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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第39話【魔神化】

 ゼウスが「魔神化」と言うと、観客に居た主神達が真っ先に反応した。そして、他の観客達も少しづつ反応し、不思議そうにする者も現れる。


「魔神ってのは、悪魔を超えた悪魔、悪魔の中の神、過去に七人しかなったことがないと言うあれだよな?」


 サタンもその言葉に反応し、疑問を持つ。


「魔神になった七人、それが七つの大罪と呼ばれた悪魔だ。魔神にはそれぞれの罪と呼ばれる力があり、それは角の本数で分かる」

「アイムは?アイムは二本だ。あれは何の罪だ?」

「憤怒、本物の魔王サタンも憤怒だった。初めて見たぜ……悪魔が魔神になった瞬間を」

「本物の魔王サタン……」


 サタンは涙を流した。クルーニャはそれを見て、意外そうに口を開いた。


「おっ、怒ると思ったのに……泣く程効いたのか?」

「そうじゃない……感動したのだ」

「感動?」

「私は魔王サタンの再来を見てる。昔、唯一の友人だった天使が一本の映画を見て泣いた。他人の話、それも作り物、それを見て感動できる友人が理解出来なかった。けど、ちょっと理解したよ」


 クルーニャは驚きを隠せない。サタンの似合わない涙を見て、引いてるようにすら見える。


「初めて感動したよ。他人の成長が美しいと思うよ。素敵な気分だ。だからこそ、同時に羨ましいと思う」

「羨ましい?」

「あぁ、アマノが羨ましい。日々こんな感動を味わえているアマノが羨ましい。他人の成長ってのは、自分の成長以上に素晴らしいものなのだな」

「お前、何か気持ち悪いぞ。そんなにアイムが気に入ったのか?」

「気に入った」


 サタンは涙を大量に流すと、赤子を見詰める母親のような表情でアイムの方に目をやった。クルーニャは、そのサタンの顔が忘れられなかった。ずっと眺めていたくなり、サタンの言った感動に近いものを覚えていた。


 *


 魔神化に成功したアイムは、虚ろな目でゼウスを見ている。ゼウスにとって、メドューサに睨まれたも同然だった。だが、アイムはゼウスを見ているというより、ゼウスの心の奥底を見ているように見える。


「まさか、さっきの夢みたいな世界、魔神化によって得た力か?」

「……」


 うんともすんとも言わないアイムの体は、徐々に治っていく。


(落ち着け。儂にはクロノス.タイムがある。それに、今は夢から覚めた感覚がある。音の攻撃を受けたと同時に夢から覚めた。つまり、攻撃を受ければ夢が覚めるということだ)


 ゼウスは冷静に物事を考え、雷霆を引きずってゆっくりとアイムの周りを歩いた。アイムは一切動かないが、それ故に危険さがある。


「時間を止めるクロノス.タイム」

「何!?」


 アイムが言ったことは、本人が知り得ないことだった。だからこそ、ゼウスは心底震えた。


(どういうことだ?時間を止める魔法を見破るだけならまだしも……なぜ魔法の名前まで分かっている?聞いたことがあるのか?いや、なら最初から警戒するはず……)


 警戒すればする程、ゼウスはアイムの手の平で踊らされて行く。


「どうした?来ないのか?俺はまだ体が不完全、瀕死の状態。例え俺が魔神だとしても、お前は全知全能の最強の神だろ?何が怖いんだ?」

「このガキ……」

「俺以上の力がたくさんあるのに、それを信用出来ないんだな」

「挑発したこと、後悔させてやる!」


 先に仕掛けたのはゼウスだ。アイムの射程距離に入ると、雲の状態のまま八人に分身し、雷霆をそれぞれ違うタイミングで振り下ろす。


(クロノス.タイム!)


 ゼウスは、今この場が現実世界だと確信していたからこそ、躊躇なく時間を止めれた。実際、ゼウスの確信通り、今はアイムの力の干渉を受けていない。

 当然、アイムは時間に干渉出来ないまま雷霆で叩かれる。


「何だ?感覚がない!?」


 ゼウスにはアイムを叩いた手応えがなかった。それでも、アイムの死体はすぐ下にある。感覚と視覚がごちゃごちゃだった。


「それも幻覚だ」


 またまたゾッとした。背後から聞こえた声は、ゼウスの体を縛るようだった。


(確かにここは現実世界。さっきの夢の、幻想の世界とは違う。はずなのに……幻想?今叩いたアイム自身が幻想ということか!?さっきは世界そのものが幻想だったが、次はアイムだけが幻想で創られた物なのか!?)


 全知全能と呼ばれるだけはある。ゼウスはすぐに謎に気付き、背後を振り返る。だが、アイムの姿はどこにも見えない。


「幻想、奴が魔神化で得た能力は幻想を創り出す能力。幻想世界に意識を持ってきたり、現実世界に幻想を創ったりする。なら、今アイムの姿が見えないのも幻想」


 ゼウスはすぐに目に魔力を集中させ、魔力の動きを見る。それでも、アイムらしき姿は確認出来ない。


「くそっ、魔力の動きすらも幻想で操っているのか?全然見えない。透明化の上位互換か」

「どぉした?時間を止めるか?それとも透過で凌ぐか?雷霆に頼るのもいいな」


 どこからか聞こえる声は、ゼウスを少しづつ困惑と恐怖に包んでいく。


「ふんっ、たかが魔神化した程度で舐めおって」


 だが、ゼウスはその困惑と恐怖を吹き飛ばして、手から出した雲を周りに広げた。その雲は、アイムの位置を探っているように見える。


「捕まえた!」


 そして、その探りは成功する。隠れていたアイムを雲で掴み上げ、ゆっくりと縛っていく。


「がはっ!!」

「調子に乗ったからだ!」


 勝ち誇ったゼウスは、躊躇なく雲の手で雷霆を振るう。


「お前もな」

「なっ!?」


 背後から再び悪魔が囁いた。気付くと、ゼウスはアイムの音の攻撃を食らっており、あまりの激痛故、雲の状態を解除してしまう。


「幻想で創った物は実体化出来る。覚醒した能力を見誤ったお前の負けだ」

「くっ……」


 ゼウスの手元には雷霆はない。だが、既にアイムの背後に雷霆を持った雲の手が回り込んでいる。


(確かに見誤った。しかし、それは貴様とて同じこと。雷霆で止めを刺してやる!食らえ!雷霆!!)


 雷霆がアイムの頭に無慈悲に振り下ろされる。アイムの体はぺっちゃんこになるが、散っていった目がギラッと動き、ゼウスを睨んだ。

 頭は完全になくなっているが、体がまだ動いており、拳を固く握っている。


(まさか!?まだ意識を!?やばい!!透過もクロノス.タイムも間に合わない!)


 アイムの拳はただの拳ではない。魔力と血が纏われており、兵器ともいえる威力を放つ拳となっている。

 その拳は、止まった時よりも早く放たれ、無音の世界で強く放たれる。その拳を受けたゼウスは、意識が吹っ飛び、腹に大きな風穴が空いて、血塗れのまま倒れた。


「「「えっ!?えええええぇぇぇぇぇ!!!!」」」


 ゼウスの勝ちを確信していた観客達は、驚きを隠せない。誰も彼もが固まってしまい、目の前の真実を受け入れられない。

 そんな中、アイムは崩れた顔を血で固め、醜い姿で拳を天に突き上げた。そして、無言のままボロボロの目を横目に向け、観客席で涙を流しているルゼを見詰める。醜い悪魔は、天使のような微笑みでニッと笑って見せた。


「ゼウス様!!」

「早く医療班を!!」


 天使達は慌ててゼウスを運んで行く。同時に、他の天使達が武器を取って瀕死のアイムを囲った。


「よせ!」


 だが、一人の神がその場を収める。その神――主神のアヌビスは、他の主神と共にアイムの元へと寄って行く。


「間違いない……魔神化してる。こいつも大罪ということか」


 アヌビスはゆっくりとアイムに近寄り、その姿をまじまじも見詰める。


「約束通り、お前と連れの天使の子供の安全を保証する。勿論、お前は今後、希石団との戦いに参加してもらう。いいな?」

「約束通りじゃない。アマノとその連れの人間の安全も保証するのも約束に入っている。契約書にも書いてある。すっとぼけんな」


 瀕死のアイムは、崩れそうな顔を抑えたまま主神達を睨む。


「そうだったな。すまない。けど、魔女の子らが我々に協力しないと言ったら、容赦なく切るからな」

「それでいい」


 その日、アイムとルゼは神々のもてなしの上で、治療と食事を提供してもらい、神界にあるお城の一室で寝泊まりをした。


 *


 ゼウスとアイムの激闘の後、観客席に残っている者が二名居た。感動のあまり立てなくなったサタンと、それに付き合わされているクルーニャだ。


「まだ立たないのか?」

「立てない。私は、私が思うより人情に溢れているようだ」

「らしいな。寧ろ、普段のお前を見てる俺からすれば、その人情が狂気的に見えるよ」

「お前にはないのか?人情。心地よくて、素晴らしい物だ」

「あったよ。こう見えて人一倍」

「あった?今は?」

「ないよ」

「そうは見えないがな」


 サタンは、そう言ってクルーニャによしかかり、眠たそうに頬を撫でた。クルーニャの表情は固まり、サタン同様立てなくなる。


「ほんとにないのか?何にも興味無いフリして、その時を楽しむことだけが目的の男……何兆何億と生きてきたその体に、心や人情はないのか?」


 サタンは、あざとくクルーニャの胸を手で撫で下ろす。すると、クルーニャは頭に手を当てて息を荒くした。


「……触るな」

「何だ?もしかして心躍らせたか?」


 低く脅すように言うクルーニャを、サタンは気にせずに揶揄う。だが、クルーニャはサタンの手をとっぱらい、首を掴もうと手を伸ばした。サタンは反射的にその手を取り、身を守る為にクルーニャを押し倒した。


「お前、私に逆らったな?」

「離せ……それ以上触ると殺すぞ」

「何を苛立っている?」


 クルーニャに馬乗りしたまま、サタンは小さく首を傾げる。クルーニャは、アマノに触れられた時と同じ態度を取っており、何だか自分をコントロール出来ていない様子だ。


「ルナか?」


 サタンが口にした言葉は、クルーニャの力を奪った。


「なぜその名を?」

「過去に、魔法の使えない天才が居た話を私のお爺様から聞いている。お前がゼウスとの同期だと聞いて、私はピンッと来た。お爺様が言ってた……昔昔の話を」


 サタンは、クルーニャの耳元で甘く囁くように言った。そして、クルーニャも思い出す。その昔昔の悲劇を。


 *


 ゼウスやクルーニャがまだ子供の頃の話。


「水魔法の5!凄いな!5が出たよ!」

「すごーい!」


 神が通う学校で、魔法の適正検査を行っている。本に手を挟み、どの系統の魔法が使えるか、その魔法をどれ程扱えるを調べているのだ。


「五属性、全系統3以上!?雷に関しては5だ!」

「すげぇ!!」

「ゼウス君凄い!」


 その中で才能の有無が分かるが、ゼウスは歴史上見たことない系統だった。その逆も然り。


「えっーと、系統は……ない。魔法系統が出ない……それどころか魔力すらない」


 魔法系統がない生徒が居る。つまり、魔法を一切使えない神だ。ガッカリして絶望の表情を見せる少年――それがクルーニャだった。

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