第53話【目には目を】
睨み合う二人は、この戦いで決着が着くことを理解している。一人は、師から力を受け継いだ元人間ジャック。もう一人は、妹を吸収した元人間メタトロン。二人共、生まれた時は人間だったが、持っている力はそれを超えている。
「デス.ブレイド」
「ライト.ファロン」
魔法同士が衝突すると、それを合図にお互いに動き出す。拳と魔法が交差し、付近の建物を破壊しながら戦う。互角に見えた戦いだが、その差はすぐに出た。メタトロンの拳をもろに受けたジャックは、畳み掛けるように魔法を食らった。一歩リードしたメタトロンは、ジャックの死角に回り込んでとどめに入る。しかし、ジャックはそれをいとも簡単に華麗に避けた。まるで、攻撃が分かっていたかのような動きだ。
「出た……その目……」
「真理の義眼……」
ジャックの目は真理の義眼に変わっていた。だが、それに気付いて尚、メタトロンはジャックに攻撃を仕掛け続ける。最初の数撃を避けてたジャックだが、すぐに攻撃を受けた。
「ちっ……」
「便利だが万能じゃないだろ?その力は連続して発動出来ないし、力を使う時目に紋章が浮かぶ」
メタトロンは、真理の義眼の力を深く理解していた。戦いの中で、真理の義眼がどういう力なのか、弱点から性能まで、既に観察されていたのだ。
「分かってたのか」
「アマノが炎の壁から逃げる時、転移でお前の元へ避難した。俺達はそこを叩く予定だったから、未来予知されていないか確証は必要だった。能力の把握は戦いの基本だろ」
ジャックは悔しさをぐっと堪え、再び真理の義眼を使う。それを見たメタトロンは、先程と一変し、逃げるように距離を取った。
「逃がさない」
「こっちのセリフだ」
高く飛んだメタトロンは、両目を瞑って羽根を大きく広げた。すると、メタトロンを中心に無数の球体が現れる。その球体はビー玉より一回り大きく、その全てが赤色か青色だ。
「これは!?」
真理の義眼で未来を見ていたジャックは、一瞬にして青ざめて動きを止めた。赤と青の球体は、化けの皮が剝がれ、本来の姿を見せる。その球体は全て目玉で、ギョロッと動いてジャックを見ている。
「デス.アイ……総計、三十六万五千の目だ。お前の目と勝負しようぜ」
「多すぎる……一体どんな攻撃が来るんだ……」
危険を察したジャックは、急ぐように未来を見た。その未来は、全ての目から炎と氷がビーム光線のように放たれる未来だ。無数にある目から放たれる攻撃には、逃げ場も隙も無い。
「ッ!」
だが、未来の見えたジャックは、遠くから飛んで来たドラゴンに目を向けた。
「ジャック!口の中に避難するんだ!」
ドラゴンにはポム吉が乗っており、口を大きく開けたドラゴンがジャックを素早く食べた。瞬間、無数の目から炎と氷の貫通力あるビーム光線が放たれる。付近にあった物が、ほとんど鋭く切り裂かれる。それは、ドラゴンも例外ではない。
「ほわっ!?」
真っ二つになって燃えたポム吉は、バラバラになったドラゴンと共に落下していく。同時に、体に傷を負ったジャックが、ポム吉を捕まえて、空を飛んで逃げた。
「くそっ……硬いドラゴンに隠れていてもこのダメージ。俺に防御になるような魔法は使えない。つまり次はない……どうにか策を考えなくては……」
「て、照れちゃう」
「よくやったポム吉。だがまだ働いてもらう」
「で、でも、しばらくはドラゴンになれないよ」
「だと思ったよ。お前はどうにかしてメタトロンの近くに行って欲しい。不死身を利用し、死にながらでも近付け。それもバレないで背後に回り込むんだ」
「そ、しょんな!?メタトロン相手にそんなこと……」
「出来る!お前なら出来る!やらないともう二度と一緒に飯を囲めなくなるぞ」
「そんなのやだよ!」
「ならやれ」
「まかしぇろ!」
ジャックに上手く煽てられたポム吉は、すぐに体を最大限小さくしてメタトロンの方へと向かった。それを確認したジャックは、再び感情を堪えるように唇を噛んだ。
「今は何でも利用してやる……何も知らないような純粋無垢な奴ですら利用する……勝つ為なら……何でもしてやる……」
ジャックはアマノの言葉に取りつかれていた。それは見えない鎖で、執念という魔物が背に張り付いているようだ。
「範囲魔法で吹き飛ばす!ライト.ファロン!」
向かって来ているメタトロンの周りには、無数の目玉も着いてきている。ジャックは、その無数の目に攻撃範囲の広い光魔法を放つ。当然、一発や二発で全て吹き飛ぶはずがなく、何発も連発する。
だが、目玉は増える一歩で、一向に減る気配がない。
「ダメだ!消せば消す程増えていく……ポム吉もあのサイズでメタトロンに近付くのは時間が掛かる。どちらも当てになんない」
打開策は見つからないまま、次の攻撃が放たれた。ジャックは慌てて真理の義眼を使い、攻撃の当たらない場所へと移る。しかし、無数の目はジャックを目で追い掛ける為、逃げるジャックを追いかけまわし、全ての場所をビーム光線で埋め尽くす。当然、ジャックは攻撃を食らってしまう。
「がはっ!?」
魔力で防御を固めたジャックだが、体中穴が開いてしまう。すぐに治癒魔法で止血をするが、第三撃が放たれようとしている。
(ダメだ……ポム吉は間に合わない……せめてあの目が俺を追い掛けなければ、攻撃の隙間に逃げ込めるのに……)
血を吐いたジャックは、再び真理の義眼を使おうとする。だが、目に痛みが走ったので、両目を抑えて蹲った。
「力の使いすぎだな……終いだ、ジャック」
無数の目がビーム光線を放つ仕草を見せる。光で輝いた目は、炎と氷でここら一体を照らそうとしている。
(痛くて……目が動かない……固まって動かない……早く和らげ……)
ジャックは瞼を閉じることすら出来ず、少しも目を動かせない。激痛の余り、目から血が流れ、妙な幻聴まで聞こえる。
(目が固まる……動かない……少しも……動かない……動かない?ッ!その手があったか!)
ジャックは痛みというピンチの中で、圧倒的な閃きを得た。目は閉じたままだが、手を天に向けて突き上げ、魔法を放つ。
「サン.ライト!」
手から放たれた光は、ここら一体を広範囲で照らした。同時にビーム光線が放たれたが、その全ての目はジャックを目で追わない。ビーム光線を放った場所で、目線を一切動かさないでいる。
「こいつ!?光で目の機能を奪ったのか?目を焼かれてジャックの位置が分からない……」
目を瞑っているメタトロンだが、この魔法を使っている間は目を開けれないようだ。何も見えないメタトロンは、付近を音と気配だけで探っている。
「見えたよ……」
ジャックは、目を壊してまで真理の義眼を使っていた。未来を見たジャックは、首にビーム光線を受けた状態で、ビーム光線の隙間を縫って進んでいく。
「来る……感じるぞジャック……お前が物凄いスピードで来ているのが分かる……見えなくとも風を感じる」
メタトロンの周りにある数百の目がギョロと動き、ジャックを目で追い掛けた。ジャックはビーム光線を食らい、胴体が真っ二つに斬れた。
「フッ……」
しかし、上手くいったかのようにニヤッと笑っている。
「俺も感じる……お前の死を……強く感じるよ」
斬れた上半身は、そのまま前方に吹き飛び、メタトロンの首元にしがみついた。
「なっ!?」
「死ねよメタトロン……俺とアマノの為によ」
ジャックは、隠していたアマノの神器、天之月でメタトロンの首を搔っ切り、脳みそを突き刺す。
「あ……悪魔めッ……がはっ!」
メタトロンとジャックは、両目を瞑ったまま地に落ちていく。同時に、無数の目も朽ちて消滅した。
*
メタトロンは朦朧とする意識の中、ゆっくりと目を覚ました。それはまるで、悪夢から覚めたかのような酷い目覚めだ。
「ジャック!メタトロンが目を覚ましたよ!」
すぐ近くには、ジャックとポム吉が横たわっていて、離れた胴体をくっ付けて治療している。どうやら、死ぬ前に応急処置を終えたらしい。
「ああ……悪いポム吉……肩貸してくれ」
「おう!」
ポム吉に支えられながら立とうとするジャックだが、ポム吉が余りに非力過ぎてまともに立てない。
「やっぱいい。邪魔」
「しょんな」
自力で立ち上がるジャックは、地に這いつくばるメタトロンを見下ろす。だが、メタトロンはジャックに見向きもしないで、目の前に落ちている心臓二つに手を伸ばしてた。
「さ……サンダルフォン……心臓さえあれば……サンダルフォンを……」
氷で包まれた心臓の一つは、バクバクと鼓動を打っているが、もう一つは全く機能していない。
「こんなとこで……死ねるかよ……」
メタトロンは、顔をくしゃくしゃにして涙を流している。ボロボロの手で心臓に手を伸ばし、血を流したまま地を進む。
「生き残って……王になる……その時まで……死ねないんだよぉ!!!」
メタトロンが枯れた声で叫んだ瞬間、目の前の動かない心臓が刀で貫かれた。それを目の前にしたメタトロンは、絶望の目と表情に一変した。
「アマノの仇……取らせてもらう」
ジャックの強く握られた手は、刀を引き抜いて、メタトロンの心臓を貫こうとしている。メタトロンはそれに一切反応せず、死んだ目でサンダルフォンの心臓を見ている。心臓の傷からは血がドクドクと流れており、どんどんしょぼんでいる。
「待てジャック!殺す必要はない!やめるんだ!」
ポム吉が直感的判断でジャックを止めに入る。だが、ジャックは既に刀を心臓目掛けて振り下ろしている。間に合わないことを悟ったポム吉は、反射的に手で目を覆い隠した。
「……?」
「……フンッ」
だが、ジャックは刀を寸止めで止め、強く握られた指を一本ずつ丁寧に剥がし、刀をその場に手放した。代わりに、懐から取り出しだワイヤーでメタトロンを拘束し、落ちている心臓を拾う。
「ジャック?」
「殺せとは言われてない。勝てと言われたが、メタトロンを殺すことはアマノに命令されてない。こんな奴、アマノが居る黄泉の国に送りたくないしな」
「ジャック……」
ポム吉はホッとため息を着き、小さい手でジャックの頭を撫でる。だが、すぐに叩き落され、踏みつけにされる。ぺちゃんこになったポム吉は、虫のように手足をピクピクと動かした。
「て、照れちゃう……」




