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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第38話【最強対最凶】後編

 観客達の驚きと歓声でいっぱいになっている。ゼウスがアイムをバラバラに叩き潰したことで、観客達は大盛り上がりだ。

 だが、同時に驚きでいっぱいだ。アイム同様、観客達にも分からなかったのだ。四人のゼウスが雷霆を振るった瞬間、その瞬間が全く見えなかったのだ。誰も彼も。


「見えたかクルーニャ?奴の攻撃」


 観客席に居るサタンもその一人だ。目を丸くして、クルーニャに問いかけている。


「見える訳ないだろ。恐らく奴の魔法だ。主神や最高神なら聞いたことあるゼウスの最上位魔法の一つ」

「知ってるのか?」

「ああ。俺は主神でも最高神でもないが、一応奴と同期だったからな」

「同期!?クルーニャお前、私より年下じゃなかったのか!?じっ、じじい!?」


 サタンは似合わない声で驚き、クルーニャの顔を掴んでまじまじと見詰める。クルーニャは嫌そうに眉間に皺を寄せ、すぐに手を振り払う。


「やめろ。神や天使の老けには個人差がある」

「にしても赤子みたいな顔してるな。性格的にも生意気なガキだと思ってた」

「それはお前だ。そんなことより、ゼウスの最上位魔法だ。聞いたことはないか?奴の父親、クロノスの使っている魔法」

「時間を操る魔法だろ?クロノスはデモ.ゴルゴンとの戦いでも使用していたな。まさか、ゼウスも使えるのか?」

「奴の息子だぞ。その片鱗を使える」

「片鱗?」

「確か……クロノス.タイム。時間を数秒止める魔法だった気がする」

「だから雷霆を振る瞬間が見えなかったのか」

「まぁ、賭けは俺の勝ちだな」


 バラバラになったアイムと、王者の如く仁王立ちをするゼウスを見れば、クルーニャの言う通りだ。クルーニャとサタンの賭けは、クルーニャの勝ち。


「ふふっ、アイムは私の惚れ込んだ男だ。奴にはジャックに似た何かがある。執念、狂気、意外性、逆境強さ……目的の為なら手段を選ばない一貫した考え、野望故の力がある。強い弱いを超えた、別の力。アイムの目的が何なのか知らないが、人の魂をあれ程食えるのは悪魔を超えた執念と精神力があるから。ここで死ぬような男には見えない」

「お前もバカだな……と言いたいとこだが、その通りかもな」


 クルーニャが目にしたのは、アイムの本質の奥を見たようなサタンの美しい瞳と、バラバラになった体を血で繋ごうとするアイムの醜い姿だった。


 *


 死ぬ訳には行かなかった。アイムの中にあるのは、死んだデモとセパル。そして、残されたルゼの姿だった。


「まだ足掻くか」


 ゾンビのように体を動かし、離れた手足を血で繋げようと必死だ。だが、余りにも傷を負っている為、血で繋ぐことも難しい。


「やめろ。それ以上足掻くなら本当に殺すぞ」

「死ぬかよ……る……ぜ……おで……ま……」


 ゼウスがアイムの顔を踏み付けると、脳みそが飛び散って骨内部がより見えた。普通なら死んでいるが、アイムは死なない。命とは別の何かで、生きているように見える。


『アイムちゃん!イケメンが台無しだよ!』


 きっと幻聴だろう。でも、アイムにしっかりと見えている。目の前で可愛らしい笑顔を見せる、死んだはずのセパルが。


「ゼパル?生きて――」

『もうダメだね。こっちに来る?楽になれるし、私と永遠を過ごせるよ』


 セパルは、崩れ落ちるアイムの顔を支え、汚い血や肉片を優しく撫でた。


「冗談じゃない」

『え?それって、こっちに来ないってこと?』

「あの時、お前と俺が出会ったあの時、俺は魔王になるって言ったけど……冗談じゃない。あの時、冗談と言ったけど、

 それは嘘。俺は魔王になって、俺のような醜い悪魔を生まない世界を創る」

『キャラじゃないね。そんな良い子ちゃんだっけ?アイムちゃん。それに、何でそんなことするの?』

「俺は孤児だ。俺がまだガキの頃、魔王サタンによって育てられた。魔王サタンがミカエルに殺られた後、俺達孤児は神や天使の奴隷になってこの世の裏側を見た」

『全然何言ってるか分からないんだけど』

「俺を何をしたいか分からなかった……今も……けど、分かってきた。俺はただ……少年の頃の俺を救いたかった……お前は悪くないって、肯定してあげたかった……だから、ルゼを救いたい……魔王になって、あの頃の俺のような子供達を救いたい……それが過去の俺を救う、唯一の道だから」


 ゼパルの言葉を借りるなら、キャラじゃない。アイムは似合わない言葉と共に、似合わない表情を見せる。醜い野良犬のような表情で、赤子のように涙を流している。そして、幻想のセパルに抱き着いたアイムは、次第に少年の姿になっていく。


『救いたかった。ならどうする?さよならする?私はアイムちゃんの理想の未来に居ないよ』

「さよならだ……」

『ほんとにいいの?』

「さよならだ!!離れろ!!」


 自分から抱き着いた少年のアイムは、自分勝手にゼパルを突き飛ばした。少し虚しそうにするセパルだが、すぐにニコッと笑う。


『今こっちに来ないと、もう二度と会えないよ』

「良いから去れ!俺に構うな!向こうへ行け!お前は……お前は……お前は今の俺には必要ない。けどけど……それとは別に…………ありがとう」


 アイムの表情は涙でぐしゃぐしゃになった。声と体は震えているが、感謝の言葉は真っ直ぐとゼパルに届く。


『こちらこそ』


 どこか物寂しい気なセパルは、アイムの額にキスをする。そして、何の未練もなさそうに美しい背中を見せて、その場を立ち去る。

 その背中に天使の羽根はなく、美しさだけが張り付いているようだ。


「終わりじゃ!!」


 夢から覚めたアイムだったが、既に終わりが見えている。ゼウスが瀕死のアイムに向けて、雷霆を大きく振るおうとしている。


「アイム様!!」


 確かに聞こえた。聞き慣れた観客席から子供の声が。目線を少しずらし、その声の主がルゼだと気付く。


「雷霆!!!」


 だが、気付いたその瞬間、雷霆がアイムの顔をぺちゃんこに叩き潰して、地面を叩き割った。


(俺が死ねばルゼはどうなる?あの時の俺のように、ルゼも酷い仕打ちを受ける)


 頭を潰されている感覚は、何故か懐かしい。それは、アイムが少年の頃、かつて魔界を支配していた魔王サタンから受けたゲンコツに似てる。


(爺、死ぬ前に思い出すのがあんただとは……最悪。苛立ちすら覚えるぜ)


 観客達から歓声が聞こえる。この試合一番の歓声が広がり、アイムの血や肉片も雷霆から広々と広がる。


「流石ゼウス様!」

「雷霆をまじかで見れるなんて!」


 観客達が大騒ぎする中、ゼウスだけは恐怖していた。その恐怖の正体が何か分からないが、今まで覚えたことのないゾッとした感覚が背中に張り付いているようだ。

 だが、その正体は少しづつ目に見えた。


「貴様!?その姿は……」


 アイムはゾンビのように立っていた。先程、確かにゼウスに叩き潰されたアイムだが、バラバラになった体が不器用に繋がっており、血が接着剤のようになって体の部位をやっとの思いで繋いでる。しかし、ゼウスが驚いたのはその姿ではなく、アイムの頭の部分を見てのことだった。


「そっ、その角は……」


 アイムの頭に角が二本……鋭く長めの角が立派に生えていた。その角には、血液のように赤の線が流れてるのが見える。


「こいつ!?雷霆!!」


 ゼウスは焦ったように走り出し、アイムに向けて雷霆を振るおうとした。


(クロノス.タイム!)


 同時に、数秒時間を止める魔法を使う。当然、止まった時の中を動けるゼウスは、アイムを雷霆で叩く。

 確かに、ゼウスはアイムを叩いた感触があった。それでも、アイムは虚ろな目を上に向けて背後に立っていた。

 再びゾッとした。


(確かに叩いた……確かに時間を止めた。儂のクロノス.タイムは、時間を止めるとすぐさま儂を中心に時間が動き出す。儂が触れた物から物へ時間が動く。その物ってのは空気も入る。だからアイムが必然的に早めに動けるのは分かるが、攻撃をするのに十分な時間を止めてるはず)


 ゼウスは動けなくなっていた。背後にアイムが立っていると言うのに、その足は思うように動いてくれなかった。

 だが、そもそもゼウスが見てる世界はアイムや観客達が見てる世界ではない。


「何だ?なぜゼウス様は動かない?なぜ動かないんだ?」

「動かないんじゃなくて動けないんじゃないのか?」


 実際は、ゼウスもアイムも動いていなかった。ゼウスは虚ろな目で雷霆を振り上げたままで動かず、アイムもバラバラになった体を繋ごうとしている途中だ。

 ゼウスが見ている世界と、実際の世界で唯一の共通点は、アイムの頭に角があることだ。


「はぁはぁ……生きてやる……死にきれねぇ……」


 アイムはやっとの思いで立ち上がる。バラバラの体を血で繋ぎ合わせ、人形のように関節がバラバラのまま立っている。


「アイム様!」


 天使の子供――ルゼは、観客達から身を乗り出し、アイムに向かって叫んだ。涙ぐんでいるが、ギリギリ生きてるアイムに一安心しているようにも見える。


「ル、ゼ……」


 アイムは虚ろな目のまま振り返る。目が合ったルゼは、再び嬉しそうに笑うが、背後から来た天使達に肩や手を捕まれ、連れてかれそうになる。だが、その天使達は見えない何かによって吹き飛ばされた。


「ルゼに触るな」


 アイムの角から赤い輝きが放たれ、怒りを顕にした。そして、ゼウスに目を向ける。


「体は雲の状態のままか……」


 アイムは指一本動かさない。まるで、動かすことがダメかのように硬直している。そして、素早く体から生やした魔力の手で、ハエを潰すようにゼウスを叩き潰す。手はゼウスを透けるが、その手から音を放ってゼウスに攻撃を当てた。


「がはっ!?」

「お目覚めか?全知全能の神様」


 ゼウスはフラつき、ゆっくりとアイムの姿を確認する。困惑していた表情が、一瞬にして晴れた。


「お目覚め?やはりさっきのは夢を見させる魔法?けどその姿、先程と同じ」

「凄いな。俺自身も気付くのに数分掛かったのに、よく現実じゃないと気付いたな」

「その姿……貴様……まっ、まさか……まっ、間違いない……魔神、魔神化したな!?貴様!!」


 ゼウスは思い出したかのように口を開き、腰を抜かして雷霆によしかかった。ゼウスからしたら、今のアイムの存在は、デモ.ゴルゴンの片鱗。いや、デモ.ゴルゴンの再来に思えた。

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