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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第61話【ラストゲーム】前編

 神々は皆忙しかった。ラストに消された天界第八階層、倒された七つの亡霊、復活した邪神クルーニャ、色々なことがいっぺんに起きて対応しきれていない。

 だが、ジャックの不安と心配とは裏腹に何もないまま一週間以上経った。


「皆おはー!」

「おはよー」


 学園生活も何事もなく始まった。だが、いつもと違うのはクラスメンバーが一人減ったことだ。


「まさかルーナが七つの亡霊だったとはね」

「ね~。今どんな気持ち?カーマちゃん」


 アウトリュウスがヘラヘラしながら首をかしげ、カーマに微笑みを見せる。それを見向きもしないカーマは、片目をピキッとさせるだけで何も言わない。


「やめなさいな」


 だが、ベルが少し大人びた態度でアウトリュウスの頭に軽いチョップをする。


「けどルーナが居た方がこのクラスは楽しいよ。ね?ジャック」

「うん」

「で?これから誰がこの偏屈神様に構ってあげるのかな?ウケケケッ」


 またもやアウトリュウスが揶揄ったように嫌みを言う。ベルがそれをムッとした表情で軽く睨む。


「アウトリュウス、私が思ってたこと全部言わないで。せっかく我慢してたのに」

「我慢は毒だぜ~」

「でも、ルーナはまだ生きてるんでしょ?」


 ふざけた空気がセーレの一言で引き締まった。おかげで、その答えを待つように視線がジャックに集まる。


「ああ。奴の正体は一年前に暗躍していたクルーニャという邪神だ。何をしてくるか予想の付かない神だよ」


 *


 神界に沢山の神が集まっている。その中心にゼウス含めた五人の主神が居て今にも会議が始まりそうだ。


「今日集まってもらったのは他でもない。これから起きる最悪に対抗する為の対策だ!一年前に奇石を完成させた張本人邪神クルーニャについてだ!こやつは七つの亡霊以上の最悪になる!」

「その通りだ」


 ゼウスに返答した謎の声は、この場に居る全員に聞こえた。そして、主神五人の間に一人の神が音もなく現れる。それも何とも気色の悪いドロドロの影から現れたような異質な存在感を出して。


「なっ!」

「こいつは!」

「クルーニャ!!」


 主神含めた皆が動こうとしたが、誰も彼も一歩も動けなかった。まるで、時間が止められて意識だけがある状態のようだ。


「お集まり誠にありがとう……これより俺はこの世界最後の退屈凌ぎを行う。これは宣戦布告でも復讐でも何でもない……敢えて名を呼ぶならエンターテインメントとでも呼ぼうか」


 クルーニャの特徴的で神秘的な声は、体に直接入り込むようだった。気色の悪さと心地のよさが同時にくる妙な感覚だ。


「全勢力を集め俺に挑むといい。俺を止めてハッピーエンドか俺が全て壊してバットエンドか……二つに一つだ。勿論、俺はこいつを使わせてもらう」


 クルーニャが懐から出した奇石は、一年前に封印された膨大な力を秘めるこの世界のバグのような物だ。今神々が動けないのも、この奇石あってのものだろう。


「明日、今と同じ時間同じ場所に俺は現れる。では、明日を楽しみに……さようなら」


 クルーニャがそう言って姿を消すと、神々は皆動けるようになっていた。


「クソッ!!あれが完成された奇石の能力!やはりクルーニャは奇石を所持していた!これではまるでデモ.ゴルゴンの再来だ……それも今回は破壊と終焉を持たらす悪意ある行為。本当に最悪だ」


 皆同じ気持ちだったが、一番やるせない気持ちに苛まれたのは最初に声を発したゼウスだろう。


 *


 ジャックら一年生は、教室でテレビ放送されていたクルーニャの演説を見ていた。どうやら、クルーニャは先程の様子をテレビ中継していたらしい。おかげで、全国民がクルーニャという邪神に震えている。


「やばいよ!ルーナやばい!」

「これがルーナの正体って訳か」


 テレビにかぶりつくジャック以外の四人。ジャックはそれを遠目で見て、少し頭を悩ませていた。そして、答えが出たかのような表情で皆に近付く。


「皆、力を貸してほしい」


 その一言に全員が振り返った。


「珍しいね。ジャックがハッキリ助けを求めるなんて」


 セーレの言葉に隣のベルとアウトリュウスが頷く。


「で?具体的に何をして欲しいの?」

「クルーニャ……いや、ルーナを倒す。俺達五人で」

「作戦はあるんだろうな?」

「ある。けどそれは戦うことを意味する。だから強要はしない」


 皆と目を合わせないジャックは、申し訳なさそうに顔を下に向ける。だが、すぐにアウトリュウスとベルが肩を組んできて微笑んだ。


「当たり前じゃん!私達友達でしょ?」

「ジャックの頼みとあらば。ただし前払いで一回エッチさせてよ」

「お前ら……」


 そして、セーレもジャックの手を取って苦しそうな表情からゆっくりと苦い笑みを見せた。


「セーレ達、二度も一緒に戦った。何度でも付き合うよ」

「セーレ……」


 三人の意思が決定された。同時に、皆がカーマの様子を伺う。


「俺は一人でもルーナを殺す。わざわざ嫌いな奴に手を貸す程俺はお人好しじゃない」

「だろうな」

「流石偏屈神様」


 皆が(やっぱりな)と思い呆れる。


「が、ジャックにはエンヴィーの件ででかい借りがある。大嫌いで仲良くするつもりもないが、命の恩人でもある。手を貸そう」

「お!」

「おお!この偏屈神様!!」


 ベルとアウトリュウスがカーマの肩や頭を押さえてダルがらみする。それを見て、ジャックとセーレも思わずクスッと笑う。


「ありがとう、カーマ」

「勘違いするなよ。事が済んだら普段通りだ。調子に乗って馴れ馴れしいことするなよ」

「分かってる。俺だってごめんだ」

「フンッ」


 一年生軍団、最初で最後の協力戦が今始まる。


 *


 神々は全勢力を集めて昨日クルーニャが現れた場所に集まっていた。作戦もやる気も十分だ。


「来たぞ」


 クルーニャが上空からゆっくり現れ、小さな山上に着地した。その体からは奇石の魔力が溢れ出ている。


「先頭はやはりお前なんだな。ゼウス」

「ああ。お前を止めるのは同じ時代に生まれたこの儂だ」

「そうか。ぜひ止めてくれ」


 クルーニャとゼウスが遠目に挨拶を交わす。周りの主神も最高神も空気を読んだか、一言も喋らず緊張を走らせている。


「皆の衆、戦闘開始だ」


 ゼウスの合図と共に、皆がクルーニャに突っ込んで行く。その光景は、一年前のデモ.ゴルゴンとの戦いを思い出させるものだ。


(ジャックは見えない。奴らの切り札ということかな?それまで遊ばせてもらうぜ)


 クルーニャは膨大な魔力を持つ奇石を所持して尚、魔法を一発も放たない。あくまでも体術だけで敵を倒していく。


「奴め。デモの真似事を……その証拠にデモ同様誰も殺さずにこの場を切り抜ける気だ」

「舐めやがって」


 神々の作戦はこうだ。近距離、中距離、遠距離の三部隊に別け、クルーニャに攻撃の隙を与えないというシンプルなものだ。勿論、最初は様子見だ。


「本領を出さないな」

「奴が本気を出さないなら好都合。本気を出す前に殺す」


 魔法が何発か当たってもダメージにはならない。それどころか、そのほとんどは魔法吸収によって回避される。


「「「魔法領域!!」」」


 皆がクルーニャから身を引き、魔法領域を展開した。その魔法領域は広く、複数人で天界する強力なものだ。


「この魔法領域の効果は三つ。対象者への魔法無効、持続的な魔力吸収、戦闘力のダウンだ。流石の奴もこれは痛かろう」


 だがクルーニャは止まらない。その戦闘スタイルは芸術的で敵から奪った多種多様な神器を器用に振り回し、敵が放った魔法を吸収してはそれを最善のタイミングで放出する。魔法無効化、魔法吸収と放出、自身の持つ二つの能力と敵の神器のみで敵を欺いていく。


「奴め。最後まで魔法に頼らぬつもりかッ」

「かなり魔力を吸収している。だが、それも魔法を使わない奴には無意味だ」


 僅か数十分で魔法領域の中の戦闘員を無力化したクルーニャは、魔法領域の壁に触れてその一部を壊して脱出する。


「バカな!魔法領域を中から破壊だと!あれも奇石の力か!」

「違う。あれはクルーニャ本来の魔法無効化の能力だ。あの結界は魔力で出来たもの。奴に魔力や魔法の類は効かない」

「くそっ……ただでさえ厄介な能力があるのに、その上奇石か」


 とうとう、クルーニャの標的が中距離や遠距離で戦っている戦闘員に目が向いた。それも、近距離から仕掛けて倒すのではなく、あくまでもその場から動かず、近くの神器を投げたり飛んでくる魔法を打ち換えしたりして敵を倒す。


「残りの最高神が十を切りました!主神様もゼウス様しか残っておりませぬ!」

「そうか」


 着実に追い詰められていたはずだった。だが、ゼウスにはそれが一瞬に感じて、もう勝てる気がしてなかった。クルーニャが巨大に見え、自分達がその邪神に遊ばれている人間であることを実感していた。


「ダメです!中距離遠距離部隊が壊滅!ゼウス様!!」

「まだ終わってない。最後の作戦が残ってる」


 クルーニャがゼウスに向かって飛んで来る。そして、クルーニャの拳がゼウスの頬にヒットする。


「ッ!」

「捕まえたぞ。クルーニャ」


 だが、ゼウスは怯まずにその手を掴んだ。そして、ゼウスの影から何かが現れ、刀でクルーニャを突き刺した。


「がはっ!」

「終わりだ!クルーニャ!」

「ジャック……」


 影から現れたのはジャックだ。刀でクルーニャの胸を貫き、クルーニャの体を深く切り裂いた。更に、クルーニャの背後に地獄門が現れ、その扉がクルーニャを引きずり込もうとする。


「俺がこの程度の力に引き込まれると?またすぐ戻るぞ」

「儂がさせんよ」


 ゼウスはクルーニャを強く掴み、体全体でクルーニャに覆いかぶさる。よく見れば、クルーニャの体はゼウスの体に吸収されるように吸い込まれている。


「これは!?」

「儂の父クロノスを封印した封印魔法じゃ。儂はお前を封印し、地獄に堕ちる」

「考えたな」

「儂の胸で眠れ。友よ」


 ゼウスの一言を聞いて、クルーニャは表情を変えた。そして、鼻で笑い穏やかな表情を浮かべた。その表情は、半分吸収されて見えないが、ジャックの見たことのない表情であった。


「俺を友と呼ぶか」


 ゼウスはクルーニャを吸収し、地獄門の中に吸い込まれていく。そして、片手を上げてジャックの方を見た。


「英雄ジャック……感謝する」


 ゼウスは苦い笑みを浮かべ、ジャックに礼を言った。その一言と表情を受け取ったジャックは、地獄門を完全に閉めて帽子を深く被り直した。

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