第48話【ラース】その1
外は、ソロモンの指輪で操られてる悪魔達が神々を翻弄している。そんな中、寮の温泉で静かにジャックとラースの戦いが始まっていた。セーレはゆっくりとジャックの背後へ邪魔にならないように身を引き、ジャックは脱衣所の方へ目をやっている。
「ははっ、そんなに衣装が欲しいか」
ラースは魔法陣から出した服を周りにクルクルと浮かせ、それをジャックが瞬きした瞬間に着替え終えた。魔法で服を着たのだろうが、ジャックにはその技術はない。
「アマノから教わっとくべきだった」
「照れちゃう!」
そこにポム吉が現れ、ジャックの肩に乗ってニコニコ笑った。
「僕を持って『変身ポーム!』と叫ぶんだ!勿論ポーズをつけて!」
「はっ?何言ってーー」
ジャックがポム吉に困惑してる間、セーレがポム吉を掴んでノリノリでポーズを取った。
「変身ポーム!」
すると、セーレが光に包まれて、一瞬のうちに自身の服を装着した。
「くそっ!なんでこんなふざけたことで早着替えが出来るんだ」
「早く!ラースは待ってくれないよ!」
「チッ、変身ポーム!」
ジャックも嫌々ポム吉を掴み、ポーズを取って変身する。だが、服は学園祭の時に着ていたメイド服だ。
「おい!いつもの服にしろ!ぶん殴られてぇのか!」
「ご、ごめん」
胸ぐらを掴まれるポム吉は、慌ててジャックをいつもの服に変身させる。これで、ラース含め三人共準備が整った。
「よし、やっぱこの服が一番しっくりくる。さあ、やろうぜラース」
「フッ。悪いがジャック、私は戦いに来たのではない」
「何?」
「お前を殺しに来た」
ラースはそう言い、手の平をジャックに向ける。すると、ラースの魔力が微かに動き、ジャックの体が勝手に浮いて身動きが取り図らくなる。まるで、胴体を掴まれて高い高いされてる赤子のような気持ちだ。
「なっ!何だ?」
そして、ジャックの体はそのままラースの元へ素早く引き寄せられる。
「はっ!」
「ジャック!」
一瞬のことだった。ラースは隠していた短剣をキラッと輝かせ、ジャックが手元に寄って来た瞬間ジャックの胸を突き刺した。
「がはっ!」
「ジャック!!魔法を打て!ラースから離れるんだ!」
「いや、それができるならやってたはず。パッと見た感じ、多少手足は動くらしいけど、やはり魔法を打てる体勢を取れてない」
ポム吉もセーレも唖然としていた。一瞬にしてジャックが危機に追いやられ、足がすくんで迂闊に動け泣けない。
「はっ……あっ、あああああ!」
「ジャック!」
セーレが弓矢を取り出し、それをラース目掛けて放つ。しかし、矢はラースに近寄った瞬間反射されたように戻ってきて、セーレの肩に刺さった。
「ああっ!」
「セーレ!」
更に、セーレが魔法陣から樹木や植物を出してラースに攻撃を振るうが、それも先程同様見えない力で弾かれてしまう。その力は、同じ極の磁石が近寄った時みたいに絶対的な力で弾いている。
「あああああ!離れろおおぉ!」
「暴れるな。ただ受け入れるんだ」
ジャックはもがき苦しむが、胸に刺さった短剣は一向に抜けず、手足も次第に痺れていく。
「やめるんだ!」
ポム吉がラースに飛び交うも、セーレの攻撃同様見えない力で弾き飛ばされてしまう。それを横目で追ったジャックは、閃いたように苦しそうにしたままニッと笑った。
「コース.レゼン」
ラースの手元からジャックが消え去った。血濡れた短剣を片手に、ラースは穏やかな表情と仕草でゆっくりとポム吉の元に転移したジャックを見た。
「セーレ早く……逃げるぞ……」
「アース.フィオーレ」
セーレはラースの目の前に植物の壁を作り、瀕死のジャックとポム吉を抱え空を舞う。だが、すぐに植物の壁が見えない魔法で吹き飛ばされ、セーレの動きが鈍くなった。
「なっ!」
「逃すわけなかろう」
ラースの手の平に吸い込まれるようだ。セーレの動きが鈍くなり、先程のジャックのように引っ張られる。
「嘘!!」
「セーレ魔法だ!何とか魔法を出すんだよ!」
「ポム吉は黙って!そんなの分かってるよ!」
セーレは自分の背に再び植物の壁をびっしり作り、クッションにする。おかげで、ラースの見えない力が切断され、すぐに身動きが取れるようになる。
「動けた。どうやらラースと対象の間に障害となる物がある場合、魔法が機能しないらしい」
「でかしたセーレ。治療にもう少し時間が欲しい。頑張って逃げてくれ」
「分かってる。けど、あの魔法の正体と弱点が分からなければ勝てない。このままでは奴に近付くことすら出来ない」
セーレは障害物に身を隠しながら飛行を続け、上手くラースの目から逃れて行く。
「街の方へ逃げたか。だが、街は悪魔達でいっぱいだ。悪魔を通じて貴様らの位置が分かるぞ」
ラースはセーレを見失った。しかし、神々と悪魔達の戦いによって燃え上がる街並みを見て、薄くニヤッと笑っている。
*
ジャック達は崩れかけの民家に逃げ込んでいた。ジャックの胸の傷は治癒魔法で癒えているが、以前変わりなく苦しそうだ。
「ジャック、これを飲んで。回復魔法と同じ効果の薬品。それに失った血液も補充してくれる」
ジャックはセーレから受け取った薬液を飲んで、悔しそうに口を拭った。
「何だあの魔法。超能力のように人や魔法を引き寄せたり吹き飛ばしたり……あれでは近寄れば引き寄せられ、攻撃すれば弾き返される。どうすればいいんだ」
「近寄らなければいいんじゃない?」
「魔法を打てってか?さっきの見たろ。多少離れてても奴の射程距離内だ」
「いや、そうじゃなくて……本当の遠距離攻撃。つまり、暗殺」
「スナイパーライフルでドンって感じ?」
「そう」
セーレが真面目な表情を見て、ジャックは呆れたようにその場によし掛かる。
「そんな神器持ってない。遠距離の魔法も使えない」
「私の望遠鏡がある。あの神器は覗いた場所から魔法を放てるし、障害物があっても、見えていればテレポーテーションで魔法を直接転移させぶつけることが出来る。ラースの暗殺が可能」
ジャックはセーレの能力を思い出したように口を開け、希望に満ちた表情で状態をグッと起こした。
「それだ!!」
「けどこの作戦を成功させるには、ラースを誘き寄せるジャックという囮が必要。更に、ジャックが引き寄せられても逃げれるようにポム吉を常にある程度近く安全な場所に置いといた方がいい」
「それ!俺が全部言おうとしていた!流石セーレ!」
「もっと褒めていいよ」
「よし!早速作戦開始だ!」
「けど街の被害に巻き込まれるのは厄介だよ」
「被害が及んでいない少し遠い場所でおびき寄せよう」
二人は、その場所に相応しい場所を探す為、ゆっくりと家の隙間から街の様子を見た。
「俺はここら辺に詳しくない。どこかいい場所ないか?」
「湖の方はどう?」
「湖?あの街に囲まれた小さな湖か?」
「うん。巨人のドクロと大昔の海賊船が観光名所になってるあそこ。あの位置なら射撃しやすい」
「分かった。そこに誘き寄せる」
二人の作戦開始。
ラースは勿論、神や悪魔の視線にも気を付け、素早く街を抜け出して行く。セーレは湖の近くの高い建物に、ジャックは湖に浮かぶドクロの頭に乗って、ラースのことを静かに待つ。
それに応えるように、静かに現れたラースがジャックの背後にある浮かぶ海賊船に降り立った。
「お友達はどうした?何か策があってここに一人で居るのか?それともここを死場所に選んだと言う訳か?」
「どっちも正解だ。ラース、ここがあんたの死場所だ」
振り返って挑発するジャックは、胸の痛みを忘れてしまうくらい緊迫した空気を感じていた。そして、ほんの少し震えた手でアマノの神器を構える。
「ほぉ、それ一本でいいのか?」
「ああ。来い」
ラースが短剣を構えて動いた。瞬間、彼方遠くから放たれた魔法がラースの後頭部に命中した。
「何ッ!がはっ!?」
「ッ……」
セーレが放った魔法は、ドングリを弾丸のように放った魔法だが、威力や破壊力は文句なしの性能だ。ラースの後頭部は深く抉れ、そこからドクドクと血が流れて、船から転落して湖へと落ちた。
「一応死体を回収しなくては……」
ジャックはまだ気を抜かず、湖に潜って落ちて行くラースの元へ泳ぐ。そして、沈んで行くラースを恐る恐るワイヤーで縛り、それを片手で抱えて陸へ上がろうと羽根を広げる。
「ッ!」
瞬間、ラースの片目がギラっと開き、短剣でワイヤーを切り裂いてそのままジャックに短剣を振るう。一瞬焦ったジャックだが、すぐに短剣を手で防御し、そのままラースの手を捻り潰そうと掴みに掛かる。
「くっ!」
だが、再び見えない魔法で吹き飛ばされ、ジャックとラースの間に距離が出来る。ジャックが刀を振おうとするが、ラースはとんでもないスピードで動いてジャックの腕を切り裂いた。水の中に居るにしては早すぎるスピードだ。だが、そのスピードの正体は目で見て一瞬で理解できる。
(なんだこれは?)
ラースの周りが空気に覆われているのだ。正確にいえば、周りに広がる無尽蔵の海水がラースを嫌うように弾かれており、ラースの体は濡れずに済んでいる。だから、空中にいる時と同じ動きができるのだ。ラースが動けば、海水もラースに弾かれたまま動いてくれる。それがジャックとラースのスピードに差を生んでいる。
(取り敢えず転移で逃げよう)
ジャックは魔法を唱え、転移を使ってその場から離れる。しかし、転移先はなぜかラースの目の前だ。何が起きてるのかわからないまま、ジャックはラースにぶん殴られる。
「がはっ!」
すぐに体勢を取り戻すジャックだが、ラースが懐から出したポム吉を見て全てを理解する。
(やられた。転移先のポム吉を確保されていたのか)
ポム吉は魔道具のお札が貼られて身動きの取れない状態だ。つまり、ポム吉からジャックの方へ逃げることは不可能なのだ。ジャックはラースの策略通り一対一の戦いを強要された。




