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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第56話【ラスト】その4

 破壊つくされた寺の中、もう重力は安定している。床には寺の銅像が散漫しており、天井や壁も大きく破損している。

 その空間の中央では、凄まじい横暴が行われている。さっきまで優勢だったラストが一瞬の隙をつかれて、ジャックとメタトロンに一方的に殴られている。


「そっちだ!」

「こっちによこすな!」

「俺もごめんだ!」


 二人は表情こそ普通だが、その心には子供心がある。二人共神や天使でありながら、その姿はまるで悪魔だ。ラストを敵と見なしていたのに、今は玩具扱いだ。おかげで、防御を固めていたラストはもう死にそうだ。


(ああ、見える。走馬灯ってやつだな。そしてこの記憶は……ラースとラトニーが俺様を抱いている姿……まるで赤子に戻った気分だ……それが心地いい)


 ラストは死に際でラースとラトニーに抱かれる赤子の自分を見ていた。見るはずのない視点から、生まれたばかりの自分を覗き込んでいる。そして、自分がこの世に生まれ落ちた感覚を思い出した。


(エルク.ラヴィタス)


 ジャックのかかと落としが決まった。だが、その威力はジャックの想定を遥かに超えている。


「おいおい。もう終わりにすんのかよ。張り切りすぎだ」

「違う。あいつの魔法だ。俺の蹴りに合わせて自分に重力付与したんだ」

「あ?まだ元気かよ」

「いや、よく見ろ」


 下を見ると、銅像の手にラストの体が突き刺さる形で落下していた。瀕死だった体にとうとう終止符が打たれたようだ。体の節々から血を吹き出し、その血が銅像を真赤に染めていく。


「バカか。逃れよとした結果があれかよ」


 メタトロンはそう言ったが、ジャックの真理の義眼は未来に恐怖していた。


「うっ」

「ッ?どうした?」

「嘘だろ……」


 瞳に走る激痛は、ジャックに数秒後の未来を見せる。それを見たジャックは、驚きを隠せないといった表情だ。


「ッ!」


 膨大な魔力と共にラストの体がその場で捻じれて爆発した。そして、周りの血が不気味に動き出し、真赤に染まっている銅像に集まる。


「まじか」


 銅像は次第に人間の皮膚のようになり、その体には角と羽根と尻尾が生え、指からは鋭い爪がグッと伸びる。そして、妙な機械音と共に空間が微かに歪んだ。


「四本の角……あれは……あの姿は……間違いない」


 もう銅像ではなかった。その姿は間違いなくラストその人で、全身の傷が癒えている。そしてようやく、その瞳がギラッと開かれた。


「ああ、間違いない。魔神化だ……アイムと同じ……魔神に覚醒したんだ」

「そしてあの角の数……色欲の魔神だ。奴は色欲の魔神ラストだ」


 魔神となったラストは、二ッと笑って紳士的にお辞儀をした。そして、裸のまま背伸びをし、今目覚めた赤子のような瞳で二人を静かに見上げる。


「おい、まじかあいつ」

「ああ、かなりデカいな。悔しいが俺以上かもしれん」

「大きさじゃねえよ。奴の表情こそ涼しいが、あれが奴の心境を現してるのは間違いない」

「ああ、反り返っている。下品な奴だぜ。隠そうともしない」

「取り合えず俺の光魔法でモザイクをかけとく」


 ラストの下半身はビンビンだった。それがラストの今の気持ちなのだろう。遠目からでも分かるそれは、二人を驚愕させる物だ。


「失礼。二人共体は子供だったね。大人げない。いや、本当にすまない。目立ちたがりの息子でね。ちゃんとしつけとくよ」

「うるせえ!しつけられるのはてめぇだ」

「切り落として焼いてやる。市販のソーセージみてぇにな」

「ぜひやってみてほしいなぁ」


 魔法で服に着替えたラストは、近くに落ちている鎌を拾い、鎌の刃に乗って宙に浮く。そして、二人と目線を合わせ、両手を大きく広げた。


「見たいだろ?魔神化特権の覚醒能力を」

「こいつまさか……もう自分の覚醒能力を知り、扱えるのか?」

「俺様の覚醒能力はシンプルさ。簡単に言うと魂への干渉。おっと~!警戒しないでよ?肉体に入ってる魂をどうこうできる程便利じゃないさ。あくまでも魂は器を離れていないと行けない」


 周りの重力が動いた。ラストの両手は下に向けられ、魔力と重力も下の方から動き出す。


「ただ……俺様の魔法と覚醒能力は相性が良くてね。こんなことが可能なのさ」


 周りの壊れかけの銅像が人知れずに動いた。その銅像は全てが困惑しているようにすら見える。


「銅像をどうぞってのがあんたの能力か?」

「この銅像に魔力を少し分けた」

「何が言いたい?」

「行け。アイム、マモン」


 銅像二体が宙に浮き、ジャックとメタトロンに襲い掛かった。その銅像は固い体で柔軟に動き、両手から火の玉を出した。


「フンッ!」


 ジャックが銅像の一体を破壊した。だが、その銅像は電波障害が起きたテレビのようにびりびりになって消える。そして、背後から壊したはずの銅像に殴られた。


「これは幻覚?」

「ぼさっとするな!後ろだジャック!」


 ジャックはもう一体の銅像に連続で殴られる。ダメージは大したことないが、態勢を崩して思わずその場から離れた。しかし、気付けば先程の銅像が目の前に居て、体をがっちりと掴まれている。


「なんで!」

「デス.ブレイド!」


 メタトロンの援護で九死に一生を得る。しかし、メタトロンは異変に気が付いてジャックの腕を掴んだ。


「何だよ?」

「この模様……手足に四つ、頭に一つ、間違いないマモンが使っていた魔法だ。印を付けた物を所有物にするマモンの魔法」

「そういえば、もう一体は幻覚を作っていた。それはアイムの幻想能力だ」

「そしてあの変態野郎は銅像をアイムとマモンと言った」

「まさか……そんなバカな……」


 二人は信じがたい表情でゆっくりとラストの方を見た。ラストは、少し下を向いて我慢していた笑いを零した。


「ンニャハハッ!!ありきたいりでマヌケな反応をありがとう!思ってた通りの表情だよ!」

「魂への干渉。あり得るか」

「そう。地獄から一年前の悪魔アイムとマモンの魂を持ってきた。俺様の重力魔法は神界と地獄の二つの世界を行き来して発動できる。もう重力と言っていいのか分からないが、魂の重力を操り、この場に持ってきた」

「気に入らないな」

「ああ。今回ばかりは同感だ」


 ジャックとメタトロンは銅像二体を華麗に粉々にし、ラストを囲うように羽根を広げた。


「もう一回いかせてやるよ。地獄でアイムとマモンにボコられて来い」

「君たちにはこちらの方がいいかな?」


 ラストの両手が上に向いた。同時に、寺の中が無重力になり、周りに瓦礫や銅像が散乱する。


「これ、さっき殺した女神達の死体な」


 ラストはスサノオの部下であったであろう女神の死体を両手に抱きかかえ、その女神達の心臓に手を突っ込んで優しく揉んだ。


「数秒間だけだろうけど、心臓が動くだろう。流石に生き返りはしないね」


 だが、女神二体はピクッッと動き、取れかけている目を少し動かした。


「ああ……」

「いたっ……」


 微かに声を発する。その苦しそうな声と蘇った表情は急に訪れた痛みに困惑しているようだ。


「ご挨拶は?アマノちゃんにサンダルフォンちゃん」

「「ッッ!?」」


 ラストの一言で、ジャックとメタトロンが怒りと憎悪に染まった。ジャックは全身の筋肉が膨れ上がれ、瞳から血が流れ落ちる。メタトロンは片目が痙攣し、全身が焦げるくらい燃え盛る。


「汚い顔だ。それに血や臓器の匂いで臭いね。それも実に可愛らしいよ。ペロペロレロレロ……ん~マッ――」


 女神の体は残酷に殺された為、美しい姿とは言えない。それでも、ラストは嫌な顔一つしないで、女神を抱き寄せ、二人の頬ずりして、深くて激しいキスをする。

 同時に、ジャックとメタトロンから顔面を挟まれる形で殴られ、再びリンチにされる。


「ぶがはっ!!」


 魔神化前は楽しそうにしていた二人だが、今は怒りと憎悪に煮えたぎっていて、そこに一切の手加減はない。


(先程より早いし重いッ!明らかに動きが別人だ。どおぉやら、これは二人には逆効果だったようだ……更に引き出してしまった……こいつらの潜在能力を。だが、それがいい!それでなければ俺様の魔神化童貞の相手にならない!俺も手加減なしで応えなければならない)


 ラストはジャックの攻撃を避け、そのままジャックをメタトロンに投げる。そして、周りの重力を操作しながら大鎌で二人に傷を付けて距離を取った。


「重い!重力が重くて奴に近付くのが遅い!」

「だが今の俺のスピードなら問題ない!」


 ジャックとメタトロンは、重力に逆らってラストに近付いている。重力でスピードが落ちているには、早い方だ。


「覚醒後で魔力も魔法力も爆上がりしている!大昔に一度だけ成功しかけた俺様の必殺技!今ならできる!最大重力!エルク.ラヴィタス!」


 ラストが魔法を唱えたと同時に、周りの重力が元に戻り、ジャックとメタトロンのスピードが速くなった。おかげで、ラストは諸に攻撃を受ける。


「何が必殺技だ!重力解除してるじゃんかよ」

「いや、恐らくあいつは必殺技を出す為に重力を解除したんだ。その証拠に必殺技とやらは成功したみたいだ」

「は?」

「上を見ろジャック」

「上?」


 ジャックは上を見上げる。破壊された屋根からはハッキリと外の世界が見える。だが、あるのは素晴らしい青空だ。特に異変を感じない。


「何もないけど……」

「雲をよく見ろ」


 青空に浮かぶ雲が少しづつ大きくなっている。それ同時に、空と風の音が近くなる。それが、どんどん加速しているのは、確かだった。


「お前があいつを誘導したこの場所はどこだ?」

「寺だけど?」

「違う。神界か?天界か?」

「神界から来て、天界第8階層に誘導した。今ここは天界の8階層だ」

「ならあれは9階層か」


 メタトロンが似合わないヒア汗をかき、悟ったように空を見上げるのを止めた。


「どういうことだ?何が起きてんだ!説明しろメタトロン!」

「奴が地獄や天国から魂を持ち出せるんだ。これくらい可能なのは当然なんだ」

「だから何が!」

「天界1階層から9階層は全て別々の世界だろ?言わば下界と神界、天界と魔界、天国と地獄みたいに全く別の世界だ」

「それが何だよ……」

「奴は重力魔法で世界と世界を繋げたってことだ」

「それって……」

「ああ。この8階層に9階層を落としてきやがった」

「つまり……」

「8階層は9階層に押しつぶされ、跡形もなく消える」

「世界が……消える……?」


 ジャックはやっと理解できたようだ。今まで世界を消した存在を見たことないジャックにとって、衝撃の事実だ。

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