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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第2話 【悪魔】 前編

 部屋にあるのは、大きい社長椅子、机、ソファ、他にも細かい道具や家具がある。だが、社長椅子に関しては目の前のお爺さん悪魔の体には合わない大きさだ。お爺さんが座るには、あまりにも大きすぎる。


「私は魔王様の補佐官であるサナスと言う者です」

「私はアマノ、こちらはジャック。サナスさん、魔王はどこ?」

「魔王様は、死にました」


 アマノもジャックも驚愕した。特に、アマノは魔王がまだ寿命で死なない事を知ってた為、不思議でならなかった。


「詳しい説明をお願いします」

「はい。魔王様が死んだのは一ヶ月前のことです。勿論、何者かによる暗殺ですが、犯人が見つかってないのです」

「魔法で捜査はしたの?魔王の傷口や魔力の残骸とか、小さなことでも良い。何か手がかりは?」

「ありません。手がかりを残さないのを見ると、犯人はかなりの実力者でしょう。それに魔王は正確には殺された訳じゃないんです」

「じゃあ正確に言って」

「人間にされたんです。今魔王様は人間として生活してます。残ったのは魔王様の羽根だけです」


 アマノは表情を変えた。悪魔が人間になるなんて事例を聞いた事がなかったから、奇妙だと思った。


「人間になった魔王の記憶は?」

「ありません。自分が記憶喪失の人間だと思っていました。悪魔を人間に変える魔法なんて聞いた事ありません」

「私も。けど、そのことから相手は悪魔だけじゃなさそうね」

「どういう事ですか?」

「私の街にはほぼ確実に悪魔が居る。それも次々と人間と契約をしては魂を喰らっている。つまり、その悪魔は人間と契約する為に自分を縛る魔王を殺した。けど考えてみて……魔王を殺すのに悪魔だけの力じゃ無理でしょ?」

「……まさか神が?」

「魔王と渡り合えるのは神の中でも数神すうしん。きっと最高神、もしかしたら主神レベルの神が悪魔に手を貸したかも」


 ジャックは、アマノの話を聞いて納豆した。同時に、アマノが知恵者である事を知った。補佐官のサナスも、関心してる様子だ。


「魔王様が居ない今、我々はお互いが犯人なんじゃないかと半信半疑。それに、今にも魔王の座を狙った争いが起きそうで……アマノ様!貴方様の街に居る悪魔を捕まえてくれませんか?我々悪魔に協力してくれる神はアマノ様くらいしか居ません!どうか!」

「そうね。悪魔に協力的な変わり者の神は私くらい。それで、報酬は?」

「……魔王様の羽根なんてどうです?羽根があれば悪魔の魔法が使えます。他にも好きな要求一つ何でも受け入れますよ」


 アマノは、手を口元に当てて考える表情を浮かべた。


「羽根は貰う。それともう一つ、私と悪魔達で平和条約を結びましょ?どちらかが危険になれば共に協力するってこと、それが条件」

「ッ!ありがとうございますアマノ様!」

「私の街を私が守るのは当然のことです。では、失礼します」


 ジャックは思った。


(やっぱり、アマノは悪魔にも慕われるくらい偉い神なのか?)


 アマノとサナスの会話からして、普通の神は悪魔に関わらない。ジャックは、その会話とアマノの行動に矛盾を感じて、不思議に思った。


 *


 二人が森に戻ると、森のすぐ外に一人のお爺さんが居た。それに気付いたアマノは、お爺さんの元に駆け寄った。


「やぁ、手に持ってるのは頼んどいた物?」


 親しげに話しかけるアマノに、お爺さんも笑顔を見せた。


「こんにちはアマノ様」


 お爺さんは、手に持っていた大きめの紙袋をアマノに渡した。

 どうやら、アマノとお爺さんは面識があるらしい。


「ジャック、紹介する。彼は私の育ての親のジィジ」

「よろしく」


 ジャックは、顔色を伺いつつ、お爺さん――ジィジと握手した。


「ぬ?お主は一ヶ月前にこの森に入った子じゃないか?」

「俺が森に入ったのを見たのか?」

「見たも何も、儂と話してから森に入ったじゃろ?」


 ジャックは思い出した。一か月前、初めてアマノの森に入る前、会話したハーフ顔のお爺さんを。


「あっ!あの爺さんか!」

「そうじゃ。それはともかく、ジャック様はアマノ様とどのような関係で?」

「ジャックは私の弟子みたいなもの。つまり『天』ね」

「なるほど、人間の子を天にしたのですね」


 ジャックは『天』という言葉を聞き、不思議そうに首を傾げた。


「天って?」

「天ってのは、その神の右腕のような存在。つまりジャックは私の右腕。天になった者はその神の力に比例して力が宿る。まぁ、師弟関係の契約かな」

「その天に勝手に決めたのかよ」

「文句ある?」

「別に」


 ジャックは、呆れたような表情で返事をした。それを見て、アマノもジィジもクスクスと笑う。


「それじゃっ、儂は帰ります。何かあったらまたこの老いぼれを頼って下さい」

「ありがとう、お体に気を付つけてね」


 ジィジが立ち去るのを見送り終わると、アマノは空を見上げた。


「今日はもう暗い、明日悪魔を探しましょう」

「あぁ」


 アマノは考える。街に住む悪魔、今この時も人間を誑かしては魂を喰らっているのだろうと。人間のことも悪魔のこともどうでも良いが、ジィジが住む街を守る為、自分の成長の為、とっ捕まえてやると。


 *


「お世話になりました」


 一人の男が刑務官に挨拶をして刑務所から出てきた。そう、今日はこの男の出所日。


 この男の名はレイ。二年前、妹を殺した罪で捕まったのだが、実際のとこレイは妹を殺していない。

 とある男の罠によって、妹を殺した濡れ衣をかけられたのだ。


「ただいま」


 二年前までは、明るくて元気な母親と妹が居た家も、今じゃどんよりしている。

 だが、妹はこの世を去り、母親は精神病院に居る。

 レイには生きる希望なんてない。死ぬ勇気もない。


「あああああぁぁぁ!!ロド二ー!!」


 ロドニーと言う男こそ、レイに濡れ衣をかけた張本人。

 元々レイは、ロドニーにいじめられていた。だが、ロドニーはいじめだけでは物足りなくなった。

 徹底的にレイを追い込む程、冷酷で残忍な男なのだ。


「随分苦しそうじゃねぇか?俺で良ければ相談乗るぜ」


 誰も居ないはずの家で、確かに聞こえた。レイに話しかけるような男の声が。そして、気配もする。


 レイは怖くなり、周りをキョロキョロ見ながら無言でソファに座った。そして、ゆっくりとリモコンに触り、テレビを付けた。


「えー、昨日午前9時、ああぁあぁクマがぁあぁ――」


 テレビがビリビリと、壊れたように音を発した。


「なんだ?壊れたのかな?」

「壊れてるのはこの世界、あるいはお前の心じゃねぇのか?」

「え?」


 突然、テレビが真っ暗になり、画面から人間に良く似た何かがゆっくりと現れる。


「あああぁぁあ!誰か!!助け――」


 声が出なくなった。まるで声を奪われたかのようで息苦しい。


「騒ぐな、俺はアイム、悪魔だ。お前は?」

「れ、レイ」


 いつの間にか、レイは声が出せるようになっていた。

 だが、決して叫ばなかった。


 突然テレビから現れ、名前を名乗ったかと思えば自分を『悪魔』だと言う。だが、信じざる負えなかった。

 背から生えた黒い羽根、鋭い牙と爪、竜のような尻尾、赤い瞳、異様な雰囲気、明らかに人間ではない。


「お前のことは少し知っている。同情するぜ。最愛の家族を殺され、壊され、自分の人生はめちゃめちゃ。のうのうと生きてるロドニーが心底憎いよな?」

「何が目的なんだ?殺すならさっさとしろよ」

「願いを三つ言え、叶えてやる」

「はぁ?何を企んでる!?回りくどいぞ!」

「二度言わせるな、願いを三つ言え」


 レイは気味が悪かった。悪魔のくせに願いを叶えたがる。ランプの魔人のような目的を持った悪魔が居るだろうか?だが、レイは気味が悪い以上に気になったことがあった。


「人間を生き返らせれるか?死んだ人間を生き返らせれるか?」

「それを教えるのが一つ目だな?」

「うっせぇ!一つ目は俺の死んだ妹を生き返らせれることだ!今すぐ叶えてみろ!さっさとしろ!!」

「……叶えました」


 悪魔――アイムはそう言うと、レイの隣に座り込んでテレビのチャンネルを変えた。変えたチャンネルは、子供向けのアニメ番組だ。


「何アニメ見てんだ!!さっさと――」

「お兄ちゃん?」


 聞いたことある懐かしい声が背後からした。目をまん丸にして、レイは恐る恐ると振り返る。


「嘘だろ……」

「誰と話してたの?」


 そこに居たのは、正真正銘レイの妹だった。


「リン、お前リンなのか?」

「そうだけど?私いつ寝たか覚えてないの……それに家が妙に埃っぽいし、お母さんも居ない。それにお兄ちゃんいつ髪切ったの?」


 レイは震えながら、ソファに居るアイムを見た。そして、半信半疑だった事に確信が付く。


「リン、ただいま」


 レイは、妹のリンを強く抱き締めた。涙が出る程、嬉しかった。そして、生まれて初めて悪魔に感謝した。


「母さんに会いに行こう」

「やっぱりどこかに行ったの?」

「まぁ、今ちょっと調子が悪くて病院に居る。けどリンの顔見ればすぐに元気になるさ」


 二人が家を出ると、アイムも当たり前のように二人に着いて行った。どうやら、アイムが見えるのはレイだけらしい。


 *


 街の精神病院に着くと、リンは不思議そうにした。しかし、何か質問する訳でもない。


「どうぞ」


 家族である二人は、母親に面会する事が出来た。


「母さん、落ち着いて聞いて欲しいんだ。詳しいことは今度教えるから落ち着いて聞いて……リンが生きていたんだ」


 小さな声で話し、隠していた物を見せるようにリンを母親の目に入るようにした。当然、母親は信じられないような目をした。しかし、反応は期待とは違った。


「レイ、あんた出所したと思えばリンのそっくりさんを連れてきて何のつもり?そんなに母さんを苦しめたい?」

「母さん違うって!本人――」

「出ていげぇぇ!!出ていげって!!!あああぁぁ!」


 突然、母親はとち狂ったように自分とレイを挟むガラスを叩いた。その姿は、完全に精神患者そのものだった。

 周りの職員が母親を取り押さえることで事は済んだが、レイは再び悩まされた。


「ありゃダメだな、けど安心しろよ。あと二つ、願いを叶えてやれる……遠慮は要らないさ」


 再び、悪魔が囁く。

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