表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
122/170

最終話【愛を知らない神様】

 神界には神、天使、悪魔、あらゆる種族が集まった。普段上位の存在しか立ち入れない神界だが、今日は特別な日だ。一般の天使や悪魔も立ち入り、皆たのしくお祭り騒ぎだ。


「七つの亡霊及び邪神クルーニャは倒された!皆よく戦ってくれた!そしてこの戦いに一番貢献した男に感謝状を贈る!英雄ジャック!前に!」


 代表のゼウスが檀上に立ち、神秘的なバッチを手に取った。檀上に恥ずかしそうに上がるジャックは、帽子で顔を隠している。


「儂からの言葉は不要じゃな。感謝する」


 ゼウスはそう言い、ゆっくりとジャックの帽子にバッチを付けた。民衆は皆大盛り上がりで、クラッカーのように魔法を上空へ飛ばす。そんな中、ジャックは静かに口を開いた。


「クルーニャを始末しないのは……何でだ?私情か?」

「私情じゃ。奴とは仲良くはないが、奴は儂の目標じゃったからな」

「なんかの冗談か?」

「嫌……本当だ」

「……そんな情があるなら、アマノにも優しくして欲しかったよ」


 ジャックは寂しい表情でそう言い、ゼウスの手を軽く振りほどいて檀上を降りた。ゼウスはそれを申し訳なさそうに眺めている。


 * 


 ジャックは大英雄になった。世界を二度も救った英雄だ。元人間なんて肩書はマイナスにすらならないくらいのことを成し遂げたのだ。

 だが、その英雄は祭りから少し離れた傘のついたベンチに寂しそうに座っている。


「一番邪悪な奴を生かしてしまったな」


 ジャックはこの一年で殺してきた七つの亡霊の神々を思い出していた。悪党達を倒してきたというのに、その心は綺麗さっぱりではない。


「アマノ……」


 その心には、ほんの少し苛立ちと悔しさがある。


「おかしな話だ。クルーニャみたいな悪党が幸せを掴み、アマノみたいな聖女が迫害を受けたまま死んだ」


 同時に、ラースの死に際の表情を思い出す。怒りに満ちた表情と泣くほど悔しんだ苦い笑みを。


「確かに……悔しいよな」


 ジャックはそう呟き、クレープを一口口にする。そのクレープは今まで食べたクレープより豪華だが、味はあまりしなかった。


「あんたの言う通り、俺もあんたのようになってしまうのかな。それもそれで悔しいな」

「照れちゃう!」


 ジャックが黄昏の表情を浮かべてると、隣にいつの間にか座っていたポム吉が照れた仕草でくっ付こうとしてきた。ジャックはそれを表情一つ変えずに見て、ポム吉を自分の横に優しく抱き寄せる。


「お前が居る限り、それはなさそうだな」

「何の話?」

「お前が最低な変態だって話さ」

「照れちゃう照れちゃう!!あんま褒めんといてっ」

「褒めてない。バカにしたんだよ」

「そんなしょんなちょんな!」


 ポム吉はいつも通りバカだ。これが近くに居るだけで、その場がお祭りのようにうるさくなる。


「ほら」

「やったー!ありがとっ!」


 その口を黙らせる為、ジャックはポム吉にクレープを渡した。ポム吉はジャックの思い通りクレープに夢中になる。


「……」


 そこに、黒いハット帽を被ったクルーニャが音も気配もなく現れる。そのせいか、クレープに夢中になってるせいか、ポム吉は一切クルーニャに気が付いてない。


「何の用だ?」

「懐かしいな。俺とお前が最初に会った時もこんなベンチでクレープを食わしたっけ?」

「のろけ話でもしに来たなら帰れ。顔を見られれば厄介なことになる。あんたが生きてるのを知ってるのは俺とゼウスだけだ」

「いいじゃねえか。感謝の気持ちの一つくらい聞いてくれても」

「感謝の気持ちか……笑わせる。本当にそう思ってるならもう二度と顔を見せないで欲しいぜ」


 ジャックは顔をポム吉の方に向け、ポム吉のことをペットのように撫でながら鼻で笑った。その静かな空気は、クルーニャを少し動けなくする。だが、すぐにジャックの隣に座って再び口を開いた。


「認めるよジャック。俺も愛の奴隷って奴だ」

「……」

「ずっと自分の弱さを認めたくなかった。愛なんて知らないままで良いって。本当は誰よりも愛情深い人間みたいな奴なのに」

「……」

「どれだけ強くなってもどれだけ賢くなってもそこは変わらなかった。そこだけは成長できなかったんだ。お前が俺を止めるまで」


 クルーニャが真剣に話す中、ジャックは少しずつ貧乏ゆすりと苛立ったような指の動きを見せる。クルーニャもポム吉もそれに気付いてはいない。


「つまり……何て言うのかな……俺は本当に救われた。本当に本当にありが……」

「黙れ!!」


 ジャックが声を上げて立ち上がり、怒りに満ちた表情でクルーニャを睨み付けた。その背からは魔王の羽根が生え、目や口元も悪魔のような軽い変身を見せている。


「そんな安っぽいセリフ言うな!本当にズルい奴だお前は!演算で全て分かっていた癖に!感謝の言葉だけ述べ、自分はサタンと平穏な幸せを掴むだと!?そんなの誰も許していない!」

「僕は許すよ」


 ポム吉が純粋な表情と口調でそう言う。


「黙れ!!」

「そんなっ」


 だが、流石に空気を読めな過ぎた。ジャックに睨みを効かされ、ビクッと動いてクレープ目元に倒してしまう。おかげで、目は見えないしクレープも台無しだ。


「俺は奇石を使いたかった!アマノを生き返らせて二人の生活に戻りたかった!俺もお前のように心の隙間を埋めようと学園に通ったさ!ベル、セーレ、アウトリュウス!俺を好いてくれる友達も出来た!けどこの気持ちは治まらない!今からでもお前に代わってサタンと二人で暮らしたいさ!」

「……」


 ジャックの溢れ出る想いは、言わなくても分かることだった。それは、クルーニャ自身が痛い程分かっている。そして、ジャックもクルーニャが自分の気持ちを理解してることを理解している。

 それでも感情は怒りに乗って吐き出される。


「だからそんな安っぽい言葉なんて聞きたくない。お前は邪神だ。俺とアマノを引き合わせ、こんなにも俺を苦しくした。俺がこの世界に来なかったらもっと小さな不幸で終われていたのに……お前のせいだ……」


 ジャックはそう言ったが、その心は矛盾している。


(そんなこと一ミリも思ってはいない。アマノとの出会いを不幸だなんて思っていないさ……思っていないけど……それくらい悔しいんだよ……)


 涙が出そうになったジャックだが、それを堪えるようにクルーニャを殴り倒した。


「去れ。俺に殺されない内にな」

「……ああ。そうするよ」


 クルーニャは申し訳なさそうに帽子を深く被り、ゆっくりと背を向けその場を去ろうと何歩か歩いた。だが、その足は忘れ物をしたかのように止まった。


「いつでもいい」

「……」

「サタンに顔を見せに来い」

「ッ……」


 クルーニャは横顔で優しい笑みを見せ、天高くに消えて行った。ジャックはその笑みに一瞬驚いたような表情をし、すぐに「フッ」と笑った。

 そして、涙ぐんだ瞳で天空のクルーニャを見上げ、スッキリした表情で優しく微笑んだ。


「さよなら。愛を知らない神様」


 風に煽られたジャックは、悪魔の羽根が消えていつものジャックに戻る。その瞳はとても澄んでいて、先程の濁りは一切ない。

 そしてその心にあるのは、クルーニャがジャックに伝えたかった気持ちと同じものだ。

ここまで読んでくれた読者の皆様、ありがとうございます。

3章投稿までしばらく時間が掛かります。

お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ