第55話【ラスト】その3
城の中はとても静かで穏やかだ。
薄暗い部屋の奥では、ゼウスがラースに踏み付けられている。拘束されているゼウスにこの状況を変えれそうにない。
「ラストについて、少し昔話をしようか。坊や」
口調は穏やかだが、その表情は何だか嫌そうだ。そう、思い出すのも嫌という表情だ。
「ラストは昔から手に負えなかった。物心つく頃には私や妻のラトニーに嫌がらせや悪戯をするような奴さ。それもブラやパンツを盗むなんてかわいいものじゃない。私の靴に剃刀を入れたり、キッチンをガスで充満させて爆発させたり、私達が大切にしてたインテリアを他人に壊させたり、命にかかわるような悪戯も多かった」
ゼウスはそれを静かに聞いている。体が動かせない状態で、死んだ表情で目だけは生きている。
「そんなある日、ラストが誘拐された。奴がまだ五歳の時だ。それも誘拐した犯人はかの有名な色欲の魔神アスモデウスだ。どうやらアスモデウスは、ラストの才能を見抜き、自分の次の器にしようとしたらしい。それが驚きの結果、ラストは帰って来たんだ。私と妻、そして執事の居るお城へ」
「まさか……」
ゼウスが話を結末を悟ったように口を開いた。
「そのまさかだ。ラストはアスモデウスの首を持って帰って来た。ゾッとしたよ。奴は無言で城に入り、そのままキッチンに行ってアスモデウスの首を料理したんだからな。勿論食べたさ……残さず綺麗に。そこは教育通りだ。だが問題はそこじゃない。奴がアスモデウスにされたことだ」
「されたこと?」
「奴は人体実験をされた。結果から言おう。ラストは神であるが、悪魔の力を持っている。それも神と悪魔のハーフだとか、英雄ジャックみたいに悪魔の羽根を持っているとか中途半端なものじゃない。神でありながら悪魔なんだ。そう、二つの力を持つ最悪の邪神ってことだ。それでもジャックがここに来ると思うか?一年前みたいに奇跡を起こすと思うか?」
「……どうじゃろうな」
「来るさ。あいつは来る。私ですら制御できなかったラストに勝てる奴が居るならジャックだ。でなければこのラースが困るのだ」
ラースは期待と不安の混じった表情で祈るような手をグッと握った。
*
「やっぱ流石だな。メタトロン」
ジャックが寺に戻った時にちょうど決着が着いていた。メタトロンが宙に浮き、焼死体になって燃えているラストを見下ろしている。
「そっちも終わったようだな」
「いや、プライドには逃げられた」
「フンッ。まだまだ甘いな」
「言ってろ。すぐに追い越してやる。昔みたいにな」
「俺は帰る」
「ああ」
メタトロンが地に降り、ジャックに背を向けて寺の入口の方へと歩いていく。ジャックも神々の生き残りが居ないか確認する為、ラストの焼死体の奥へと歩く。
二人が別々の方向でラストに背を向けた。ちょうどその時、膨大な魔力が二人の背後から出現した。
「ッ!」
「まさか……」
その魔力の正体は、やはりラストだ。焦げが体から剥がれ落ち、皮膚を再生させて黒くて大きい羽根を背から伸ばす。それを目にしたジャックとメタトロンは、大きく表情を変えた。
「黒い羽根?奴は神じゃなかったのか?」
「純粋な神なはずだ。ラースとラトニーは純粋な神だった。その二人から生まれたのがラストだ。純粋な神なはずなんだ」
「ちっ!デス.ブレイド!」
「はっ!ライト.ファロン!」
メタトロンの対応は早かった。すぐに魔法を放ち、ラストを復活させまいとする。少し遅れて魔法を放ったジャックも、最大火力の光魔法を放って挟み撃ちにする。
「重力魔法」
しかし、炎も光もラストに触れていない。魔法の周りごと重力が強力に反転していて、触れられなくなっている。
「ちっ。磁力魔法と同じようなことを」
「どうするメタトロン!こいつに攻撃は通らない!」
「少しは自分で考えろ!磁力魔法程のパワーはない!強引に行けば攻撃は通る!それによく見ろ!」
「あ?」
「磁力魔法との違いは個人や物に重力を付与できないところだ!ある一定の空間の重力を操る。つまり、精密な操作が出来ない!」
メタトロンの分析力を見て、ジャックもラストも関心する。
「ゲッ。さっきの戦いでそこまで見てたのかよ。きも~。流石たった百年で最強の称号を得た天使。最近の奴にしてはやるじゃんか」
「まじで流石だぜメタトロン。やっぱあいつは戦闘の天才だ」
悪魔の羽根を広げるラストは、足を浮かせてニヤッと笑っている。その魔力量は先程の倍はある。
「第二ラウンドだぜベイビー」
「神でありながら悪魔の力を持つ……いいな。相手に不足ない」
「俺が勝つ」
三人が戦闘態勢に入った。メタトロンが剣を構え、ジャックも三種の神器を取り出す。そして、ラストも両手から魔法陣を出し、そこから大きな神器を取り出す。
「神器、凌霄螺」
その二つの神器はどちらも大鎌だ。両端が鎌の形になっており、それが鎖で結ばれてる。色は黒と深いオレンジ色で染まっており、刃の近くには小さな骸骨がくっついている。
「行くぞ」
「命令するな」
ジャックの合図でメタトロンが動く。ラストを囲うように宙を舞い、魔法を警戒してラストの死角に入るように立ち回る。
「無駄無意味無謀!重力魔法!エルク.ラヴィタス!」
ラストの魔法が発動すると、周りの重力は反対になって家具や銅像が天井があった方へ落下していく。同時に、ジャックとメタトロンも逆方向に落下していく。
「うわ!」
「重力に合わせろ!」
「分かってる!咄嗟には難しいんだよ!」
「咄嗟にやるんだよ!次々変わるぞ!」
重力に合わせて動く二人は、落ちてくる家具を避けながらラストに近付く。重力が変わってるが、ラストの居る場所は先程と変わっていない。
「やはり奴は重力に干渉を受けないらしい」
「まだまだ!エルク.ラヴィタス!エルク.ラヴィタス!」
上下左右、あらゆる方向に重力が変わる。おかげで、寺の中はめちゃくちゃになり、瓦礫の雨が止まない。ジャックとメタトロンはそれに対応しながら、瓦礫を避けるので精一杯だ。
「しゃらくせえ!火力最大!デス.ブレイド!」
「バカ!俺に当たる!」
メタトロンは最高火力の炎を手の平の魔法陣に溜め、それを一気に放出する。重力がコロコロ変わる中、その炎は重力の干渉をほぼ受けずにラストに一直線に向かって行った。
「ならばこちらも最大重力で対抗しよう!エルク.ラヴィタス!」
ラストが炎に向けた魔法は、いとも簡単に最大火力の炎を弾き返した。
「ちっ!デス.ブレイド!」
だが、メタトロンはそれを更に押し返そうと魔法を放つ。
「最強天使と言われたお前も俺様の前ではただの大マヌケ野郎よ」
しかし、それでも押し返すことは出来ず、炎はメタトロンに直撃してしまう。
「自分の魔法だ。死んだとは思えない。出てきな最強天使」
「……」
炎から身を出したメタトロンは、炎の鎧を纏っていた。そして、その炎は形を変えて硬い鉄のように質感を変える。まるで、本物の鎧だ。
「デス.アーマー」
「ひゅ~、かっこいいね~」
メタトロンがニヤッと笑う。瞬間、ラストの影からジャックが現れ、ラストの足を影に沈ませた。
「やあ。そこに居たかい」
ラストがジャックに気を取られた一瞬、その一瞬でメタトロンが素早く動いた。ラストの顔面をメタトロンの拳が捉える。更に、影から出て来たジャックがラストの背を切り裂く。
「ひゃは!いいね!そろそろ使おうか!」
再び重力が反転した。だが、今回はラスト自身も重力の干渉を受けている。そのおかげで、影が頭上に移動し、影の拘束から逃げれた。
「神器!」
とうとう、体には羽衣のように纏っていた神器を手に取った。そして、達人の如く振り回し、メタトロンとジャックを瞬時に切り裂く。だが、メタトロンはジャックと違い、すぐにもその動きに対応してみせた。剣で綺麗に鎌を弾き返しながら、天井や壁を蹴って、重力反転と大鎌対策をしている。更には、ラスト以上の身体能力を見せ、振りかざした鎌の上に乗り、そのままラストの背後に回って攻撃を入れる。
「こいつ……」
これには、ラストも面食らったようだ。ジャックもその動きに感化され、少しづつラストの大鎌に慣れていく。だが、それはラストも同じだ。
「くっ」
「がはっ!」
ラストの大鎌のスピードが上がる。手元で大鎌を振り回したかと思えば、もう片方の大鎌を投げ飛ばし、繋がってる鎖でジャックの体を拘束した。それでいて、メタトロンを近寄せない。
(こいつ……スロースターターだったか)
ラストの動きがメタトロンに追い付いてきた。ジャックも鎖に縛られながらも攻撃を仕掛けたり、脱出を試みるが、全て上手くいかない。
(攻撃が早すぎる。そうか……鎌に重力が付与されてやがるのか)
ラストは巧に重力魔法を使用する。重力を鎌に付与させて攻撃を加速させたり、付近の重力の方向を変えてメタトロンを困惑させる。そして、とうとうラストの大鎌がメタトロンの鎧を砕いた。
「がはっ!」
「やった!クリーンヒット!」
「おめでとさん」
しかし、大鎌は炎によって溶けてしまい、使い物にならなくなる。
「なるほど、君の血が大鎌に大量に付着したことで、血が炎になって燃えたのかい。これは防げない」
「それは防がなくていいのか?」
メタトロンがラストの背後を指差す。そこには、鎖の拘束を解いたジャックが居る。
「バカな!鎖を解かれた感覚は……ああ、そういうことね」
ラストの鎖は溶けていた。鎖には溶ける液体が大量に付着している。
「だが!」
残ってる大鎌をジャックに振るうラスト。しかし、ジャックは状態を逸らし、大鎌に付いてる鎖を両足で挟んで、下から攻撃を仕掛ける。
「ハハッ!何て無茶な戦い方!」
「後ろ」
「ッ!」
ジャックに気を取られたラストは、メタトロンの剣を食らってしまう。だが、瞬時に放った魔法でメタトロンとジャックの神器を弾き飛ばした。
「フン!」
「こっちだ!」
魔法を放った後の隙は大きい。もジャックとメタトロンはその隙を見逃さず、餅つきの要領でラストを攻撃する。上下左右、あらゆる方向から拳と蹴りを食らうラストは、魔法を放つ隙を与えて貰えない。悪魔の羽根で防御するのが精一杯だ。
「うげっ!がはっ!もうやめ……」
「畳み掛けろ!」
「言われなくても!」
ラストの体はすぐに悲鳴を上げた。メタトロンの拳のせいで体に火が付き、出血も酷い。美しい顔も酷く醜い物になってきている。
(やばい……ここまで追い込まれたのは初めて……初めての感覚……それでいて俺はギンギンに興奮している。やばい……人生最大の……勃起!いぎそうだよぉぉ)
そんな中、ラストは絶頂寸前だった。




