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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第37話【最強対最凶】前編

 サタンとクルーニャは、アイムとゼウスの戦いを見る為、観客席に紛れている。二人共、始まったばかりの試合に注目している。


「昨日ゼウスはアイムに助けられた。なのに決闘?意味が分からない」

「司会が言ってたろ。アイムは自分の安全を条件にしてこの戦いに挑んでいる。ほんとは助けたお礼として条件を飲み込んで欲しかっただろうが、民衆の目がそうはさせてくれないから、決闘を行ったんだろうよ」

「でも、負ければ死ぬだろ?神々がアイムを生かして返すとは思えない」

「死を覚悟の上だろう。奴は意外とギャンブラーなんだ」

「へえ、素敵ではないか。そういう男は嫌いじゃない。それで?どっちが勝つと思う?」


 横目でチラッと見詰めるサタンは、機嫌良さそうにして首を傾げている。クルーニャも、一瞬横目で表情を確認し、呆れたようにため息をついた。


「ケッケッケ、お前もギャンブラーかよ。賭けるか?どっちが勝つか」

「当然。私はアイムに賭ける。奴はデモ.ゴルゴンの仲間で、魔王亡き今、最強の悪魔だ」

「なら俺はゼウス。アイムも凄いが、相手が悪いな。アイムが最強の悪魔なら、ゼウスは最強の神。それも歴史上の神々を含めても五本の指には入る」

「……何を賭ける?」

「奴隷契約の解除。俺が勝ったら奴隷契約を解除しろ」

「良いだろう。なら私が勝ったら……そうだな……私の元にジャックを連れて来い」

「まだ諦めていなかったのか。ジャックを連れ出せば、アマノが敵に回るぞ」

「大丈夫だ。少し借りるだけだ」

「まあいいや。取り敢えず、賭けは成立だな」

「そろそろ始まるぞ」


 二人の賭けが成立した頃、アイムとゼウスの試合が始まろうとしていた。二人の間には、絶妙な緊張感が漂っている。

 観客席と戦いの場には、透明な魔力の壁があり、ほとんどの攻撃は防ぐ。つまり、思う存分戦えるということだ。


「それでは、全知全能ゼウス対邪神天悪のアイム!試合開始です!」


 試合が始まると、ゼウスの体が雲になってアイムとの距離を縮めた。それを待っていたかのように、アイムが炎を放つが、その炎はゼウスの体を透ける。雲が掴めないと同じことのように、ゼウスの体もあらゆる攻撃を透けてしまう。


「やはりか」


 だが、継続的に魔法を放ち、空中を逃げ回ることで一時的にその状況を凌ぐ。そして、すぐに雲を掴む作戦を練る。


(マモンはゼウスを追い詰めていた。つまり、雲を攻略したということ。雲状態は魔力の消費が激しいのか、単純にマモンがそれに対抗する力を持っていたのか……どっちにしろ俺なりの作戦を考えなくては)


 試行錯誤するアイムだが、それに水を差すような一言が入る。


「奇石団のマモンはどうやって儂の透過を攻略したか……そう考えていただろ?」


 心を読まれたアイムに緊張が走るが、だからどうしたと言わんばかりにゼウスに目線を送る。


「残念ながらアイム……奴は欠片を持っていた。そして、その欠片はどういうことか、儂の透過を無効化する力を持っていた。つまり、欠片そのものに透過無効化の力があり、マモン自身にはない。それどころか、この魔法は少量の魔力で継続できる。絶対に崩せんぞ」


 ゼウスの発言は、アイムを絶望へと導く。だが、アイムはまだ疑いを持っている。それは、ゼウスの言ったことへの疑いではなく、透過が攻略できないことへの疑いだ。


「どんな力にも穴はある。お前も分かってんだろ爺さん。つまり、あんたは透過攻略法を知っているが、その確率がゼロに近いから勝ち誇ったような態度を取っているんだ」

「そうだが……見つけたとでもいうのか?攻略法を」

「これから見つけるさ」


 アイムは、体から魔力で出来た腕を複数出し、その腕で探るようにゼウスに攻撃を仕掛ける。だが、当然の如くすり抜ける。


「儂との戦いを受けたこと……後悔したろ?安心しろ、その後悔、今この瞬間を持って終わりにしてやる」


 ゼウスが魔法陣から取り出した神器は、膨大な魔力と圧倒的な輝きとパワーを感じる。その神器がそんじゃそこらの神器じゃないと見破ったアイムは、警戒して身を空中に逃がした。


雷霆らいてい、通称ケラウノス」

「出すのかよ。伝説の神器、雷霆を……俺相手に」

「貴様相手だから出すのだ」

「そうか……それは光栄だぜ」

「さあ!来い!」


 アイムに恐怖や躊躇はない。一直線にゼウスに向かっていき、神器を持っている手に目を向けた。雷霆が素早く振られても、それを読んでいた動きで避ける。神器とゼウスの下をくぐり抜け、ゼウスの手元に蹴りを入れる。当然、蹴りは手元を透けてしまうが、雷霆を手元から蹴り飛ばした。


「ちっ、神器に触れている手元なら透けないと思ったのに……けど流石に神器には触れれるみたいだな」

「そうだ。触れるか触れないかはこちらが操れる。こんな風にな」

「なっ!?」


 アイムが態勢を取り戻す前に、ゼウスに蹴り上げられ、そのまま雲を大きくした手で体をがっちり掴まれた。アイムからの攻撃は効かないが、ゼウスからはいくらでも攻撃が出来るという理不尽の中、絶体絶命の状態に陥る。


「このまま捻り潰す」

「ああああああ!!」

「中々頑丈な奴だ……だがもう――」

「待て……」


 アイムの一言がゼウスの腕を止めた。


「何だ?命乞いか?」

「いや……悔しいが負けを認める」


 アイムが死んでも言わなそうなセリフをあっさりと吐いた。ゼウスもそれにガッカリしたようにため息を付く。


「だから殺すなと?」

「違う……お願いがある。俺と行動している天使……がはっ!?る……ルゼを……」


 途中でぼそぼそと何を言っているか分からないくらい小さい声になる。


「何て?言ってんだ?」


 痺れを切らしたゼウスは、アイムの口元に耳を近寄せる。


「か……め……」

「あ?聞こえないぞ」

「大馬鹿めって言ったんだ」

「は?何を言って――」


 瞬間、アイムは素早く深く息を吸い込んだ。そして魔力と力を込めて吐き出す。


「死んでたまるかあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 大声を超えた大声、咆哮以上の咆哮がゼウスの耳元で放たれた。音が体全体に染み込んできて、一瞬にして体にヒビが入って割れる程の威力。観客席に仕切られていた魔力の壁をも破壊してしまい、観客達も耳を抑えて蹲る者がほとんどだ。


「がはぁ!?」


 とうとう、ゼウスはアイムを離してしまい、雲の状態のまま一歩身を引いた。


「ケホケホッ。ははっ、流石に音は透けないようだな」


 首の骨を鳴らせ、スッキリした様子のアイムは、体から生やした魔力の手を不気味に動かす。まだ何か企んでいるようにすら見える。


「声に最大限の魔力を込めて放ったな?下手をすれば喉から自分自身が滅んでいたというのに」

「やらなきゃどっちにしろ死んでた。この戦い、リスク考えた奴から死んでくぜ」

「そうだな。だが、もう流石に先程と同じことは出来ないだろ?少なくとも喉は痛めているはずだ」

「そうかもな」


 ゼウスの体は、先程より治癒されている。完全ではないが、体中のヒビが小さくなっており、破れたであろう鼓膜も無事に見える。アイムもそれに気付いていたが、同時にゼウスの魔力が減っているのにも気付いていた。


「雷霆!」


 ゼウスが神器雷霆を振りかざすが、アイムはそれを華麗に避けて距離を縮める。アイムにとって、雷霆を避けるのはそこまで難しいことではないようだ。

 更に、魔力の拳をゼウスに振りかざす。当然、拳が透けてしまうが、ゼウスは血反吐を吐いて体をよろめかせた。


「がはぁ!?」


 観客達からは、何が怒っているか分からない。拳自体は透けて避けているはずだが、何故だか攻撃を受けているように見えるからだ。

 だが、攻撃を放ったアイムと攻撃を受けたゼウスにはハッキリと分かる。


「音?音魔法か?」

「当然。音が弱点と分かれば音魔法をバンバン使うのは当たり前だろ」

「くっ」


 ゼウスは再び一歩身を引くが、アイムもそれに合わせて距離を詰める。少しの余裕が欲しいゼウスにとっては、ストレス以外の何者でもない。


「逃げれると思うな」

「ちっ」


 ゼウスは魔力の手に警戒しながら、全ての攻撃を受けないように丁寧に避けていく。だが、とうとう魔力の拳がゼウスに命中する。


「なっ!?」


 しかし、拳は透けずに、そのままゼウスを吹き飛ばした。


「やられた」

「敢えて攻撃を受けるのも、逃げの手段だ」


 ゼウスが一呼吸したと思えば、逃げから攻めへと回る。


「さっきまで逃げてた癖に、次は自分から向かって来たか」


 アイムは、それをチャンスだと捉え、羽根と魔力の手を伸ばして迎え撃つ。ゼウスの動きは単調で、真っ直ぐ向かって来ている。その単純な動きは、一見最強の神と呼ばれる者の動きには見えない。アイムもそれを疑問に思いながらも、不意を着くように隠していた尻尾でゼウスの腹を突き刺す。

 当然のように、ゼウスは雲の状態になっていて、そのままアイムにぶつかって行った。


「何っ!?」


 その瞬間、アイムは音魔法を放とうとするが、一瞬の内にゼウスが四人に分身し、アイムを取り囲んだ。四人のゼウスは、全員が雷霆を手にしており、それを大きく振り下ろそうとしている。アイムからしたら、そこまで早い攻撃ではないので、避けるのは容易い。


「ぐがはぁ!??」


 だが、雷霆は既に振り下ろされており、アイムの体はバラバラになっていた。おかしかった……何かが明らかにおかしかった。まるで夢を見ているような感覚、時間が狂ったかのように感じる。

 確かに、雷霆は高く振り下ろされようとされていたが、その振り下ろされた瞬間が見えなかったのだ。余りにも早すぎた。スピードを超えたスピードは、アイムにとって謎でしかない。


「なぜ………?」


 バラバラになった体が見える。腕や足が自分の目の先にあり、脳みそや骨すらも視界に見えている。その絶望の中で、先程の雷霆の謎……頭の中は、その謎のことでいっぱいだった。

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