生徒様のお部屋、三階は温泉や娯楽室となっております。一階には学園に繋がる入口があるので、入学日からぜひご利用下さい。ここがジャック様のお部屋です」


 ジャックの部屋は六号室。部屋というには余りにも広く、一軒家よりも少し大きいくらいだ。部屋の中にも何個か部屋があり、ジャックとメタトロンの二人が住むのにも、少し余るくらい広々としている。


「では、ごゆっくりどうぞ」

「ありがとう」


 ジャックは唖然としながらも、少し歩いた場所に荷物を置き、その壁際に座り込んだ。


「疲れた……久々に歩いたし、喋ったし、色々した。たくさん久々をした。おまけに要らない手荷物貰ったし」


 ジャックは、そう言ってメタトロンをチラ見する。


「そんな目で見るな。何か食べたい……何か食べよう。一年も何も口にしてない。水と食事をとらせてくれ。お願いだジャック」


 メタトロンは、監獄で会った時より大人しくて力を抜いているように見える。逆らったり反発しても無駄だと重々分かっているから、相手がジャックだとしても大きな態度を取ろうとしない。


「ダメだ。余り喋るな。俺の質問にだけ答えてろ」

「……」


 メタトロンは少しガックリし、下を向いて弱々しくその場に座り込む。これには、ポム吉も気の毒そうにしている。


「……そういえば、俺もここ一年クレープ以外食べてない。ポム吉、どこか食べに行こう……入学日は5日後だし、これからやることも多い。腹ごしらえ……習慣も戻さないと」

「やったー!ご飯!お腹空いたよ!」

「メタトロンは部屋で留守番。その場から一歩も動かないこと」


 ジャックはメタトロンを置いていき、ポム吉と共に近くの食べ物屋に入った。外はすっかり暗くなっており、店もより一層輝いている。だが、一年ぶりの食事はジャックには合わなかった。


「むしゃむしゃ……上手い!」

「ギリシャ神話の料理は美味しくないな。俺のもあげるよ」

「やったー!むしゃむしゃ!」


 なので、ポム吉が全ての料理を食べた。おかげで、ジャックは無駄な時間を過ごしたと感じ、しけた面でため息を付いた。


「おいしかったね!」

「美味しくないって言ったろ」

「ジャックはもう食べないの?全然食べてなかった」

「自分で作る。今日はオムライスが食べたい気分……最初からそうすれば良かった」

「僕も手伝うよ」

「食べるのをだろ?」

「なぜバレた!?」


 ジャックは食材を買って寮へと戻る。部屋に戻り、座り込んでいるメタトロンを横目で確認してキッチンに向かう。料理本を見ながら、小さな手でフライパンやヘラを使って食材を炒めていく。少しドヤついた表情で料理をするジャックだが、その表情は少しづつ曇っていく。


「出来た?」

「……出来たけど、何か俺の知ってるオムライスと違う」


 焼けた卵はぐちゃぐちゃで、中のライスも少しベタついてて質感が目で分かる程悪い。ジャックはため息をつき、失敗したオムライスをポム吉へと差し出す。


「手伝ってくれるんだろ?食べるの?」

「いいの!?」

「お前の為に作った」

「むしゃむしゃ……」


 ジャックは自慢げな表情を続けるが、疲れたようにその場に座り込む。


「アマノと作った時は上手くいったのに……」


 ジャックが静かに目を閉じると、座り込んでいたメタトロンがゆっくりと立ち上がる。


「ご飯作ろうか?オムライス程度なら作れる」

「いい。怪しすぎる。お前の部屋はひとまずロッカーだ。そこから出るな……早く行け」

「……」


 メタトロンは言われた通りにロッカーに向かった。結局、この日ジャックはろくな食事を取らなかった。


 *


 スサノオとタナトスが一室でお茶をしながら話をしている。二人共安心と喜びの表情で、気を抜いた状態でたわいない様子だ。


「いや~、まさかメタトロンをジャック様と同行させるとは……主神様はぶっ飛んだことしますね」

「別にぶっ飛んでいないさ。メタトロンがジャックのよい刺激になると踏んでるだけだ」

「それはともかく、殺人鬼がギリシャ神話の学園に潜んでいるってなぜ分かったのですか?」

「いや、学園に居るかは分からない。ギリシャ神話での被害が多いから、そうやって嘘を付いただけだ」

「ハハッ、嘘だったんですか?まあ、その嘘に救われたんで良いですけど」


 スサノオは嘘を付いていた。だが、その嘘は現実になろうとしつつある。もう既に闇は動き始めていて、たかが殺人鬼という重みではなくなっていた。


 *


 黒いフードを被った男が、人気のない場所へと足を踏み入れている。その男は荒廃した真っ暗な世界をあるいていて、目の前にあるボロのお城へと入った。そこには、小さな明かりを付けた女と、大の男が二人、それぞれ年が違う子供が二人居る。


「これで全員だ……これで全員揃った。正直、こいつを甦らせるのは迷ったが、まあいい」


 男は、まだ息がある青年を魔法陣の中に寝かせ、その場に瓶に入った血を垂れ流す。そこから、妙な光が放たれ、姿形が変わって魚のように体をビクッと震わせ、ゆっくりと目を覚ます。


「……」

「起きたか?俺が誰だか分かるか?」

「……ありゃ?父さん。ひっ、ひでえ傷跡……どしたの?」


 青年はゆっくりと起き上がり、何事もなかったようにフードの男と言葉を交わす。


「この傷は大昔の傷だ。お前が死んだあの夜に、あのガキに付けられた傷」

「死んだ?俺はあの時死んだ?ほへ〜。で?あの後どうなった?」

「信じられないだろうが、あれから何兆年も経った。あの後、俺以外皆死んだ。けど大丈夫……力は衰えているだろうが、皆再びこの世に戻ってきた」


 男がそう言うと、青年は目を細めて男の背後に居る五人を見る。


「一人多い……」

「ああ、この子供か。この子が皆を生き返らせるのを手伝ってくれた。今日からこの子も俺達の家族だ」

「あ、そう。よろしく」


 男は青年と話すと、再びゆっくりと歩いて奥にある椅子へ座ろうとする。だが、その場で足を滑らせて頭を椅子にぶつけた。フードは捲れ、頭からは微かに血が流れる。男はつやのある赤髪で、顔には火傷のような大きな傷が付いている。真っ白な肌に火傷傷は目立ち、宝石のように輝く赤目が霞んで見える。


「またドジしてる」

「……俺達の再会に乾杯しよう」


 男は服の汚れをほろい、何事もなかったように椅子に座ってワインの入ったグラスを掲げた。だが、そのグラスが割れて男の頭にワインが掛かる。それに対し、周りの者は皆反応すらせず、無視をするかのよう別々のことをしてる。だが、近くの女が分かっていたようにタオルで頭を拭き、割れたグラスを魔法を使って片付ける。


「プライド、お前は学生だ。四月から学校に通ってくれ。学生でも神は神……始末する対象だ。今の時代を知るには学生として情報を得てくれた方があり難い」

「分かった」


 スサノオの嘘は、ジャックの知らない所で本物となっていた。それも、殺人鬼なんてかわいい存在が相手ではないだろう。もっと深くて暗い……過去の亡霊達が敵となるだろう。

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