第693話.仕事終わり
刻が仕事を終えて部屋から出てくる。やはり疲れた顔をしていて編集の仕事は大変なのだとつくづく思うのだ。おそらく忍耐的な部分の疲労が凄いのだろう。作家さんだって人間なわけですぐに新しいアイデアがポンポンと出てくるわけではないし、出てきたとてそれが面白い、売れるものでなければ意味が無い。そこの見極めや面白いものを数段さらにレベルアップさせるのが刻のする編集の仕事なわけであって、だからこそ刻もものすごく頭を使うのだろう。
「お疲れ様」
「うん、頑張ってきた。いやぁ、今回はちょっと難航しそうだな」
大きく背中を伸ばしながら刻はそう話す。
「そうなの?」
「うん。先生も案が無いわけじゃないんだが、いやなんなら面白いんだけどな」
「なら、それをそのまま採用したらいいんじゃないの?」
そう尋ねると刻は手を顎に当てて、んー、と唸るように言う。
「先生の出してきた案が今ドラマでやってる内容とだいぶ似通っててだな。発案時期自体はドラマの予告すら出てないタイミングだったからパクリじゃないのは確定なんだが、何せ展開が似すぎてる。このまま出せばパクリだどうのこうのと叩かれるのは目に見えてるんだよな」
「あぁ、そういうこと」
「うん。先生的に渾身のアイデアだっただけにちょっと行き詰ってしまって前に進まないって感じだな」
タイミングが悪い、ただそれだけの話なのだろう。しかし時代背景も含めこの時世にパクリと思しきものは非常に叩かれる。というか、訴えられたとしてもおかしくない。刻の言う通り発案してそれを提案した時期は予告すら出ていない、関係者しか内容を知らない時代だったのだろう。しかし、それを証明する手立てがあるのか分からないし、何より世間の人はそんな事どうだっていいのだ。悪しきと思しきものは全て叩く。それだけなのだ。
刻はソファに深く腰掛けるとぼーっとしだす。
腰掛けてからソファの後ろで小さな影が2つ動いた。その影はぴょこっと顔を出すと目をキラキラと輝かせる。
「「ぱぱおかえりー!」」
遊んでもらいたくて仕方がなかった双子の姉妹だ。
刻は2人の方を見ると優しく笑って2人を膝の上に座らせる。
「エネルギーチャージ」
「きゃー、こしょこしょやだー」
「あはは!りんちゃんもこしょこしょやだー!」
刻にくすぐられて笑う2人。楽しそうだなと思いながら私はお昼の支度をする。
最近思ったのだが、愛娘の2人は体力が非常に豊富なだけでなく、言語の習得能力が非常に高いような気がする。いや、勘違いなのかもしれないが、この歳にしては随分と話せるのだ。おかげで意味も伝わりやすいし、向こうも言いたいことは言えるのでとてもありがたいのだが。
そうこうしているとわちゃわちゃと騒いでいる声がうるさかったのか、ましろが若干不機嫌な目付きでリビングにやって来た。
子猫時代のきゅるきゅるとした可愛らしい目は今や立派なオスの目付きとなっている。けれど今でも甘えてくる時はきゅるきゅるモードに変わるからそこはご安心。
「さ、みんなー!お昼にしよっか」
第693話終わりましたね。風香と鈴香は優秀な子に育ちそうですね。少なくとも高校までの人生は難なく過ごせそうです。大学は化け物がよくいるのであれですが。
さてと次回は3日です。お楽しみに!
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