第20話【奇石団】
夢を見ていた。それは、現実と夢の狭間のような感覚で、深く記憶と感覚が染み込むようだ。
周りは、天使や悪魔が血を流して倒れており、命がゴミのように朽ちていく。神々も人々も、天使も悪魔も、それを戦争呼ぶ。
「くそっ!さっきのマモンとか言う奴と離れた!助けて貰った仮を貸してねぇのに」
魔法の嵐の中、アイムが片腕を抑えて飛び回っていた。魔法を避け、天使達から隠れるように煙の中に隠れている。
「んっ!?」
煙に入った瞬間、背後から何者に口と体を抑えられ、首元にナイフを当てられた。腕が折れてるアイムには、背後に居る相手を倒すことは難しい。
「腕折れてるんでしょ?」
「んんっ!」
「貴方も思ってるんでしょ?もう逃げ出したい、この戦争に殺されてたまるかって。私も思ってる」
「.........」
背後から聞こえたのは女の声だった。声や話し方で、賢くて倫理のある天使だと、アイムは直感で理解した。
「このまま下界に逃げない?私達戦いってるフリをして、揉み合いながら下界への扉に二人で入る。この状況で他人に目を向ける余裕はない.........絶対成功する」
その女の言葉を聞き、アイムは先程自分を助けてくれた「マモン」と言う男を思い出していた。だが、アイムはすぐに首を縦に振る。
「流石、貴方は物分りのいい男だと思ってた」
天使は嬉しそうにそう言い、アイムの首を強く縛る。アイムは抵抗しながら下界の扉を作り、必死な様子で下界の扉に身を預けた。
「ぶはぁ!?」
下界に転移すると、扉が消えて無くなり、天使がアイムから手を離した。アイムは過呼吸状態で咳をし、疲れ果てたように近くの木に寄り添った。
「助かった。あんた名前は?」
「ゼパル。今日から堕天使ね」
天使――ゼパルは、可愛らしい顔をした女性だった。それでいて、どこか大人びている。そのせいか、アイムの心も少年に戻っていくように清らかになる。
「何で、俺を助けた?」
「イケメンだったから.........あと必死に逃げてて可哀想だなって思った」
ゼパルの表情は、少しアイムを揶揄うようものだったが、不思議とアイムの短気さが出なかった。
「俺はアイム。お前、これからどうするんだ?」
「考えてない。貴方は?」
アイムは、少し考えるように下を向く。
「強くなる」
「つまり?」
「人間と契約して魂を喰う」
当時、まだ悪魔と人間の契約が規制されていなかった時代だった為、アイムにはそれが出来た。
「けど強い執念と精神力がないと食べ過ぎで身が持たないんでしょ?そこまでリスクを負って強くなりたいの?戦争から逃げたのに?」
「ああ、強くなりたい」
「アイムちゃんは何が目的?強くなった先に何をするの?」
「アイムちゃっ!?.........まぁいい。強くなって魔王になる。俺が魔王になれば魔界や悪魔達の生活をより良いもの出来る」
アイムは、一瞬困ったように表情を変えるが、すぐに真面目な表情で強い意志を見せ付けた。
「それ冗談?自分が魔王になりたいだけじゃないの?」
「.........冗談。私利私欲の為に魔王になりたいだけだ」
アイムは、ゼパルに指摘されたことをあっさりと認め、爽やかな表情を見せる。
「そう。なら私も手伝う。行先ないし、これからアイムちゃんがどれだけ強くなれるか気になる」
「足引っ張るなよ」
「はーい!」
しかし、戦争が終わってからは、悪魔と人間の契約が禁止になり、アイムが人の魂を喰らうことも出来なくなった。
「クソっ。一般の悪魔から魔王を凌ぐ強さが現れるのを恐れて契約を禁止しやがった」
「確かに一つの魂でも結構魔力が増えたり、身体能力が上がったりするもんね。悪魔はいいな〜」
「リスクあること忘れてないか?」
「で?どうするの?普通に努力して強くなるの?」
「バカ。魔王だけはこれまで通り人間の魂を喰らうだろうよ。そうなれば力の差は開く一方。現魔王さえ死ねば一時的に呪いから解放されるんだけどな。そしたら下界に居て死んだことになってる俺は呪いから開放されて今まで通り契約が出来る」
ずっと歩みを止めなかった二人は、初めて行き止まりになったと実感した。アイムにとっては、かなりの絶望だった。
「じゃあ、魔王殺す?」
「俺らじゃ無理。誰か雇った所で、魔王を暗殺出来る奴なんて数える程しかいねぇよ」
「私の知り合いにとっても強い神が居るよ」
「へ〜、それはどこの最高神だ?それとも主神か?名前は?」
アイムは、少し小馬鹿にするように聞く。
「デモ.ゴルゴン」
「知らない。無名神じゃねぇか」
「けど主神の誰よりも強いよ。デモちゃんなら暗殺じゃなくても魔王を倒せる」
「お前、そういうつまんない冗談言う奴だったけ――」
アイムは、ため息をついてゼパルの方を向く。その時、ゼパルの真剣で一点の曇りがない瞳を見て、言葉を詰まらせた。
「わ、分かった。会いに行ってみよう」
*
アイム本人は、遠い遠い過去の夢を見たこと忘れていた。
そして、目が覚めたアイムは、デモが死んだことを思い出した。デモの死体を見た訳でも、デモが死んだと確定した訳でもないが、直感でデモの死を感じていた。
とても悲しくて辛いはずなのに、涙や悲しい表情はなく、あるのはやる気と情熱に満ちた表情だ。
「アイム様起きたー!」
「おはよう」
「ねぇ、デモ君はいつ帰ってくるか分かった?」
「あぁ、帰ってこねぇよ」
「えっ?」
アイムに拾われ、母親を失った天使の少女――ルゼは、驚いて持っていた食器を手から落とす。アイムが床に落ちる前の食器を羽根で拾うが、ルゼは表情を固めたままアイムの方を見る。
「あいつ天使の女の所行った。だから帰って来ない」
「それって?」
「あぁ、奴は俺達より女を選んだ。そういう男だ」
「何かデモ君の様子が変だと思ったら、夜逃げする前日だったからなんだ.........」
「泣くな。探し出してボコボコにしてやろうぜ」
「うん」
アイムはルゼに嘘を付いた。しかし、アイム自身は嘘を付いたと思ってもいないし、アイムからしたら紛れもない事実だ。
*
神界。
アマノを見送ったロキは、会議の場に戻る所だった。
「ありゃ、まだ会議してたの?もっと遅く来れば良かった」
「もう終わる所だ。お前って奴は絶妙なタイミングで来やがる」
ゼウスが呆れたようにロキの方を振り向く。
「なぜ天使を連れて来た?側近でも一階で待たせる約束だったろ」
「天使?なんのこと.........」
ロキは不思議に思ったが、すぐに背後を振り返った。しかし、その時には既に胸を手刀で貫かれていた。背後に居たのは、白い仮面とマントを羽織った天使二人だ。体型や見た目が分からないが、背中の羽根で天使だと確認出来る。
「ロキ!?」
周りに居た主神達は、慌てて天使達に神器を投げる。だが、天使二人は、すぐにドアの影に隠れて身を伏せた。
「ロキ大丈夫か!?」
ゼウスは、その場に倒れるロキに声を掛ける。しかし、ロキの体は光が重なるようになって消える。
「ミラー分身。ギリ避けれたけど、結構強い天使だよ」
生きていたロキが、ゼウスの背後に何事もなく現れる。それを確認した周りの主神がホッとため息を付く。しかし、すぐに緊張と恐怖が走る。
主神達が天使やロキに気を取られた隙に、男が一人テーブルの上に座っていた。瞬き一つで光景が変わったようだった。
「いつの間に!?」
アヌビスやシヴァが男に神器を振りかざすが、男は手に持っていた白と金の石の欠片で攻撃を防いだ。
「これは凄い。主神をも凌駕する力と魔力が秘められてる」
「その欠片をその場に置け、命だけは助けてやる」
男は、横目で主神達を見渡し、鼻で笑ってゆっくりと背中の羽根を広げた。男は、長髪でガタイの良い悪魔で、座っていても大きく見える。それでいて、透明感のある色男だ。
「おいおい、自分の命の方が危ないってこと.........分からないのか?」
「何だと?」
「今欠片を手に持ってるのは俺だ。この欠片は持っているだけで力を授けてくれる特別な物。それにあんたら主神共は昨日の戦いの疲労がある。こちらは三人だが、不利なのはあんたらだと思うぜ」
「調子に乗るな。これでやっと同等と言った所だ」
「どっちでもいいが、俺達はこれからこの欠片を集めて神々を滅ぼす。それまで呑気に暮らすといい」
「魔法が使えないこの状況でここから逃げれるとでも?」
「逃げれなかったらわざわざ顔を出さないさ」
男はそう言って、テーブルから下りる。神々は、男から目を離さず、男も横目で神々の動きを警戒してる。
「欲しい物は全て手に入れる。金、地位、権力、力、愛、そして神の居ない世界。俺はお前ら神々が嫌いでな.........ずーっとチャンスを待っていた。デモ.ゴルゴンが欠片を残したことを知った時、俺は思ったね。これはデモ.ゴルゴンが俺に与えた力だと」
「図々しい考えだな」
「お前ら神ほどではない」
「結局は私利私欲の塊ってことだな?」
「そうだ。俺は強欲の悪魔マモン。俺達は欠片を集めて希石に戻し、それを俺の物にする。俺達のことは.........そうだな〜、『希石団』とでも呼んでくれればいい。世間に広めとけよ」
男――マモンは、そう言って部屋から出ようとする。だが、当然の如く神々が素早くマモンの首に神器を振るう。
しかし、二人の天使がそれを受け止め、神々を蹴り飛ばす。
「あの天使達、傷を負っているとは言え、俺達を蹴り飛ばすとは」
「マモンとか言ったな?余裕こいて逃げようとしても無駄だ。ここは魔法の使えない場所。お前が逃げた瞬間後ろからどつく」
「お前にとって魔法が使えない状況は絶望らしいが、俺達は違う」
マモンがそう言うと、天井が激しく揺れて、上空から大量の水が押し寄せた。津波以上の水の嵐がこの建物の外から流れ落ち、建物事吹き飛ばして地下まで浸水したのだ。
「さらばだバカ神。俺達希石団とその団長マモンを警戒して怯えるが良い」
神々が水に揉まれる中、マモンと天使二人は水に引っ張られるように上空に上がって行く。その上には、もう一人姿を隠した者が居るが、その者がこの水の使い手だろう。
「フンっ、流石主神と言った所だが、欠片が現れた今、その強さも意味を持たなくなるだろうよ」
マモンは、周りで溺れる神々を見下ろし、今後を期待したような笑みを見せて姿を消した。




