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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第0話【プロローグ】

 ジャックがアマノと出会って二年。そして、アマノの死から一年が経とうしていた。主神ロキや奇石団、アイムやクルーニャとの死闘は、今でも神話の一つとして語り継がれており、アマノとジャックは英雄の一人として称えられている。もう誰もアマノを魔女の子などと呼ばない。今は、誰も彼もが大英雄アマノと呼び、神界にその美しい銅像が建てられた程だ。

 しかし、英雄ジャックは今現状そうではない。

 大英雄は偉大な死を迎えていたが、英雄ジャックはゴミのような毎日を暮らしていた。


「おはようございます。ジャック様」


 ジャックの住んでいる森に訪れたのは、この街の死神タナトスだ。何だか浮かない顔で挨拶をし、寝込んでいるジャックを起き上がらせる。


「照れちゃう!おはようタナトス!」

「おはようございます。ポム吉」


 布団から飛び出したポム吉とも挨拶を交わし、ジャックをお姫様だっこして、ゆりかごの椅子に座らせる。ジャックは死んだ目をしており、無気力そのものだった。


「照れちゃう!うへへ、ジャックにセクハラする時間だぜ!」


 ポム吉はわざとらしいぐらいニヤニヤと笑い、ジャックの服の中に入り込む。


「ぺちゃ!ダメだ!まだ足りん!足りんぞジャック!」


 ポム吉は好き勝手にジャックの服の中に入り込み、男のジャックに対し、女性と変わらないように胸や股間に入り込んでセクハラをする。それでも、ジャックは一切反応せず、死んだ目でポム吉を見ている。


「照れちゃう?」

「はあ~」


 ジャックはため息をし、ポム吉は少し気が参ったように服から出てくる。


「次はまた明日にしよう」

「朝食の時間ですよ。いただきましょうか」

「やったー!いただきマウス!」


 テーブルの上に色とりどりの朝食が並べられる。タナトスは綺麗に食事をし、ポム吉は汚く食事をする。ジャックは以前変わりなく何のアクションも起こさない。


「今日も……食べませんか?」

「……要らない」


 ジャックは静かに首を横に振り、今日初めての言葉を発する。神の体を持つジャックは、食事をしなくても生きていけるが、それはそれで悲しいものだ。


「ごちそうさまでした」

「ごちしょうさまです!」


 食事を終えると、タナトスは再びジャックを抱っこし、小さな温泉のある場所へと向かう。そこで丁寧に服を脱がせ、ゆっくりとジャックを湯に浸かせた。


「別に入らなくていい」

「約束してくれたじゃないですか?全て私がやるので、お風呂には入ると」

「……」


 風呂から上がると、二人は森へ出て散歩に出る。タナトスが毎日毎日違う場所へ案内し、午後になると街へと戻る。


「どうぞ」


 ジャックはタナトスからクレープを買ってもらい、自分の街で風に煽られたまま食べる。クレープは、ジャックが口にする唯一の食べ物なのだ。


「では、私は仕事とか家庭があるので。よい一日を……。任せましたよ、ポム吉」

「照れちゃう!」


 タナトスは背後を見せて去る時、いつも悲しい顔になる。それは決してジャックに見せないが、その表情が本心だった。こんな日々をここ一年間繰り返してきてた。


 *


 神々が住む世界――神界。その日本神話の区域では、主神スサノオが自分の部屋で書類の整理をしていた。そこに、ドアをノックして天使が入って来る。


「どうした?」

「死神のタナトスという者がスサノオ様に会わせて欲しいと言っています」

「死神?どんな用だ?」

「英雄ジャック様に関わる話だと言ってました」

「ジャックに?まあいい、入れてやれ」

「はい」


 数分後、スサノオの部屋を訪れたタナトスは、いつも以上に腰を低くして差し入れを差し出す。


「ジャックの街の死神だな?要件は?」

「はい。言いづらいことではあるのですが、単刀直入に言います。ジャック様を助けて欲しいのです」

「助け?何かあったのか?」

「……アマノ様を失ってからずっと無気力なんです。ご飯も食べませんし、歩くこともしません。私が放っておけば、寝たきり状態でした。今のジャック様は生きる死体です。どうかあの子に……ジャック様に生きる理由を与えて欲しいのです」


 苦しそうに話すタナトスを見て、スサノオは難しい顔を浮かべる。


「無理だ。生きる理由なんてなくても、生きる奴は生きる。死なせてやったらどうだ?」

「ジャック様にも言いました。しかし、彼は死を拒んでいます。恐らく、アマノ様との約束故の事でしょう」

「……何を差し出す?」

「はい?」

「拙者には名案がある。その手配もする……代わりに何を差し出すのだ?そなたは」


 スサノオが問いを聞いたタナトスは、迷いも戸惑いもなくすぐに答えた。


「全てです」

「ほお?」

「私の全てを差し出します。持っている物から時間や命までも……全てを差し出します」

「過保護だな……」


 スサノオは少し黙り込んで考えるが、直ぐに答えを出してくれた。


「ジャックは英雄だ。最強の天使メタトロンを倒し、最強の悪魔アイムをも倒した。兵器以上の力を宿す奇石も封印してくれた。恩人だ……何でもするさ」

「ッ!あ!ありがとうございます!」

「翌日また来い。ジャックを連れてな」

「はい!」


 *


 翌日、タナトスは車椅子にジャックを乗せ、スサノオの指定した場所へ訪れた。


「久しぶりだな。ジャック」

「……何の用?」


 ジャックは、死んだ目と小さな声でスサノオとコミュニケーションを取る。窶れて変わり果てたジャックを目にしたスサノオは、少し表情を変えて何とも言えない苦しみに近い表情を浮かべる。


「実は頼みがあるんだ。一年前の戦いによって神々も天使も悪魔も半数以上消えた。だから今はとても人手不足……分かるだろ?」

「あんま、分かんない」

「そ、そうか。今問題になっているのが、そんな中で行われる殺神さつじん行為だ。知っての通り、この世界は人間の世界と違って殺神なんて滅多に起こらない。起こす動機が少ないからだ」

「殺人鬼を捕まえろ……とでも?」

「浅く言えばそんなとこだ。まあ、そなたの言葉を借りて殺人鬼とでも表現しとこう。その殺人鬼がとある場所で潜伏していることが分かったんだ」

「どこ?」

「ギリシャ神話の学校……神の子供が通う場所だ」


 スサノオのその一言で、ジャックは悟ったようにため息をした。


「無理……ごめんだ」

「まだ何も言ってない」

「学校に通って殺人鬼を探せっていうんだろ?けどそれは建前で、単に今の俺をどうにかしたい訳だ。可哀そうな俺を、助けてあげようって訳だ。どうせタナトスに言われたんだろ」


 ジャックに全てがバレた。スサノオもタナトスも、困ったように目を逸らし、何とも言えない空気になる。


「そなたはそのままでいいのか?」

「……」

「アマノは、今のそなたを見てどう思う?」

「……」

「一歩踏み出すんだ。ジャック」


 スサノオが言葉を掛け続ける。それに無反応なジャックは、下を向いて自身のペンダントを開けた。そのペンダントには、表情のないアマノの写真が入っている。それを見て、ジャックはふと思い出していた。


『ジャックが生きて成長し続ける。それって、最高に幸せなの』


 ふと思い出した言葉、この一年間忘れていた大事な言葉だった。今までの自分が、その言葉と想いを裏切っていたことに気付き、認めたくないことを受け入れようとする。


「何勘違いしてるんだ?」

「え?」

「引き受けるよ……その仕事。ただの依頼だろ?」

「「……ッ!?」」


 スサノオとタナトスはお互いに目線を合わせ、一瞬驚いた表情を浮かべてクスッと笑った。


「ハハッ、そうだ。これは依頼だ。丁度入学の時期と年齢だ。生徒として潜入し、殺人鬼を特定して捕まえてくれ」

「ああ」

「じゃあ、明日にギリシャに移動するといい。ゼウスに頼んで住む場所や申請を済ませたから」

「どうも」


 ジャックは以前変わりなく死んだ目のままで、表情を見せない。それでも、スサノオやタナトスにとってジャックが変化を受け入れてくれたのは、とても嬉しいことだった。


 *


 また翌日。ジャックは荷物とポム吉を持ってギリシャ神話の指定された場所で待っていた。車椅子には座っていないが、杖に支えられて立っている。一年間まともに動かなかった体は、リハビリが必要な体になっているのだ。


「ちょっと寒いね」

「そうだな」

「でも何で刑務所の前なんだろうね」

「そうだな」


 刑務所の前で待つこと数分。スサノオが現れ、着いてこいと言わんばかりの仕草をし、何も言わずに刑務所に入って行った。ジャックもポム吉も不思議に思いながらスサノオの後へ着いていく。

 刑務所の中は広く、建物も頑丈に作られている。その中の通路を渡り、地下に降り、通路を渡り、更に奥深い地下へと降りていく。


「結構歩くね」

「そうだな」


 スサノオがやっと足を止めたそこは、最も刑が重い囚人が居る牢屋だった。囚人達は、手錠や鎖だけで収まらず、目も口も効けない状態にされている。スサノオは、その牢屋の一つを開け、その中に居る囚人から目隠しと猿ぐつわを取った。


「ぺっ……」


 囚人は干からびた口から唾を吐き出し、窶れた目でスサノオの奥に居るジャックの顔を見た。そして、嫌そうに目を回し、不敵な笑みを浮かべる。

 ジャックもポム吉も、その囚人の顔を見て言葉と表情を失っていた。


「そんな。何で彼の元に……ジャックを案内……したんだ」

「殺人鬼は最高神をも殺している。一筋縄ではいかない相手だ。今回の依頼は、こいつと共に熟してもらう」


 スサノオは囚人の手と足から鎖を取り上げ、身動きが取れる状態へとした。囚人は自身の手首を抑え、体をよろめかせて立ち上がる。


「よお。杖何て持って……爺になったのか?ジャック」

「めっ、メタトロン……」


 赤髪、うす黒い肌、くまのある深い目――メタトロンは、ヘラヘラと立ち上がり、一年ぶりに会ったジャックと真っすぐに目を合わした。

本日から2章を投稿します。

毎日投稿で、夜に投稿します。


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