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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】一章『アマノとジャック』
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第17話【デモの戦い】後編

 もう何万年も前の話だ。

 時の支配者クロノスが神界を統べていた時代。神々や天使達から魔力を奪い、あらゆる書物や神器を保持し、自分以外には力を持たせないようにしていた。

 だが、自分が一番でない時代がやってきた。クロノスの実の息子ゼウスが誕生してから、ゆっくりと時の歯車が回り始める。ゼウスに自分が正義だと教育してくたクロノスだったが、ゼウスが大人になってからはその教育も無意味となる。クロノスの悪事を知ったゼウスは、実の父親クロノスを殺した。歴史はそう物語っている。


(だが、実際はクロノスはゼウスの体に封印されていただけ……ゼウスから感じていた謎は彼だったのか)


 ゼウスから感じていたエネルギーの正体に確信が付いたデモは、クロノスの右手を見て驚いたように口を開けた。


「さっきの傷、もう治ったの?」


 爪が割れて指が曲がっていたクロノスの右手は、すっかり元通りに戻っていた。それどころか、血の一滴も付着していない。


「ああ……残念ながらな」

「君、僕を倒したところで再びこの世界の王になれると思っているの?」

「なれないとでも?」

「永遠なんてないよ……いつか君の時代は終わる。ゼウスに封印されたあの時みたいにね。勿論、僕が居ない世界もいずれ生まれる」

「フフッ、フハハハハハ!永遠なんてないだと!?ないなら創るまでだ!私にはその永遠を創る力がある!」


 さっきまで無表情で物静かだったクロノスは、感情が溢れ出たかのように笑い、デモを見下すかのようにニヤついた。


「何か……考えがあるの?」

「私が王の世界が一秒でもあれば、私は永遠の王になれる。私が王の世界を創り、その時間をループする。そうすることで世界はずっと変わらない。完璧な世界が永遠を歩むのだ」

「なるほど、流石時の神様。けど、僕が居たことで夢のままになっちゃうんだね」

「確かにお前は強い。今まで会ったどの神をも超える圧倒的な存在だ。だが、私にはその強さを無意味にする能力がある」


 風が靡いたと同時に、デモの頬に刀で斬られたような傷が出来た。目の前に居たクロノスも、先程と同様に背後に回り込んでいる。


「またそれ」

「やはりな。いくらお前でも、私の能力には干渉できないようだな」

「止まった時に干渉できる魔法だね?しかし、この程度の傷しかつけれないようなら、それも無意味だよ」

「お前は、いつまで強気でいられ――」


 止まった時に限りなく近い速さで、デモの拳がクロノスの顔面を貫いた。畳みかけるように刀を取り出したデモは、瞬きや光よりも素早くクロノスをバラバラに切り裂く。

 クロノスは悲鳴一つ上げることなく、バラバラになってその場に朽ちる……はずだった。細切れになったクロノスの肉片は、時間が逆行したかのように元に戻り、何事もない顔でデモを下から睨みつける。


「すっ、凄いね。そうゆうこともできるんだね」

「単純な力だけが強さじゃない……分かっ――」


 だが、デモが再びクロノスの顔面を殴り、首根っこ捕まえて拳を振るう。クロノスの顔は再び元に戻ろうとするが、それを阻止するようにデモが拳を振るい続ける。


「魔力が尽きるまでやる?」


 クロノスは、体をじたばたさせて逃げようとするが、デモが一切逃がしてくれない。しかし、すぐにデモの手元からクロノスの姿が消える。


「また時止めか」

「ううっ」


 少し離れた所にクロノスが居る。だが、ぐにゃぐにゃに曲がってへっこんでいる顔は、元に戻っていない。顔を抑えて、化け物のような雰囲気と呻き声を出している。そして、クロノスの顔から片目が零れ落ち、その目玉が腹の中に入る。


「何だ?」


 突然、クロノスの腹を中心に体がばっくりと割れて赤い血の線が浮き出る。浮き出た赤い血は、零れ落ちた目玉を取り込み、綺麗な赤い剣のようになる。


「もう殴らないのか?」

「何か……妙な余裕があるね……君という存在は」


 デモは、困ったように笑いながら、ゆっくりとクロノスに近寄ろうとする。しかし、妙に息が切れて魔力が乱れる感覚が強く走る。


「何だ?変だ……魔力が乱れてて……体にも疲れが……まだ余裕だったはずなのに……」


 跪いたデモは、感づいたようにクロノスの方を見上げる。クロノスは、思い通りになったようなドヤ顔を見せ、冷酷な目を向けたままデモに近づく。


「さっき首を掴まれた時、お前の時間を狂わせてやった。体の半分は時を加速させ、もう半分は巻き戻した。お前の体はもうお前の物であってお前の物ではない。別人のような感覚だろ?さあ、死との対面だ」


 クロノスは、そう言ってすぐに時間を止めた。空気や音や生物が全て止まり、世界が一変したかのように見える。その世界で、止まっているデモの背後に回り込み、赤い剣を構える。


「長時間使えばすぐに魔力切れするが、数秒単位で複数使えば問題ない。そして、この剣に貫かれた者は、一撃で死に至る」


 クロノスは、手に持っている赤の剣をデモの頭に突き刺した。同時に、時の止まった世界が元に戻り、時間が動き出した。


「一体、こいつは何だったんだ?まあ……どうでもいいか」


 クロノスが赤い剣をデモから引き抜く。瞬間、デモは死んだ目で確実にクロノスを睨み付けた。


「バカな!?こいつ生きて!?」


 咄嗟に距離を取ろうとするクロノスだが、デモに体をがっちりと掴まれる。


「君を殺す方法を考えた」


 ニコっと笑ったデモを見て、クロノスは確信した。赤の剣が少しも効いていないことを。


「貴様!?デモ!?」


 デモの黄色い目に微かに紋章が浮かんだ。まるで今にも消えそうな残り火のような、そんな紋章と瞳の輝きだ。


「真理の義眼」


 二人は、光と共に別の世界に訪れる。クロノスが気付いた時には、神界とは違う無限の背景が広がる不思議な空間に居た。


(時間を止められない!?それどころかこいつの時間すら操れない)


 クロノスは、時間に干渉できなくなっていた。赤い剣も手元からなくなっており、零れ落ちたはずの左目も元に戻っている。


「ここは時間の概念がない世界。そして僕は君と共に死ぬ」


 デモの両目からは大量の血が流れており、眼球にはひびが入っている。デモは、そんな状況でいつものように笑い、クロノスを赤子を可愛がるかのように抱き締めた。


「離せ!お前程の男が私一人の命を絶つ為だけに死ぬのか!?お前なら私以上にこの世界の王になれるのに!わざわざつまらぬ死を選ぶのか!?考え直せ!」

「羨ましい。そうやって生に執着して死を恐れれるのが羨ましい。僕は最強の存在としてこの世界を見てきたけど……これからは最弱の存在としてこの世界を見る。まだ見届けたい世界が……ある」

「なら生きろ!死ぬな!私から離れろ!お互いもう出会わないようにしよう!だから生きろ!私だけでも生かせ!おい!生きるんだ!デモ!」


 クロノスの言葉は、デモに一切届いていない。デモの脳裏にあったのは、アマノやアイムのことだった。死が直前だというのに、これからを楽しみにした笑顔で、眠りに落ちるように命を引き取った。その死は、デモにとっては安らかで穏やかな物だったが、世界にとっては爆発的な物となる。


 *


 デモとクロノスが最後に居た場所は、眩い光と共に軽い爆破が起きた。その中心から出現した光輝く金と白の石は、粉々になって神界や魔界、この世界のあちこちに散らばった。


「よっ!何だこれ?あの二人が消えたかと思えば、奴らの居た場所から石が出てきた。ケッケッケ、しかもただの石じゃない。膨大な魔力を含む石の欠片だ」


 それを見ていた男――クルーニャは、飛んできた欠片を一つキャッチして、嬉しそうにその欠片を観察する。


「よこせ。なるほどな……欠片一つで最高神一人分の魔力はある」


 クルーニャから欠片を取り上げたサタンは、これまた嬉しそうにして欠片を服の中に仕舞い込んだ。


「俺が取ったんだけどな……」

「お前は私の所有物、つまりお前の物は私の物だ」

「あっそ。別に良いけどさ」


 クルーニャは、呆れたようにそっぽ向き、デモとクロノスが戦っていた場所に目を向ける。


「まさか神界がこんなになるとはな……すぐにも医療班が来るだろうが、尋常じゃない被害だ」

「全くいい物を見れた。大昔に死んだと思われていたクロノスがゼウスの体から出てきたり、そんなクロノスを赤子のように扱う化け物が居たり……世界を知った気でいたが、今日を持ってその傲慢な考えも改めれそうだ」

「クロノスにデモ.ゴルゴン……あの爆発以来姿を見せない」

「どうなったかはいずれ分かる。このまま現れないようなら、死んだと見ていいだろう。どっちにしろ、永遠に居ないようなら、死んだも同然だ」

「結局……デモ.ゴルゴンは何者だったのかね。クロノスはまだしも、奴は異質だった。強いとか弱いとか抜きにして、存在が神って感じじゃなかった。そう、概念のような奴だった」

「謎だが、私には関係ない」


 サタンも、クルーニャが見ていた場所を見る。だが、見ている場所は、あちこちに転がっている神々だ。そして、憎悪の瞳で見下し、上空に巨大な魔法陣を出現させる。


「何する気だ?」

「天使達が来る前に出来るだけ多く神の息の根を止める」

「なぜそんなことする?」

「神と天使を絶滅させることが、私の野望だからだ」

「そして現代の魔王サタンとしてこの世界の王になるってか?お前と言いクロノスと言い、どいつもこいつも同じことしか考えれねえのかよ」

「そういうお前の野望は?」

「今を楽しむ」

「ふんっ、つまんない男だ」


 サタンは、聞いて損したかのように目を逸らし、魔法陣から黒炎を出現させる。その黒炎は、雨のように無慈悲に放たれ、倒れている神々に次々と命中していく。その光景を見て、サタンは心から嬉しそうに微笑みを見せる。


「美しいな」

「お前、誰かの不幸を見下してる時が一番輝いてるぜ」

「そりゃあどうも」


 サタンが微笑む中、クルーニャは何かを企んでいるかのような目でサタンに目を向け、背中に回した手をゆっくりと開く。その手の平に隠していたのは、サタンに取られた欠片とは違う色の欠片だ。そして、喜びを堪えたような表情でニヤッと笑った。

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