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第80話.夏休みラストスパート

「はー!今日は楽しかったなぁ」


 空宮が満足気な笑みを浮かべ、大きく伸びをしながらそう言う。日はもう随分と傾き、辺りは橙色に染まり出した。


「そうだねぇ。ま、心残りがあるとするなら、刻くんとウォータースライダーに乗れなかったことだけど」


 凛はそう言って俺の顔を下から覗き込んだ。


(あの、下から目線はやめてね?ほら、服の隙間からね?見えそうになるからさ。どこ向いたらいいか分かんなくなるし。上向けばいいか?)


 そんな感じで試行錯誤していると凛も諦めてくれたのか、普通に俺の横に立って歩き始める。


「ユウはどうだった?楽しかった?」

「はい、私こういう所にほとんど来ることがなかったので、なんだか新鮮で全部楽しかったです!」


 華山は純粋無垢な満面の笑みを浮かべながらそう言った。


「それは良かった!」


 ニコッと笑いながらそう言うと、華山の手を取って歩く。華山の方は少し困惑したような素振りを見せたが、だが、それもすぐになくなる。というか、それにすぐ順応した。


「はぁ、楽しいプールもこれでおしまいかぁ……」


 俺達が笑ったりしながら話していると、場の空気に似合わない声のトーンで(うつみ)がそう言う。


「どうした?また来年も行こうと思えば行けるだろ。俺達受験生だけど」

「そうだけど、そうじゃないんだよ!」

「どういうこと?」


 俺には(うつみ)の言う支離滅裂な言葉の意味がよくわからなかった。


(そうだけど、そうじゃない?何だそれ)


 周りにいる凛や空宮達にも、どういう事なのか分かるか目配せで聞いてみるが、皆首を横に振り分からないと俺に伝えてくる。そして、その様子をバッチリ全部見ていた(うつみ)は、「はぁ」と大きく溜息をつきながら口を開いた。


「だからね、確かに来年は刻兄達は受験だよ。だけどさ、それ以前に」

「それ以前に?」


 (うつみ)があまりにも不自然なタイミングで言葉を切るので、俺は思わず聞き返してしまう。

 そして、(うつみ)は重々しく口を開いた。


「もう、一週間もすれば夏休みが終わっちゃうんだよ!」

「あー、もうそんなに経ってたのか。忙しくて残りの日数とか気にしてなかった」

「はぁあ!?夏休みだよ!?この長ーいお休みが終わっちゃうんだよ?なのに、それを気にしてないの一言で終わらすなんて、ほんっとありえない!」


(えぇ……そんなに怒ること?)


 思わず(うつみ)の剣幕に少しだけたじろいでしまう。

 そう疑問に思っていると、(うつみ)の隣にも一人(うつみ)と同じ感性の持ち主がいた。


(そう、みんな大好き空宮です!前にもこんなふうに言わなかったか?)


「そ、そうだよ刻!夏休みには宿題もいっぱい出てるんだよ?」

「そりゃまあ長い休みだからな。それにあれって割と普通に終わるしさ」

「え……」


 そう言うと空宮は軽く絶望したような顔になる。そしてそれに同情するような(うつみ)


(あらら?もしかして、もしかしてな感じ?)


 胸に少し嫌な予感を抱きながらも、恐る恐るその事について、2人に尋ねる。


「あの、もしかしてさ、宿題終わってない感じ?」


 そう聞くと空宮達は目をうるうるにしながら、勢いよく泣きついてきた。


「全然終わってないんだよー!」

「私も刻兄と一緒にやった宿題しか終わってないよー!」


(うつみ)ちゃん?それはダメよ?)


 内心そう思いながらも、少しどうしようか悩んでしまう。

 一週間後にはもう始業式がある。つまりそれまでには宿題を終わらせねばならない。ただ、山海高校の伝統として、夏休みの宿題は毎日しっかりやれば終わる量にしてはあるものの、それでもなかなかの量を出してくる。(うつみ)の高校に関しては俺たちの高校よりも頭がいいから量はさらにプラス。


(あれ、これじゃあこの2人宿題を終わらせるの無理じゃん)


 俺は中々にやばい状況にこの2人が立っていることを改めて自覚する。


「手伝お〜か?」


 隣で凛がそう言った。

 この状況を少し楽しんでいるかのような声で。


「ほ、本当にっ!?」


 だが、空宮達はその状況のせいか藁にもすがる思いで凛にそう聞いているため、凛のその僅かな声のトーンの違いには気付かない。


「いいよ〜」

「やったー!」


(おいおい、これで本当にいいのか?)


 そう思いながら、その様子を見守る。

 こうしてあの地獄が始まることを知っていれば、俺も止めたのだが。


第80話終わりましたね。空宮達は宿題に追われていますが、作者はテスト勉強に追われています。泣きそうです。

さてと、次回は2日です。お楽しみに!

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