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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第24話【決着】

 爆風の影響で、煙が広がるように散っていく。その煙からは、無惨な姿なメタトロンが現れる。片目を中心に体が半分近く吹き飛んでおり、皮膚が剥がれて肉や骨が見える部分もある。片目は飛び出しているように見えるくらい、醜い姿だ。

 体に纏っていた炎が消えており、少し遠くで真っ黒焦げで倒れるジャックからも炎が消えている。

 どうやら、爆破によって炎の魔法が解けたようだ。


「ド三下がぁぁ。この俺に舐めた真似しやがって.........息の根止めて塵も残らないように燃やしてやる」


 メタトロンは、真っ黒焦げのジャックを横目で見て、足を引きずりながら手を伸ばし、ゆっくりと近寄る。


「あ?」


 突如現れた男がメタトロンの手を捻り上げた。その男は大会の選手で、マフラーのような物で口元が隠されている。190cmはある男が、メタトロンの手を赤子のように持ち上げ続けているのだ。


「すぐに離せ」

「もう決着は着いた。敵は気絶、お前の勝ちだ」

「デス.ブレイド」


 男を睨み付けるメタトロンは、もう片方の手から炎を放つ。男は、すぐに手を離して炎を避けた。


(この距離で避ける程の反射神経とスピード.........こいつ.........)


 メタトロンの注意は、ジャックから男に向いた。


「そこまでだメタトロン。決着は着いた」

「貴方も傷が酷い。早く治療室に行きなさい」


 だが、メタトロンを囲うように現れた神々が警戒した様子でそう言った。同時に、真っ黒焦げのジャックがタンカーによって運ばれて行く。


「勝手に終わらせんな。この傷を受けた屈辱を払えてねぇ。負けでいいから殺させろ」

「ダメだ。これはデスマッチじゃない」

「ならお前らが死ぬか?」


 空気が揺れるようだ。周りに居るのは皆最高神だが、それでも一歩身を引いてしまうくらいの殺気が漂う。


「はぁぁ.........冗談ですよ。ちょっと勝ち逃げされた様で苛立ってただけです。失礼を働きました。すみません。私も治療室に行ってまいります」


 メタトロンは、人が変わったかのように態度を変え、不器用にニコッと笑って退場した。それを見て、先程の男も控え室へと戻って行く。


「あんまり認めたくないが、恐ろしかったな」

「正直俺達より強い。主神に限りなく近いと言われていたが、肩を並べてる可能性も.........無くはない」


 神々は、息を飲み込むようにメタトロンの背中を見ていた。そんなメタトロンは、苛立ちを抱えたまま次の試合へと備えるだろう。


 *


 緊急治療室の強力な魔道具によって、ジャックの全身が治癒されている。魔道具の治癒力は神の領域だが、体の状態があまりに酷くて目を覚ますのに時間が掛かるだろう。

 焦げた肉のように真っ黒な体は、先程よりは肌の色が戻って来ている。スライムと水の中間のような液体の中で、隠していた顔も体も全て無意味となっている。裸状態のジャックは、治療を受ける際に顔も匂いも全てを確認されている。


「まさか人間がメタトロン様をあそこまで追い詰めたとはな」

「ただの人間じゃない。天使の羽根を持ち、それを扱える人間だ。噂では魔王の羽根も持っているとか……。なにより魔女の子が育てた人間だ」


 人間ということがバレた以上、人間=魔女の子が拾った人間となるのは当然の考え方だ。緊急治療室には、二人の天使が見張りをしていて、治療されているジャックを見ながら会話している。


「にしても何で治療を?」

「魔女の子を誘き寄せる罠にするんだろうよ。例え来なくても記憶読んで情報を得るのにも使える。化け物みたいに強い訳じゃないからほぼ危害はないし、使い道はたくさんあるだろうよ」

「言われてみればそうだな」


 会話をしていた二人は、扉の方から聞こえた微かな音を聞いて警戒して立ち上がる。しかし、扉から姿を現したのは、小さな熊のぬいぐるみ――ポム吉だ。その迫力の無さに、二人が拍子抜けする。


「ぬいぐるみ?さっきの試合でジャッキーが使っていた魔物?いや魔法か?」

「照れちゃう!」

「摘まみだしとけ」

「ああ」


 ポム吉は、秒で摘まみ出された。


「そんな!?」


 *


 第二回戦の一試合目が終わってから、アマノに焦りが見える。


「後悔しました?ジャック様を大会に出させたこと」

「別に……いい経験になったでしょ」

「どうするんです?あの様子じゃ死んでてもおかしくありませんよ?」


 落ち着かなそうにしてるアマノを見たタナトスが、少し困ったように親口調で質問を繰り返す。


「タンカーで運ばれてたから緊急治療室で治療を受けてるはずよ。あの魔道具なら一時間もあれば目を覚ますわ」

「その場合天使としての変装がバレますね。人間とバレたならアマノ様が拾った人間ということもバレます。敵なので見殺しにしましょう!ってこともありえます」

「向こうは私の情報が欲しい。ジャックから情報を得る為にも生かすはずよ」

「どっちにしろジャック様は帰ってきませんね」

「……」


 アマノは、不機嫌で不愉快そうだが、それ以上に心配と焦りの表情が目立つ。仕草が落ち着かなく、腕や髪を触り、足を揺らしてみたり、座る態勢を変えたりと、アマノのしては騒がしい。


「手伝いますよ」

「まだ何も言ってない。それにタナトスが私を手伝うの当然」

「照れちゃう!」


 そこに、どこからともなくとポム吉が現れた。小さな足を走らせ、アマノの膝上に飛び乗る。だが、何の意味があるか分からないが、一発叩かれる。


「ほわっ!」

「無事だったのですね」

「照れちゃう!ジャックは治療を受けてるよ!」

「ほんと?」

「うん!見張り二人に追い出されたけど、無事そうだった!」

「案内してくれる?」

「助けに行くの?」

「それ以外にある?」

「ないけど……ジャックは罠で、アマノが来るのを待ってるって言ってた。中の見張りは二人だけど、周りは最高神が何人も潜んでいる」

「……困ったね。流石にリスクが大きすぎる。念入りに罠を張っているだろうし、私が行けば相手の思う壺」


 しばらく考え込んだアマノは、深く呼吸をして決断を下す。


「取り合えず大会が終わるまでは動かない。ジャックの治療が優先だし、神々が易々とジャックを逃がす訳ない。転移で行って戻って来る単純で明快な作戦も対策されてると思う」

「分かったよ!」

「ただしポム吉、貴方はジャックの元へ行って」

「けど追い出されちゃう」

「いい物あげる」


 そう言ったアマノは、ポム吉に不思議な布を被せる。すると、ポム吉が透明になり、誰の目にも見えなくなる。


「何これ?」

「そっちからは分からないけど、今貴方は透明なの。ポムちゃんは魔力がないから魔力感知されないし、その体なら足音が聞こえる心配もない。ジャックを監視してこちらに様子を教えて」

「遠くでどうやって喋るの?」

「こっちからテレパシーを送る。早く行って」

「分かった!」


 透明になったポム吉は、嬉しそうにしてその場から立ち去った。アマノは、ポム吉が行ったか確認するかのように、足元でワイヤーを振るう。


「行ったわね」

「居たら透明な布ごと切れてましたよ」

「大丈夫。あの子ドエムだから」

「そうですか……」


 アマノは、先程より安心した表情をしている。それは、ポム吉からジャックの生存を聞いたからなのだろう。


 *


 ジャックとメタトロンの試合からかなり時間が経っていた。準決勝が終わり、決勝戦の準備が行われている。


「お疲れ様」


 観客席に居るクルーニャの元に、ボロボロで手当後のサタンが現れる。いつもの傲慢な態度はなく、少し弱った様子で、不機嫌で泣きそうにも見える表情だ。


「疲れた。相手がメタトロンなら勝てたんだ」

「確かに相手は強かったな。とてもシンプルな強さだったが、シンプルが故に隙がない」


 どうやら、サタンは負けてしまったようだ。疲れた様子でクルーニャの二個隣に座り、幼稚な表情で羽根で体を包む。


「数ヶ月程度だが、仮にも魔界を支配したんだぞ。この大会で一位を取るのは当然だったのに」

「魔界を支配するのと差しでやり合うのは強さ関係ないだろ。魔界を支配出来たのはタイミングが良かったのとお前が賢く立ち回ったからだろ?結果を出したからって自惚れてたんだよ」

「言われなくても分かってる。それを差し引いても私は強いし、メタトロン相手なら勝てた。二位までなら行けたんだ」

「メタトロン舐めすぎだろ。けど相手は強かったな。無名の天使……世界は広いからな。メタトロンが天使最強と言われているが、世界を探せばそれ以上が居てもおかしくないし、むしろ居ない方がおかしい。結局は表に出ている者の中での最強だからな」

「天使じゃない。あいつは天使と違った……一瞬だが奴が本気を出した時があった」


 サタンの妙な発言に、クルーニャが鋭く反応した。細めた横目でサタンの方を見て、ほんの少し笑っている。


「どういうことだ?」

「恐らく悪魔だ。観客席からは魔法で見えなかっただろうが、一瞬黒い羽根を出した。その時ほぼ互角だった戦いが一瞬にして崩れたんだ」

「悪魔……ああ、だから顔を隠しているのか。なら奴だろうな」

「私もそう思ったが、奴があそこまで強いなんて噂はなかった。噂ではアマノによって魔界に捕まったらしい。だからアマノ以下だと思っていた」

「魂を食らっている。この短期間でまた魂を食らったんだろうよ」

「だとしたら、かなり食べたな」

「ああ。相当の執念と精神力がないと体が持たないと聞いているが……何が奴を突き動かしているんだろうな」

「知るか。けど――」

「けど?」

「遠くから見ていた最強の神、デモ.ゴルゴンの仲間だけある。奴とは全然違うが、また違う怖さがあったよ」


 サタンは、そう言って寝転がった。クルーニャの方に頭を向け、疲れた表情で羽根を毛布のように羽織る。


「動けない。何かあったら起こしてくれ。どっちが勝つ所も見たくない」


 徐々に眠りに着くサタンを、見下すような目で見るクルーニャは、少しニヤッと笑って片足を席に乗っけた。


「最強の天使メタトロン対邪神天悪の生き残りアイム……面白い試合が見られそうだ」


 決勝戦へと上り詰めた二人の姿が、クルーニャの赤い瞳に映り込む。

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