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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】三章『マリーゴールドにキスを望む』
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第0話【プロローグ】

 邪神クルーニャが英雄ジャックに倒されてから一年以上経った。ジャックは14歳、三年生だ。


「新しく担当の先生になったステファノンです。よろしくお願いします」


 一時期ゴミのような生活を送っていたジャックだが、それも三年前の話。今では立派に学生をしている。

 どうやら、今年は先生が変わるらしい。


「ステファノ先生!リベ先生はまだ復帰しないの?」


 ベルの質問は、皆が気になっていることだった。セーレもアウトリュウスも珍しく話を聞いている。


「ステファノンです。残念ながら……もう一年以上家に引きこもったままらしいですよ」

「何でなの?クルーニャがジャックに倒されてから突然学園に来なくなった」

「私にも分かりませんよ」


 新学期が始まって何もかも新しく感じる。リベに代わって来た新しい先生、成長した同級生、歳を重ねた自分。ジャックの見た目は10歳から全く変わっていない。それは、ジャックが人間から神になった為、老いることのない存在になったからだ。

 だが、他の皆は身長も伸び少し大人びた様子だ。ジャックにとってこれは嫌な現実だ。同い年なのに、自分だけ子供扱いだ。


「なあ、リベ先生の元行って直接確かめてみない?何で来ないか」


 学園が終わると、アウトリュウスが皆を引き留める発言をした。


「いいね!」

「賛成」


 ジャックとベルとセーレが興味津々で大賛成した。同時に、四人はカーマの方を見る。


「こっち見んな。あんなイカレ女の元に俺は行かねぇ」

「だと思ったよ偏屈神様」

「ほんと最低ね。リベ先生をそこまで悪く言わなくてもいいじゃん」

「カーマ嫌い」

「……」


 カーマは一年前と変わらない。誰とも仲良くしようとせず、孤独を選んでいる。


「ルーナが居ないから余計に浮いてるな~」

「ルーナはカーマの扱いも上手かったからね」

「誰か仲良くしてあげな」


 冷めた目と他人任せな口調でいうセーレ。それに対し、他の三人は一瞬目を合わせ、言い訳に近い答えを並べてく。


「ベル仲良くしてるよ!けどカーマいつも照れて話しようとしない」

「エッチならいつでも付き合うんだけどな~」

「俺は嫌われてるからそもそも無理だ」


 皆、教室を出て行くカーマを遠目に憐れんでいる。皆決してカーマを嫌いではないが、いつもの態度には疑問と困惑を隠せれない。


「じゃあ早速行こうか!」

「え?今日はちょっと厳しい」


 ノリノリのアウトリュウスに対し、ジャックが申し訳なさそうにそう言う。


「そうなの?まさか俺ちゃん以外の他の男?」

「違う……。そもそも俺はホモじゃない」


 ジャックは顔を近付けて疑うアウトリュウスを押し返し、細い目と呆れた顔を浮かべる。


「そう。なら明日にしようか」

「ありがと」


 * 


 ジャックが学園帰りに来ていたのは天界だ。それも街中ではなく、遠い遠い最果ての地だ。一見何もないように見える世界だが、その一部はとても豊かな場所だった。


「……眩しい」


 日差しが眩しく、当たり一体の畑が立派に育っている。特に綺麗に咲いているひまわりとマリーゴールドはジャックの目を奪った。そして、しばらく畑や周りの景色に見とれながら真っすぐ進んでいく。その先には、小さめでオシャレな家がある。

 その家の前で畑の花を摘む天使は、ジャックの良く知る女性だ。黒くて綺麗な髪に凛とした顔、それはとても懐かしいように思える。その天使の顔が母親に似ているからか、それとも天使が母親に似てきたからか、ジャックはなんとなくその理由を知っていた。


「おお!来たかジャック!」


 女性――サタンはジャックに気付いてこちらに手を振った。瞬間、風が靡いてサタンの麦わら帽子が吹き飛んだ。ジャックはそれを咄嗟にキャッチし、駆け足でサタンの方へ向かう。


「久しぶり」

「一年ぶりだな」

「ここ最近忙しくて」

「大英雄となれば頼まれ事も多いのだろう?」

「そんなとこ」


 久々にサタンと会ったジャックは、母親と話をする子供のように穏やかだ。それはサタンとて同じことだ。そのせいか、心地よい日差しと風をしばらく感じる程、一瞬の間を楽しんでしまった。


「さあ入れ。美味い物食わせてやる」


 思い出したかのように、サタンがジャックの背中を押して家の中に入れる。


「いい匂い……それにオシャレだ」


 家の外装は神界や天界に似つかわないイギリスにあるハーフティンバースタイルの家だ。だが、内装は人間的な外装と違って神秘的な部分も多い。

 家の中だというのに小さな店のような空間が壁際にあり、そこがバーのようなキッチンになっている。その反対には水の壁があり、その水が見えない壁で守られている。その水槽の中を泳ぐ生き物は小さいが見覚えがある。


「変な魚……けど見たことある」

「レヴァイアサンだ。こやつが泳いでる海に繋がっていてる。ほら、餌だ」


 サタンは餌を取り出し、それをジャックの手の平に渡した。ジャックは不思議そうに見ながら、水の壁に向かって餌を投げる。


「なんでこんな小さいの?」

「こっちの空間では何十倍も小さくなる。そういう魔道具だ」

「天界には色んな魔道具があるね」

「私だって知らない魔道具がある。まあ、扱えるのは資格を持った者だけだ。最高位の魔道具はほとんど使われないぞ」

「ふ~ん」


 部屋はとても広い。きっとここはリビングだろう。食事を取る用のテーブルが大小二つ別々の場所にあり、神秘的な飾りが所々にある。


「ええ~ん!」


 ジャックの少し離れた場所から赤ん坊の泣き声が聞こえる。それを聞いたサタンは、その泣き声の方に手の平を向け、泣き声の主を魔法で引き寄せて抱き寄せる。


「赤ちゃん……サタンの子?」

「先月生まればかりだ」


 ジャックは興味津々に赤ん坊を覗き込もうと、めいいっぱい背伸びをする。だが、サタンが赤ん坊をゆらゆらと揺らす為、あまりよく見えない。


「うう……」

「これは……ミルクかな?」


 サタンはそう言い、自分の服をずらして片胸を出した。ジャックは気を使い、反射的に顔を横に背ける。


「良い子だ」


 ミルクを上げ終えたサタンは、服を上に上げて再び赤ん坊をあやす。そして、顔を背けてるジャックに目を向け、少し屈んで優しい瞳を見せた。


「抱いてみるか?」

「いいの?」


 ジャックはサタンから優しく赤ん坊を渡され、緊張した表情でしっかりと赤ん坊を抱き寄せた。


「首を支えて……そう」

「意外に重い」

「初めてか?赤ん坊を抱くのは」

「え?うん。初めて」

「可愛いだろ?」

「うん」


 ジャックはまだ幼い命を抱いて、今抱いている者の尊さを噛みしめていた。赤ん坊の小さな手がジャックの小指を優しく掴み、その瞑った目が表情豊かに動く。それに感動していた。


「名前は?」

「ローズ」

「……ローズ」

「お前が世界を……クルーニャを救ったから生まれた命だ」

「俺が……救った……」


 クルーニャを倒したばかりのジャックは、自分の現状を嘆き、失ったアマノとその思い出を数え、何とも言えない感情に苛まれていた。だが、今サタンの一言でジャックは少し救われた。

 それは、腕の中にある命が自分が戦って守り抜いた命だと実感できたからだ。


「おっ、ちょうどいい所に帰って来たな」


 ドアが開き、鈴がなって足音がした。そこに居たのは、一年ぶりのクルーニャだ。その表情は以前のように薄っぺらなものではなく、心のそこからの表情に見える。


「ジャックか……元気だったか?」

「まあ。お前も元気そうだな」

「おかげ様でな」


 ジャックとクルーニャはお互いの顔を見てしばらく黙った。二人共表情こそ穏やかだが、お互いが見てる表情は一つではない。まるで、その一瞬で会話をしているかのような不思議な空気感だ。


「夕食にするか」


 三人は今夜の夕食を一緒に取った。その姿はまるで家族のようで、とても微笑ましい。ジャックもその幸せに浸っていて、こんな時間がいつまでも続くことを願っていた。

 そしてその表情は、四年前のひねくれたジャックとは別人に見える。


「今晩は泊れ。もう夜も遅いだろう」

「ありがと」

「どこがいい?リビングにハンモックやソファがあるが、流石に嫌だろう?私のベットを貸してやる」

「別にどこでもいいよ」

「ダメだダメだ。体を痛めてしまう。ほら、こっち来い」


 ジャックはサタンに言われるがまま寝室に連れてかれ、綺麗なベットに横になった。そんなジャックに毛布や布団を丁寧にかけるサタンは、かつての母の姿を思い出させる。


「何かあったら遠慮なく言え」

「うん」

「一人で寂しくないか?私と一緒に寝るか?」

「大丈夫」

「そうか」


 サタンはそう言い、眠そうなジャックの額にキスをし「おやすみ」を告げて部屋を出て行った。ジャックはサタンが出て行ったドアをしばらく見て、落ち着いたようにため息をする。


「女の人は子供ができるとこうなるのか。もう子供じゃないんだけどな……」


 ジャックはボソッと独り言を言う。だが、すぐに鼻で笑って純粋な笑みを浮かべた。その笑顔は、人を殺してアマノと出会う前の幼いジャックそのものだ。


「寝よう」


 *


 ジャックは余裕を持って起きることが出来た。きっと久々に良いベットで眠ったおかげだろう。


「ポムッ!」


 リビングに出れば、ジャックより早起きなポム吉がサタンの胸に飛び込んでいた。サタンはそれを表情一つ変えずに見て、ポム吉を暖炉の火に投げた。


「ほわ~」

「おはよう」

「おはよう。二人共早いね」

「歳を取るとあまり寝れなくてな」

「歳?ああ、二人共見た目若いから忘れてた。クルーニャなんて爺の癖に子供みたいな顔だ」

「老いないお前が言うかよ」


 ジャックは朝食を取ると、眠そうな目でぼーっとしてから学校に行く準備をして家を出た。


「行ってきます」

「また来い。明日にでもな」

「最近はあんまり忙しくないから頻繁に行けそう」

「それは良かった。楽しみにしてるぞ」

「うん。じゃあね」

「ああ。気を付けてな」


 ジャックは気分のよいまま羽根を広げて天界を飛んで行く。そして、世界の扉に入ろうとする。


「痛っ!?」


 だが、瞳に痛みが走り、自動的に真理の義眼が発動してしまう。その瞳に映るのは、最悪の未来だった。


「これは!?」

「真理の義眼の危険信号だ!すぐに起きる数分先の未来!」


 ひょこっと顔を出すポム吉がすぐに説明を挟む。


「何だと……なぜ!?こいつが……メタトロンが暴れてるんだ!!」


 ジャックの瞳に映ったのは、ジャックの奴隷であり宿敵でもあるメタトロンだ。そのメタトロンが街中で派手に暴れている未来が瞳に映り込んだ。

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