第96話.食堂
食券を購入し終えると、料理を受け取るためにトレーに箸を一膳用意して列に並ぶ。
購入したのは悩みに悩んだ末、ラーメンという結論に至った。今日のスープは豚骨らしい。
自分の番が来ると、食券をカウンターに出して自分のメニューが出されるのを待った。
「ラーメンでお待ちの方ー」
食堂のお姉さんがラーメンを両手に持ちながらそう言う。
片手を少しあげて「俺です」とそう言うと、お姉さんからラーメンを受け取りトレーに載せた。
スープのいい匂い。
食欲を唆られながら、予め取っておいた席に向かう。
当たり前だが、俺より後に食券を買い始めた空宮はまだいない。列の方を見てみるとちょうど食券を出したあたりだ。
座席に座ると、ズボンのポケットからスマホを取り出して空宮が来るまでの暇つぶしをする。
(え、この歌手結婚したのか。俺が好きな女優とか歌手ってよく結婚するよな)
Twitterのフォローをしている歌手のツイートを見ながらそんな事を思う。
「刻ー、お待たせ〜」
そんな感じでTwitterを眺めていると、後ろからカチャカチャと音を立てながら可愛らしい声で俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
「おう」
「いやー、今日の日替わり定食オムライスでさ!見本が美味しそうだったからついそれにしちゃった!」
空宮は席に座りながら選んだ料理を見せてくれる。
卵の上にはホワイトソースがかかっていて、食堂の料理にしては少し高級感が漂っている。
「そうか、美味そうだな」
「でっしょー!」
そう言うと空宮は誰が見てもわかるくらいに上機嫌になった。嬉しそうにしているその様子は相変わらず子供じみていて可愛らしい。それに頭の後ろで括っているポニーテールも少し揺れている。
「じゃあ、いただきます!」
「いただきます」
俺と空宮は一緒に手を合わせてそう言うと、俺はラーメンを空宮はオムライスを食べ始めた。
「んー!やっぱり美味しいよこれ!当たり引いたな〜」
頬に手を当てながら至極満足そうな笑みを浮かべている。対する俺も態度や表情には出さないものの、料理の味などには満足していた。
「ねぇ刻も食べる?」
「うん?」
そう聞かれ、俺は前に座っている空宮の方を向くと目の前にはオムライスの乗っかったスプーンが俺に向けられていた。
「あれ、いらなかった?」
「いや、まあ食ってはみたいけど別に貰うほどでもないかと」
そう言いながら遠回しに遠慮していると、空宮は今回は割とあっさりした反応を見せた。
「そっか。ま、食べたくなったら言ってね。一口ならあげるから!」
空宮はそう言うととびきりの笑顔を俺に見せる。
(そういう笑顔は好きなやつに見せろよな)
一人そう思いながら、ラーメンをツルツルっと啜って食べた。
✲✲✲
「いやー、美味しかったね〜」
「だな。腹減ってたからより一層美味く感じたし」
「それな!」
空宮はビシッと俺の方を指さしながらそう言う。
「にしても、結局刻オムライス食べなかったけど本当に良かったの?あれ本当に美味しかったよ?」
空宮は上目遣い気味にそう聞いてきた。
なぜこのタイミングで女子の可愛さを出してくるんだよ。
少し目を逸らしながらも喋り始める。
「うーん、まぁ美味そうだったけどな。別に今じゃなくてもいいと言うか何と言うか」
「そっか〜、でもあのメニュー食堂の人に聞いてみたけどそんな頻繁に出るメニューじゃないみたいだよ?」
「そうか」
そう言うと空宮は何か思いついたような顔を見せる。
「ねぇ刻!」
「ん?どうかしたか?」
そう聞くと空宮はふっふっふー、と何かを思いついた博士みたいな笑い方をしてから喋り始める。
「いいこと思いついちゃったよ!」
「何?」
「私が刻にあのオムライスを再現して食べさせてあげればいいんだよ!」
「はぁ?出来んのかそんなこと?」
再現って一朝一夕に出来るものじゃないだろう。何よりレシピも分からんわけだし。
そう思っていると、空宮は何かを説明したそうな顔をしている。俺は首で話すように促すと、空宮はパッと顔を明るくさせて喋り始めた。
「私には出来るんだよ!再現させることが!」
「どうやって。レシピもないのに」
俺がそう言うと空宮は不敵に笑う。
「私はある程度なら一回食べただけで、その料理に使われている料理の材料から何まで把握できるのです!」
何気に恐ろしい才能を告白されてそのまま言葉を失ってしまった。
この子、勉強はダメでも他の才能があったみたい。
第96話終わりましたね。オムライスが出てきましたけど前回の話に出てきた緋山も食べてましたよね。美味しいんでしょうをきっと。
さてと次回は3日です。お楽しみに!
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