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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第4話 【協力者】

「治癒魔法」


 アマノの手から放たれた不思議なオーラは、たちまち足の火傷を癒し、元の肌に戻した。

 隣でジャックがホッとし、レイは瀕死のアイムに駆け寄る。


「おい!死ぬな悪魔!!」

「ね、願い――」

「残念だけど急所を刺したわ。彼は数分で死ぬ」


 レイはあたふたし、アイムの傷を上着で押さえ付けた。瞬間、空から勢いよく謎の二人が降ってきた。


 一人は、白と金の羽衣のような服、首に金の月のような飾りを身に付けた金髪で中性的な男。もう一人はその男の後ろに立っている、小柄で背に白い羽根と頭に金の輪っかを身に付けた天使そのもののような女。


 男の手が触れている地面は、まるで液体のような輝きと波紋を生じさせている。ジャックは、二人が神と天使だと直感で理解した。


「間に合った!」

「あー、デモちゃん?間に合ってないかも。アイムちゃん死にかけに見える」


 男は振り返ってアイムの様子を見る。今にも死にそうなアイム、泣いているレイ。その状況を理解し、男は焦った表情を浮かべる。


「どうしよ」

「取り敢えず回復魔法で体を癒してみる」


 女はそう言って、先程のアマノのように手から不思議なオーラを放った。だが、アマノの魔法とは少々違い、傷を治す魔法ではなく、疲れや痛みを消す魔法だ。


「あれってサナスが言ってた協力者じゃない?」

「だとしたら悪魔を取られてしまう。それは絶対にあってはならない。私は約束は守るし、一度決めた事は必ずやる性格なの」


 アマノは、再びアイムに向かって光を放つ。だが、光は金髪の男の背中に当たり、あっさり弾かれてしまう。


「なっ!?今確かにあの男の背中に当たったのに」

「あの少女達か、アイムを倒したのは。そして君がアイムと契約した人間だね?ゼパル、僕は彼らに邪魔をしないでって説得してくるからアイムをどうにか頼むよ」

「了解しましたー!」


 男には圧倒的な余裕があった。アマノの攻撃は、男にとって危険じゃない。神の世界をあまり知らないジャックにも、男が強敵だと言うことは理解せざるを得なかった。


「僕の名前はデモ.ゴルゴン。気軽にデモって呼んで。君達の名前は?」

「言わない」

「そう、まぁいい。僕が聞きたいのは一つ、何で神である君と、人間である君が悪魔であるアイムを襲ったの?……え?人間?契約者はあっちだよね?人間の子と神が仲良しなんて面白いね。どういう経緯で共に時間を過ごしてるんだい?」


 掴みどころのない男――デモに少し困惑するアマノとジャック。そして、デモは人間であるジャックに少し興味があるようだ。


「私は依頼を受けた。悪魔界で禁じ手とされている人間との契約をしてる悪魔を探して捕まえろって。だからそこの悪魔は捕まえるわ」

「なるほど、じゃあ見逃してくれない?勿論ただでとは言わないよ?」

「ダメよ」

「言っとくけど、負けるのは君達だよ?僕の方が強いし賢いし、何よりかっこいい!」

「ジャックは悪魔復活を阻止して。けど、もし天使に殺される覚悟がないなら逃げなさい」


 ジャックに迷いはなかった。言われてすぐにアイム達の方に向かって走った。


「勇敢だな〜、けど阻止させてもらう」

「神器、魔漂線まひょうせん!」


 デモがジャックに攻撃しようとした瞬間、アマノはワイヤーでデモを縛った。


「そんな!?……魔法が出ない!」

「さっき貴方の方が強いって言ったけど?撤回するなら今よ、あとかっこいいってセリフも」

「僕の方が強い。かっこいいは尚更、撤回の必要なし」


 デモはあっさりワイヤーを力で切断し、魔法陣から刀を取り出した。黄金でシンプルな形状な刀だ。


「最近神器使ってなかったから、君が使ってるのを見て使いたくなったよ。神器!名ずけて『デモ刀』!」

「刀が可哀想、自分の名前って流石にどうかと思う」

「そんな……凄くセンスあると思ってたのに」


 ガックリしたデモに、容赦なく刀を振るうアマノ。だが、デモは落ち込んだままアマノの斬撃を避ける。


 光魔法を刀に纏わせ、更にスピードを上げても、アマノの刀はデモには当たらない。アマノの斬撃は神業と言っていいが、デモの避ける技術はそれ以上だ。


「主神に貴方のような神は知らない。貴方が何者か知りたい。そして貴方は頭一つ抜けた強さだけど、私が逃げる理由にはならない。光魔法、月読光つくよびかり


 地面が揺れ、地面から大きな月の形の光が二つ、デモを挟む位置で現れた。二つの月は、デモを高速で挟む。

 その速さは生物が反応できる早さではなかった。


「普通なら真っ二つだけど、思った通り死なないわね。でも、これで終わりじゃないから」


 口のように開かれた月は、デモを吸い込み、天に上がってく。


「貴方を捉えた月は、太陽に光の速さで向かったわ。8分後に燃えてさよなら」

「あれって最上級クラスの魔法だよね?」


 アマノはゾッとした。光魔法の月で捉えたはずのデモが、平然と後ろに居たからだ。慌てたアマノは、反射的にデモに刀を振るう。だが、当然の如く受け止められる。


「大技放っても魔力に余裕がある。すごい魔力量だ」


 デモはアマノの足を踏み、アマノを押し倒した。


「動かないで、動いたら……分かるよね?」


 アマノは、さっきと打って変わって、笑顔のデモに殺気を感じた。動けば死ぬことを当然のように悟る。

 地面に尻もちを着き、身動きが取れないアマノに、デモの手が迫る。


 *


 アマノがデモと交戦している間、ジャックはアイム復活を阻止しようとしていた。そして、アイムはどうにか死を回避しようとしていた。


「ゼパル、回復魔法のおかげで少し楽になった」

「アイムちゃんがあんな子に負けるなんて思っていなかったよ」

「女と思って手加減してしまった。言っとくが負け惜しみじゃないからな?本当に俺は――」

「知ってる。アイムちゃんは優しいからね。偉い偉い」


 アイムは意識を取り戻し、女――ゼパルは、アイムを抱き寄せて頭を撫でた。


「止めろ、体を動かすな、傷が痛む。それよりレイ、早く三つ目の願いを言え」


 アイムは、本気で苦しそうにしながら、何が起こってるか分からない顔をしてるレイに声を掛けた。


「何言ってんのアイムちゃん!?楽にしたけど傷を治したわけじゃないの。あと数分の間に何とかしないと死んじゃうんだよ?」

「だから三つ目の願いを叶えるんだ。こいつの魂を喰らえば傷が癒える……それで死にはしないはずだ。だから早く言え」

「三つ目の願いは――」


 話が聞こえていたジャックは、慌ててアイム達に向かって走る。


「止めろ!!あんた幸せをドブに捨てる気かよ!」


 しかし、邪魔が入らない訳がない。


「坊や可愛けど……邪魔!」


 ジャックにナイフが三本飛んできた。ジャックは、手袋から出した神器でナイフを弾くが、ゼパルに睨まれて迂闊に近づけなくなる。


「レイとか言ったね?あんた三つ目の願い言わなかったらどっちにしろ私が殺すから!アイムちゃん死なせないで!」


 ゼパルはアイムを後にし、ジャックの前に立ちはだかる。


「こんにちはごきげんよう、私はゼパル。坊やはジャックって名前だよね?さっきあっちの子にそう呼ばれていたのを聞いたわ」

「邪魔しないで」

「こっちのセリフよ」


 目の前に居る天使は、ジャックにとって得体の知れない敵。だが、決して退きはしない。


 *


「今の聞いたろ?言わなくてもゼパルがお前を殺すってよ。早く言え」


 アイムの意識は朦朧としていた。


「三つ目の願いは……ロドニーに社会的にも身体的にも死んでもらうことだ!無論僕以上の絶望を抱いて!!叶えろぉ!」

「叶えました。よって魂貰い受けます」


 すると、レイが魂を抜かれたように死んで、体が崩れたように倒れた。同時に、アイムの朦朧としていた意識が正常に戻り、胸の傷が少し塞がる。


「フフっ、生き延びた。後は二人に任せよう」


 しかし、疲れていたアイムは再び眠りについてしまう。


 *


 アイムが三つ目の願いを叶えたと同時に、デモはアマノの首元触ろうと手を伸ばしていた。その瞬間、デモの首に何者かが鎌を振り下ろした。


「何!?鎌が折れた!?」

「ん?誰かな?」


 だが、デモの首が切れることなく、逆に鎌が折れてしまう。


「アマノ様!」


 執事姿に近い男は、アマノを抱えてデモから距離を取った。


「タナトス、余計なお世話よ。貴方が居なかったら今頃私はあの神に目潰しをしていたのに」

「すみません。取り返しがつかなくなるんじゃないかと心配で助けてしまいました」


 アマノは少し怒り、男――タナトスは、申し訳なさそうに下を向く。


「この街の死神か。そしてタナトス、君は今彼女のことをアマノ様と呼んだね?もしかしてアマノって、魔女の子のアマノかい?」


 デモは、アマノの名前に反応し、不気味かつゆっくりと立ち上がった。


「そうよ。もしかして、貴方も私が嫌いな神なの?」

「……いいや、むしろ逆。良く見ればこの街……そうか……良かった。仕方ない、今回は勝ってはならないね」


 デモは、独り言のように小さな声でブツブツと呟き、持っていた刀を魔法陣の中にしまい込んだ。


「ゼパル帰るよ。アイムは命を取りとめたし、魔界で助けよ」


 ジャックと戦っていたゼパルは、ジャックを吹き飛ばし、心配事があるかのようにデモを見つめた。


「なんで!?なんで今助けないの!?」

「良いから、僕を信じて」


 ゼパルは少しムッとし、羽根を広げてデモのとこまで宙を進んだ。


「……アマノ、アイムを殺さないでね?殺したら君の連れの人間とそこの死神を殺す」

「デモちゃん意味わからない!!これでアイムちゃん死んじゃったら私デモちゃん一生嫌いになるから」

「分かったよ。じゃ!皆の衆!ばいばぁーい!」


 デモとゼパルは、何かしらの魔法で、どこかに飛んで行ったように姿を消した。


「アマノ様、彼らは?」

「さぁね。けど、神の方はただ者じゃない。それよりタナトス、なぜ死神である貴方が街を出歩いているの?」

「私の仕事は死者の管理。最近、予定にない死者が多く現れたので調査しに来たのです。そしたら悪魔が絡んでたって訳ですよ」

「そう、じゃあねタナトス。私は忙しいの」


 アマノは、タナトスに冷たい態度を取り、ジャックの元に足を運ぶ。立ち去ろうとしたタナトスだったが、ジャックの姿が目に入り、二度見した。


「ジャック大丈夫?」

「大丈夫」

「アマノ様?その人間の子どうしたのです?」

「まだ居たの?ついこの前拾ったのよ、分かったら帰って」


 タナトスは、口を開けたまま困った素振りを見せる。そして、何度かジャックの周りをうろちょろして、頭を抱えてどこかに飛んで行った。


「誰?」

「この街の死神タナトス、私の執事同然の奴よ」

「そう。それよりアマノ、あの人間、結局願いを叶えやがった」

「仕方ないわ。貴方はあの愚かさを反面教師にしなさい。貴方が彼の死から学べば、彼の死に少しは意味を持たせることができるわ」

「……うん」


 ジャックは、死んだレイを見て少し複雑な気持ちになった。悔しいような、悲しいような、ジャックの知らない感情が、ジャックを深く考えさせた。

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