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ミトロジア  作者: ビタードール
一部】二章『愛を知らない神様』
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第43話【最初の神様】その4

 新界の神々はここ最近アメノを見ていなかった。しかし、世界の大勢はしっかりと取れていたので、誰も彼もさほど気にはしていない。


「最近アメノ様見たか?」

「いいえ」

「高御産巣日様も見てないな」

「いくら最高神の我々でも、あの御二方に会えるの滅多なことではありませんよ」

「でも、もう何万年も目撃情報がない」

「いいではありませんか。あの二人が居なくても何も問題はありませんよ」

「まあ、そうなんだが……」


 神々のトップはもうアメノではない。神々は自ら歴史を創り出し、秩序を良くするあらゆる制度を作り上げた。そのルールが神々の世界を統一してくれている。だから、アメノやムスビが居なくても何も問題はないのだ。


 *


 とても静かな世界だ。これは、何という世界なのだろうか。まだ名前はないが、神界とは全く別の世界。そう、後に下界と呼ばれる場所だろう。そんな別世界の静かな森の中に、二人の神が静かにひっそりと暮らしている。


「ふ〜」


 ムスビは穏やかにタバコを吸うアメノを見て、何だか申し訳なくなっていた。ここ最近に限った話じゃないが、アメノが少し寂しそうに見える。そして分かっている。もし、アメノが寂しさを感じているのなら、それは間違いなく自分が原因だと。


「アマノ」

「な〜に?」

「俺は凄く感謝している。数万年前、この生活を始める時に俺の気持ちを大切にして、世界を捨てて俺との生活を選んだこと」


 ムスビは畏まった様子でアメノの前に座っている。その表情と様子は、母親にお願い事をする前の子供のように、少しのずるさと謙虚さがある。


「何さ。らしくないね」

「けど、アメノは一度歴史の中で生きる生活を知ってしまっている。神々の中で沢山の命と関わる幸せを知っている。今、昔と同じ状況だが、一つだけ違うのは『そこ』だ。だから、今のアマノは俺が居ても寂しさを感じている」

「……否定はしないけど、それがどうかしたの?」

「俺は……俺は今日を持って歴史から去る」


 アメノの表情が大きく揺らいだ。それは、ムスビの言ってることが半分理解できないのもあるが、何となくもう半分を深く理解してしまってるからだ。その後の言葉を聞くのが怖いとも感じる。その震えた心は体に現れ、タバコを吸うも吐くのも数秒止まってしまう程だ。


「詳しく……言って」

「この生活からも神々との生活からもおさらばする。俺は一人で生きていく」

「何をバカなことを。もう私に会わないということかい?一人でってのは、この誰もいない世界で植物のように生きるということかい?」

「そうだ。もう二度とアマノには会わない」

「そんな寂しいこと言わないでくれよ。なぜそんなことする必要あるんだ。たまに会えばいいじゃないか」

「たまに会うと、また寂しくなってアマノを求めてしまうから。またいつアマノを傷付けるか分からない」

「意味が分からないよ。この生活を欲しがってたのは君ではないか」

「だから俺が終わらせる」


 アマノは黙り込み、震えた手でタバコを取って強く握った。その手は震えており、下を向いて表情を塞ぎ込んでいる。だが、すぐに立ち上がり、震えた手をグッと握り締めた。


「ッ……!」


 その拳はムスビの顔面を殴り、軽くムスビを吹き飛ばす。


「ハハハッ!一人で生きていく?無理に決まってる!貴方はずっと誰かと居た!私が居ない時は家族が居た!歴史は私とムスビから始まったのよ!?例え一人で生きられたとしよう!それでも!それでも君は――」


 アメノの表情がやっと見えた。尻餅を着き、困惑した様子でアメノを見上げるムスビには、その表情が痛かった。初めて見るその表情は、一番見たくないアメノの表情だが、一番美しいとも思えた。


「生きてると言えるの?」


 ぐしゃぐしゃに涙ぐんでいるアメノは、大泣きした後の子供のようだ。ムスビの殴られた顔は、曲がってしまう程のダメージを負っているが、顔に痛みは一切ない。あるのは、胸の所が締め付けられるような痛みだ。


「言えるさ。歴史の一部として、アマノの思い出の一部として、高御産巣日は生き続ける」

「違うよ。違うんだよムスビ。私が一番大切なのはムスビなの!そのムスビが居なくなってはどうしようもないわ!歴史なんて二の次よ!」

「いずれ逆になる。神々との生活が一番になり、俺が二の次になる。いや、二の次どころかほとんど忘れてしまうくらいに。アマノが歴史を創り始めた時のように。あの時、アマノは間違いなく幸せだった。俺のことを気にさえしなければな」

「ムスビ……」

「その寂しさは最初だけだ。アマノをよく知ってる俺だから言える。アマノは必ず神々との生活で俺が居ない寂しさが消える」

「それなら歴史を消す。神々を皆殺して私と君だけの世界にしようよ」

「アマノにできる?」


 アメノはその一言に言い返せなかった。神々の中にも親しい者は居るし、自分がゼロから創り出して何億何兆年と育ててきた物を壊すことはできない。アメノもムスビも分かっていることだ。


「……もういいよ。君がそこまで言うならそうしよう。ムスビなんて大っ嫌いだ」


 ムスビの瞳を見て、アメノは諦めたように荷物を纏め始める。だが、その途中でどんどん涙が溢れ出てしまい、その場に挫けてしまう。


「ううっ……」

「……」


 泣き崩れるアメノに対し、ムスビはゆっくりと近寄ってテーブルにある王冠のような仮面をアメノの背後から優しく被せた。おかげで、アメノの泣き顔は一切見えない。

 その優しさを感じたアメノは、より苦しくなってしまう。しかし、ムスビはそのままアメノの手を引っ張り、しっかりと立たせて強く抱きしめた。


「さよなら。母さん」

「ッ!」


 ムスビが初めてアメノを母親として呼んだ。それは、アメノに取って革命的な事だ。一瞬にして電撃が走り、あらゆる感情が溢れ出しては浄化されるような感覚だ。しかし、アメノはムスビを突き放し、背を向けて神界への扉を出した。


「ずるいよ……ムスビ」


 アメノはそう言ってムスビと別れた。ムスビは不思議と寂しくなく、大人になれてる自分を実感していた。しかし、それはいつも正しいと限らない。大人になった所で間違え続ける運命なのだろう。


 * 


「動くなムスビ。動くとこのバナナが火を吹くぜ」


 ポム吉はそう言い、静かに新聞を呼んでいるムスビにバナナを拳銃のように突き立てた。


「どこで覚えてきた。そんなセリフ」

「動いたな。くらえ!」


 しかし、ポム吉はバナナをムスビに取り上げられ、それを目の前で食べられてしまう。ポム吉も我に返ったようにその場に座り、新聞を読む。しかし、新聞紙は逆さまだ。


「全然読めないよ」

「逆さまだ」

「……どっちにしろ読めないよ」

「そもそも文字読めないだろ」

「そうだった」

「もう帰れ。邪魔だ」

「しょんな!?」


 ムスビがこの暮らしを選んで数百年経つ。だが、寂しさは一切なく、アメノに会いたいという感情もコントロールできるようになっていた。そう、感情そのものをコントロールできるようになったのだ。


「これアメノだ。変な遊びしてる」

「どれ?」


 ポム吉は妙なことを言いながら新聞の写真を見ている。ムスビもアメノの名前に反応し、ポム吉から新聞を取り上げた。


「ッ!」


 その新聞の記事はムスビを驚愕させる内容だった。


「なんて書いてるの?」

「こっ、こいつら……」


 ムスビは怒りに怒った。それもそうだろう。ムスビからしたら怒らずにはいられない内容なのだから。


「む、ムスビ?」

「神々と巨人族の戦争だ」

「へ?」

「神々は相当追い詰められて、もう勝てないことを悟り出したんだ」

「それとアメノに何か関係が?」

「巨人達はアメノを差し出せばもう手出しはしないと言ってるらしい。それで、アメノを差し出す派と差し出さない派で内戦が起きたんだ」

「なんで巨人達はアメノを?」

「さあな。最初の神で全ての原点だ。理由なんぞいくらでもある」

「それで、どうなっちゃったの?」

「アメノが捕まった。記事通りなら、今頃処刑台だ。流石に殺しはしないだろうが……」

「どうするの?ムスビ」

「皆殺しだ」


 ムスビはすぐに動いた。もう二度と行かないと思っていた神界に出向き、アメノを差し出す派の神や天使を皆殺しにした。それも、自ら殺したのではなく、呪いを掛けて巨人達と戦わせ、相打ちを狙う形でだ。それが決定打となり、神々は戦争に勝ち、巨人族は滅んだ。


「数億年ぶりに姿を見せたと思えばこんな形で我々を救ってくれるとは!さすが高御産巣日様!」

「ありがとうございます!」


 ムスビは神と巨人の戦争ラグナロクの英雄となったが、感謝の言葉など一切耳に入らなかった。それは、目に入った光景があまりにも衝撃だったからだ。それはアメノだ。ムスビが戦争に加わった時には、アメノは既に巨人達に拉致されており、悲惨な目にあっていたからだ。最初の存在としての力を何らかの魔法で半分以上奪われていた。

 その残りの力は瞳に集中され、後に『真理の義眼』と呼ばれるものだ。


「やあムスビ。やっぱり助けに来てくれた」

「バカが」


 その時、ムスビは久々にアメノと出会い、アメノの笑顔と挨拶を受けたが、全く嬉しくなかった。あったのは、アメノへの哀れみと自分と歴史への怒りだった。当然、アメノとロクに会話もせずに神界のどこかへ立ち去った。


 * 


 ラグナロクの復興も終わり、平和な日々に戻ろうとしている。ムスビはあれ以来アメノを遠くで見守っている。見守れば見守るほど寂しくなるが、アメノが悲惨な目に合うよりマシだった。心を押し殺し、ただアメノを見守る役だけを貫き通している。当然、アメノと会話したり、会って何かすることは避けた。


「……ッ」


 ムスビがベンチに座ってご飯を食べようとしていたある日のことだ。座ろうとしたムスビに小さな男の子がぶつかった。その男の子は質の良い服だが、酷く奴れていて目が死んでいた。貴族の出に見えるが、死んだ表情と窶れた体があまりにも貴族とは言えない。


「大丈夫か?」


 うつ伏せに倒れた子供に声をかけるが、起き上がる様子はない。痺れを切らせたムスビは、その子供の襟を掴んでゆっり立たせた。


 その時、初めて目が合う。そして、直感が何かムスビに語りかけるように反応した。その妙な違和感は大当たりだろう。子供は、赤い髪に美しい瞳を持っており、死んだ目をゆっくりと動かしてムスビをじーっと見ている。


「お前、名前は?」


 他人に興味を持たないムスビが珍しく興味を見せ、自分から名前を聞いた。


「……ラトュリア。ラース.ラトュリア」

私は人との出会いや再会を大切にしてます。

大人になると子供の頃と違い、友達と呼べる人はどんどん少なくなっていき、誰かと遊ぶ時間も比較的減ることが多いでしょう。

なので、私は自分から連絡したり、遊びに誘うことが多いです。久々の再会が何かしらのインスピレーションをくれるのです。


出会いや再会が人を変える。それは、物語にも採用してます。ミトロジアでいうと、アマノとジャックの出会いがお互いの運命を変え、1部の物語の根っこを作っています。

キャラクター同士の出会いが物語を作っていき、再会が物語を盛り上げてくれます。

小説では、その『見せ方』が大事になってくると思うので、そこを上手く書けるようになりたいですね。

この物語の最後も、ラースとエンヴィーの出会いで終わってます。この出会いが、今後のエンヴィーを作るのです。これから言うのは当たり前のことかもしれません。けどきっと、みーんなそうだ。

出会いと別れと再会を重ね、今の自分があるんだ。

そうでしょう?

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