第46話【閉ざす者】前編
サタンが死んで一ヶ月が経とうとしている。奇石団の襲来に身構えていた神々は、期間が経って拍子抜けしている。それでも、奇石団の調査は以前変わりなく続いてる。
「大分慣れたわね」
「まあ、まだまだだけど」
アマノとジャックは、自然豊かな広場で稽古をしていた。二人共、ここ数週間ずっと片目に慣らす訓練に励んでいたのだ。
「休憩にしましょう。今日もおやつ持ってきた」
「やったー!」
休憩時間になると、ジャックはふと考えてしまう。このまま幸せなひと時が続いてくれないかと。勿論、クルーニャとけじめを着けたり、奇石団との因縁のことも考えてはいるが、こうも穏やかな日々が続くと、そう思ってしまうのは仕方のないことだった。そもそも、アマノと出会った数日は、二人きりの平穏な生活が続くと思っていたのだから、そう考えてしまうのは必然的だ。
「照れちゃう!」
「げっ!?美味しい匂いに釣られて変なのやって来た!おやつ隠せ!」
「そんな!?」
ジャックは、おやつ目当てで走って来たポム吉を捕まえ、近くの木に括り付けた。
「頼むアマノ!一口だけ!」
「どうしよかな~」
「アマノ様!何でもします!」
「いいねいいね。だんだん命乞いが上手くなってきたね」
「照れちゃう照れちゃう」
「命乞いなのか?」
ポム吉を楽しそうに弄ぶアマノを見るのが、最近のジャックの楽しみだった。いつもとは違う、少し意地悪で楽しそうなアマノが見れるのは、ジャックにとって幸せ以外の何者でもない。
「命乞い……確かに上手だな。俺達にもしれくれるんだろ?」
そんな幸せが突然と消え去る。冷たい空気が日光を遮ったと思えば、背後に二人の天使が舞い降りた。二人の天使――メタトロンとサンダルフォンは、天使の如くその場に足を付け、ネズミを見る猫のような目でジャック達を見下ろした。
「嘘!?何で急に!?」
「ジャック逃げるよ!コース.レゼン!」
瞬時に状況を理解したアマノは、転移魔法でジャックと共にその場から姿を消した。それを見たメタトロンとサンダルフォンは、お互いに目を合わせて嘲笑うように鼻で笑う。
「置いてかれたなバカ吉」
「違う!ポム吉だ!」
木に縛られたままのポム吉は、強気にメタトロンと話す。
「お兄ちゃん、こいつ凄いやらしい熊なの……私の胸に飛びついてペチャペチャいう変態な熊なの」
「何だと?胸でペチャペチャ?こいつッ……」
ポム吉はメタトロンに首根っこ掴めれ、炎が纏われた右手で秒で燃やされる。しかし、灰が一か所に集まって再びポム吉が復活する。
「そうだった。こいつ不死身だった……」
「ほわあああ!たしゅけてええ!」
「まあいいさ。どっちにしろジャック達の行き場は予想がつく。俺達と戦う為、欠片を取りに主神達の所へ行っただろうが、向こうも向こうで大変だろうな。なんせ、何個かお宝を頂いたからな」
メタトロンがポム吉に見せつけたのは、きらきらと輝く三つの欠片だ。サンダルフォンも同じく三つ保持している。
*
アマノが転移したのはスサノオの場所だった。助けを求めて逃げた場所だったが、目の前に広がる光景は余りにも絶望的だ。発展した都市が炎に包まれており、複数の魔獣が大暴れしている。
「スサノオ、これどういうこと?」
「内通者だ。ここ一ヶ月襲撃がなかったのは、内通者が複数の都市に魔法を仕掛けて準備していたからだ。さっき入った情報によれば、欠片も何個か奪われたらしい。今ある欠片は全部で15個。ギリシャと北欧のが取られた」
スサノオが率いる日本の神や天使達は、悪魔達と協力して民間の避難と魔獣退治を行っている。そんな混乱の中、冷静にアマノに情報を伝えた。
「内通者?」
「内通者は……ロキだった」
*
数分前のこと。
ゼウスはロキに呼ばれて北欧神話の領域に訪れていた。
「こんな所に呼んだってことは、密談しないといけない話なんだろうな?」
「内通者が分かった」
ロキは、背を向けたままポツリとゼウスの気を引く内容を口にした。
「何だと!?一体誰だ!?」
案の定、ゼウスは目を丸めてロキの肩を引っ張る。同時に、ロキの手刀がゼウスの胸を突き刺す。
「がはっ!?」
「それは僕だ。奇石団と通じていたのは、このロキだ」
「貴様!?」
だが、ゼウスの体は雲状態になってロキから距離を取った。
「瞬時に心臓の位置をずらしたか」
「残念だったなロキ……仕留めきれなくて」
「良いんだ。君のくだらない命より、もっといい物を貰ったから」
ロキが手にしているのは、小さな巾着だ。その巾着からは、複数の欠片が顔を出している。
「それは!?」
「テレポーテーション、バーイ」
その巾着は光を放っており、ロキの手元から消えてなくなる。
「まさか送ったのか?奇石団に?」
「そう。宛先は奇石団の団長さん」
「なぜこんなことを?やはりオーディンの弔いか?」
「そうだね。オーディンを身勝手な理由で殺した君は、今でも民衆にずっと嘘をついている。けど、僕が民衆に真実を言っても、信頼は君の方が高い。誰も僕を信じないなら、僕も身勝手に生きる」
踊るように歩くロキだが、表情は一切笑っていなく、黄昏たような目が固まったままに見える。ゼウスは傷を治癒させながら、不気味に踊るロキを警戒している。
「オーディンはあの日、アマノを神としての申請を通した。異例の状況なのに、我々主神の誰にも話を通さずに……。それに、殺したのはギリシャの神だが、儂の命令ではない」
「どっちでもいいさ。大事なのはオーディンの死じゃない。君がオーディンを悪者扱いしたままで、民衆にもそれを信じ込ませていることだ。君はオーディンを気に入らなかったらしいけど、僕も君が気に入らなかった。だから、我々北欧の神々は奇石団に協力してみることにしたんだ。オーディンを悪者扱いする民衆なんて、守る必要ないからね」
「貴様!?北欧の者まで巻き沿いにしたのか!?」
「そうだよ……今日で神々は滅ぶだろう。閉ざす者によって、世界は一時的な終焉を迎えるんだ」
ロキのパンっと叩いた手から、音の衝撃波が広がる。それに怯んだゼウスは、怒りと憐れみの目でロキを睨んだ。
*
神界の大都市では、怪物テュポーンがマモンとプロケルと共に破壊を繰り返している。神々や悪魔達が強力してテュポーンを倒そうと挑むが、誰も彼もがその力に吹き飛ばされる。
だが、そこに突風と共に救世主現る。一人は魔神アイム、もう一人は炎の巨人スルト。神々はスルトの突風によって、遠くに吹き飛ばされる。
「やはり巨人を保持していたのはお前だったのか……魔神アイムよ」
「デモの刀、返してもらう」
「カモンベイビー」
アイムもマモンも、お互いの化け物の頭上に乗っている。そして、スルトとテュポーンがぶつかり合うと、アイムとマモンも羽根を広げてぶつかり合った。アイムはマモンの能力を警戒しながら、得意の体術で攻撃をし続ける。当然、マモンはそれに合わせて攻撃を仕掛けるが、攻撃すればする程、アイムとの打撃数に差が付く。
(俺の欠片は三つ……。恐らく奴と同じ……だがこの感覚なら勝てる!後ろのプロケルが割り込んで来なければこのまま勝てる!奴の気が変わる前に倒すんだ!こいつはもう、魔神になった俺の敵じゃない!)
内心、慢心していたアイムは、少しの焦りに押されて手数が多くなる。それに気が付いたマモンは、手数を減らして受けと交わしに徹底する。
「何焦ってんだ?魔神になったからもう俺は敵じゃないって?」
「ちっ、そうだよ!もうお前は俺の敵じゃない!」
「あちゃ~。それ言われたら言い返せないぜ」
一瞬の隙を盗み、距離を取ったマモンは、手元から複数の手足を出現させる。手足はふわふわと浮いており、その全てがアイムを無慈悲に襲った。攻撃を受けたアイムは、宙で身を捻って受け身を取る。
「手足?」
「俺の魔法、ワスター.プランダーは印を付けた物を手元に転移させるだけでなく、ある程度操ることが出来るんだぜ。この手足はさっきやっつけた神や悪魔達の物だ」
「まだ能力隠してたか……」
「そしてこんなことも……」
複数の手足から放たれたのは、炎や雷と言ったシンプルな魔法だった。だが、距離が近すぎて避けることは出来ずに攻撃を受ける。
「魔法だと?」
「手足に残ってる魔力で出した魔法だ。安心しろ……もう魔法は出せない。そして手の内は全て見せた。これがどういうことか分かるか?」
「……ッ?わっ、分からない」
「万策尽きた。今の俺ではお前に勝てないということ……だから……」
「だから?」
緊迫した空気の中、アイムとマモンはお互いに目線を外さない。先程の手足の攻撃もあって、アイムも迂闊に間合いを詰めようとはしないよだ。
「プロケル助けて!この小僧強い!欠片全部くれ!!」
鋭い目付きをしていたマモンだが、一瞬にして情けない態度を見せて背後のプロケルに助けを求めた。アイムもプロケルも拍子抜けた表情になり、緊迫した空気も吹き飛んでしまう。
「おい!欠片増やすのずるいぞ!」
「うるせえ!魔神になったからって調子乗りやがって!俺結構負けず嫌い何だぞ!」
「なら尚更だ!」
アイムはマモンの情けなさを目にし、警戒を解いて瞬時に距離を縮めた。焦ったマモンは、プロケルを抱えて飛び回る。
「プロケル早くしろ!三つ全部だ!お前は隠れてていい!」
「それなら私も手伝いますが……どうしても一人で倒したいのですね?」
「そうそう!分かってるじゃんか!流石俺の可愛い嫁ちゃん!よーちよちよちっ!」
「照れます……さっさと行って」
「あいよっ」
マモンに猫の様に撫でられたプロケルは、少し頬赤くして欠片を全て渡した。欠片を受け取ったマモンは、プロケルを後にして追って来ているアイムに向かっていく。
「何!?早い!?」
アイムはマモンの圧倒的な素早さに翻弄され、刀で体を切り裂かれる。血の付いたデモ刀を振るうマモンは、アイムの呆気に取られた表情を見て悪魔の笑みを浮かべた。
「第二ラウンドだ」




