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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第43話【秋の空】前編

 ジャックは、アマノと共に温泉へ繋がる廊下を歩いていた。ジャックの居る城はとても広く、温泉への廊下も広々としている。


「おい!」


 だが、背後から現れたアイムによって首根っこを掴まれた。


「何だよ!」

「何逆ギレしてんだよ。透かした顔で女湯入ろうとすんな」

「何だと?」

「この状況でまだ睨むか」


 ジャックは、アイムに捕まったまま羽根を広げ、じたばたと暴れる。


「ルゼも居るんだ。お前はこっちだ」

「わぁ!?そんな!!アマノ!助けて!アマノー!」


 結局、ジャックはアイムに担がれたまま男湯へと連れてかれる。しょんぼりした様子で、仕方なく服を脱ぎ、アイムの目線を気にしながら大きなタオルを羽織って先走って行く。


「何だあのエロガキ、俺の方チラチラ見やがって」


 アイムも軽く舌打ちをして、ジャックが向かった扉の向こうへ行く。


「すげぇ」


 ジャックは立ち尽くしていた。周りにふわふわと浮いた光があり、霧がかってて神秘的な空間が広がっている。


「何ボケっとしてんだ」


 アイムに声を掛けられ、ジャックは身震いをし、羽根を広げて奥の方へと逃げて行った。


「まだ怒ってんのか」


 ジャックはアイムから離れた先で、周りを確認してから湯に浸かった。


「最高……ほんとはアマノと入りたかったけど、まぁいいや」

「お前は母親と風呂に入るガキか」


 だが、安心したのも束の間、聞きなれた声が霧の奥から聞こえた。


「誰だ?」


 ジャックは羽根で体を隠し、警戒していつでも逃げれる体制を取る。


「なぁに、何処にでも居る悪い大人だ」

「ほっ、クルーニャか。何でこんな場所に居るんだ?」


 霧から姿を見せたのは、のぼせたように見えるクルーニャだ。どうやら、随分長い間湯に浸かってたらしい。


「お前女なのか?羽根で体隠して……女々しいな」

「違う。ただ見られなくないだけだ。別に良いだろ」

「ああ。いいけど、お願いを聞いて欲しいんだ」

「お願い?」

「今神界を出歩いても安全な状態なんだろ?」

「民主の目があるから、完全に安全って訳じゃないけど、まぁ、それなりに」

「今夜俺が指定した場所に来てくれ」

「何で?」

「今は言えない。ただ来てくれればいい。安心しろ、悪いようにしない。心配ならアマノを連れて来てもいいぜ」

「……分かった」


 ジャックは、あっさりお願いを引き受けた。それは、クルーニャが何度かジャックを助けたことと、これまで致命的な危害を加えて来なかったからだ。


 *


 一方、女湯の方でも、アマノがサタンに出会っていた。当たり前のようにサタンの背中を洗っており、普通に会話を交わしている。


「良かったな。これで一安心だろ」

「アイムのおかげね。まさかここまでするとは思わなかったけど」

「アイムは凄いぞ。奴はジャックに似てると思わないか?」

「まぁ、言われて見れば。怒りやすい所とか、人見知りのとことか、何か無口な子供って感じ」

「ハハッ!無口な子供か……分からなくもない。奴ら目を合わせて話すタイプじゃないからな」


 サタンは笑いながら泡を流し、アマノの背後へと回って役を交代する。


「貴方もアイムを手伝ったって聞いた」

「あぁ、希石団が巨人連れて魔界へ来た時少しな」

「ねぇ、まだ魔界を狙ってるの?」

「狙っているぞ。けど、希石団が暴れてる間は私も表には出ないな」

「落ち着くのを待つの?」

「あぁ、デモや希石団のおかけで、目的である神と天使の滅亡を達成できそうだ」

「本当にそんなことするの?」

「する。なぜ確認を取るのだ?」

「貴方はもう、そんなことをするように見えない」


 アマノは泡で目元が隠れたまま、真理の義眼でサタンのことを見ていた。


「まぁ、女心は秋の空だ。その時々で変わるかもな」


 サタンは強気にそう言い、話を誤魔化すようにアマノの髪をわしゃわしゃと洗った。そして、ニヤッと笑って胸を持ち上げるように触った。


「ちょっと!」

「小さめだな」

「揶揄わないで」


 アマノは頬を赤くし、サタンの手を振り払って湯へ入って行く。体を流し終えたサタンは、そんなアマノに優しく言う。


「ジャックを大切にな」

「言われなくとも」


 二人が目を合わせずに言葉を交わしたその瞬間、アマノの胸元に何か当たった。


「ぺちゃ」


 アマノの胸元に居たのは、湯に浸かっているポム吉だ。ポム吉は秒で蹴られ、男湯へと吹き飛ばされた。


「ほわあああぁぁ!!」

「エロ吉、いつの間に来てたのか」


 ポム吉はジャックの頭に着地した。ぬいぐるみなのに湯に浸かった為、水で重くなっている。


「ジャック、たっ、たしゅけて」

「ぺちゃんこの刑だ」


 ジャックはポム吉をボロ雑巾のように絞り、水のない元の状態へと戻す。


「お前のあだ名はポム雑巾だ」

「しょんな!?」

「後で体を拭くのに使ってやる」

「ぜひ頼む!」

「やっぱトイレ拭きに使う」

「そんな!?」


 ポム吉を十分揶揄ったジャックは、温泉効果もあって嬉しそうだ。


 *


 その夜、ジャックはクルーニャに言われた通り、指定された場所まで来た。ジャックが居た城から大して離れていなく、入り組んだ都市のような場所で、誰も通らないような古びた屋根の上だった。


「一人で来たんだな」

「うん。アマノには街並みを見てくるって言った」


 実際、ジャックは周りの世界観に見とれていた。人間界とは一線を超える美しさは、まさに神の領域と言える。

 同時に、その景色に慣れてしまうのが勿体ないとも感じる。


「お前を呼んだのは俺じゃない」

「は?じゃあ誰が――」


 ジャック同様、風に煽られて黄昏れるクルーニャは、もう話を聞いておらず、タバコのような物を吸い、他人のような顔をしている。

 そんなクルーニャに何か思うより先に、ジャックは近くで突っ立ている女性に気が付いた。

 女性――サタンは、美しい黒髪を靡かせ、宝石のような輝きを放つ瞳でこちらを見ている。


「サタン?あんたが俺を?」

「少し話をしたくてな」

「話?」

「たわいのない話だ。近くに来てくれないか?」


 甘い誘惑のように見えた。とても怪しいし、何か企んでいるのでは?という考えも過ぎっている。

 それでも、ジャックは見えない何かに背中を押されてサタンの近くまで来てしまった。


「久しいな」


 サタンはジャックの頭を撫で、母親のように身を寄せて温度を確かめた。正直の所、ジャックもそれが心地よかった。

 サタンが言った「久しい」が、数週間や数ヶ月程度の久しいではなく、何年も会っていないような言葉に聞こえる。

 この時、ジャックは気付いていないが、サタンをアマノの次に信用仕切っていた。そう、無意識なのだ。


「夕食は食べたのか?」

「食べたよ。めっちゃ豪華だった。見たことない食べ物もあったし、飲み物なんて飲めばもっと飲みたくなるような物があったし、どれもこれも凄かった」

「それは残念だ。ジャックが好きだと聞いて持ってきたんだかな」


 サタンが魔法陣から取り出しのは、何処にでもあるようなクレープだ。ジャックはそれに反応し、驚いたように少し口元が動いた。


「欲しい」

「ふふっ、デザートは別腹だもんな」


 二人はクレープを口にしながら、ゆったりとたわいもない話をする。屋根を囲ってる鉄格子によしかかりながら、街並みを見下ろして食べるクレープは格別だった。


「はははは!学校行ってたのか?」

「一年だけ。お金なかったからすぐ止めたけど、あれは止めて正解。全然楽しくなかった」

「何となく想像出来る。友達出来なさそうだし、勉強とかサボってそうだ」

「何で分かるんだよ」

「分かるさ。私も同じタイプだから」


 話し始めはぎこちなかったジャックだが、徐々に話が盛り上がり、楽しい表情で親子のように話が進む。

 結局、一時間近く話し込んでいて、その頃には笑顔が自然に出ていた。笑顔を余りに見せない二人だからこそ、クルーニャはその光景に見とれていた。タバコを吸う動作すら忘れるくらい、がっつりと見とれていた。


「え?今なんて?」

「もう私は神や天使の滅亡を望んでいない。魔界も狙ってないし、これからは静かに悪さをするよ」


 話が落ち着いてきた頃、サタンが突然口にした。クルーニャもそれに目で反応し、静かに耳を立てる。


「何で?何かあったの?」

「大人になっただけだ。昔、友人が理不尽な仕打ちを受けて死んだんだ。それがきっかけで神や天使に怒りを持っていたが、同じような奴らを見てるとバカらしくなった」

「その、同じような奴らって?」

「あー、アイムとかメタトロンとか……奴らバカぽくないか?」

「……ぷっ!はははは!バカっぽいってより、普通にバカだと思うよ」


 少しピリついていた空気が、ジャックの似合わない笑いでガラリと変わる。それを見て、サタンも柔らかい表情になる。


「そうだな。奴ら普通にバカだな」

「じゃあ、これからは普通に生きてくの?あー、ちょいちょい悪さして、気まぐれで生きる感じ?」

「子供が欲しいかな。最近、子供の成長を目の当たりにしたんだ。それが何とも美しくて、単純にいいな〜と思った」

「げっ、それを理由に俺を狙って……」


 ジャックは、冗談混じりの表情で一歩身を引く素振りを見せる。それを真面目な顔して見るサタンは、少し悲しい表情で首を横に振った。


「もう、私はお前を必要としてない。愛してはいるが、お前はアマノと居ないと成長出来ないから……私の元では成長出来ない」

「……じゃあ、もう理解者ってのは……要らないの?」


 ジャックも何だか寂しそうな表情を浮かべ、心配そうにサタンの顔色を伺う。


「実はもう居る。あそこでカッコつけてるでっかな子供……あいつだ」


 サタンは少し腰を下ろし、クルーニャを控えめに指差しながら、小声で囁くように言った。ジャックもクルーニャも、驚いたようにサタンの方を見る。


「今、なんて言った?」


 静まり返った中、クルーニャが拍子抜けた表情で聞いた。

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