第89話.デコピン
「というわけで、文化祭の役割分担を軽く決めとくぞー」
教卓の前に立つ羽峡先生はだるそうにそう言うと、黒板に白のチョークで実行委員、演劇長、出店長と書いた。
(実行委員は分かるとして、演劇長と出店長ってなんだ?)
そう俺が思っていると、先生がいいタイミングでその説明をし始めた。
「実行委員はその名の通り文化祭の事でクラスの代表として、文化祭実行委員会に出席したり、色々と仕事がある。ちなみにこの演劇長ってのと出店長ってのはその名の通り、演劇関連のリーダー的な役割をやってもらうのと、出店のそれだ」
先生がそう言うと皆が納得したように頷く。
「これを踏まえた上でやりたいやつは立候補してくれー」
羽挟先生はそうとだけ言うと、教室の隅に置いてある椅子に座った。そして、その後すぐに元気な明るい声が俺の隣から響いてくる。見てみるとそれはもちろん凛で、元気よく手を挙げている。
「はーいっ!僕やりたいです!」
「おー、テイラーやってくれるのかー」
「はいっ!なんか楽しそうだから!」
そう言うとクラスの皆して笑った。しかも、あの羽峡先生も顔に少し微笑みを湛えている。
「んで、テイラーは何が一番やりたいんだ?」
少しの間腕を組んで思案するような顔を浮かべた後、パッと大きな碧色が特徴的な目を開いた。
「出店長やりたいです!」
「ほう、また何で」
先生がそう尋ねると、凛は次は特に考える素振りを見せずに理由を話し始めた。
「何と言うか、この三つの中でも僕に一番あってる気がしたからですかね?ほら、実行委員だとそれこそ特出したリーダーシップが必要だし、演劇長だと演技力とかそういう指導をしていかないといけなさそうだから」
「なるほどね」
「はい、それに出店長ならまだ僕でもできるのかなーっと思いまして。それに僕には優秀な刻くんがいますから!」
凛の話を聞いていたら、いつの間にか俺も巻き込まれていた。
「おいっ、俺は別に手伝……」
手伝わないと言おうとすると、それを悪気なく遮ってくる声が入る。
「そうか、なら鏡坂にはテイラーの補佐と、テイラーが休んだ時の代理をやってもらうことにするよ」
「い、いや、別に俺はやるなんて一言も……」
「よろしくね、刻くん!」
「えぇ……」
もう一度否定しようとするが、凛が嬉しそうな顔をしてそう言うので俺は完全に否定しきることが出来なくなってしまった。
可愛いのはずるい……。
✲✲✲
1時間もある長いホームルームが終わって俺達は休み時間に入る。
凛の補佐兼代理に任命されてしまった俺は凛とのミニ会議をしていた。
「ねぇねぇ刻くん」
「ん?」
「出店はどうやって決めようかな?」
「出店かぁ」
実際どうやって決めるのが一番効率がいいのかな。幾つか案を募って多数決を取るのがいいのか、適当にこちらで案を幾つか決めておいてそっから選んでもらうのがいいのか、悩む所だな。
そんな風に悩んでいるとトントンっと机を叩かれる。
「おーい、刻くん大丈夫?寝てるの?」
「いや寝てない。決め方の案を考えてただけ」
「おー、ありがとうね!それで何か思いついた?」
俺は凛にそう聞かれたので、考えていたものをいくつか説明した。
「なるほどね。確かに効率の良さを考えるとその二つのどちらかが妥当かな?」
「だよなぁ」
「まぁそこら辺はLINEとか部活中にでも話しながら決めよっ」
凛は柔らかい微笑みを浮かべながらそう言う。
「そうだな」
俺はそう返すと席から立ち上がった。
「あれ、どこか行くの?」
「んー?トイレ」
「じゃあ僕もついて行こう」
凛がそう言って立ち上がるので俺は凛のおでこを軽くデコピンする。
「痛っ」
凛は俺がデコピンしたところをさする。
「おバカさん?」
そうとだけ言うとそのまま一人で教室を出た。
後ろからは「おバカじゃないもーん!」という声が響いてくる。
第89話終わりましたね。今回は簡潔に、デコピンは痛い!以上っ!
さてと次回は、20日です。お楽しみに!
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