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風鈴が1つ
Prolog
新しい家についたのは深夜零時を回ってからだった。
長いこと空き家になっていたとは思えないほどそこには家具が揃っていた。
前の住人がまだこの世界に生きていた頃に使っていたのだろうか。
一先ずは新しく生活に必要な物資を購入する必要は無さそうだ、と僕は安堵し、黒い夜の空気を吸い込んだ。
前の住人が女性であった事を思わせる可愛らしい置物や家具とは不似合いなほど、その空間には沢山の風鈴が下がっていた。
空は半日太陽に焼かれ続け、日が沈む頃には焦げて黒くなる。
人々はそれを夜と呼ぶ。
半透明な夜の暗さが家主面して家の隅々まで伸びていた。
「いらっしゃい」
夜はそう言った。