第671話.新たな春風
さてと、娘の入学式で張り切ることなど何も無いのだが、自身の若さに改めて自信わ持ったらしいお母さんはにっこにこだ。
「えーっと保護者はこちらへ、だってさ」
「ん、じゃあ私はそっち行くから式終わったらまた集合ね」
「うん。じゃあまた後で」
手を振ってお母さんと一旦別れると、私は必要書類を受け取りに新入生はこちらと書かれた看板の方に向かった。
列に並んで待つ間、私はちらりちらりと色んなところを見る。運営として携わってるらしき学生も多くいて、随分と活発なのだなと思った。高校の時ももちろん積極的に運営に関わる生徒がいなかったわけではないが、大多数はなるようになるさで全て任せていた印象。というか、できることなら仕事は請け負いたくないよねという人が多かった。そういう印象が元々あったのもあって、こうも沢山働く学生を見ると驚きを隠せない。
しばらくすると私の順番になる。名前と事前に書類で送られてきていた学籍番号を伝えると書類のセットを渡された。そしてそれとは別に学生証も渡された。学生証には事前に提出していた顔写真が写っている。
写真写りの良いやつを選んでおいてよかった。誰に見られても恥ずかしくない。
一安心しつつ、私は式の行われるホールに向かう。
高校とは違い、1つ1つの施設が非常に大きいのが大学。もちろんホールもそれに該当し、高校の時にあったものの軽く10倍はありそうな収容量を有していた。
座る席は自由席らしく、私は目立ちにくそうな場所を選んで座った。近くにはスマホを触る学生が既に数名いて、同い年が多いはずなのになぜだか感じるその大人っぽい雰囲気を羨ましく感じる。
刻は時々私の事を大人っぽいと思うことがあると話す。それは私が刻に感じる感覚と同じものなのだろうが、案外当人は分からないものなのだ。これまでの人生の中で順調に成長してこれたのか、何なのか正確なところは分からない。
「あ、あのっ!と、隣いい……ですか?」
みんな凄いなぁ、なんて思っていると隣から突然声をかけられる。両手でスマホを持ったメガネの美人女子。どこか怯えて緊張した雰囲気を出会った頃のユウに重ねつつ、どこか新鮮な気持ちになる。
「もちろん!どうぞどうぞ〜」
「あ、ありがとうございましゅっ!ひゃっ……か、噛んじゃった」
「……ぷふっ」
「あ、あぅ……」
「あ、あぁ、ごめんね?別にバカにしてるとかじゃないから」
「は、はい……ただ恥ずかしくて」
そう言って声を掛けてきた直前よりも小さくなる彼女。私は何だかその姿があまりにも可愛らしく写ってしまう。
「ほら、ひとまず座って。きみ、名前は?私は空宮蒼!」
「わ、私はと、灯崎蛍です」
「へ〜!蛍ちゃん!……え、灯崎?」
「は、はい。……あの、何か変でした?」
「あ、いや……私の知り合いにも灯崎って人がいて。ちなみに漢字はどっち?」
私はスマホのメモ機能で『ともさき』を2つ並べる。1つは灯崎でもう1つは友崎だ。
「えっと、こっちですね」
指を差したのは一つ目の方。
そう灯崎の方だ。この漢字で書く名字の人と私はこれまでにたった1人としか出会ったことがない。そう、刻の友人でもある灯崎赤人だ。
「ねぇ蛍ちゃん」
「は、はい?なんでしょう」
「蛍ちゃんって兄弟いる?」
尋ねるとこくりと頷いた。
「双子の兄がいます」
「……もしかしてなんだけどさ、その兄ってバレー滅茶苦茶強かったりしない?」
「ど、どうなんでしょう。私があまりバレーに詳しくないので分からないんですけど、高校の時は大きな大会で優勝してました。あ、あとは同じ部の人と一緒に大学先もバレーで決まったみたいです」
うむ、あまりに一致しすぎている。
というかほぼ確定だろう。
「あの……もしかしてお兄さんって灯崎赤人?」
そう聞くともの凄く驚いた顔をした。
「な、なんで分かったんですか!?」
「あ、いや、私あの人と同級生で。あと私の彼氏の友達だったし話すこともあったから」
「あ、あぁ。なるほど理解しました」
ほっとしたように笑いながら蛍ちゃんは掛けているメガネを外してレンズをキュッキュと拭いた。
ふむ、にしても兄妹とは思えぬほどに性格が違う。彼に妹がいたとしたら、それこそ現ちゃんみたく弾けてそうなイメージだ。
意外な出会いに驚きつつ、段々と照明が落とされてくる。
「始まるみたいですね」
「だね」
式が始まる。
これから私達の大学生活が始まるのだ。
第671話終わりましたね。あの、普段感想がバンバン送られてくるような作品では無いのでおそらく一通も来ないと思うのですが、少しアンケートを取りたくこの場をお借りしますね。以前の回でこの話は卒業してからも少し続くがそうかからずに終わりますという旨のあとがきを書いたのです。……がですね。なーんか新キャラ出てきたし作者は現役大学生ですのでリアルな学校生活を描けるようになったというのもありまして、この続き書こうと思えば書ける状態となったわけです。そこでお聞きしたい、というか送ってくださるならそれだけでも感謝なのですが、もし続きを書くべきだ!という方、そうでない!完結させろ!という方、どちらでもいいです。ぜひ感想欄を使用して送ってくださるとありがたいです。この作品も長くなりましてなんだか主人公が刻から蒼に移り始めてないかいと作者自身思わなくもないふわふわとした作品なのですが、それでも大好きな作品であることに違いはないので、ここまで着いてきてくださってる読者様の意見は大事にしたいと思いこのような事を今回は書かせて頂きました!あ、どっちに転んでも今すぐには終わるってことじゃないからね!
さてと次回は、20日です。お楽しみに!
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