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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第52話【ラース】その5

 ラースは火傷傷を負ったまま礼拝堂に逃げ込んでいた。肩を抑え、足を引きずっている。そして、巨大な女神像の目の前で転んで倒れた。


「くそっ。このラースが……くっ、くくっ。しかもこの女神像……天之御中主か。皮肉だな」


 女神像は最初の神、天之御中主だ。それを見上げて、悔しさの混じった笑みを浮かべる。


「真理の義眼か……いつの時代も厄介だ」


 更に、倒れこむラースの真上からゆっくりとボロボロの少年が現れる。まるで、天国から迎えに来た天使のように少年――ジャックが降りてきて、悪魔のような見下す目を向けてる。その目は真理の義眼で、ラースを逃がさないと言わんばかりだ。


「貴様も戦える体じゃないだろう……一緒にワインでも飲みながら話さないか?」

「戦えなくともトドメは差せる。ワインは遠慮する」

「くくっ。そうか……ならば、これは?」


 ラースが懐から取り出したのは、潰れてぐちゃぐちゃになったクレープだ。


「バカかお前」


 ジャックはそう言いながら真理の義眼を解き、ゆっくりとラースの少し上の階段に座り、クレープを受け取った。


「残り二人の仲間について話せ。そしたら最後の話し相手くらいしてやる」

「……一人はプライドという少年。俺の仲間を復活させるのを手伝ってくれた。こいつには一年前あったばかりでよくは知らない。協力的だが、本当に何もかも不明だな」

「もう一人は?」

「ラスト……俺とラトニーの実の息子だ。こいつと戦う気があるなら覚悟しとけ。俺が出会ったどんな奴よりも邪悪だ。実の息子だってのに、唯一手名付けれなかった」

「そいつの見た目は?どんな魔法を使う?」

「見た目は俺よりちょっと劣るがかなりの美形で、茶髪系統の髪色だ。魔法は重力魔法を扱う。もういいか?死ぬ前に穏やかな話をしたい」


 ジャックは少し不満そうにし、クレープを一口食べた。そして、ラースから受け取った紅茶を飲み干す。


「ああ」

「……お前の記憶を見せてくれないか?ジャック」

「やだ」

「じゃあ俺の記憶を見てくれ」

「なぜ?」

「死にたくないからさ」

「意味が分からないな」

「せめて、一人でもいいから……誰かの記憶に残りたい。それが生きるということだ」

「天之御中主のようにか?」


 ラースの表情がハッとした変わった。まるで、悪事を咎められたような表情だ。


「さあな。早く記憶を見てくれ」


 ジャックはゆっくりとラースの頭を触り、長い長いラースの歴史を辿った。


「見た」

「感想とかないのか……」

「……別に」

「ククッ。クソガキ」

「……」

「なあジャック。神々を滅ぼす俺の野望……お前が受け継いでくれないか?真理の義眼を持ち、俺をここまで追い詰めた男だ。それに元人間ってのも気に入った。お前ならできる。いや、お前はいずれ俺のようになる」

「そろそろ死ぬか?」

「なぜだ?お前の神、アマノは神々に迫害を受け続けて来たんだろ?お前のおかげで神々は手の平を返して大英雄と呼んでるが、過去は消えない。アマノが幸せだったのはお前が居た一年だけ。アマノを蔑んできた神々を滅ぼそうとは思わないのか?」

「思わない。もう殺していいか?」

「それは残念だ」

「……」

「もう気が済んだよ。一思いにやってくれ」


 ジャックはゆっくりと立ち上がり、疲れた体を動かした。魔法陣から神器を取り出し、ラース目掛けて振るおうとしている。


(お母様……)


 ラースは自身の短剣を疲れた目で眺め、それをゆっくりと胸に突き刺した。


「俺のような奴はまた現れるだろうよ。ジャック、その都度せいぜい頑張れ。貴様とその瞳に幸あらんことを……願ってるよ」


 胸と口から血が大量に流れる中、曇りのないありのままの表情と口調でそう呟いた。


「我が怒り、不滅なり」


 そして、自ら短剣を強く差し込み、今までにない純粋な怒りの表情を見せた。同時に、ジャックの神器がラースの頭を切り落す。


 *


 ジャックは切り落としたラースの頭を花を摘むように持ち上げ、怒りに染まった表情を穏やかな表情へと戻した。


「イカレた野郎だ。周りからの憐みによって生まれた怒りと生まれ持った野心がこいつを邪神として成長させたのだろう。分かるさ……どうでもよくなって全てを壊したくなる時も見返してやろうって思う野心も分かるさ。分かって尚……同情できないな」


 ジャックは背後を振り返って目を細める。そこには、静かに立っている仮面の少年が居る。


「あんたプライドだな。ラースを助けに来たようだが、手遅れだったな」

「その死体をよこせ」

「断る。ラースの記憶によれば七つの亡霊を蘇らせたのはお前の禁忌魔法だ。かなりの生贄と手順が居るが、みすみすラースの死体を渡す訳には行かない」

「……」


 だが、ジャックが瞬きをした瞬間、プライドの手にはラースの頭があった。更には、近くにあったラースの体もなくなっている。


「いつの間に……スピードじゃない。何かの魔法か」

「……俺を追うな。その体では勝てない」

「今俺を殺さないのはなぜだ?」

「さあな」


 プライドはニヤッと笑って姿を消した。


 *


 ラースから悪魔を操る『ソロモンの指輪』を取り返したジャックは、指輪を使って悪魔達の呪いを解除した。おかげで、争いは収まり、街の復興作業が再開された。


「よくやってくれたジャック。今回は大手柄だったな」


 ジャックは主神スサノオと密談をしていた。スサノオの部屋で紅茶を一杯飲みながら、いつも通りのツンっとした表情をしている。


「今回はメタトロンの手柄だ。あいつは俺を妹のサンダルフォンだと思っている。おかげで奴隷契約の呪いが発動できないが、それが逆に助かった。おかげでメタトロンは自由に動いてラース討伐に来れたんだ」

「ほぉ。それはそれは幸運だったな」

「そんなことより、残り二人のメンバーの詳細が掴めた」

「さっき言ってた話か?」

「ああ。俺はほんの少しだけラースの記憶を見た。少ししか見れなかったが、ラースの話と照らし合わせても間違いない」

「というと?」

「プライドの方は良く分からないが、ラースの実の息子ラスト。こいつに関しては俺の知り合いだ」

「何?」

「俺と同じ学園に居る六年生のラック。こいつこそラストだ」

「よくぞ突き止めた。これよりラストに悟られないよう包囲作戦を開始する。学園が再開するのは一週間後、その日決行だ」

「しくじるなよ」


 *


「お兄ちゃんこの前はありがとう~!まさか助けに来てくれるなんて~!」


 ジャックはサンダルフォンを演じ、メタトロンの部屋に現れた。学園が再開するまで、また修行をするつもりなのだろう。


「なあに。礼には及ばない。いつでも助けを求めるといい……ジャック」

「流石お兄ちゃ――え?」


 沈黙が走る。確かに今、メタトロンはジャックの名前を呼んだ。ジャックは恐る恐るメタトロンの方を見る。しかし、そこにメタトロンはおらず、あるのは背後に張り付いた気味の悪い魔力だけだ。


「どうした?ちゃんと呼べよ。お兄ちゃんって。俺はお兄ちゃんだぞ?」


 メタトロンがジャックの肩に手を回し、ニヤッと笑った。ジャックはそれを横目で確認し、慌てて距離を取る。


「いつから戻った?メタトロン」

「くくっ。はははははは!やはりジャックか!サンダルフォンはアマノと相打ちし、俺の一部になった!やはり生きてたのは俺とお前!一年前の生き残りは俺とお前か!はっはっは!」


 メタトロンは目の前の少年がジャックだと確信し、似合わない表情で豪快に笑った。


「そんなに嬉しいかよ?妹が実は死んでいて、それを憎むべき宿敵が演じていたというのに」

「嬉しいぜジャック。またお前と戦える」

「へえ~、意外だったな。妹より俺との戦闘を喜ぶかい」

「一年前、俺は初めて完璧に負けた。それもぽっと出のお前とアイムに。聞いた話によればアイムはお前が倒したらしいな。つまり、お前を倒せば最強は俺ということになる」

「へ~、今の弱体化した俺に勝って嬉しいか?」

「いや、完璧に強くなったお前を待ってる。それまでお前の奴隷として修業でも何でも手伝ってやろう」

「そのまま俺の道具になって死ぬのがオチだぜ」

「言ってろジャック。俺はお前を超えて王になる」


 メタトロンがジャックをジャックだと認識した。おかげで、奴隷契約は正常に機能するようになった。だが、ジャックの心配事が一つ増えたのも事実だ。


 *


 一週間が経った。学園が再開する。そして、初日から班授業がある。つまり、ジャックがラストに仕掛けるということだ。


「いいかいジャック。今回はそなたの出番はほとんどない」

「作戦を早く言え」

「そなたがラストを目的地まで誘い込む。そこは我々の魔法領域内で、武闘派の最高神が何十人も居る。ラストは自分の正体がバレてないと考えてる。奇襲されない限りまず倒せる。もしも奴が何かしらに気付いていて、魔法領域に入る前に暴れたら一旦避難しろ。こちらの連絡係からテレパシーで指示を出す。くれぐれも余計な真似はしないでくれよ」

「分かった。あんたはどこに居るんだ?」

「魔法領域内で指示を出す役だ。主神は全員動ける訳じゃないからな。今回出向くのは拙者だけだ」

「分かった。まあ、こんだけ対策すれば多少のことがあっても問題ないだろう」

「だな」

「じゃあ、行って来る」

「ああ、頼んだぞ」


 ラスト討伐作戦が今始まる。

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