第32話【追跡】前編
アイムとルゼは、新聞の記事を頼りに巨人族の足跡があると思われる場所に来ていた。
「すっごい、ね」
巨大過ぎる足跡に驚きを隠せない。一つの足跡ですら、目線をずらさないと目に入らないくらい大きい。上空から見てると言うのに、二歩目の足跡が見えないのだ。
「足の向き的にはこっちだな」
幸い、市街地ではないので目立った被害は出ていない。だが、魔界の地が減っこんでいて、所々炎で燃えている。
「足跡付近が燃えてる。一体どういうことなの?」
「行けば分かる」
しばらくすると、神や悪魔達が倒れていた。その光景はまさしく災害が通った後。
「何があったんだ?」
アイムが周りを見渡してる間に、ルゼが何かに気付いたように倒れている悪魔に近寄った。
「おい!迂闊に近付くな!」
「生きてるよ」
「間違っても触るなよ。罠かもしれねぇ」
アイムはルゼの服を引っ張り、倒れてる悪魔に恐る恐る近付く。
「ここで何があった?」
「巨人が……炎の巨人が通った。それを知った神々が調査に来たんだが、そいつらもこのザマ。奴は歩く災害……災害には敵わなぇ」
足を負傷している悪魔は、座っていた首を起こして震えた声で話をしてくれた。命に別状は無さそうだが、疲れていて動けなそうだ。
「やはり巨人か。他には?希石団の連中は居なかったか?」
「希石団……そう言えば居たかもしれない。近くで誰かが飛んでいた気もする。巨人のことで精一杯だったからあんま覚えていないが」
「分かった。助かったよ。このザマなら時期救援が来るだろうよ」
アイムは、そう言って悪魔に水と傷が癒える魔道具が入った袋を投げ渡した。
「おぉ、有難いね」
「行くぞルゼ」
アイムは、ルゼと共にその場を去ろうとする。
「あんまり死に急ぐなよ。また仲間を失うぞ」
そんなアイムを引き止めるように、先程の悪魔が呟くように言う。足を止めたアイムは、横目で悪魔を見下ろし、深呼吸をするように深く瞼を閉じる。
「忠告どうも」
悪魔と別れて、アイムとルゼはすぐに巨人の足跡を追った。足跡を追いかけて数分、奥から光が見えてきた。昼間でも薄暗い魔界からしたら、太陽のような明かりだ。しかし、その明かりは近づけば近づくほど熱い。
「多分、炎の巨人だよ」
「見れば分かる」
巨人はあまりにも大きて、目に入ってから近付くまで数分の時間が掛かるほどだ。何やら、巨人は激しく暴れているように見える。
「神だ!神と戦ってる!けど妙だよ。戦ってる神の手元から光が放たれてる」
「恐らく欠片だ。欠片を持ち出して戦ってる。その証拠に、奴は主神のゼウスだ。どうやら生きていたようだな」
巨人と戦ってる神――ゼウスは、かなり追い詰められていた。既に仲間の神々が力尽きており、自身の体力と魔力も限界。おまけに、敵は巨人だけではなく、近くで巨人の援護をする希石団のマモンとプロケルも居る。
「どうした!メタトロンに殺られた傷がまだ痛むか!それとも、痛むのはメタトロンに裏切られた心の傷かな?」
「この儂が……ここまで追い詰められるとは」
マモンは勝利を確信しており、瀕死のゼウスを挑発している。巨人も疲れているようには見えるが、まだ余裕があってゼウスのトドメをさせそうだ。
「全知全能の神ゼウスとあろう御方がこのような有様……あら残念。ねぇ、そう思うでしょ奥様」
マモンの挑発はまだ終わらず、お退けたようにプロケルに目線を送った。プロケルは、猫のような冷たい目のままため息を付くが、すぐに薄く笑い、マモンに合わせるように嘘くさい表情を浮かべた。
「あら奥様、そういうのは本人の前で言っちゃダメですのよ。奥様って……わ、る、い、ひ、と」
「あら、すみません。なら全て無かったことにしましょう……チリも残らないくらいに」
マモンが巨人に合図を送る。すると、巨人は大きな拳をゼウスに振り下ろした。拳自体は早くはないが、面積が大き過ぎて、今のゼウスには避けきれないだろう。
「妙だ……ほんとにチリも残らなかったのか?」
拳を振り下ろし終えたが、マモンにも巨人にも手応えがない。しかし、マモンは背後の気配に勘づいた。
「あらあら……これは随分と久しい来客だこと……」
「この前の借りを返しに来た」
マモンに目を付けられたのは、ゼウスを抱えるアイムとそのゼウスが持っていた欠片を持つルゼだ。
アイムは堂々とガンつけているが、内心(これ勝てねぇ)と諦めていた。アイムから見た感じ、マモンもプロケルも欠片を一つ以上は持っている。光は放っていないが、魔力や闘気で勘づいた。
「貴様、邪神天悪のアイム!?」
「よぉゼウス、ほんと哀れだな」
「貴様なぜわ――」
アイムはゼウスをぶん殴り、強制的に気絶をさせる。そのゼウスをルゼに預け、ルゼから欠片を預かる。
「どうせ逃げれねぇ。こいつらの相手をする。ゼウスを拘束しとけ」
「分かった」
ルゼはあっさりアイムの言うことを聞き、ゼウスと共に崩れた街の方へと逃げて行く。
「天使の子供?お前の子じゃないよな?」
「お前には関係ない」
「子供、懐かしいな。可愛がってたんだけど、皆死んじまったっけな」
マモンは、アイムの言葉を無視するかのように喋り続ける。隣のプロケルも頷いており、マモンをあしらったつもりのアイムからしたら、逆にあしらわれた気分だ。
「一番下の子は死んでませんよ」
「そうだっけ?けどどうせ生きてないさ」
「また作ります?次は死なないように傍に置けばいい」
「いやいい、今は態度がでかいガキが二名程居るからな」
「態度のでかい……あぁ、そうでしたね」
楽しそうに話をする二人を前に、アイムは錯覚していた。今自分が絶望的な状況だということを忘れてしまうほど、場の空気がマモンに持ってかれていたのだ。
我に返ったアイムは、間髪入れずにマモンの背後を取り、かかと落としを入れた。すんなり攻撃が決まったので、アイム自身も驚いていた。
「なっ!」
だが、その驚きの一瞬を狙ったかのように、炎の巨人がアイムを両手でガッチリと捕まえる。炎が体に移り、熱さと痛さで頭がおかしくなりそうだ。
「ああああああぁぁぁ!!!こいつっ!!」
「敢えて攻撃を受けるのも、作戦だったりしてな」
地上から戻って来たマモンは、デモの刀を取り出してアイムの目の前に立ちはだかる。
「その刀!!返せ!」
「返すけど、あの世に持ってけないと思うぜ」
マモンが刀を振りかざす。その瞬間、アイムは道中出会った悪魔の言葉を思い出していた。『あんまり死に急ぐなよ。また仲間を失うぞ』と言う、何気ない一言を。
この死の一歩手間になるまで、その言葉の重みが分からなかった自分自身をとても悔やんだ。
だが、その悔やみに答えるかのように希望が舞い降りる。
「シュラー.フレイム」
「がはっ!?」
どこから現れたか分からないが、静かなる黒炎がマモンの背中に放たれた。その黒炎を放ったと思われる天使――サタンは、燃えるアイムを見て少し嬉しそうにしている。
「大会一位がこの程度か」
見下すように放ったその言葉と共に、サタンは手から大きな水の魔法陣を出現させる。
「召喚魔法、リヴァイアサン」
その魔法陣から出現したのは、大量の海水と怪物リヴァイアサンだ。おかけで、アイムの体の炎が一瞬消えて逃げる隙が出来る。
「リヴァイアサン!?じゃあ、あの天使が新聞に載ってた大会第三位の天使か」
巨人から逃れたアイムは、マモンから逃げるようにサタンの元へ行く。警戒しながらも、サタンを横目でチラっと見る。
「誰か知らないが、感謝する」
「私はサタン。私も欠片を一つ所有してる」
「なぜ助けた?」
「ジャックがお前に死なれては困ると言ってたから。それに、希石団に欠片を奪われるのは私としても困る」
「ジャックの知り合いか。詳しくは聞かないが、こいつらを倒すのを手伝ってくれるんだな?」
「あぁ、マモンと遊びたいんだろ?巨人はリヴァイアサンに、水の女は私に任せろ」
「助かる」
凛としているサタンは、アイムの安心した表情を横目で確認し、プロケルの方へと回り込む。
「ジャックを助けといて良かった。まさかこんな所で仮が返されるとは」
安心したのもつかの間、目の前の敵は依然変わらなずに居る。しかし、プロケルはサタンが、巨人はリヴァイアサンが相手をしている為、戦う相手は必然的に決まっている。
「魔女の子以外にも仲間が居たとはな。そちらの陣営も厄介なものだ」
両端で行われた戦いを見渡すように見たマモンは、ゆっくりとアイムに近寄り、デモの刀を構える。
「仲間ではないけど……凄いだろ」
自信なさげに言うアイムは、すぐに見栄を張って偉そうにする。
「この刀、取り返してみな」
マモンは、刀を手元で振り回して得意げにしてる。そんな得意げになってるマモンに黒い球体の魔法が放たれる。
しかし、マモンは刀でちゃっかりと魔法を防いでアイムとの距離を縮める。アイムは、顔目掛けて振られた刀を爪で受け止め、刀を中心に一回転して刀の上に立つ。
当然、マモンが刀を振るが、アイムはそれを華麗に避けて蹴りを入れる。
取っ組み合いは、アイムが一歩リードしてるように見えるが、マモンの表情や対応は冷静そのものだ。
自分が押されてることに危機を感じたように、マモンがアイムを蹴って炎の巨人が居る方に体を吹っ飛ばした。
「逃がすかよ」
すぐに追いかけるアイム。それを待っていたマモンは、刀に巨人の炎を纏い、刀を振り回す。間一髪で刀を避けていくアイムだが、炎が皮膚に付着して一瞬にして体を蝕んでいく。
「何!?火力がさっき掴まった時以上だ。少し触れただけで火が移りやがった」
「ふふっ、なぜ火力が上がってるのか、分かるかな?」
アイムは、羽根を引っ込めて地面に広がっている水に落ちる。水はリヴァイアサンと共に召喚された海水で、所々に海水の水溜まりが出来ている。
「お前はメタトロンに一勝するほどの実力がある。対して俺はメタトロンにもお前にも劣る。だがしかし、こちらはデモの刀があるし、勝敗は単純な実力では決まらない」
マモンも燃える刀を片手にゆっくりと降りて来た。
「随分ドヤっているが、火力が高い理由が分かったぞ。魔力だ。魔力を炎に流し込んでいるから火力が高いんだ」
「正解だ坊や。謎が分かった今、気分爽快だろ?何の迷いもなく、俺を倒せそうだろ?」
「ああ、よく分かってるじゃねえか」
「分かるさ。だって、そういう奴から死んでいったからな」
マモンの挑発が効いたアイムは、ムッとした表情で悪魔の羽根と尻尾を構えるように広げた。




