第54話【ラスト】その2
寺の中には五人居る。
この物語の主人公ジャック、共闘するメタトロン、倒すべき神殺し集団ラストとプライド、そして磔にされて生かされてる主神スサノオだ。
「影が液体のように動いて……そうか、ジャックは天使の影にずっと潜んでいたのか。影の初期魔法を上手に使いなさるな」
上空に居るメタトロンの影が蠢いている。これは、先程ジャックがそこから出て来たことを意味する。
炎から身を出したラストは、まだ元気いっぱいだ。片腕の皮膚が焼けてるが、直接炎を食らったわけではない。ラストは間一髪攻撃を避けたのだ。
「プライドと俺様を遠い場所に離したか」
「ああ。これからもっと遠い場所に離してやる。この世とあの世にな」
「へえ~、それジャックとお前じゃないか?」
「すぐに分かる」
「そうだなぁ!」
メタトロンとラストが戦う中、ジャックはプライドをワイヤーで拘束したまま寺の外へと出ていた。
「地獄の門番アバドンよ。地獄の門を今開け……」
ジャックに拘束されたまま、プライドがそう呟いた。それを聞いたジャックは、慌ててプライドに光魔法を放ち、とどめを急いだ。
だが、その魔法はワイヤーを切断し、プライドの体を反射してジャックに跳ね返って来た。
「何ッ!」
ジャックは魔力を込めた手刀で魔法を弾き飛ばすが、肝心なプライドはワイヤーから脱出してしまい、手元の鏡を見せつけるように戦闘態勢に入る。
「知ってるんだろ?ライト.ファロンは鏡や映る物に反射する。アマノみたいにもう少し使いこなせてたらその点も操作できたのにな」
「都合よく鏡もってんじゃなねぇ!」
「別に都合よくないさ」
プライドはそう言い、指先をジャックに向けてそこから光魔法を放つ。そう、その光魔法はアマノやジャックが扱う『ライト.ファロン』そのものだ。
ジャックは反射的に先程同様に手刀で弾き返すが、魔法を弾いた手も切断されてしまう。
「治癒魔法……」
「ライト.ファロン。光魔法の中でも習得難易度は高い方……体に合わなければまず扱えない。他の光魔法と違って汎用性が広く、あらゆる使い道がある。そして、その全てが破壊力とスピードに長けている。いい技だ」
「プライド。あんたはずっとルーナとして俺やクラスの皆を騙していたんだな?俺と仲良くしてくれたのも、クラスをまとめ上げてくれたのも、全部演技だったのか?」
ジャックは普段以上にツンッとした表情を見せ、鋭い目付きと魔力で威嚇をする。それに対し、プライドはケケッと笑い、とても優しい笑みを見せた。
「なかなか楽しかったよ」
「ならなぜそっちに居る?」
「勘違いするなよ。俺が楽しかったのは学生ルーナを演じてみることさ。お前らとわいわいやってる日常のことじゃない」
「お前は何が目的だ?なぜ七つの亡霊を蘇らせた?お前が瀕死のラースを手伝ったのは知ってるぞ」
「全てを知りたければ、勝って生き残ることだな。ジャックよ」
「そうだな。そうさせてもらう」
ジャックの魔力は凄まじい。色にするなら薄暗い桃色だろうか……。魔力の形もジャックらしく、鋭く冷たさを感じさせる。対するルーナはおしとやかな魔力で、ドロドロとした不気味さが見える。
(ポム吉にはスサノオ救出を命じた。だから奴は使えない。一応転移先で逃げれるが、その場合スサノオも危ない。つまり、マジの一対一。万が一のラスト戦にも体力と魔力を残さなくてはならない。厳しい戦いだが、これでいい。いつも通りだ)
状況を整理しながら心を落ち着かせる。しかし、目の前には飛んでくるプライド。余裕も時間もありはしない。
「神器!」
ジャックはすぐさま刀を振るった。だが、当然のように避けられ、そのまま救い上げるような蹴りが飛んでくる。それを目で追っていたジャックは、足を片手で受け止め、そのまま足の上で逆立ちをして回し蹴りを入れる。だが、プライドはジャックの影に溶けるように沈んでしまう。
ジャックがすぐに影に刀を刺すが、その刀を避けるように影から上がったプライドがジャックを殴り上げる。
「リオーノ.メルト」
しかし、ジャックの体全体から溶ける液体が流れ落ちていて、下に居るプライドに諸に掛かった。
「リオーノ.メルト」
プライドはその液体を自分の液体で分解し、完全に消した。
「治癒」
そして、溶けた皮膚を治癒魔法で手当てする。その治癒力はジャックの治癒魔法と同等の力だ。
(互角……。それに、魔法も俺が使う魔法と同じ物ばかり……魔力の質や感触は違えど、体に合う魔法が同じなんだ)
プライドが扱う魔法は、全てジャックが使用する魔法だ。おかげで、まるで自分自身と対峙している感覚に陥る。だが、プライドは違う。まるでその全てを知っているよな雰囲気と立ち振る舞いだ。
「ライト.ファロン」
再び、プライドが光魔法を放つ。ジャックは先程とは別で魔法陣から出した大剣で防御し、それを跳ね返してプライドに当てる。だが、その光魔法は鏡に当たり、角度を変えて跳ね返って行った。
「お前が扱う魔法はどれも基本のもの。もう一段階上を見せてやるよ」
「何?」
プライドは再び足を走らせ、ジャックに飛び付くように突っ込んできた。当然、ジャックはそれに刀を合わせる。
「リオール.メルト」
プライドの体に刀が通り、血が噴き出た。瞬間、プライドの体は液体状に変化し、それがジャックを覆うように飛び散る。
「体が解ける液体そのものに!」
「どうする?ジャック」
液体状になったプライドは、ジャックの体に張り付いて背後から囁いた。ジャックの体は魔力で防御を固めて尚、徐々に溶けている。
「バカが!ライト.ファロン!」
ジャックの体全体から放たれた光が、体に纏わりつくプライドを吹き飛ばした。プライドは再び体を戻したが、その体にはダメージが見える。
「やはり完全な物理攻撃無効じゃないんだな。液体になったとこで、魔法は食らうとみた」
「ディネロ.スキア」
プライドが自分の影を踏み付けると、その影は生き物のように動いてジャックを襲った。
「フン」
華麗にそれを避け続けるジャックだが、その影はプライドの影と交わってしまう。瞬間、プライドは影の中に消えて、姿を見せなくなる。
「あの魔法は自分の影に入れるのか?」
プライドが消えたというのに、プライドの影は消えずにジャックを襲う。更に、ジャックの影からプライドが現れ、ジャックを蹴り飛ばした。
「バカな!」
飛ばされた先には蠢く影が待っており、ジャックを完全に取り押さえた。
「この魔法は自分の影を切り離し自由自在に操れる。そして、自分の影と相手の影を繋げることもできる」
「くそおおおぉ!!」
ジャックが強引に拘束を解こうとするも、影はびくともしない。
「無駄だ。今操ってるのはお前の影でもある。影のパワーは持ち主のパワーと同等だ」
「ライト.ファロン!」
ジャックの懇親の一撃だ。だが、それもいとも簡単に手刀で弾き飛ばされる。
「最後の言葉くらい聞いてやる。言って見ろ」
プライドが手から放つ魔法陣は、人間でいう銃口だろう。それを突き付けられた状態のジャックは、以前変わらず睨みを利かせている。
「お前こそ、最後の言葉を考えとけ」
「それでいいのか?」
プライドの魔法陣が火を噴く。
「サン.ライト!」
だが、プライドが魔法を放ったとほぼ同時にジャックの体から光が放たれた。その光は辺り一帯を照らし、周りの影を消し去った。間一髪影から脱出したジャックは、すぐさま鏡で光魔法を跳ね返し、プライドの両肩を掴んだ。
「そうこなくちゃ」
「フン!」
そのまま頭突きをするジャックは、一歩距離を取って両手で魔法陣を創り出した。その大きな魔法陣から放たれた光は、一瞬にしてプライドを包み込む。
「はぁはぁ……これで……どうだ?」
光から姿を見せたプライドは、相当ダメージを受けていた。だが、魔力や体力はまだ余裕があるようにも見える。
「ケケッ。じゃあなジャック」
そのまま宙に浮くプライドは、ニヤッと笑ってジャックを見下ろす。
「待て!逃げる気か!」
「そうだ」
「逃がすか!」
「逃がした方がいいんじゃないか?ラストはメタトロンと二人でも勝てるか分からない相手だぜ」
「何だと?」
「それともう一ついいこと教えてやる」
「いいこと?一体何だ?」
「ラースは生きている」
「何!?……つまり、何かしたな?プライド」
「安心しろ。生きているとい言っても残り24時間しか生きられん。そして奴は、この戦いの勝利者を待っている。そう、お前かラスト……どちらかがラースの最後を見届けることになる」
プライドはジャックの不安を煽るだけ煽って静かにその場を立ち去った。ジャックはそれを追わなかった。今は逃がし、ラストを先に倒すことが賢明だと考えたからだ。
「俺とメタトロンの二人で勝てるか分からない?そんな訳あるもんか」
ジャックは自分のプライドを傷つけられたような表情を浮かべ、舌打ちをしてすぐに寺の方へと戻って行った。
*
立派な城に神が一人静かに座っている。そう、その神はラースだ。顔の火傷傷が酷くなっており、首にはジャックに斬られた傷跡が深く残っている。
「どっちが来ると思う?」
ラースは誰かに問うようにそう言った。
「来て欲しいのはジャックだ。奴をアマノ関連で脅し、私の意思を継いでもらう。それが一番ベスト。奴だって神々を滅ぼす動機が山ほどある。それに奴はこっち側の人間だ。自分やその周りさえ良ければいいタイプだ」
その声は落ち着いており、大人の色気を感じさせられる。
「けどラストが負けるとは思えない。奴が来てしまったら、気が進まないが話し合い神々を滅ぼすことを契約させよう」
自分の首の傷を撫でるように触り、ワインを一口口にする。そして、目線を下げて首を傾げた。
「聞いているかい?全知全能のゼウスよ」
ラースはそう言い、足元に居る男を踏みつぶした。男――ゼウスは血塗れで、魔道具で拘束されている。




