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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第34話【氷の天使】前編

 蛇に睨まれた蛙。クルーニャは、自分が蛙だと理解している。それでも、恐怖や戸惑いは一切なく、氷の壁から欠片を持ったジャックが来るのを静かに待っている。しかし、目の前の蛇がその静かさに水を差す。


「こいつの手を俺から剥がせ!なぜか分からないが魔法が使えない!」

「分かった」


 サンダルフォンはメタトロンの言う通り、クルーニャの手を剥がそうともう一発氷の塊を放つ。それに対しクルーニャは、冷静にメタトロンを氷の前に持っていく。


「アホンダラ」


 だが、氷はピッタリと止まり、球体から八つの槍のように変形した。変形した氷は、メタトロンを避けて背後のクルーニャを串刺しにする。


「アホンダラはお互い様だろ」


 クルーニャは、以前メタトロンを手放していない。だが、クルーニャの手からするりと抜け落ちるようにメタトロンが前のめりになって逃れた。


「兄ちゃん!」

「ケッケッケ……クレイジーなエンジェルだ」


 メタトロンの首の皮が雑に捲れていた。皮が肩の所で垂れ落ちれおり、片手には首の皮を剥いだ時に使ったと思われるナイフがある。クルーニャもすぐに手を伸ばしたが、氷の槍が体中に刺さって動けない。


「さっき奴に心臓を刺された……早く止血を……」

「お兄ちゃん流石!今治すよ」


 サンダルフォンは駆け足で、ふらつくメタトロンに近寄る。同時に、背後の氷の壁が割れてサンダルフォンの頬が斬れる。


「くそっ。避けられた」


 氷の壁から宙を舞って現れたジャックは、風に身を任せたままメタトロンを蹴り飛ばした。


「出たよ。いいタイミングで現れる。人間……ジャック」


 ジャックはサンダルフォンを無視し、瀕死のメタトロンにとどめを刺しに行く。だが、メタトロンも最後の力を振り絞り、突っ込んできたジャックの背中を蹴り、入れ替わる形でサンダルフォンの近くまで行く。


「早く来い!魔女の子も来てる!」

「頑張ったよ。もう大丈夫……私が居るから……私はすぐ近くに居る」


 醜く地面を這いつくばるメタトロンに寄り添そうサンダルフォンは、天使の鏡のような表情でメタトロンを抱き寄せる。メタトロンもくたびれた様子で覆いかぶさり、サンダルフォンの片手を両手で優しく握った。その様子を見ていたジャックは、自分の知らないメタトロンを見て気味悪そうにつばを飲み込んでいる。


「欠片……治療の時間はない。氷で……止血だけしてくれ……」

「もうしたよ。欠片はしかと受け取ったぜ兄ちゃん……後はこのサンダルフォンに任せな」


 サンダルフォンはそう言って笑い、背後から来たアマノの攻撃を氷の剣で軽々しく受け止めた。


「アマノ気を付けろ!そいつ欠片を二個所持している!」


 アマノは、慌ててジャックの元へと逃げる。だが、サンダルフォンはメタトロンを抱えたまま、逃げるアマノをしつこく追い掛けた。その表情は満面の笑みで、執念を感じる程狂気的だ。


「ジャック逃げて!」

「アマノ欠片!」


 ジャックはアマノに欠片を投げ渡し、物凄い速さで宙を飛ぶ二人を避けた。アマノとサンダルフォンの欠片の数は一個差。欠片の力もあって、サンダルフォンはすぐにアマノの背中を掴んでしまいそうだ。


「ライト.フォロン!」

「アイス.デザスター!」


 魔法の打ち合いもサンダルフォンが有利だ。アマノの光魔法は、サンダルフォンの氷魔法に打ち消されて押し負けてしまう。


(メタトロンを抱えた状態なのに……全然隙がない。欠片一つの差が大き過ぎる。今は逃げの一手……それしかない)


 アマノは逃げ続けることにした。出来るだけ複雑な街の方へ行き、サンダルフォンを上手く撒く作戦に出る。しかし、サンダルフォンも逃さまいとしつこくアマノを追う。サンダルフォンが決してメタトロンを手放さないのは、人質にされる可能性を考えてのことだろう。


 *


 アマノが遠くに行ったのを確認したジャックは、氷の槍に串刺しにされて身動きが取れないクルーニャの元へと駆け寄った。


「無茶したな。逃げれば良かったのに」

「男ってのはプライドを優先する。だからどれだけ賢くても、どれだけ知恵があってもバカなんだ」

「意味わからねぇ。俺達に協力するメリットないのに」


 ジャックは心底不思議そうな表情を浮かべ、氷の槍を丁寧に折っていく。氷は体に刺さったままだが、完全に抜いてしまえば出血になる。


「テュポーンの方は後回しだ。増援も来るだろうし、今はサンダルフォンを優先すべきだと思う。ジャック、お前はどう思う?」

「そう思う。どっちにしろアマノの命優先する。クルーニャにも手伝ってもらう」

「いやだぜ。流石にもう戦えない」

「強制」


 ジャックに神器を突き付けられたクルーニャは、疲れた目をガックと落とした。


「別にいいが、今の俺では役に立てないぜ」

「俺がおんぶする。クルーニャは少しでもサンダルフォンに触れて力を無力化するんだ」

「背負えるのか?」

「楽勝」


 ジャックは自信満々にクルーニャを背負い、羽根を広げて宙を舞う。子供が大人を背負う光景ではあるが、決して無理をしてるようには見えない。それは、ジャックが悪魔や天使の羽根を持ち、アマノの天だからだ。


 *


「アイス.デザスター!」


 サンダルフォンの放つ氷は、アマノが行く先を確実に塞いでいる。複雑な街並みに逃げ込んだアマノだが、逆にあだとなってしまった。


「私に構ってていいの?お兄さん、死んでしまうのでは?」


 追い詰められたアマノは、気絶しているメタトロンに目を向けて煽るような発言する。


「大丈夫。あの程度で死なない……今までこれ以上の傷を負って生き延びてきたのをこの目で見てきている」

「貴方はどうなの?彼を抱えたまま戦うの……不利になる要因よ」

「時間稼ぎなら無駄だ……早くかかってこいよ。魔女の子アマノ」

「以外とせっかちなのね。そうさせてもらう」


 話をしている間、アマノはワイヤーを建物の後ろからグルっと回り込ませ、サンダルフォンの背後に配置していた。そのワイヤーは生き物のように動き、無防備状態のサンダルフォンに襲い掛かる。

 しかし、ワイヤーはサンダルフォンの背後に出現した氷の壁によって弾かれる。


「あら、バレていたとは……」

「何でバレたでしょう?アーマーノちゃーん……何でバレたか教えてほしい?」

「別に聞きたくないけど……何で?」

「同じことを考えていたからだぜ」

「まさか!?」


 アマノが慌てて背後を振り向くが、背後には何もない。しかし、全方向から見えない攻撃を食らい、体中が深く切れる。


「くっ。攻撃が見えない?」

「同じことを考えていたけど……このサンダルフォンの攻撃の方が戦略的だったわね」

「神器、魔標線まひょうせん!」


 アマノは見えない攻撃の正体を探る為、ワイヤーを振り回した。すると、ワイヤーは見えない何かに傷を付けた。近くの背景は、透明なガラスにヒビが入ったようだ。


「これは?氷?氷が背景に溶け込むほどの透明感で配置されていたってこと?」

「あら、バレた。ならもう隠す必要はない……やっちゃうぜ」


 アマノを囲んでいる氷は、変幻自在に形を変えて襲い掛かる。武器になったり、動物のように動いたりしてアマノを翻弄する。しかし、アマノはワイヤーで氷達を縛って動きを止める。


「ムムッ……魔力が乱されている……いや、吸われている」


 サンダルフォンは、氷のツララを齧り、それを望遠鏡のように覗き込む。その氷の望遠鏡から見えるのは、氷やワイヤー、アマノの魔力の動きだ。ワイヤーを通して、氷の魔力がアマノに吸われている。


「流石の実力。この程度の魔法は余裕か。なら一気にとどめを刺してくれよう」


 サンダルフォンが魔法陣から出したのは、氷のメタトロン三体だ。その三人は、一人一人かなりの魔力が込められており、意思を持って動いてるようにも見える。


「きゃーかっこいい!お兄様かっこいい!なーんて言って見たりしてな。やっちゃえ兄様方!」


 三体のメタトロンは、アマノを囲んで手から炎に似せた氷を放った。アマノが刀で氷を防ごうとするが、氷は手前で止まって爆発する。爆発した氷の破片は、アマノの体中に刺さっていく。


「くっ」

「デス.ブレイド……アイスバージョンだぜ!そしてまだまだ安心しちゃだめだぜ」


 体に刺さった氷は独りでに動き、体に侵入しようとする。それだけでなく、アマノの体に変化が起きる。


「手が……体が……妙に冷たい……震えている。真冬の雪の中に入れられているみたいに」

「体温を奪っているのよ。そのデス.ブレイドの欠片が体温と水分を奪ってるの。寒くて震える?誰かに温めて貰えば?こんな感じに」


 サンダルフォンはそう言い、気絶してるメタトロンをぎゅっと抱き締めた。片目を閉じ、もう片方の目でアマノを憐れんでいる。そして、三人の氷メタトロンが動きが鈍ったアマノにとどめを刺そうとする。


「私は心寒い時、ずっとお兄ちゃんに温めて貰って来た。生まれてからずっー-と。貴方には居ない……死んだ後の世界にも。残念でし――」


 サンダルフォンが勝ち誇った表情を見せたその時、三体の氷メタトロンが壊された。壊したのは、クルーニャを背負って現れたジャックだ。


「アマノには俺が居る。これからもずっと」

「助かったわ、ジャック」


 アマノは安心したように体をよろめかせ、ジャックにしがみついた。ジャックは少し動揺した様子を見せるが、すぐに真剣な表情に変わる。


「おいおい……俺の前でいちゃつくな」

「悪い。それよりサンダルフォン、後ろのチビは何だろうな?」


 ジャックはアマノに肩を貸したまま、サンダルフォンの背後を指差した。


「チビ?お前さんよりチビが居るの?」


 サンダルフォンはそう言って背後を振り向く。そこには、可愛らしい表情を浮かべるポム吉が居た。


「げっ!いつまに!?」


 慌てて手刀を振るうが、ポム吉は華麗に避けてサンダルフォンの胸に飛び込む。


「ペチャ!」

「何だか分からないが、とても不快だ。こいつは女の敵だと直感が言っている」

「よくやったエロ吉。烈!」


 ポム吉は、サンダルフォンの胸の中で爆破した。その爆破はかなり大きく、ド派手で強力な物だ。

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