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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第49話【幻想と現実】後編

 朝、心地よく日光を浴びたような気分で目覚めたマモンだったが、今にも死にそうなプロケルを見て表情を変えた。だが、声を荒げて怒る訳でも、悲しそうに泣く訳でもなく、ただ静かにプロケルに近寄った。近くに居た神々は、余りの恐怖で逃げることすらも出来ない。


「何やってる!早く逃げろ!」


 アイムの忠告は間に合わず、神々はゴミのように体をバラバラにされてしまう。そして、血濡れた手でプロケルを抱き寄せた。


「……だ、団長?」


 微かだが、プロケルはまだ意識があった。プロケルの震える子猫のような声は、マモンの表情をほんの少し和らげた。


「良かった。まだ生きてたか。助けてくれたのはお前だろ?」

「はい……私の心臓で……」

「悪かったな……先に死ぬような真似して……」


 マモンは、優しい表情でプロケルを撫でている。撫でられたプロケルは、安心した表情で精一杯笑った。


「良いんです……結果オーライですよ」

「お前は俺の一番の宝だ……必ず取り戻しに行く。その時まで、ゆっくりしてろよ」

「ありがとう……ございま……」


 プロケルは、マモンの裂けた胸を撫でるように触り、安らかに命を引き取った。プロケルの死を確認したマモンは、一瞬にして気配が変わる。黒い羽根が少し大きくなり、体の奥から湧き出るような膨大な魔力が体を包む。


「おい。早く逃げろ……邪魔だ」


 唾を飲み込むアイムは、神々の生き残りに避難を支持する。


「す、すまん。頼んだぞ」

「これを持ってけ」


 すると、神の一人が欠片を三つアイムに押し付けるように渡した。


「これは?」

「アヌビス様に預かってた。アイムがマモンと戦うだろうから、渡せって」

「感謝する」


 欠片を受け取ったアイムは、再びおぞましい魔力を放つマモンに目を向ける。マモンの頭をよく見れば、アイムと似た角が五本生えていた。その角は、マモンが魔神化したことを示す。


「こいつ……魔神化を……」

「どうしたんだアイム?一度俺を殺したんだ……恐れることはないじゃないか」

「ちっ……」

「最終バトルといこうじゃねえか」

「望むところだ」


 二人の魔神がぶつかり合うと、地面と空気が大きく揺らぎ、周りの物が全て吹き飛んだ。欠片の数が同じになったこともあり、力の差は同等に見える。


「フォティア.ラナ!」

「フォティア.ラナ!」


 ぶつかり合う炎の魔法も、威力スピード共に同等だ。そこから流れるように繰り出された体術も同等。しかし、アイムはマモンより余裕がなかった。何だが嫌な予感がして、気が引けない。


「面倒くせー!一気に始末してやる!」


 マモンが瞬きした瞬間、目の前に何十何百人のアイムが現れた。


「幻想能力か……」

「幻想は現実になる」


 アイム達は一斉にマモンに飛び掛かり、魔法や拳を振るう。既に、幻想は実体化しており、ただの分身として戦っている。数の暴力に押されたマモンだが、すぐに範囲魔法で状況を打破した。


「ベール.シャリン!」


 周りのアイム達は皆吹き飛び、そのまま背景に溶け込むように消えていく。


「まだだ!」


 再び幻想を創ろうとするアイムだが、拍子抜けした表情で唾を飲み込んだ。アイムがなぜそんな表情をしているか、分かっているかのようにマモンがニヤッと笑う。


「幻想攻撃はどうした!アイムちゃんよぉ!!」

「バカな……幻想が創れない。ま、まさか、奴に何かされたのか?」


 幻想能力を発動出来ないアイムは、慌てた表情で後退りをする。


「そのまさかだよ」


 ニヤッと笑ったマモンは、体から複数の自分を出した。それは、アイムの幻想能力そのものだ。


「な、なんだと……」

「お前の幻想能力は、既に俺の物となっているんだよ」

「くそっ!?フォティア.ラナ!」


 アイムは焦って魔法を放とうとする。しかし、呪文を唱えても魔法は出てこない。


「魔法が出ない……」

「残念だったな」

「シャドー.レイン!」


 だが、次に放った闇魔法は何の問題もなく放たれた。闇のカッターが幻想のマモンを切り裂き、アイムの戻れと無事戻って来る。


「使える魔法と使えない魔法があるぞ」

「全部使えなくしてやるよ」


 アイムは、使える魔法と使えない魔法がある違和感に気付き始めた。だが、原因や細かい所までは分からない。


「シャドー.レイン!」


 再び魔法を放つが、幻想や炎の魔法と同じように、先程使っていた闇魔法も使えなくなっていた。


「またか!?奴が幻想能力を使用しているのを見たとこ、魔法を奪う能力といったところか……魔神化で得た新たな能力……だな?」

「見れば分かるだろ……その通りだ」

「奪う条件は相手の魔法を一度体験することだろ?今奪われた魔法は俺が一度放った魔法だけだ」

「そう……逆にいうなら、お前は一度しか魔法を放てない。戦えば戦う程、お前はフリになる」

「そんなのアリなのかよ」


 一瞬、後ずさりしそうになったアイムだが、悔しそうに下唇を噛み、体から魔力の腕を生やしてマモンに向かっていた。


「勝ち誇った顔しやがって!魔法を打たせなきゃ問題ねえだろ!」

「それが難しんだよ」


 またもや、マモンの体から無造作に幻想のマモンが現れ、実体化した状態でアイムに向かっていく。魔力の手で対抗するアイムだが、複数の魔法に苦戦する。一方、マモンは必要以上にアイムの攻撃を警戒している。


「やはり魔力の応用技なら奪われずに済むらしいな。これなら十分戦える」


 アイムは、デモの刀で幻想のマモンを蹴散らし、本体へと距離を縮めた。魔力の手でマモンの首を掴み、残った手でがむしゃらに連打を繰り出す。そして、素早くマモンの頭上に刀を振るった。

 しかし、真っ二つに斬れたマモンが背景に溶け込むように消えた。


「幻想!?いつの間に……」

「風魔法、ウェン.アモーレ」


 背後のマモンに気付いた時、既に手遅れだった。風の刃を受けたアイムの体は、横に真っ二つに斬れた。しかし、マモンも三発拳を貰う。


「痛てえな。まったく手が出るのが早いな。でも。もう戦いも終わる」


 アイムはすぐに体を血で繋げようとするが、もう少しの所で血がただの液体になってしまう。


「くそっ……この魔法もか……」

「そうだよ……お前の物は俺の物ってこと」


 体が半分斬れたままのアイムは、マモンのかかと落としを食らって地面へと叩き付けられる。上半身だけになっても、アイムは体を引きずっている。


「フォティア.ラナ!」


 上空から降りてくるマモンに恐怖したアイムは、反射的に魔法を放った。手から出た炎はマモンの体に当たるが、皮膚が焦げる程度で致命傷にはならない。


「まっ、魔法が打てた?慌てて放ったけど、奪われてた魔法が放てるぞ」


 アイムは、先程奪われたばかりの魔法を放てることに気付く。そこで、得意の幻想能力の使用を試みる。


「出ない……がはっ!」


 だが、幻想能力が発動出来ないまま、マモンの飛び蹴りを受ける。そこでアイムは考える。


(なぜ魔法が出た?この感覚……またフォティア.ラナが使えない。もし、奪われた魔法を取り戻すことが可能なら……何かそのトリガーを引いたんだ。幻想魔法は戻っていなかった……なぜ魔法を放てた……)


 死にゆく体に残るのは、マモンの奪う魔法の謎にたどり着こうという意思……すなわち、思考だ。右手はデモの刀をしっかりと握っているが、それは痛みを堪える為の行為だ。体から生える魔力の手も、次第に制御出来なくなっている。


(せめて……体を繋ぎとめる血の魔法を取り戻せたのなら……)


 そう思ったアイムの体は、血が再び動いて上半身と下半身を繋ごうとした。だが、それも一瞬で途絶える。


「取り戻していた?この魔法も……」

「何だ?気付いていたのか?魔法を取り戻せることに」


 マモンは、アイムの呟くような声に反応して、憐みの表情でその場にしゃがみ込んだ。


「まさか……攻撃をすること……それが魔法を取り返す条件……俺はお前を三回殴った。だから……新しく奪った魔法から三つ取り返せていた」

「おお!よく気付いたな!まあ、結局死ぬのには変わらないけどな」


 驚きの目を輝かせるマモンだが、すぐに憐みの目でアイムを踏み付ける。同時に、マモンも巨大な足に踏み付けられた。


「アイム!大丈夫か!」


 マモンを踏み付けたのは、炎の巨人スルトだ。複数の神々と共にこちらに向かって来ている。だが、マモンがスルトの足を持ち上げて出て来た。スルトはそのまま足を持ち上げられ、神々の方へと投げ飛ばされる。神々は、そのままスルトに押しつぶされた。


「テュポーンの奴……しくじりやったようだな。不意打ちは気分悪くなるぜ。なあ、アイム」


 マモンは多大な火傷を負っている。肩に手を当て、首の骨を鳴らし、這いつくばるアイムに不敵な笑みを見せる。


「巨人が来たということは、主神達が来てもおかしくない状況になってきたな。さっさと殺してやるよ、アイム」

「くそっ……こんなとこで……」

「じゃあな、アイム」


 マモンが放った魔法は、地面を大きく抉った。しかし、そこにアイムの死体はない。


「小娘が……男の勝負に邪魔しおって」


 上空には、アイムを抱えて飛んでいるルゼが居る。それに気付いたマモンは、舌打ちをして二人を追い掛ける。


「アイム様!しっかりして下さい!死なないで!」

「ルゼ……何で居る……」

「そんなことはいいから!気を確かに!」


 ルゼはアイムの治療を急いだ。治癒魔法を使い、アイムの離れそうな体をつなぎ合わせる。


「残念だったな」


 もう少しで体が繋がるという所で、ルゼの背後から聞こえた声が二人を絶望に落とす。抵抗する隙も時間もなく、ルゼもアイムも手刀で串刺しにされた。


「……!?」

「かはっ!?」

「仲良く死にな」


 アイムは、血を吐いて抱き着くルゼを見て、脳裏に死んでいったゼパルが浮かんだ。その姿が重なって見え、言葉に出来ない感情がアイムを襲う。


(どいつもこいつも……余計なお世話ばかりしやがる。勝手にしゃしゃり出て、勝手に死なれる……迷惑な奴らだ)


 アイムは、血に染まった顔から鋭く赤い瞳を見せた。その瞬間、マモンの胸に痛みが走る。


「く、かはっ!!な、なんだと……」

「ガキごとやる何て……」


 アイムは、ルゼの体を死角にし、ルゼごとマモンの心臓を刀で刺したのだ。左手でルゼを強く抱き寄せ、右手は怒りと血で染まっている。


「もう、あの頃の俺じゃないんだよ」


 アイムの泣きそうな瞳は、真実を受け止めた大人の瞳そのものだ。

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