表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
24/170

第23話【最強の天使】後編

 観客達も困惑している。ジャックが炎によって消滅したかと思えば、ポム吉の背後から突然現れてメタトロンを追い詰めているこの状況に。


「ジャッキー選手またもや姿を消しました!炎の中に消えたように見えましたが、メタトロン選手は警戒を止めません!ジャッキー選手が消えたり現れたりするのは、あの小さな召喚獣が関係しているのでしょうか?」


 試合が終了したと思っていた実況も、ジャックの再登場により再び実況を進めていく。


(次姿を見せた時、必ず謎を解いて見せる)


 そう思っているメタトロンの影に、ジャックが溶け込むように隠れている。そして、気配を感じられることを恐れたジャックが、影から飛び出して再び神器を振るう。だが、一瞬でそれに気付いたメタトロンが、一切振り向くことなく、背中の羽根でジャックを吹き飛ばした。


「すげぇ反応速度と冷静さ……普通ならこちらを確認するようなとこを顔色一つ変えずにやるなんて」

「ひょっとして影か?あの熊の背後から出てきたのも、熊の影から出てきたからで、今は俺の影から出た。まさか……熊の影から俺の影へ移ったのか?俺が熊を斬って影が交わった時」

「そうかもね」


 ジャックは、誤魔化すように返答したが、内心(気持ち悪い。何で瞬時にそこまで分かるんだよ)と思っていた。

 メタトロンの対応の速さと察しの良さを見て、天使最強の意味と戦闘経験の差をようやく理解した。


「確か影の魔法の基礎にそんな魔法があった。それか」

「そう……かもね」

「ハハッ!はははははははは!!」


 突然笑ったメタトロンを見て、ジャックは一瞬にして悟る。今までで冷静で冷酷で無感情に見えた男は、全て偽りの姿で、本当の姿は今見ている方なのだと。

 メタトロンは、溶けた皮膚を軽く剥がし、髪を掻き揚げて満面の笑みを見せた。


「いいな。楽しくなっきた」


 メタトロンは、無造作に距離を縮めてきた。初見殺しの技を見破られたジャックにとっては、恐怖そのものが近寄って来るようだ。


「ちっ」

「遅い」


 ジャックが羽根を広げて逃げようとしても、それに合わせるようにメタトロンから膝蹴りを食らう。距離を引き離せないスピードがある為、ジャックに逃げ場はない。膝蹴りを受けたことで、流れるように拳や蹴りが飛んでくる。剣を持っているのに、それを使わないで痛めつけてくるのは、その過程を楽しんでいる証拠だ。


「絶望するには一手足りないな」


 メタトロンはニヤッと笑い、ジャックの喉を指で突き刺した。当然、喉が潰れたジャックは、自分の口から試合を棄権出来なる。


「がはっ!?」

「大丈夫だ……俺はお前を必ず殺す。なぜだが俺の直感がお前を殺したいと言っている。だから死にたくなければ維持でも俺を殺すことだ」

「くっ!」


 ジャックがやぶれかぶれで拳を振るって反撃に出るが、赤子の相手をするかのように片手で受け流される。


「まあ、無意味な希望だがなッ」

「がはっ!?」


 態勢を崩したジャックは、腹に蹴りを貰い、そのまま足で持ち上げられる。その残酷な戦い方のあまり、目を背ける観客も少なからず居る。


「ううっ」

「戦いで強くなる為に一つ大切なことがある。まあ、物事ほとんどがそうあろうが……楽しむことだ。自分の体を思うがまま操る楽しさ、力をフルで発揮できる楽しさ、強くなる実感を得る楽しさ、相手をいたぶる楽しさ。戦いの中の過程から結果まで全てを愛するように楽しむこと……それが一番大切だ。俺はそれを無自覚でやっていたからこそ、最強の天使と言われるようになった」

「うっ……」


 ジャックを足で持ち上げ続けるメタトロンは、苦しそうにするジャックに囁くように淡々と言葉を吐く。ジャックには、その言葉が痛みと同時に流れ込んでいた。


「分かるか?お前はつまらなそうだ。結果だけを追い求めてるから絶対に俺に勝てない。お前が好きなのは戦いではなく、戦いで勝つこと……あるいは勝って誰かに認められる快感……それを求めてる。根本的に違う。どんなに才があっても、どんなに賢く立ち回っても、どんなに強くあろうと……楽しまなきゃその先に行けない。だから弱者なんだよ。経験が浅い、体が小さい、力が弱いなんてささいな理由なんだ」

「ごの!!」


 ジャックが手から溶ける液体を出す。だが、メタトロンがジャックを蹴り上げ、液体を剣で切り裂いてジャックに液体を掛ける。顔に液体が掛かるジャックだが、すぐに魔法を解除することでダメージを半減させる。


「ド三下がッ」


 しかし、状況は依然変わらない。メタトロンが多少怪我を負った所で、そのダメージを諸ともせずにジャックに攻撃を仕掛ける。一方的に殴られるようジャックは、血を流すサンドバック状態だ。

 それでも、羽根を広げて身を引いてみたり、ワイヤーを利用してメタトロンの隙を作ろうと試すが、全てはメタトロンの手の平で踊らされているように見える。

 しかし、その状況でジャックは微かに笑った。


「あじ……」


 ジャックの声が掠れた一言に反応したメタトロンは、すぐに足元に目をやった。そこには、足に寄り添うポム吉が笑ったような表情で居座っている。


「さっき真っ二つにした熊!?」

「照れちゃう!」

「どっておきを……みぜてやう」


 ジャックは、メタトロンがポム吉に気を取られた一瞬を見逃さなかった。ポム吉に繋がれてたワイヤーを引っ張り、素早く背後に身を預けた。その瞬間、ポム吉が光を放って木端微塵に爆破する。


「ほわっ!」

「こいつ!?」


 その爆発は一回きりではなく、その場で何発かの爆破音を鳴らし、持続的に爆破を起こした。最初の爆破に巻き込まれたジャックだったが、離れている途中だった為、かすり傷で済んだ。


(爆弾を埋め込む魔法だ。あんたから逃げ回っていた時、ワイヤーを通じてポム吉に爆弾を仕掛けた。そのポム吉はあんたの影の中に居たから、流石の最強天使さんでも気付けなかった。それが警戒に値しない相手なら尚更)


 ジャックは、テレパシーを使用してメタトロンに語り掛けた。そして、連続した花火のような爆破が終わった。煙の中には、メタトロンと思われる人影が立って見える。距離を取って警戒するジャックにとっては、吉が出るか凶が出るかだろう。


「いい作戦だ。きっとあの熊は使い捨てが出来る便利な品物なんだろうな」


 生き生きとした声を聞いて、凶が出たことを悟った。


「ちっ」

「もしかして……これでとっておきは終わりなのか?」


 メタトロンの体は、真赤な炎に包まれていた。しかし、その炎は爆破の炎には見えない。それどころか、メタトロンの体を守っているようにも見える。例えるなら炎の鎧だろう。顔以外のほぼ全てが炎に包まれており、剣までもが炎を纏っている。

 しかも、その炎は不気味に動いていて、金色に輝いているようにも見える。遠くに居るジャックが、皮膚がすぐに痛くなる程の火力がビンビン伝わる。


「そうだった。喉が潰れてまともにおしゃべりが出来なかったな。安心しろ、すぐに喋る必要がない体にしてやる」


 殺したら負けだというのに、メタトロンは今にも崩れそうなジャックを徹底的に殺す気だ。勝つことよりも、ジャックを殺すことに執着している。それほど勝利に興味がなく、それほどジャックを殺したいのだ。何がメタトロンをそうさせているのかは、今のジャックには分からない。ただ、負け=死だということは言うまでもなく分かっている。


(あの炎の鎧……ワイヤーは勿論、神器や魔法すらも燃やしてしまうだろう。ポム吉が復活しないが、やはり炎によって塵になったか?どっちにしろ俺に出来ることは逃げ続けること……その中でチャンスを伺うんだ)


 ジャックは、何の迷いもなく羽根を広げて空高く飛んだ。上空に身を構えるその姿は、メタトロンを挑発しているように見える。


「いいだろう」


 メタトロンも、ゆっくりとジャックの居る上空にやって来る。それに合わせるように、ジャックは指を銃の形に似せた。


(水魔法、水鉄砲)


 指からは、小さな魔法陣が出現し、水の弾丸がメタトロンに勢い良く飛んで行く。しかし、体を纏う炎によって一瞬で蒸発してしまう。


「相性よくても、貧弱で意味を持たないな」


 隙をついたように、もう一発水の弾丸をメタトロンに放つが、嘲笑うかのように顔の目の前で弾丸を受け止められる。


(もし攻撃が当たるなら炎の少ない顔だ。だとしても致命傷を与えるような技も作戦もない)



 ジャックは、再び逃げることを強要される。しかし、羽根を広げて空中を飛ぶも、メタトロンに先回りされて追い付かれる。


「終わりだな」


 メタトロンは、ジャックの腹を殴った。ただ殴るだけでは終わらず、腹の肉を指で挟んで強く捻って追い打ちを掛ける。


「がはっ!」

「まだまだ絶望は続く……目を凝らしてよぉく見ろ」


 炎を纏っているメタトロンに殴られた為、ジャックの腹に火が燃え移った。近くに居るだけで汗が噴き出る熱さの炎を直接体に受けたジャックに待っているのは、燃えて朽ちる未来だけだ。


「ッッ!ああああぁぁァァァ!」

「ハハッ!はははははっ!最初の威勢の良さはどうした!?あの冷静で世界の全てを分かっているかのような見下した目と態度!それも残酷な死の前では崩れ落ちるようだな!はははははっ!」


 メタトロンが感情を露わにして子供のようにはしゃぐ中、ジャックは炎の中で微かに笑った。


「何の真似だ?」


 ジャックは、炎の痛みを我慢してメタトロンにしがみつくように抱き着いた。当然、メタトロンは痛くも痒くもない。

 それどころか、ジャックは皮膚が焼けて今にも死んでしまいそうだ。


(ここまで近寄らせたあんたの負けだ。俺の爆弾の魔法を忘れたのか?)


 テレパシーですら枯れてる声は、落ち着いた深みのある少年の声だ。


「爆弾?この鎧の前では無意味だったあの爆破か?」

(内部からの爆破は?無意味だろうか?)

「内部?どうやって爆弾を入れる気だ?貴様の小さな手で腹に風穴でも開けるか?」

(こうするんだ)


 ジャックは、一瞬ふわっと羽根を使って浮き、メタトロンの頭をがっしりと掴んで小指をメタトロンの目玉に突っ込んだ。メタトロンは悲鳴一つ上げなかったが、目付きを変えてジャックの頭を強く掴む。


「てめえ……火に油を注いだな?」

(注で着火だ)


 ジャックがそう言うと、メタトロンの潰れた目玉が光を放って爆破した。その爆破は一回だったが、かなり大きくて激しい爆破となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ