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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第55話【狂信者の夢】

 ドラゴンに乗って飛んで行くジャックは、遠目にアマノの死体を見ていた。またどこかに離れてしまうようで、とてもとても寂しかった。心が弱りそうだったが、全ては自分が決めたことだ。後悔はない。


「来てるよ来てる!姿形も何か変だ!」

「変なのはお前もだ」


 ドラゴンは素早く空中を移動するが、奇石を手にしているアイムには大したスピードではない。アイムを確認しながら、神器の手入れと心の整理を終え、疲れた目をゆっくりと閉じる。


「やっぱ、限界そう?」

「さっき真理の義眼を使用した時、かなり痛かった。これからは痛みのリスクを負うのは仕方ない。使えるならどんな痛みも耐える」


 ポム吉はジャックを心配して、出来るだけのことをしようとするが、流石のポム吉もこれ以上の力になれないことは分かっていた。


「アイムは幻想能力があるよ。策はあるの?」

「真理の義眼で対抗するしかない。幻想世界に引き込む条件は油断させること……アイム本人が言ってたから間違いない。油断はしない……幻想世界は大丈夫。にしても、幻想能力は厄介だな」

「アイムは不死身に近い体を持ってるよ。血で体を修復してしまう。どんなにバラバラになっても」

「脳と心臓、両方を破壊すれば流石のアイムも死ぬ。だが、片方だけならすぐ修復してしまうだろうな」


 ジャックは、冷静にアイムの対策をした。だが、背後からアイムが近付いてきていないことを知り、慌てて周りを見渡す。


「アイムが居ないよ!」

「いつの間にか居なくなってる!?」

「もしや、幻想で身を隠してるんじゃない?」

「ちっ、真理の義眼!」


 未来を見たジャックだが、アイムは幻想で身を隠してる訳ではなかった。ただ、もう既に追い付いているだけだった。


「違う!もう来てる!」

「何!?どこにも居ないよ!」

「下だ!ドラゴンの腹に隠れている!すぐに離れ――」


 ジャック達は、攻撃を避けるのが間に合わなかった。ドラゴンは下の腹からばっくりとはち切れ、その下から闇の渦が現れる。闇の渦に吸い込まれるジャックは、慌てて転移を使おうとするが、肝心な転移場所のポム吉も渦に飲み込まれている。


「ほわああああああ!!」

「くそっ!何てパワーだ!抗えば抗う程力が奪われる!それに渦が縮まっている!このまま絞め殺す気か!?」


 どんどん縮まる渦は、ジャックを吸い込み絞め殺そうとしている。


「ポム吉!来るんだ!」

「ジャック!」


 ジャックはポム吉をワイヤーで縛り、水魔法でポム吉を上空へと吹き飛ばす。ポム吉が上空へ吹き飛んだのを確認したジャックは、素早くと転移を使用する。


「コース.レゼン!」

「単純、来ると思ったよ」


 だが、ポム吉の近くで待っていたアイムが、刀でジャックの羽根を貫いた。身動きの取れないジャックは、その場で大剣と刀を魔法陣から取り出し、アイムの体を切り裂く。すると、アイムの首は一回転する程派手に吹き飛んだ。その首は、ジャックの方を見て、唇をペロッと舐める。


「バカガキが」

「ちっ!」


 危険を感じたジャックは、自分の羽根を切り落とし、一歩距離を置く。だが、アイムの体から複数のアイムが現れ、逃げるジャックに攻撃を畳み掛ける。


「幻想能力か!?」


 ジャックは複数のアイムを丁寧に裁いていき、一人一人確実に攻撃を当てて消していく。だが、あらゆる方向から見えない攻撃を食らい、動きが鈍ってしまう。


「一体どこから!?うっ!!」


 一度攻撃を受けたジャックは、そのままリンチにされ、腕や腹が抉れて吹き飛ぶ。血反吐く痛みが幼い子供の体に容赦なく振るわれ、確実に死へと近付いていく。


「ジャック!幻想で身を隠してるアイムが五体混じってる!そこ!右後ろと左横から攻撃が来る!」


 ポム吉のアドバイスによって、間一髪で風を切る攻撃を避ける。ジャックもアイムも驚いた表情で、ふわふわと浮いてるポム吉に目を向ける。


「こいつ、幻想が見えてるのか?ただの透明化とは訳が違うんだぞ」

「そのまま……教えてくれ……。真理の義眼は温存したい」

「分かったよ!」


 その後も、ポム吉の声によって見えない攻撃を華麗に避ける。とうとう、ジャックはアイムの懐に潜り込み、拳を一発当てることに成功する。


「ガキが……軟弱なんだよ」


 だが、アイムはピンピンしており、ヘラっと首を傾げてジャックに蹴りを入れる。ジャックの腹は肉が抉れ、血や臓器が噴き出る。攻撃力も破壊力も圧倒的な差がある。それでも、ジャックは血反吐吐いたまま拳を強く握った。


「何笑ってんだよ……まだ死んでねえぞ?」


 アイムの服を掴んだジャックは、握り締めた拳を振るう。魔力が込められた強力な拳がアイムの胸を貫いた。だが、アイムは引きも怯みもせず、嘲笑うようにニヤッと笑った。


「俺も、まだ死んでねえぞ?痛みもしないな……今更この程度の攻撃……」

「へへっ……そうかい」


 ジャックはアイムの胸から手を引っこ抜き、手に取ったアイムの心臓を潰してゴミのように捨てた。そして、両手でアイムの目を潰し、顔を掴んだままアイムの頭に頭突きをする。


「ガキ!!」


 アイムがジャックの胸を手刀で貫く。血を吐いて気を失いそうになるジャックだが、下唇を嚙み、全身に力を込めて一瞬を堪えた。


「……ッ!?」


 ジャックは残された力を振り絞り、魔力を纏った歯でアイムの頭を噛みちぎった。それも一嚙みではなく、何嚙みもする。まるで、目の前に餌に噛み付く犬の様に、必死に噛み付き、アイムの皮膚を抉り、脳みそにまで到達しようとしている。


「うおおおおお!!!やめろおおお!!!」


 アイムは必死に抵抗する。ただ我武者羅に脳に嚙り付こうとするジャックは、アイムから見たら狂人を超えた狂人だった。戦い方、異常性、執念、全てにおいてアイム以上の悪魔に見える。

 だが、アイムの拳がジャックの顔に諸に当たったことで、片目が飛び出て、体が爆発して吹き飛ぶ。


「ジャック!!」


 ポム吉は、吹き飛ばされたジャックを受け止め、小さな体でボロボロの体を持ち上げる。だが、その体は徐々に崩れていき、全身から血が噴き出る。貫かれた心臓も弱まっていて、片目も飛び出ている。生きている説明がつかない程、しぶとく生にしがみ付いている。


「くそっ……ジャック!!悪魔以上に悪魔なガキだ……俺の脳を……食らいに来るとは……」


 アイムは、震えた体でゆっくりと傷を修復していた。破損した頭を血で修復し、よろめた体を引きづってジャックに近寄る。


「ジャック!しっかりしろ!生きるんだ!目を覚まして!」


 ポム吉は必死に言葉を掛け、自身の体でジャックの止血を行おうする。だが、布の体が血塗れになるだけで、ジャックの死は確実な物へとなっていく。


(生き延びなけば……)


 ジャックの体は不思議と軽くなってた。痛みも疲労も一切なく、10時間たっぷり眠った朝のように、心地よく目を覚ます。まるで、世界が一変したかのようだ。


「天国?いや、地獄か……」

「……」

「ッ……」


 だが、目の前には神界によく似た背景が広がっており、目の前には血で濡れた女性が突っ立ていた。女性は少し幼く、まだ大人になったばかりと言った年頃だ。女性もジャックに気付き、絶望に満ちた瞳でこちらを見ている。よく見れば、その女性の足元は、血塗れになって汚れている。


「あ……アマノ?」


 女性は確かにアマノだ。だが、少し幼くてどす黒い何かを背負っている。


「アマノ!!」


 ジャックは喜びと驚きのあまり、アマノに飛び付いた。だが、その手に触れた瞬間、電撃が走って手と手が反発してしまう。その時、ジャックは確かに体験した。

 傍から見たら一瞬の出来事に見えるが、ジャックの中では20年程の長さだった。その20年は、アマノが生きた20年で、神の視点でアマノを見た。それは、記憶が入り込んできたとかではなく、目と体で体験してきたのだ。

 その短くて長い体験は、ジャックの心と感情を最大に震わせた。その感動に似た感情は、ジャックに止められない涙をぽたぽたと流させる。


「アマノ……様……」


 それは、魔女の子や神殺しと呼ばれて迫害を受けた過去に悲しんでいる訳ではなく、アマノの一生を直で感じて感動したのだ。その感動余り、その場に膝を着き、両手を乙女の如く握り、血濡れたアマノへ感謝の微笑みを見せる程だ。泣きながら微笑むその姿は、神に祈りを捧げるかのような姿だ。


「ああ……アマノ様!」


 アマノより何十倍も幼い表情を見せるジャックは、完全にハイになっている。酔っぱらたかのような、ラリッてしまったかのような、何かに取りつかれたかのような、気味の悪い態度だ。だが、その表情は年相応の可愛らしい表情だということも否めない。


「……」


 アマノが静かに手を差し伸べる。ジャックはそれに反射的に反応し、その手を取って頬ずりした。お互い何も喋らないが、その姿は犬と飼い主そのものだ。ジャックは気味が悪い程、何度も何度も頬ずりをし、アマノの血濡れた手を涙で洗い流した。気付くと、ジャックの姿は更に一回り幼くなっており、その体は徐々に血塗れになっていく。


「……」


 アマノがゆっくりと手を引っ込め、すぐに両手を広げた。ジャックは再びそれに甘え、少年の如く強く抱き着いた。アマノは表情を見せないまま、微笑みながら涙を流すジャックをよしよしと撫でる。

 そして、アマノはジャックの手を取り、その小さな顔にゆっくりと顔を近付けた。その瞬間は、絵画のような美しさがあり、言葉に出来ない二人の関係性が目に見えている。


「……ッ。アマノ……様……」


 だが、そんな夢のような時間が割れるように途切れた。夢から覚めたジャックは、痛みと疲労を思い出し、一瞬にして絶望と苦しみの中に放り込まれる。

 ジャックは、血の涙を流したまま、気味の悪い微笑みを見せている。同時に、ジャックの飛び出ていた目が転げ落ち、空いた胸の中に入り込んだ。瞬間、全身に蔓延る血が白色に変わり、ジャックを優しく包んでいく。髪もゆっくりと伸び、背も少しだけ伸び、筋肉も縮小された。


「ほわっ!?何か変だ!」

「何だ?何をしている!?まさかまだ何か力を隠して……そうはさせるか!!ジャック!!」


 ポム吉もアイムも、ジャックの異変に気が付いた。アイムが焦って向かって来たその時、ジャックの体から膨大な魔力と光が放たれた。その魔力により、アイムもポム吉も吹き飛ばされる。


「何て魔力……だが……終焉を見せるのはこの俺だ!無属性魔法、ゼロ!メーデン!!」


 アイムが放った魔法は、空気をも消し飛ばし、ポム吉を木端微塵に消し飛ばし、奥のジャックへと当たる。そして、ジャックを貫通し、その奥の建物をも塵も残さず消し飛ばした。

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