第669話.スーツ
春休みも終盤に差し掛かる。
桜咲く季節ではあるものの、それも今年はどうやら早めに葉桜になりだしたようだ。
薄桃色の景色に若葉の緑が入り込む。快晴の青空の下時折垣間見る緑というのは心地がいい。
卒業したという実感はもうとっくに得ることが出来ていて、あとは大学生になったという確信だけだ。私はまだ学生証を持っているわけではない。入学式の当日に色々資料を貰うのでその時だ。つまり、入学式に私は晴れて大学生としての身分を自覚する。
とはいえだ、大学生になった瞬間過去何度も憧れてきたあの大学女子になれるのかと尋ねられたら、まぁ無理だろう。経験を積むからこそあんな風にかっこよくなるのか、それとも元からの人がかっこよかったのか。元からの場合は私には到底無理そうだし、経験を積むのもどうやればいいのかよく分からない。
頭を抱えるのは得意だが、その頭を使って何かを解決するような特技はあいにくと持ち合わせてないのでね。
自慢にもならない話はまぁいいとしよう。
ともかく私はもうすぐ大学生となる。
入学式が差し迫ってきているのだ。
刻の大学の方が数日遅れで入学式を執り行うらしく、私は一足先にスーツ姿になるそうだ。
スーツ言えば購入時は慣れなかった。CMでもアイドルを起用してフレッシュなイメージを持たせようとしているが、だが実際に店舗に行くとこちらが勝手に身構えてしまうのだ。
仕方のない話でもある。何せ普段から通う場所では無いのだから。服屋さんとはてんで訳が違う。ふらっと寄って「わぁ、これ可愛い!」なんてする場所ではないのだ。
スーツは公の場で着るのにも適している。そんな服装を販売している場所だと余計に何かマナーのようなものがありそうで尚更怖い。
と、これが私のスーツ販売専門店に抱く感情だ。販売してくれたお姉さんはとても優しかったが、それでもやはり慣れないものは慣れない。
✲✲✲
スーツで体を包む。
黒くてピシッとしたかっこいい衣装だ。
メイクもしっかりとして髪も整える。
うん、おかしなところはなし。
時計を見やり電車の時間を確認する。まだ少し時間はありそうだ。
眠気覚ましのためにコーヒーを飲みカフェインの補給をしておいた。これで持続的に起きていられる。
刻はましろと遊んでいる。そんな刻の後ろを通って行ってくる旨を伝えた。
「ん、行ってらっしゃい。気を付けてな」
「うん、行ってきます」
扉が閉まる前に手を振りながら私は閉じゆくその扉を眺めていた。
鍵を閉めて駅に向かう。
同じようなスーツに身を包んだ男女がいくつか見られる。
みんな目的地は同じだろう。
私達は一つ大人になるのだ。
第669話終わりましたね。作者課題が多くて泣きそうです。なんで大学ってこんなに課題が出るんですかね。
さてと次回は、16日です。お楽しみに!
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