第66話.ダイブ
口に運んだソフトクリームは、冷たさと同時にバニラとミルクの甘さを口の中に広がらせる。今日みたいに暑い日なんかにはちょうどいい。
「ん〜、美味しいね〜」
現はペロッとソフトクリームを舐めながらそう言う。華山の方に目を向けると、華山も美味しそうに食べていた。
お金を払ったのは俺だけど、美味しそうに食べてくれるなら、何でもいいか。
ふとそんな事を思いながらも、どんどんソフトクリームを口に運んでいく。
……やばい。かき氷食べた時になる頭がキーンてなるやつが、ソフトクリームでも来ちゃった。思ってたよりも痛い。喉も少し痛いし。痛たた……。
俺は家から持ってきておいた水を取り出すと、口の中に一口含み飲み込んだ。
「んーー!?」
水を飲み終えて、少しの間休憩していると急に現の方から呻き声が聞こえてくる。その声に驚いた俺と華山は2人揃ってバッと現の方を見た。
「ど、どうしました!?」
「おいおい、どうしたんだ?」
2人揃って心配していると、現はおでこをソフトクリームを持ってない反対の手で抑えながら、口を開いた。
「あ、頭がぁ……」
「頭がどうした。遂にお馬鹿になったか」
「そうかもぉ……って刻兄!私の学力は刻兄よりも上なんだからね!ッ!?痛た……」
そう言うと食い気味に否定して来た。ただ、否定した時に頭の痛さも着いてきたみたいだけどな。
「ほい、これ飲め」
そう言って現に水を手渡す。
「ありがと」
水を受け取った現は、閉まっているキャップを開けてコクコクと一気に飲む。
「ぷはぁ……助かったよ。本当にありがとね」
「あぁ、別に構わん」
そう言って現からを受け取る。
「仲がいいんですね」
水をカバンの中に仕舞っていると、華山が急にそう言った。そしてその言葉に俺も現のどちらも反応する。
「そうか?」
「そうかな〜?」
「ふふっ、そういう所が仲良いんですよ」
華山は可愛らしく笑いながらそう言った。俺と現は、そこから何か華山に言うことが出来ない。
理由は簡単。
そんな笑顔見せられたら男女関係なく見とれてしまう。
✲✲✲
「わぁー!ペンギンがいっぱいだー!」
「本当に沢山いるな」
「ですね!」
ソフトクリームを食べ終えた後ペンギン館に向かった。ペンギン館までの道のりにはあまり日陰がないので、せっかく涼んだのが無駄になるくらいに暑い。だが実際問題、館内に入ってしまえばこちらのものだ。完全に日陰になってしまうので、幾分こちらの方が過ごしやすいだろう。
「パシャパシャ泳いでて気持ちよさそうだな〜」
現は両手をアクリル板に当てながらそう言う。
「私もプール行こっかな」
現はそう言うと、サッとカバンの中からスマホを取りだし誰かと連絡を取り始める。
「あ、もしもし〜?……だよね〜。それでさ、……は明後日とか暇?暇ならさ、皆でプール行こうよ!うんうん、オッケー!じゃあそういう事でね〜」
現は一通りのやり取りを終えると、通話を終わらせた。
友達とでもやり取りしてたのかな?
そんな疑問を抱きながらも、特に気にせずにペンギンを見続ける。
しばらく見ているとあることに気がついた。
「あ」
どうやら華山もそれに気づいたようで俺は華山と目を合わせる。
「あのペンギン、よく見たらさっきから泳いでないな」
「そうですね。多分怖いんじゃないでしょうか?」
「かな」
俺達は無言でそのペンギンを見続ける。
「私みたいです」
急に隣にいる華山がそう言った。華山のその声を聞いた俺は隣にいる華山の方を首だけ向ける。
「どういうことだ?」
そう聞くと華山は、カメラを構えた時に纏う静かな雰囲気を出して話し始めた。
「私も怖かったんです。あの子みたいに集団という水の中に飛び込むことが。怖くて怖くて、だからずっと一人孤立して来ました。確かにたまに話しかけてくれる人とかはいたんですけど、その人も気づかないうちに拒絶しちゃって」
俺はただ黙ってその話を聞き続ける。
「でも、あの日私は鏡坂くんと出会って蒼さんや、凛さんとも関わりを持つようになって、少しづつ人とも関わる勇気を持てるようになったんです。だから、あの子にもその勇気を持って欲しい」
「そうか」
「はい」
そこからしばらく俺達はそのペンギンを見続ける。
何分か経っただろうか。
遂にそのペンギンが動き始めた。
少し助走をつけるためなのか後ろに後退する。そして、その小さく細い足を器用に動かして走り、一気に飛び込んだ。
水中には無数の光が反射した気泡が溢れる。
「勇気、持てたみたいだな」
「ですね」
俺達は目を合わせて微笑んだ。
小さな命の小さな勇気を心から祝福しよう。
第66話終わりましたね。知ってますか?ペンギンって泳ぎやすい羽になってるんですって。更には住んでるところが寒いので保温効果もバツグン!僕もそんなのが欲しいです。
さてと次回は2日です。お楽しみに!
もしよろしければブックマークと☆もお願いしますね!