第47話【学園祭のやり直し】後編
学園祭は静かに終わりを迎えていた。メイドバーの片付けをしてるジャック達は、皆少し疲れているが、やり切った達成感で包まれている。
「疲れたー!」
「皆お疲れ」
「楽しかったな」
「ね〜」
ベルやアウトリュウスが元気有り余ってる中、ジャックは疲れた横目でカーマを見ていた。それは、今回気を使ってくれた感謝があるのと、占い師の言っていた言葉が頭に過っていたからだ。
「カーマ、さっきはありがとう」
ジャックは勇気を振り絞って感謝を伝える。それを横目で確認するカーマは、再び目を逸らして片付けと掃除の為に手を動かす。
「……勘違いするな。借りを返しているだけだ。完全に返し終えたら今まで通り何もしない。調子乗って声かけんな」
「何でそんな態度なんだよ。客と接するみたいに皆と接すればルーナみたいに皆から信頼される」
「なぜお前らから信頼を得ないといけないんだ?そんなことする時間あるなら、一つでもためになる知恵が欲しいね」
「それに、俺に対しては皆以上に嫌われてる気がする。やっぱ人間だから?」
「ちげえ。お前がジャックだからだ。それ以上話しかけんな。エンヴィーのことは感謝してるが、必要以上に俺に関わるな」
「わあったよ!ほんと嫌な奴」
ジャックは機嫌を悪くして、ため息をついてルーナの元へ逃げるように駆け寄る。
「どうした?カーマにまたなんか言われたか」
「ああ。一緒にエンヴィー倒したってのによ」
「まあ、無理もないだろうな」
「無理もない?」
「だってあいつ、アポロンの孫だから」
「アポロン?それって、アマノの師だったあのアポロン?」
「ああ」
ジャックは納得したように唾を飲み込み、少し哀れんだようにカーマを遠目で見た。
「アポロンはアマノを孤立させた原因だが、一年前に事実が明かされてはアマノを襲った悪党という認識だ。悪党の孫というレッテルを貼られてきたんだろう。アマノの弟子であるお前を好きになれる訳ない」
「やっぱ、アポロンとは仲良かったのかな」
「じゃなきゃああならんだろう。今でも心のどっかでアポロンの無実を信じてるんじゃないか?まあ、どっちにしろお前とは仲良くなれんだろうぜ」
「そうか……」
*
その日、疲れたジャックは寮の温泉に向かっていた。
「誰も居ないだろうな。男の裸は嫌いだし苦手だ」
ジャックは誰も居ない深夜の時間帯を選び、恐る恐る脱衣所を覗く。どうやら、誰も居ないようだ。
「よし!服もない!貸切だ!」
ジャックは有頂天で温泉に飛んで行き、頭と体を洗い始める。
「ふっふっふ〜ん」
「背中洗おうか?」
「うん、お願い」
「……」
「……え?」
ジャックは慌てて後ろを振り返り、声の主を確認する。
「わあ!何で居るの!セーレ!」
背後に居たのはセーレだ。当たり前のように背中を洗ってくれており、泡で体をモコモコにしてる。
「え?何でって、温泉入りに来た」
「誰の服もなかったのに!」
「今来たもん」
「……まあ、いいや。アウトリュウスとかじゃなくて良かったよ」
背中を洗うセーレは、いつも通り表情を見せず淡々とジャックの背中を洗う。
「本当に小さいね。ジャックは」
「うるさいな」
「けど意外といい体してる。もっと女々しい体だと思ったのに、凄い筋肉」
「鍛えてるからね」
「へぇ〜、逆に言うなら鍛えてるのにこの程度?」
「俺は鬼の血を引くアマノの力を受け継いでる。鬼は戦闘時によって筋肉量が変わるし、見た目の何十倍も力がある」
「知ってるけど?」
「何なんだよ」
「ジャック、交代」
「……」
ジャックは背を向けるセーレを目を細めて観察するように見る。そして、少し考えてからゆっくりと背中を洗ってあげる。
「中性って変な体。本当にどっちか分からない」
「ジャックが言う?」
「……洗うのやめていい?」
「ははっ、ごめんごめん」
ジャックは羽根で体を隠したままセーレと一緒にお湯に浸かる。二人共、気持ちよさそうにため息に似た声を出し、ゆっくりと肩まで浸かる。
「今日は疲れたね」
「うん」
「ジャックも頑張ってたね。接客に参加してたの見たよ」
「カーマが気を使って誘ってくれたから、参加できた」
「……カーマは今だに苦しそう。復讐を遂げたと言うのに」
「そうだね」
「……ジャック、アマノ様の話をしてよ」
「いやだ」
「ケチ」
静かに会話する二人は、会話のテンション以上に楽しそうだ。温泉に浸かりながら、ほわほわしてる自分達を楽しんでるのだ。
「ぺちゃ」
湯の底から浮かび上がって来たポム吉がセーレの胸にしがみつく。だが、すぐに隣のジャックに頭を掴まれ、湯の外へ出された。
「なぜ居る?」
「ペチャパイある所にこのポム吉あり」
「意味分からねぇ」
ジャックはポム吉を湯に沈ませる。
「ぼわあああ」
「本当仲良いね」
「仲良くない」
セーレは否定するジャックをクスッと笑い、沈んでるポム吉を湯からゆっくりと出してあげる。ポム吉は水を含み過ぎて、食べ過ぎたクマのように動けなくなってる。そして、ジャックから逃げるように足をゆっくりと前に出す。
「……」
「露天風呂?」
湯から上がるジャックが次に行くのは、露天風呂の方向だ。
「セーレも」
二人は、お互いに体を必要以上に隠して露天風呂の扉まで行った。
「何か光った」
「え?」
「それに、何かいっぱい飛んで行ったようにも見えた」
「あ、本当だ。天使か悪魔が飛んで行ったの見えた」
「音も聞こえる。何かの祭り?」
ガラス越しに見える外の光景は少し妙だった。二人のいる場所からはよく見えないが、魔法か何かが飛び回ってるように見えるし、神々の声や爆発音も聞こえる。
「見に行こう」
「うん」
二人は露天風呂の扉を開けて、湯を無視して上空へ飛ぼうと足を浮かせた。瞬間、炎の魔法が近くの湯に飛んで来て、露天風呂を少し破壊した。その破片や湯がジャックとセーレに当たり、激しく吹き飛んだ。
「わあ!」
「何だよ!」
セーレが湯の中に吹き飛ばされ、ジャックは慌てて外の状況を上空から見渡した。
「何だこれ?」
外の状況は地獄だった。複数の悪魔が街を破壊して回っており、それを阻止しに来た神々や天使達と戦っている。悪魔達の表情は、無表情で何かに取り憑かれたかの様子だ。
「どうなってるの?」
「分からない!なぜか神と悪魔がが戦ってる!戦場になってるんだ!小さな戦争だ!悪魔達の様子も何か変だ!」
「わあっ!」
「くっ!」
状況を確認しようとするセーレだが、魔法や建物の破片が飛んで来て、露天風呂も壊れ始めて来た。
「ここは危険だ!温泉から出て避難しよう!」
二人は慌てて露天風呂を出て、温泉の出口へ向かう。
「わあ!」
「なんだよ!」
だが、独りでに動いたシャワーがジャックとセーレに湯を掛ける。同時に、湯の中に誰かが居ることに気づいた。
「誰か居るぞ!」
「誰!?」
ジャックとセーレは、煙で見えずらい男を警戒し、魔法を放つ準備をする。
「フフッ、そう警戒しなくても、運命は変わらない」
湯から上がった男は、近くの岩に座って髪を上げる。その髪は赤く綺麗に輝いており、顔の火傷傷が湯によって綺麗に浮かんでいる。
「貴様、ラース……」
「やあジャック。どうやら私は間違えて女風呂に来てしまったようだ」
「わざわざ殺されに来たか」
湯から姿を見せた男――ラースは、ムキムキの胸筋をピクッと動かし、それを見せつけるようにその場に立った。
「見ろ、私の特技だ」
「その程度でドヤるな」
「……結構むずいんだぞ」
「外の被害はお前がやったのか?ラース」
「そうとも言えるし、そうでもないと言える」
「つまりお前なんだな?」
「フッ、まあ、そうだな」
ラースがチラッと見せたのは、右の指にはめている指輪だ。その指輪は禍々しい魔力に覆われており、微かに光を放っている。
「あれは……」
「知ってるの?セーレ」
「うん。あれは悪魔達を操ることが出来るソロモンの指輪」
セーレはコクっと頷き、恐れるように唾を飲み込んだ。
「悪魔達を操る?それで外の悪魔達が暴れて……」
「けど、あの指輪は悪魔達によって厳重に管理されている。一体どんな手で盗んだかは分からないけど、外の状況があの指輪を本物と教えてくれてる」
「追い詰められた奴は何でもするってことか」
ジャックとラースはお互いに目を合わせ、睨みを効かせる。
「神々は悪魔達で手一杯だ。誰も助けに来ない」
「俺が神々を嫌ってるのは知ってるだろ。最初から助けなど必要としてない」
「ジャック、お前は家族四神の仇であり、超えなくてはならない存在。やはり天敵は神ではなく、人間であるお前だった」
「黙れ大量殺神鬼。ここで殺してやる」
「かかって来い、ジャック」
裸同士の二人は、セーレをその場の空気から剥がす程の魔力で溢れている。
「ライト.ファロン!」
先に仕掛けたのはジャックだ。構えていた指から魔法陣を出現させ、その魔法陣から光を弾丸のように放つ。その光は、ラースの股間目掛けて放たれている。
「息子エナジー!」
だが、股間に当たった光は跳ね返され、ジャックの頬を掠った。一瞬のことに、ジャックも表情を変えて息を飲み込んでしまった。
「なっ!俺の魔法が……」
「はははっ!どうだ俺の息子は!この程度の魔法、どうってことないわー!」
勝ち誇るようにタオルを取るラースは、自身の裸を見せ付け大笑いする。それを見て、ジャックは絶望してその場に膝を付けた。
「強すぎる……俺の光魔法をいとも簡単に……」
「どうだジャック!息子のないお前には出来ない芸当だ!はっはっは!」
「クソッ!」
「落ち着いてジャック、お互いにのぼせてるのは分かるけど、ただの魔法よ」
のぼせてテンションがおかしくなってるジャックとラースを見て、セーレが冷静にジャックの羽根を持ち上げ、ゆっくりと立たせた。
「何だ。ただの魔法か。騙しやがって」
「ちょっと冷静になって。冷たい水かけてあげようか?」
「大丈夫、もう冷静だ。あいつの息子エナジーの対策ができた」
「だから魔法だって」
ジャックは冷静になり、お風呂場の出口に目をやる。
「とにかく服を着なくては……」




