第54話【最強の宿敵】
ジャックは、ドラゴンに乗って神々の元へ向かって居た。ドラゴンの背には、気絶してるメタトロンとアマノの死体も乗っている。
「向こうも決着が着いたみたいだね」
「そうだな……」
メタトロンを倒した今、ジャックの心には何もなかった。喜びも怒りも悲しも……何一つなかった。死んだアマノを見るのが苦しいから、目に入れないようにしている。
「目の方は大丈夫?」
「まあ、大丈夫」
数分後、神々とアイムの居る神界へと着いた。戦いは終わっているが、民衆の避難や残りの魔獣の片づけに、神々が忙しそうにしている。
地に足を付けると、神々はジャックに気を使うように静かに動き出した。テレパシーで決着の情報を知っていた神々は、既にアマノが死んだことを知っている。だからこそ、声を掛けたりせず、ジャックをそっとしている。
「ジャックの保護を」
神々はジャックを気遣い、安全でゆっくりと休める場所へと誘導しようとした。だが、そこに悪魔が現れる。
「ジャック、欠片をよこせ」
「あ……ああ」
悪魔――アイムは、ジャックから欠片を受け取ると、近くに居た主神達の元へ行く。
「欠片を確認しよう。まだ安心できない。全部あるか?」
「え?ああ、そうだな。こっちには六個ある」
「こっちはジャックから預かった分も合わせて二十四個」
「合計三十個」
「見せろ。本物は近くにあると輝きを放つ」
「え?ああ、そうだな」
主神達が欠片を摘まみ、見せつけた。すると、一瞬もしない内に欠片がなくなり、アイムもその場から離れていた。一瞬の出来事で、神々は理解に遅れた。
「欠片は!?」
「まさか!待てアイム!!」
アイムはゆっくりと振り向き、主神達に欠片を見せつけた。その欠片は、白と金ごとでくっ付いており、既に二つの物となっている。もう欠片というより、奇石に近い。
「くっ付けたのか!なんてことを!?」
「まさかアイム!!最初から裏切るつもりで!」
主神達や神々のざわめきに気が向いたジャックは、疲れて死んでいる目をアイム達に向けた。
(ああ……バカなことやってる。アイムが力欲しさに欠片を奪ったのか……。けど、もうどうでもいいし、俺に関係ないこと……)
だが、今のジャックには関心も関係もない。世界が巻き込まれる一大事だが、所詮神々とアイムの問題。どちらの味方でもないジャックには、心からどうでもいいことだ。
「やっぱお前らバカ神共にこの奇石は任せれない。俺が二十四個も欠片を持ってるのに、誰も彼もが警戒や想定をしない。神や王の器じゃない……」
「奇石を独り占めして、どうする気だ?」
神々は慌てたようにアイムを囲い、主神達はヒア汗をかいたまま冷静に問いかける。
「今日を持って、この世界は俺が指揮する。安心しろ……今よりも住みやすい世界にしてやるよ」
「そんなことをしなくても……そなたの実力なら主神や魔王になれる。ルールにのっとて頂点に立てばいいだろう。今のやり方なら、誰もそなたを認めないぞ」
主神スサノオがそう言って神々の矛を収めさせる。しかし、アイムの心を動かすことは出来ない。
「俺がルールになるって言ってんだ。それに、誰もがすぐに俺を認める。やりたいようにやるんだよ……俺は」
アイムは、白と金の奇石をくっ付けよとした。その奇石は、互いを求めるように光を放っている。
「やめろ!!」
「考え直せ!!」
「奴を止めるんだ!!」
アイムを止めようとした神々は、アイムの魔力によって皆吹き飛んでしまう。その魔力の覇気によって、アマノの死体も吹き飛び、ジャックの元へと飛んで来た。
「あ、アマノ?」
アマノの死体は、ジャックの腕の中で、首をコクッと頷かせた。ジャックには、それがアマノの意思によっての動きに見えた。いや、そう思い込んだ。
「ッ!?欠片が……白の欠片が……ない」
奇石をくっ付けたと思ったアイムは、手元の違和感に気付いて周りを見渡した。手元には金の奇石しかなく、白の奇石は綺麗さっぱり無くなっている。
「くそっ!やられたか!奇石は完成してしまったのか!」
「いや!見ろ!奴の手には金の欠片しかない!白がないぞ!」
神々もアイムも、少し遅れて気が付いた。アイムの背後に、死人のように静かに立っているジャックに。
「まさか……ジャックが……」
「ジャックが持ってる!白の奇石を奪ったぞ!」
白の奇石は、ジャックが手に持っていた。ボロボロの体で立ち、アイムと別の方向を見ている。まるで、どこか別の世界を見ているようだ。
「ジャック……てめえ……」
「どうやら俺とお前は……親しい仲になってたようだな……」
「転移で俺の背後を取ったのか」
ジャックにとって、アイムは親しい人物となっていた。だからこそ、転移でアイムの背後を取り、奇石を一つ奪うことに成功したのだ。
「ジャックよくやった!こっちに来い!」
スサノオに手を差し伸べられたジャックは、羽根を広げて移動しよとする。
「アマノは生き返るぞ」
だが、アイムの一言でジャックの動きが止まってしまう。
「この奇石にはどんな願いも叶う力がある。俺はその力を使って死んだルゼを生き返らせる。こっちへ来いよジャック。アマノは俺にも優しかった……俺もアマノを生き返らせたい。神々に加担する理由はないだろ?どちらかと、俺側の人間のはずだ……ジャック」
アイムは、言葉巧みにジャックの心を誘導する。アマノが生き返る……それはジャックにとっての希望であり、全てであった。
「本当に……生き返るのか?」
「確証はないが……可能性はある。だが、奇石を完成させなければ、可能性すらない」
「……分かったよ」
ジャックは、新婦が花束を抱えて歩くみたいに、欠片を抱えて静かにアイムに近付く。
「やめろジャック!」
「止めるんだ!」
神々の邪魔が入るが、アイムの魔力の手が神々を赤子の如く捻り殺していく。アイムとジャックの間合いに入れば、主神すらも殺されることが分かる。だからこそ、神々はこれ以上迂闊に動けなかった。
「さあ……それを寄こせ」
ジャックは王に追従な奴隷のように、幼い顔を下に向けて奇石をゆっくりと渡す。再び奇石を手にしたアイムは、ニヤッと笑ってジャックを軽く抱き締め、背中を撫でた。
「ありがとうジャック。俺が王になったら、お前とアマノだけは優遇してやる」
「うん」
すぐにジャックから手を離したアイムは、神々を睨んでジャックに背を向けた。神々は以前変わりなくアイムに恐れ、皆後ずさりをする。
「これにて終焉だ。今この時を持ち、この世界は俺の物となる」
「やめろーー!!」
「アイム貴様!!」
「ちくしょー!!!」
神々が絶望する中、アイムはニヤッと笑って奇石をくっつけようとする。
「がはっ!?」
「「……ッ!!」」
だが、ジャックの刀がアイムの胸を貫いた。不意を突かれたアイムは、奇石を二つとも手放してしまう。ジャックはそれを真理の義眼で見ていた。
「今だ!」
白の奇石を手に取り、金の奇石にも手を伸ばす。だが、金の奇石はアイムに蹴り上げられ、魔力の手で奇石をキャッチされた。
「てめえジャック!!何の真似だ!!」
「皆今だ!攻撃を仕掛けろ!」
ジャックは再び刀を振るい、アイムの体をバラバラに切り裂いた。だが、アイムはその場で体を爆発させ、飛び散った血を集めて体を修復させる。
「今だ!体を修復させるな!」
「この!!馬鹿野郎共がああああ!」
アイムは体の修復を後にし、周りの神々を遠くへ吹き飛ばす。迂闊に動けなくなったジャックは、呼吸を整えて一歩後ずさりする。
「ジャック!!なぜだ!!なぜ邪魔をする!!」
「アイム、お前神々に王の器じゃないとか言ってたが、あんたも変わらないだろ。俺に背を向け、警戒や想定もしてなかった。さっきの主神達と何が違うんだ?」
「こいつ……」
アイムを挑発するジャックは、時間稼ぎをしている。真理の義眼で痛めた目を癒す時間稼ぎを。
「俺が王の器か……そんなのどうでもいい。大事なのはアマノを生き返らせること……そうじゃないのか?アマノの居ない世界で生きたいのか?ジャック」
「……神々を敵に回したら、またアマノが危険になる。失うことがこんなにも辛いなら、もう失わないように得ることをしない。だから、お前という悪魔を倒して、英雄になってもう誰にもアマノを魔女の子と呼ばせないようにすることにした」
嘘だった。ジャックは何も考えていなかった。さっきだって、直感や反射的な行動で、神々の味方しまっただけだった。アマノの死体に突き動かされ、妙な勘違いをしてしまっただけなのだ。もう後戻り出来ないから、でたらめな建前を口にしただけだった。本当は、何もかもどうでも良かったのだ。
ただ、その建前は、100%の建前という訳ではなく、ほんの少しだけ本心だった。
「出会った時から……気に入らなかった。いつもアマノアマノって……自分を理由に生きれないお前が気に入らなかった。殺す理由が出来たな」
「俺が生きる理由は、いつだって自分の為だ。サン.ライト!」
ジャックは、手から広範囲に渡る光を放つ。アイムも神々も目を瞑り、周りの状況が見えなくなる。
「くそっ!ジャックが居ない……あいつ!」
アイムも神々も周りを見渡した。近くにジャックは居なく、あるのは大きな影だった。それに気付いた者は、皆影の上を見上げた。
「行けポム吉」
「おう!」
ジャックはドラゴンに乗り、遠くにある荒廃した世界へと向かう。それを見たアイムは、その場に血を吐いて、体を大きく変形させた。体は一回り大きくなり、血が布になって体を守るように巻かれる。羽根も角も尻尾も一回り大きくなり、体中から魔力の手が複数生える。
「自ら地獄へと足を踏み入れたな。泣き喚いても許さない……お前が後悔する場所は、もうこの世に残っていなぞ」
アイムも大きく羽根を広げ、逃げていくジャックを追い掛ける。
「た、助かった……ジャックがこちらの味方で……助かった」
「しかし相手はゼウスをも倒した最強の悪魔……憤怒の魔神アイムだ」
「どちらにせよ、もうこの場はジャックに任せるしかない。彼が負ければ、世界はアイムに支配されてしまう」
主神達ですら、奇石を手にするアイムとジャックの戦いに手を出すことは出来ない。大袈裟かもしれないが、世界の命運はジャックに託されているのだ。




