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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第30話【内通者】

 森に戻ったアマノは、アイムの手当を終えてジャックの手当をしていた。ジャックの焼けた背中の傷は、アマノの治癒魔法によって元の皮膚へ戻っていく。ジャックは、なぜだが気まずかった。アマノの雰囲気がいつもと違うようで、話しかけていいのか分からない。


「照れちゃう!」


 そんな中、ポム吉がアマノの胸に飛び込んだ。だが、秒で叩かれて、蹴りで地面に挟められた。


「ほわっ!?たっ、助しゅけて……」

「貴方とアイムの傷は……奇石団にやられたの?」


 アマノは、ポム吉を踏みつぶしたままジャックに問いかける。ジャックからもアマノの顔が見えないが、声のトーンがいつも通りで安心したように表情を緩めた。


「そうだよ。結界内に閉じ込められたから、神々を上手く騙してマモン達からデモの刀を取り返そうとしたんだ。結果的には刀も欠片も取られたけど」

「そうなの……。けど、生きててよかったわね」

「うん」


 ジャックは少し虚しくなった。アマノは「生きててよかったわね」と言ったが、それが他人事のような気がした。勿論、アマノが自分のこと想っていることを頭で分かっているが、それでも「生きててよかった」と言って欲しいのが当然の心理だ。


「メタトロンと戦ってどうだった?感想……みたいなの」

「死ぬかと思った。あいつ試合に勝つ気なかったから余裕で殺しに来た。もしかして、メタトロンがそういう奴だって分かってて見てたの?」

「想像より酷かったけど、それなりに噂は聞いてた。ひょっとして、戦いを止めなかったこと怒ってるの?」

「いや、そうじゃないけど」

「そう。けど生きててよかったじゃないの」


 先程と同じ他人事のような言葉に、ジャックは思わず(またそれか……)と思ってしまった。アマノが自分を大切にしておらず、ただの道具と見ている可能性すら過った。


(別にいいし……衣食住与えて貰ってるだけで十分。俺は文句とか言える立場じゃないさ)


 ジャックは、切り替えるように自分にそう言い聞かせたが、心のざわめきは一向に止まってくれない。


「……」

「ジャック」


 名前を呼んだその声は、微かだか恐怖が混じっていた。何に対しての恐怖かは分からないが、ジャックはほんの僅か違和感を感じた。


「何?」

「……」

「今日は頑張った。良く寝るといいよ」

「あっ、うん。ありがとう」

「手当は終えたよ。おやすみ」


 アマノは、そう言ってジャックの頭を撫でるように触り、少し急いだように寝室へと去って行った。ジャックにとって、いつもより余裕のないアマノに見えた。


「……おやすみ」


 ジャックは、ほんの少しだけ寂しいような気がした。今自分が一定の幸せを手に入れたことで、更なる幸せを望んでることを何となくだが理解していた。

 だからこそ、アマノに自分では分からない『何か』を求めてしまう。そんな自分を認めなくないし、苛立ちに似た感情を覚えている。


 *


 天界は広すぎる故、一部しか天使が住んでいない。それ故に、まだ発見されてない土地や天使が寄り付かないような場所も星の数ある。その一つの海が広がる場所に、奇石団に飼われていたレヴァイアサンが子供のように泳いでいる。


「欠片以上にデカい収穫だったじゃねえか」

「ああ、欠片一つ、レヴァイアサンが一匹、レヴァイアサンの記憶から得た奇石団の情報、流石私だな」


 そんなレヴァイアサンを眺めながら、サタンとクルーニャが海辺でワインを楽しんでいる。だが、クルーニャは立たされたままで、サタンだけがリゾートチェアに座っている。


「お前から貰っといた魔道具のおかげでレヴァイアサンを連れて来れた。ほんとお前は便利だ」

「便利か、それはどうも」

「……レヴァイアサンの記憶によれば奇石団はあの四人で全員らしいな」

「マモンとメタトロンしか覚えてないな~……他誰だっけ?」


 クルーニャは、惚けたような表情でサタンに何かを求めるように横目で視線を送る。それに気付いたサタンは、小さなため息を付いて一口ワインを飲む。


「そうだな。メンバーの情報を一人一人整理しとこう」

「頼むよ魔王様」

「まず七つの大罪強欲の大悪魔を名乗る団長マモン、こいつは経歴こそ謎だがあのメタトロンを従えるだけの実力があるのは間違い」

「確かにな。メタトロンは誰かの下に付くような奴じゃない。神々にすらガンつけてたし、唯一心を許してたのはゼウスだけだった。そのゼウスへの愛情も演技だったらしいけどな」

「そしてそのメタトロン、言わずとも知れた最強の天使。戦闘においてこいつの右に出る奴は主神含めて十も居ないだろう」

「そうだな。大会ですら本気を出しきれていなかった」

「その妹サンダルフォンも強者だ。氷魔法のエキスパートで、メタトロンと組ませたら敵なし」

「あともう一人は?見たことない女だった」

「プロケル、銀髪の髪と猫のような瞳、そして天使のような羽根を持っているが純粋な悪魔だ。こいつもマモン同様謎だが、水や転移の魔法が使える」

「他の情報は?ないのか?」

「……レヴァイアサンの記憶から見た情報だ。大した情報はないが……一つ妙な記憶があった」


 サタンは思い出したかのように唇を緩め、考え込んだ表情のまま首を傾げた。クルーニャも、サタンの反応に目を細め、先程より興味を持った態度を取る。


「何だ?」

「メタトロンが魔界で誰かと話す記憶……レヴァイアサンは赤子だから話してる内容こそ分からなかったが、奇石団のメンバーではない」

「どんな見た目だった?」

「顔を隠していた。体も背景と同化していた。恐らく魔法だろうが、姿を隠すということは奇石団じゃない」

「引っかかるのか?」

「……私の予想だが、恐らく神や天使の内通者」

「なぜそう思う?」

「今回奇石団の襲撃に対して、神々の対応が酷かった。デモ.ゴルゴンによって人員を減らされたばかりで、初っ端で最強の神ゼウスがやられたのもあったが、それにしても連携が取れていなかった。恐らく内通者がそこを奇石団が優位になるように調整してたんだろう」

「だとしたらかなり地位のある者じゃないか?」

「恐らくな。メタトロンと話をしている時、顔を隠していた。人気のない場所に見えたが、それでも顔を隠して体を透かせていたのはそいつが有名な存在だということ」

「考えすぎだと言いたいが、可能性は十分あるな。確かに今回の神々の対応はザルだった」


 二人は、お互いに考え込むような表情をしてゆっくりと顔を逸らす。しばらく表情を固めるサタンとは別に、クルーニャが悟ったような表情でニヤッと不敵な笑みを浮かべた。


「少し神界に行ってくる。何かあったらテレパシーで呼べ。俺からはテレパシーを送れないからな」

「何か用事か?」

「ああ」


 サタンは、クルーニャが去るのを見て、清々しい表情でワインを口にした。


 *


 先程まで最高神達の会議が行わていた。何百も居た最高神は、この短期間で百以下になっている。それは、デモとの戦いや奇石団の襲撃が大きく関わっている。


「酷く醜い姿だね」


 会議が終わってまだ時間は経っていない。そんな中、顔を隠した一人の神は、人気のない路地裏で座り込んでいた天使に話しかける。天使は、顔や腕に包帯を巻いており、余り元気そうには見えない。


「会議の内容は?そちらの情報を全てくれ」


 その天使は、フードの中から微かに顔を見せた。目付きの悪い天使――メタトロンは、腹を空かせた狂犬のような目で神を見ている。


「焦らない……順を追って話をする」

「早くしろ」

「今欠片を集める者と奇石団の行方を追う者の二手に分かれている。下界や魔界に散らばった欠片もかなり集まっている。欠片集めはこちらに任せた方がいい」

「分かった」

「それで会議の内容だけど、欠片の管理は今まで通り五人の主神に分けて管理させる」

「五人?ってのとはゼウスは生きているのか」

「まだ治療中だけど、命は無事だ」

「他は?」

「我々神々は希石団以外にも敵が居る。魔王及び天.シックス殺しの罪、邪神天悪生き残りのアイム。同じく天.シックス殺し及び神殺しのアマノと連れの人間ジャック。そしてレヴァイアサンを連れて逃げた謎の天使。だけど、今最優先されてるのは君達希石団だ。出来るだけのことはするけど、お前らが負けることがあるなら躊躇なく切るから」

「分かってるよ。こっちはあんたのような神が工作員として居てくれるだけでありがてぇよ」

「また何かあったら連絡する」


 謎の神は、話を済ませると、さっさとその場を立ち去ろうとした。


「なぁ、なぜリスクを犯してまで俺達に協力する?お前も俺と同じで神の居ない世界を望んでると言っていたが、ほんとにそれだけか?」


 メタトロンが窶れた声で神を引き止める。神は足を止め、少し困ったように首を回す。


「君は……君が神の居ない世界を望んだのは、理想と現実のギャップ故だったね。人間だった君は、誰よりも神という存在を崇拝していた。なのに実際に天使として神の側近をしてみればどいつもこいつも人間と対して変わらない。力を持ったただの動物……。君の言う通り、彼らは神だと思い込んでる人間だ。神ってのは精神的に余裕があり、分け隔てなく人々を愛すことのできる寛容な心を持つ物のこと……力ではない」

「その、お前が言ってる神ってのは、デモ.ゴルゴンのことか?」

「……そうかもな」

「デモ.ゴルゴンと関係あるのか?お前が俺達に協力する理由」

「いや、全く」


 神は、そう言って逃げるように姿を消した。メタトロンは腑に落ちない表情をしたが、すぐにため息を着いて疲れたように目を瞑った。


「あー、疲れた。大会はストレスばかりだった」


 疲れたまま立ち上がり、建物の路地裏から神々や天使の和気あいあいとする姿を見た。その光景は、メタトロンにとって理想だったが、路地裏から見る光景は余りにも滑稽だ。


「確かにデモ.ゴルゴンが最も神に近かったよ。力があるからとかではなく、奴には負の感情が見えなかった。敵すらも愛してるように見えた。けど、その神ももう居ない」


 メタトロンは、抱え込むように持っていた本を強く握った。その本は、ボロボロで黒焦げになってる聖書だ。


「神が居ないなら……俺が神になってやる」


 憎しみの瞳から流れた涙は、隠れるかのように蒸発した。

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