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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第33話【追跡】後編

 アイムがマモンと戦っている同時期。

 ジャックは、森の入口付近の木に座って新聞を読んでいた。大会での出来事、奇石団の行方、欠片の正体、巨人の足跡、様々な記事に目を通しながらボードチェスをする。


「チェックメイト!」


 一人でチェスをしていたのに、それを邪魔するようにポム吉が駒を動かした。当然、ポム吉はジャックに殴られ、体が軽く弾む。


「触んな」

「そんな!?僕もチェイスしたいよ」

「チェイスは追跡だろ。俺がやってるのはチェス」


 ジャックは、嫌そうな表情でポム吉を木に吊るす。


「チェイスしないのか?今がチャンスなのに」


 突然、アマノでもポム吉でもない声が聞こえた。ゾッとしたジャックは、武者震いと共に新聞を閉じて近くを見渡す。


「チェックメイト」

「うわあ!!」

「あ!ジャックの友達クルーニャ!」


 突然姿を現したのは、謎の神クルーニャだ。チェスの駒を一つ動かし、静かにチェスボードの隣に座る。一瞬驚いたジャックも、すぐに冷静を装ってチェスの駒を動かす。


「何しに来た?お前に貰った欠片ならマモンに取られちゃったよ」

「そんなのはどうでもいい。それより、お前は神々と希石団、どちらの味方だ?」


 クルーニャの質問に対し、ジャックは嫌そうに両目を細めた。


「どっちも嫌い。神々はアマノに酷いし、希石団にはメタトロンが居る。どっちも悪い奴らだ」

「けど神々も希石団も欠片を集めてる。このままほっとけば、どちらかに欠片が奪われてしまう。神々が欠片を持てばアマノが捕まりやすくなるし、希石団が持てば神々は皆消される。勿論、俺もアマノもな。全ての欠片が集まればそれくらい強力な兵器となる」

「何が言いたい?」

「今魔界でアイムとサタンがマモンとプロケルと戦ってるらしい。炎の巨人の件で神々も大騒ぎでゼウス率いる精鋭部隊が見に行ったが全滅」

「どうせ欠片を所持して戦ってるんだろ?欠片を持っていない俺やアマノが行っても戦力にならないと考えまーす」


 冷静に考えたジャックは、少しひねくれた言い方だ。


「いや、俺が気にしてるのは神界に保管されてる欠片だ。マモンが炎の巨人で神々の注意を引いたおかげでメタトロンが神界で優位に暴れてる」

「それほんとか?」

「本当。ついさっきメタトロンとサンダルフォンが怪物と共に現れた。しかも、その怪物はかつてゼウスを追い詰めたことのあるテュポーンだ。勿論欠片を持っている。今居る戦力で戦うには欠片を用いて戦わざる終えない。つまり、欠片を奪われる可能性も十分あるってことだ」

「神々の歴史本に載っていたあのテュポーン?そいつが現れたこと自体信じがたいけど……そんなつまんない嘘ついても何にもなんないよ?」


 興奮と驚きを隠せないジャックは、クルーニャの表情を覗き込むように目をじーっと見つめる。


「疑うのも無理のない話だが……戦闘員不足の神々にはこれを凌ぐのは厳しいだろうな。一度メタトロンと戦ったお前や主神に近い力を持つアマノの力があれば何とかなるかもな」


 クルーニャは、ほんの少し顔を近寄せてきたジャックの頭を押さえ、大人が子供に圧をかけるような言い方をする。


「何してるの?」


 しかし、どこからか姿を見せたアマノがクルーニャの手を捻り上げた。


「アマノ!?」

「ジャックに……何をしてるの?」


 アマノは、警戒と怒りを交えた様子だ。ジャックをクルーニャから引き剝がし、クルーニャの腕を強く握っている。


「離せ……」


 クルーニャの顔色が一変した。さっきまで穏やかに見えた表情が一瞬にして曇り、気分を悪くしたかのうように頭を押さえている。ジャックは、そんなクルーニャが少し怖かった。


「何をしていたのか……何をしに来たのか……それを言えば離すわ。クルーニャ、貴方が前にもジャックに接触してきたことは聞いている」

「触るなと言っている……」


 具合悪そうに頭を抑えるクルーニャは、強引にアマノの手を振り払おうとしている。しかし、アマノは一向に手を離さずクルーニャを逃がさない。


「質問に答えたら離すと言ってるの」

「アマノ離せ!そいつに触ると魔法が――」


 嫌な予感がしたジャックだったが、少し遅かったようだ。痺れを切らしたクルーニャが、アマノの首を掴んで近くの木に強く押し付けた。


「てめえ!!」


 すかさずジャックが神器を振るうが、空いたもう片方の手で腕を捻りあげられてしまう。クルーニャは、アマノとジャックを取り押さえた状態で虚ろな目をゆっくりと閉じた。そして、すぐにため息をついて落ち着きを取り戻した。


「ごめんな……取り乱しっちゃたぜ。女に触られるの苦手で……ケッケッケ、いやほんとにごめん」


 クルーニャは飄々とした様子になり、アマノとジャックから優しく手を離す。その様子を見たアマノとジャックは、困惑と警戒を隠せなかった。


「ジャック、アマノに説明してくれ。俺が大事な情報を持ってきただけだって」

「……お前は変な奴だが無害だと思っていた。次同じことしたら、容赦なくお前を殺す」

「そうしてくれ」


 クルーニャは一歩身を引き、薄っすらな笑顔で近くの木に座った。


「元気出してクルーニャ」


 ポム吉がクルーニャを励ます。


 *


 アマノは、ジャックから説明を受けて神界に来ていた。


「何で俺も……」


 クルーニャは、アマノによって首輪とリードで繋がれている。


「アマノに暴力振るった罰に決まってるだろ。殺さない代わりに力になれってことだ」

「それに貴方の力は役に立つ。欠片を持ってる者でも上手く触れることが出来れば無力化できる。何が目的かは知らないけど、今を生きたかったら手伝いなさい」


 クルーニャは面倒くさそうにため息を付き、呆れた表情で首をガクッと落とした。


「もう言葉が見つからない。好きにしろ」

「いい言葉があるよ!『そんな!?』って言えばいいよ」

「……」


 警戒しているアマノとジャックは迂闊に近寄らないが、ポム吉だけは肩に乗る程警戒していない。一方、クルーニャはポム吉に疲れているようだ。


「まさか……あれか?テュポーンってのは?」


 ジャックが見たのは、化け物の影だった。遠くに居て大きさがはっきりしないが、鬼神の如く暴れている。


「そうだ。近くで見る覚悟はいいか?」

「お前こそ逃げんなよ」

「逃げたくても逃げれないさ」


 クルーニャは、面倒くさそうな表情でアマノを横目でチラッと見る。アマノは(何か文句ある?)と言わんばかり鋭い目付きで睨み返す。


「行くわよ」


 テュポーンは、神々と互角以上の戦いを繰り広げている。そこには、テュポーンを援護するメタトロンとサンダルフォンの姿もあり、戦況は奇石団に分があるように見える。


「こんな非常事態なのに主神の姿が見えない」

「いや、日本のスサノオがメタトロンとサンダルフォンを止めている。ゼウスはマモンを追って魔界だ。他の三人が何をやってるのか分からないが……ただでさえ戦力不足の状況で主神一人はきついだろうな」


 クルーニャの言う通り、スサノオがメタトロンとサンダルフォンの足止めに専念しつつ、戦いの指揮を執っている。だが、圧倒的なテュポーンの前に、神々は一人一人確実に消されていく。


「他の神が欠片を使ってるように見えないけど……何で使わないんだ?奇石団は一人一つは持っているような魔力を感じるけど……」

「五人の主神達が均等に欠片を保持しているから、スサノオが管理している欠片しか使えないんだろうよ。俺の予想では他の三人は奇石団に先手打たれて戦闘不能状態……でなければ余裕こいて戦ってないはずだ。魔力感知した感じ……スサノオが一つ、他の神々が残り……五つ」

「どうするアマノ?」


 暴れるテュポーン、スサノオを追い詰めつつ援護をする双子天使、戦況を見ながら冷静に考える。アマノはいつも以上に冷静に見え、焦らずに策略を練っている。


「クルーニャには他の神々に交じってテュポーンをやってもらう。貴方の力でテュポーンの力を封じるの。触れるだけならメタトロンよりも簡単な相手だから、できるでしょ?」

「出来ない。魔力をなくせるが奴を人間程度に無力化は出来ない。神や悪魔とは姿形が全然違うからか分からないが、テュポーンのような化け物は完全な無力化は出来ない」

「魔力をなくせるだけ十分。欠片の力も封じれる。けど、最初は私達と一緒に双子天使をやってもらう。スサノオもそろそろ限界に見えるから、欠片のない私達は数で戦うしかないの。分かる?」

「……何で子供扱いしてんだよ」

「じゃあ分かるのね」

「分かんない」


アマノは、クルーニャの顔目掛けて後ろ拳を振るう。だが、クルーニャがそれをポム吉で防御した。


「なっ、何で僕……」


ポム吉は、ピクピクと痙攣する。


 *


「どうした?もう終わりか?」


 スサノオは追い詰められていた。メタトロンもサンダルフォンもかなり消耗しているが、瀕死のスサノオの前では余裕がある。


(何てコンビネーションだ。単体なら勝てるはずだが……流石双子、息ぴったり。おまけにテュポーンの援護もある……)


 それでも立ち上がるスサノオだが、メタトロンとサンダルフォンに囲まれサンドバックのように殴られ遊ばれる。


「ほれサンダルフォン!」

「ナイス位置だよお兄ちゃん!」


 サッカーをする子供のように無邪気な双子は、もう既にスサノオとの戦いを終えていると思っている。だが、その無邪気な表情が一瞬にして苦痛の表情に変わる。


「がはっ!?」


 サンダルフォンの背中が斬られ、胸に光の魔法を食らう。


「サンダルフォン!?」


 サンダルフォンに気を取られた一瞬、メタトロンも背後からクルーニャに首を掴まれてしまう。


「勝利を確信し過ぎたな」

「デス.ブレイド」


 メタトロンが魔法を唱えるも、クルーニャに触れられている今魔法は出ない。困惑したメタトロンは、何が何だか分からないまま刀で胸を刺される。


「がはっ!?魔法が……出ないだと……」

「アイス.デザスター」


 サンダルフォンは、攻撃を食らった状態で前方に一回転し、二撃目の攻撃を受けないよう服を上空に投げて一瞬身を隠した。クルーニャから姿が見えなくなった一瞬、その一瞬に氷の塊がクルーニャの頭に直撃する。

 サンダルフォンの背後からアマノが攻撃を仕掛けようと近づくが、欠片を持っているサンダルフォンは華麗にアマノの攻撃を避けて氷の壁を作る。


「何て動きだ。さっきまでとは別人のようにテキパキと動き出しやがった」


 ジャックも、瀕死のスサノオから欠片を取り上げてクルーニャの元へと急ぐ。


「待て!欠片を返すんだ!」

「返す!後で返してやるから邪魔するな!奇石団を倒したければ俺達の邪魔するな!」

「あの子……魔女の子アマノが拾った人間か……拙者もこの状態、仕方ない。心配だが、今は彼らに身を任せるしかないな」


 スサノオはその場に倒れ込み、力尽きて気絶する。一方、クルーニャは頭から頭蓋骨が見えるくらいの傷を負っていた。しかし、以前メタトロンから手を放していない。


「今すぐ離さなければあんたを殺す」

「ケッケッケ、あー痛ってぇ。早く来いよジャック」


 サンダルフォンに睨まれたクルーニャは、今にも眠ってしまいそうな瞳で氷の壁の方を眺めた。

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