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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第3話 【悪魔】 後編

 レイが悪魔アイムに出会って二日、母親は正常な精神状態を取り戻した。無論、二つ目の願いでレイの母親の精神状態を正常にした。


「来週には母さん帰って来れるって」

「やったー!」


 レイは、失われた生活を取り戻すことが出来た。それも、神でも仏の力でもなく、悪魔の力で。


「三つの願いを叶えないのか?」


 アイムが、満足そうにしているレイに囁いた。


「これ以上望むことはないさ、君には本当に感謝している」

「ロドニーをほっといていいのかよ?奴はヘラヘラ笑って生きてるぞ」

「許せない。けど、もう彼には会う事はないから」


 すると、アイムは新聞を取り出し、その新聞の記事をレイに見せつけた。


「今ロドニーは医者をしてる。しかも細胞の働きを解明したとか何とかでノーベル賞候補に名前が上がってる。世間の目はロドニーは良い奴、凄い奴って感じだ」

「だから何さ」

「ムカつかね?人殺しが医者だぜ?冗談にも程がある。それにさ、悪人なら最後まで悪人らしくして欲しいよな?更生とかしないで、破滅の人生を歩んで欲しいよな?俺がお前ならそう思う」

「……本当にあと一つ願いを叶えてくれるの?」


 躊躇しているような言い方で確認をした。アイムは、少し呆れたような表情を浮かべる。


「しつこいな、しっかり叶える」

「三つ目の願いは……少し考えさせて。今日一日くれ」

「どうぞお好きに」

「ロドニーに絶望を超えた絶望を味合わせたい。その為にじっくり考えるよ」


 レイは、怒りと憎しみで体を震わせ、怖い表情で家を出た。


 *


 街の公園を見て、懐かしさを感じたレイは、公園のベンチに座って考え込むことにした。


「悪魔か……冷静に考えてファンタジーだな。けどそのファンタジーに救われてる」

「ファンタジー好きなの?悪魔好きなの?」


 知らぬ間に、レイの隣に男の子が座っていた。黒い髪、変わった服装、中性的な顔、まさにファンタジーから出てきたような少年だった。


「まぁ、好きだよ。それよりビックリしたよ、いつの間にか居たから」

「じゃあ、悪魔の話聞いてくれる?お兄さん」

「悪魔?……いいよ」


 純粋な子供心から出たような、一方的な男の子の言葉。レイは、その純粋さに付き合うことにした。

 すると、男の子は何も書いてない真っ白の本を開き、書いてないはずの話を読み上げるように話を始めた。


「ある悪魔は力が欲しくて人間を唆す。人間の三つの願いを叶えるとその人間の魂を喰らえれるから。その願いを叶える事で魂を喰らえる『悪魔との契約』に、ある男が知らずに契約した。一つ目は殺された妹を生き返らせ、二つ目は精神異常者の母親を正常にし、三つ目は復讐に。男は二つ目で欲を抑えてれば幸せだった」

「……君、その話は……どこで知った……の?」


 明らかに今のレイと似た話だった。レイは、無意識に震えを起こし、目を泳がせて動揺した。


「三つ目の願いは叶えるな、これはあんたの為に言ってんだ」

「な、何なんだ君は!?君!?人間なのか!?」


 男の子――ジャックは、無邪気な少年から一変し、キツイ言葉を放った。

 そんなジャックを気味悪がり、レイはジャックから一歩距離を取る。


「質問してるのはこっちだ。俺はあんたがどうなろうとどうでもいい。それでも、あんたが自分を見失っているから手を差し伸べた。もう一回聞く、人殺しになりたいのか?」

「うっ、うるさい!!子供である君には関係ないだろ!」


 レイは、そう言って逃げようとする。しかし、ジャックがレイの首を掴み、何度も腹を殴る。


「痛い!!君も人殺しになるぞ!?マジで死ぬって!!」

「俺はとっくに人殺しだ。どうせ悪魔に魂を売るなら、俺があんたを殺しても良いんだ」


 レイは、ジャックの目と表情を見て思った。


(この少年は人間じゃない。例えるなら、そう、まるで、いやまさに……悪魔だ)


 ジャックに恐怖を感じたレイは、激しくジタバタと暴れる。


「悪魔!!悪魔のアイム!!三つ目の願いを言いたい!その為にもこの悪魔をどうにかしてくれぇぇ!!」

「てめぇ!余計な事喋ってんじゃねぇ!」


 ジャックはもう一発レイを殴った。同時に、ジャックは何者かに蹴り飛ばされる。


「ちっ」

「悪魔?人間の子供……だよな?けど微かに神の匂いもする。そして俺が見えてる。何者か少し興味があるな」


 ジャックを蹴り飛ばしたのはアイムだった。レイが叫んだことでアイムが来たのだ。


(俺が勝てる相手ではない。かと言って下手に逃げるのは逆効果……時間稼ぎが最前の道だな)


 ジャックは、アイムを観察しながら距離を取る。アイムもジャックから目を離さず、観察している。


「まぁいい。それよりレイ、三つ目の願いを言うんだろ?言え」

「……その前に確認したい事がある。三つ目の願いを叶えた僕は君に魂を取られて死ぬのか?」

「それに答える事は三つ目の願いを叶えることになるが、宜しいかな?」

「くっ……」

「決定権は貴方にある。好きに決めて下さい」


 アイムの胡散臭い丁寧な口調は、レイに沈黙と思考の時間を与えた。だが、レイの決断はそう長くはなかった。


「決めたよアイム。三つ目の願いは――」


 レイが言いかけた瞬間、アイムの腹を光線が貫いた。アイムは、何が起きたか分からないまま、血を吐いて膝を着く。


「ぐっ、がぁ!」

「良く悪魔を見つけたねジャック。褒美として今日はご馳走よ」


 その透き通った声は、一瞬アイムを恐怖で縛った。そして、ジャックを喜ばせた。声の持ち主――アマノは、ワイヤーでアイムの体を縛る。


「な……あっ、貴方は?」

「私が見えるってことは、貴方が悪魔と契約した人間。死ぬ前に救えて良かったわ」


 レイは、震えが止まらなかった。一遍にいろいろ起きすぎて状況についてけない。

 ジャックは、そんなレイを哀れみの目で見ながら横を歩く。


「アマノ、こいつ三つ目を叶えたら死ぬことを知っても願いを叶えようとしたんだよ?喜んでやる価値ないよ」

「あら、それは残念。けどその愚かさが人間の良いとこよ」


 アマノとジャックが話している間、アイムは爪を使い、冷静にワイヤーを一本一本切っていた。


(このワイヤーに縛られてる今、何故か魔法が使えない。きっと魔力を抑制する神器なんだろう。だから頼む、俺の爪、早く糸を切ってくれ)


 だが、そんなアイムにジャックが目を光らせた。


「アマノ、こいつ爪で糸を切ろうとしてる」

「補佐官のサナスには殺すなとは言われていない。魔法で逃げられても面倒だわ。さっさと殺しましょう」

「そうだね」


 アイムは焦って手を止めた。こんな若い二人が、躊躇なく自分を殺すと思っていなかったからだ。


「やめろおぉ!!」


 だが、アイムの目の前にレイが立ちはだかり、アマノを止める。


「まだ三つ目の願いを叶えてもらえてない!」

「願いは自分で掴み取りなさい」

「それが出来ないからアイムに頼ってんだ!!」

「一度しか言わないわ。退いて」


 アマノが殺気を見せて尚、レイは退かった。しかし、ジャックがレイを蹴り飛ばす。


「ぐがぁ!」

「わざわざ言葉で説得させる必要ないよ、アマノ」

「そうかもね」

「ヘタレな人間だと思っていたが、神を前に一歩も引かない姿には関心したぜ。良くやったレイ!お詫びに三つ目の願いを叶えてやる!」


 レイが勇気を持ってアマノの前に現れた数秒は、無駄ではなかった。なぜなら、その間にアイムが糸を全て切り終えたからだ。


「ジャック下がりなさい。あの悪魔はかなり魂を喰っている。ハッキリ言って魔王に今最も近い悪魔だわ。まぁ、私が負ける相手ではないけどね」

「珍しい二人だが興味はない……本来なら女と子供と言うこともあり半殺しにするが、俺を殺そうとしたんだ……殺されても文句はねぇな?」


 アマノは素早く傘から仕込み刀を抜いた。しかし、アイムは刀を交わし、羽根を広げ宙を舞った。アマノも追いかけるように宙を舞う。


「火魔法、ソナ.スパティウム」


 アイムの手に小さな丸い火が出現する。しかし、攻撃する訳ではなく、アマノから逃げ回るように宙を舞う。


「ライト.ファロン!」


 当然、アマノに逃がす気はない。手から鋭い光を放ち、アイムを攻撃する。


「射程外ね、けど逃がさないわ」


 アマノが数メートル宙を進んだ途端、アマノの服が小さな爆発と共に火に覆われた。


「な!?」


 一瞬焦ったアマノは、素早く刀を振り、火を神業の如く消す。


「腕が焼けた……けど彼が攻撃した素振りはなかった。さっき放った魔法の効果だろうけど……どんな魔法か分からない。迂闊に動けないね」

「動かないのは懸命な判断だ。下手に動くとその自慢の綺麗な顔が焼けるぜ?そんな悲惨な光景を俺に見せないでくれよ?」

「やはり動くことそのものが魔法を発動させるトリガーに繋がっているのね?」


 そこでアマノは考える。


(けど私が燃えたのは数メートル動いた時、もし魔法の発動条件が動くことそのものなら私は動いた時点で燃えてるはず)


 考えた末、アマノはもう一度アイムに光を放つ。しかし、それも軽々しく避けられる。


「その魔法は早くて貫通力があるが、軌道が分かってんだ。避けれるさ。そして迂闊に動けないお前をいつまでも待つ俺だと思うか?」


 アイムは、アマノに向けて火の玉を放つ。シンプルで避けれる早さの魔法だが、迂闊に動けないアマノには嫌な魔法だ。

 そして、やむを得ずに攻撃を避けたアマノは、再び小さな爆発を体に受け、足が燃えてしまう。


「良し!食らったな?チャンスは逃さない!一気に黄泉の国に送ってやるぞ!!」


 アイムは、両手の爪を尖らせ、アマノに真っ直ぐ向かってくる。


「神器、魔漂線まひょうせん!」


 アマノは、熱さと痛みを我慢しながらワイヤーを振り回す。すると、何回かワイヤーが爆発して燃えた。そして、流れるように刀でアイムの胸を突き刺す。


「ぶはァ!!」

「貴方の魔法はトラップ系の魔法だと気付いたわ。貴方が私から逃げたのはトラップを張り巡らせる為、空中に置いた火魔法のトラップは何かに触れることで発動する。だから私は、ワイヤーで周りのトラップを発動させて安全を確保した 」

「こんなガキにこの俺が……ちくしょう………」


 アマノが刀を引っこ抜くと、アイムは羽根を広げたまま地に落ちた。

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